神様反対派、多いな
部屋に戻ってベッドの上でゴロゴロしながら神様ってなんだろうと思う。
そう思っているとドラコがベルを持った状態で俺の上に乗っかってきた。
「シュー悩んでる?」
「ああ、ちょっと悩んでる。コンに神様にならないかって誘われた」
「ダメ!!」
思っていた以上にドラコは拒絶反応を起こして、俺の事を捕まえるようにしがみ付いた。
「おいおい。どうしたんだよ。そんなに神様になるの嫌か?」
「ヤ!神、敵!!シューと戦いたくない!!」
そう言いながら怯えるように震えながらしがみ付く。
どうやらドラコの中では神様=敵という認識のようだ。
俺は安心させるためにゆっくりとドラコの頭を撫でながらドラコに言い聞かせる。
「ドラコ、別に俺はドラコと戦いたくないって。ただコンが妙な事言うからドラコはどう思っているのか聞きたかっただけだ」
「ぐす。シュー神ならない?」
「なる気ねぇよ。面倒臭い」
「よかった~」
ドラコはほっとしたように力を抜く。
寄りかかってくる重みにちょっと安心感があるな。
でももう少しだけ聞いてみたい。
「ドラコは知ってたのか?俺が神様になれる可能性がある事」
「一応。コンが言ってた」
「何で神様になれるか知ってるか?」
「知ってる。シューの魂傷付いてた。それドラコ達の魂で埋めた」
「魂?」
「うん。シューの魂治すのに使った」
どうも魂の概念が分からない俺にはよく分からないが、ドラコ達が俺の魂を治してくれた事実だけは分かった。
でもドラコの子供特有の言葉ではよく分からない……
奥さんが言いよどんだのはおそらくこの事なのは分かった。
まぁそれだけでもいいだろう。
「ありがとうな。治してくれて」
「うん!でもシュー神なりたい?」
「今のところは全然。神様になったところでな~って言うのが本音」
「神、ならない方が良い。あいつら嫌い」
「分かったよ。とりあえず晩飯食いに行こう」
「は~い」
――
そして今日も夢の中。
ベルが眠たそうな表情をしながらも俺に膝枕をしてくれていた。
「夢の中で寝ると起きるってよく聞くけど、それってこの世界でも同じ?」
「同じと言うよりは柊だけぇ~。はぁ~あぁ~。柊が神になろうとするとはねぇ~」
「ベルも反対派みたいだな。というか反対しかいないな」
「そりゃそうだよぉ~。今の柊が変わっちゃう可能性がある訳だしぃ~、喜んでばかりもいられないよぉ~」
「え、そんな可能性あったの?」
「あるよぉ~。人間が神になる事なんて前の世界でも滅多にある物じゃないからねぇ~。精神的、魂的に何か変化があってもおかしくないからねぇ~」
「ま、マジか。具体的にはどんな感じに変わるんだ?」
「人間の事をぉ~同種として見られなくなったりぃ~、ペット感覚でしか見られなくなったりだねぇ~」
「それマジで人間辞めてるじゃん。さすがにそれは嫌だな~」
仮に俺にプライドらしいプライドがあるとすれば、それは人間である事だ。
人間のみのままアンノウンのである彼ら、つまりコッペリア達の事を愛しているという事が俺のプライドだろう。
そしてこのプライドは俺が人間のままでいると言う前提が当然必要となる。
その前提がなくなった場合、俺は本当に俺だと言えるのか?
「そんなに嫌ぁ~?」
「俺はお断りだね。俺は人間のままでいたい」
「理由はぁ~?」
「だって俺が人間じゃなかったらベル達と仲良くなれてなかった可能性の方が大だろ。あの世界はお前達に妙に厳しかったことは何となく覚えてる。でもそんな否定されてた存在だって受け入れ先があったっていいじゃん。受け入れてくれる奴がいてもいいじゃん。あの世界ではそれが俺1人だけだった。あの世界じゃ俺以外お前達の事を否定する人しかいなかった。それがもし人間である事でそうなったのであれば、俺は人間のままが良い」
俺はそう言うとベルは俺の顔をじっと見てきて、ベルの顔がどんどん近づいてきた。
何する気だ?っと思っていると頬に柔らかい物がくっついた。
頬に何がくっついたのかは簡単に想像できた。
だから俺は驚きながら聞く。
「良いのかよ。抜け駆けだ何だってあとから言われても知らねぇぞ」
「問題ないよぉ~。ここは僕の世界だもんねぇ~。それに柊だって嫌じゃないでしょぉ?」
「まぁ……嫌ではない」
「そっかそっかぁ~」
ベルは鼻歌を歌いながら上機嫌だ。
とりあえずこの事は墓場まで持って行く必要があると俺は思った。
夢なら目が覚めた時に忘れてたらいいな。
――
最期に俺はクロウに相談しに来た。
テレビゲームをしながらなんて事のない。いつも通りの会話と変わらない感じで聞く。
「なぁクロウ。俺って何で神様になれるんだ?」
「それは僕達の魂で柊お兄さんの魂の傷の損傷を埋めたからだね。だから魂だけで言えば人間以外にはなれる」
「それじゃ俺は厳密に言うと人間じゃない?」
「魂だけ見ればね。でも生きている間は魂よりも肉体が優先されるし、何より柊お兄さん自身が【人間】だと思っている。【人間】として生きている。だから今も人間って感じだね」
「理解できるような……できないような……」
「理解できなくていいよ。僕も柊お兄さんが神になるのは反対だし、そもそも神にしようとしているのはコンだけだから、神になる必要なんてないよ」
だがまぁやっぱり神様になる可能性はやっぱりあるんだな。
「他のみんなにも言ったけどさ、俺やっぱり神様になる気はねぇよ。俺は人間として生まれたって思っているからこの先も人間だと思う。この固定概念?はやっぱそう簡単に覆す事できねぇって」
「どんな理由でも柊お兄さんがそのままでいてくれるのなら僕はそれでいいよ。それに今更保管の神が柊お兄さんの事を倒しにこれるとは思えないしね」
「と言うと?」
「一応は話したけど前世の世界だって何も無抵抗で僕達に信者を奪われ、倒されていったわけじゃない。戦ったんだよ。僕達6人と世界中の神や仏との戦争。もちろん向こう側は人間達や使役している聖獣や魔獣を使って攻撃してきた。僕達はわざと戦争を長期化させて人間達を疲弊させて僕達の世界に来れば安心して暮らせると言って誘惑したよ。そして戦えない普通の人達は戦争に巻き込まれる事を恐れて簡単に僕達の世界にやって来た。こうして他の神々や仏達の信者を減らしつつ、僕達は強化されていった。これが前の世界での戦争。やっぱり弱い人間を引き込むのは戦争の基礎だよね」
「そりゃ戦える人間よりも戦えない人間の方が圧倒的に多いだろうな。俺もその中の1人だし」
「そして向こうの神々の大失敗はその戦えない人間よりも戦える人間を優先させたこと。まぁこれに関しては戦争中と言う意味では当然の行動ではあるんだけど、その比率をあまりにも戦える人間に割き過ぎた。だからこそ僕達はあっさり戦えない人達を手に入れて、彼らの食糧、武器を作るための資源を掘り出す人たちを手に入れた。そのうち世界強制徴兵令なんてものも発信されて、最終的には農家も工夫もいなくなったよ」
こういう話を聞くと本当に戦争が起こっていたんだとよく分かる。
と言っても正直俺が死んだ後の話だからやっぱり社会の授業中のような感じがするんだけど。
「第一次産業が潰されればそりゃそうなるよな。何でその世界の神様はそこまで無茶をした?」
「……【神】のせいだよ」
「だからどこの神様のせいだよ」
「この世界で言うところのキリスト教徒やイスラム教徒みたいなのあったでしょ」
「…………あったっけ?」
「その辺りの記憶も飛んじゃってるか……とにかくそんな感じの宗教を取り締まっていたのが【神】なんだよ。名前を持たず、姿も持たない。信者たちは【神】を女性と思えば女性だし、男性と思えば男性って感じ。そいつが他の神話体系から信者を根こそぎ奪い取って、僕達の事を攻撃して来たけど、その時にはもう既に信者の数はかなり減少していたから。楽勝だったよ」
「そんな神様もいたんだな」
「そいつのやる事が本当に僕達よりもヤバかったよ。信者達は全員洗脳して戦士にしたし、自分達が【正義】だと言う洗脳をしてさらに質が悪い。だから信者達は自分達が【正義】だと最後まで疑わずに特攻を仕掛けてきたよ」
「怖すぎるにもほどがあるだろ。洗脳されて自分達が正義だ~って言いながら殺しに来たんだろ?こっわ」
「それでも世界を取り戻すって言う意味では確かに彼らは正義だったからね。と言っても僕達から勝利を掴んだとしても、最低でも文明は崩壊しきってたから、結局絶滅してたかもね」
そんな大規模な事をしていたことを知って俺はやっぱり神様にはなりたくないなっと思った。




