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悪と呼ばれる存在を友達と呼んではダメですか?  作者: 七篠
【傲慢】な人間
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奥さんにも相談した

 神様の事は元神様に聞いてみよう。

 そんな気持ちで俺は奥さんの元へ相談しに行った。


「いらっしゃい柊ちゃん。どうかしたの~?」

「実は相談したい事があって」


 いつもと違う雰囲気を感じたからか、寮母室に俺を招いて相談に乗ってくれた。


「そう……コンちゃんからそんな事を言われていたのね……」

「正直神様になる気はないんだけどさ、一応神様ってどんなことするんだろう?メリットとデメリットってなんだろうっと思って奥さんに聞いてみたかったんだ。ぶっちゃけ神様だった頃ってどんな感じだったの?」

「……ちょっと黒歴史を話すようで恥ずかしいけど、自分の役割ばっかり見てしまうようになってしまうかしら」

「役割?」

「そう、役割。私の場合は『母神』。つまり母親として子供を産み、育てると言う役割はどうしても切り離せないの。それ以外の行動に関してはある程度自由があるけれど、どうしても役割を果たそうとする行動が多くなっちゃうの。簡単に言えば本能みたいなものかしら」

「本能……つまり俺も神様になったら何らかの役割が生まれて、その役割を果たそうと本能的に動くって事?」

「そんな感じね。柊ちゃんは人間だから本当に自由なのよ。良い事も悪い事も出来る、拾う事も捨てるも出来る。柊ちゃんが神様になる気がないのは嬉しいからそのままでいてほしいわ」

「今のは多分デメリットの話だよね?メリットは?」


 俺はそう聞くと奥さんは少し考えながら言う。


「そうね……まずは生物が本来必要な行為がいらなくなる事かしら?食事、睡眠、性欲は神の中ではほとんどいらない物になるわね。神様は本当は繁殖行為が必要ないから。これは神話体系にもよるけど」

「そうなの?ギリシャとか北欧とかは結構人間に近い気がするけど」

「だからそれは本当に神話体系によるものなの。私がいた神話体系だって神様同士で子供を作ったわ。その第一人者が私だし、最初の夫もその第一人者。つまり私と元夫が子供を作った、この事実が私達の神話体系において神様も性行為をして子供を増やすと言う定義が生まれたの。もし仮に私が誰とも性行為をせずに子供を作った場合、私の子供達も性行為をして子供を作ったりはしないでしょうね」

「なるほど……」


 奥さんが旦那さんと子供を作ったから神様も性欲、いやこの場合は繁殖能力があると言う定義が生まれたと言うべきか?


「他のメリットは……やっぱり不老になる事かしらね。寿命を迎える事はなく、おとなしくしていれば永遠に生きてられるわ」

「そこは不老不死じゃないの?」

「これも神話体系によるけど、私がいた神話体系じゃ神も不死ではなかったわよ。あえて言うなら死、または生命の概念を持った神かしら?あれだとほぼ不老不死に近いわね。この2つの権能は自分の死を遠ざける事が出来たり、自分の生を手繰り寄せる事が出来るから」

「でも不老は確定なんだ」

「それはそうよ。私だってもう何桁生きているのか忘れちゃいそうなくらい生きてるもの。きっと子供達から見たら若作り、なんて言われちゃうかも」


 そう言いながらクスクスと笑った。


 でも奥さんの目から見ると神様になるのはデメリットの方が多く感じているらしい。

 役割を本能的に果たそうとする衝動。それによる暴走が奥さんを神様ではないと決めつける要因になってしまったのであれば、奥さんにとって神様と言うのは枷なのかもしれない。


「ちなみに奥さんの神話体系で人間から神様になった人っていないの?それこそギリシャの英雄みたいに後から神様になりました~、みたいな」

「う~ん……聞いた事ないわね。たまに息子が人間のお嫁さんをもらったなら聞いた事があるけど、柊ちゃんみたいに神の血も引いてない普通の人間が神になったは聞いた事がないかも」

「そっか。いたら少しは参考になるかな~って思ったんだけどな~」

「ごめんなさい。私がいた神話体系では神様になるには最低でも神の血を引いてることが重要視されたの。だから神の子がそのまま神の座についた、なら少しは居ると思うんだけど……」

「あ、それ聞いて思い出した。何でコンは俺が神様になれるって言いきれるんだ?俺普通の人間だぞ」


 そう言うと奥さんは困った表情をした。

 本当に困った表情で、どうしようかと悩んでいる。


「それは……みんなと相談しないと言えないわ」

「相談ってみんなで俺の体になんかしたん?」

「……したわ。あの時はまた柊ちゃんに会えるようにって思いでやったけど、多分コンちゃんはそれを利用するつもりね」

「俺実は人間じゃないって事?」

「いいえ。柊ちゃんはちゃんと人間よ。ただ……神様になる事を望むのであれば、神様にする準備だけは出来てるって感じね」

「え、それじゃ俺なんかの拍子に神様になっちゃうの?」

「そんな簡単に神になる事は流石にないわよ。でも柊ちゃんは一応神様になれる手筈だけが整えられているだけ。柊ちゃんが本気で神になりたいと思わないとなれないから大丈夫」


 それでも神様になれる可能性がある事は本当に意外だ。

 こうなってくると覚えていない前世の頃は本当に普通の人間だったのか不安になってくる。

 でもそれは俺の記憶の中にはない。

 忘れてしまったのだからどうしようもない。

 多分コッペリア達に聞けば簡単に答えてくれるだろうが、それは最後にしておきたい。


「まぁ相談できてよかったよ。俺が神様になれるって言う事実も知れたし、神様になった時のメリットデメリットも分かった。まぁそれでも人間辞めたくないって気持ちはあるけど」

「私からも1つだけ良い?」

「何奥さん」

「柊ちゃんはどうして人間にこだわるの?人によっては神になれると言うのはかなり特別な事だと思うわ。実際他の神話体系では神として迎え入れられたくて努力する人間の姿もあった。それなのにどうして柊ちゃんはそんなにあっさり神になれる可能性を捨てられるの?」

「ああ。そう言えば言ってなかったっけ。ただ単に俺は人間以上の存在にはなれないと思ってるだけだよ。俺は人間だからな」

「…………」


 俺の言葉に奥さんは何故か注意深く俺の事を見始めた。

 警戒するような、怖がっているような、本当に信頼していい相手なのかを見定めるような、そんな目を初めて俺に向けた。


「柊ちゃん。柊ちゃんにとって私はどんな存在」

「奥さんは奥さんだよ。子煩悩で子供が大好きな人」

「それじゃベルちゃん」

「寝てばっかりの女の子」

「クロウちゃん」

「天才女子中学生。マジでどうやって金稼いでるんだ?働いてるところ見た事ないのに」

「ドラコちゃん」

「ただの女の子。みんなドラゴンだって怖がってるけど、俺にはそんな事関係ない」

「コンちゃん」

「変態女。普通誰かに尽くすじゃなくて、自分のために生きるもんだろ」

「コッペリアちゃん」

「女友達。一言で言うならみんなの事はこう思ってるけど……今更こんな事聞いてどうしたんだ?」


 奥さんの意図が分からなくてつい聞き返してしまったが、奥さんは納得した様子で頷く。


「なるほどね。確かにこれは神の素質はあるわね」

「素質?神様の??」

「ええ。無自覚だけど柊ちゃんには神としての素質があります。きっとコンちゃんはこの事を見抜いてたから柊ちゃんの事を神にしようと考えていたのね」

「え、マジ?俺神様の素質あんの??」


 奥さん、つまり元神様から見て神様の素質があると言われたがまったく分からない。

 一体どこが神様の素質があると言うのだろう?


「でもそれを抑えているのも素質なのよね……はぁ。表裏一体とはよく言ったものだわ」

「奥さんどういう事?」

「とにかく、今の柊ちゃんなら突然神様になるような事はないわ。だから安心して」

「は、はぁ。それなら別に、いいのか?」


 よく分からないがしょうもない切っ掛けで神様になってしまうような事はないらしい。

 もうちょっと色んな人の話を聞きたいかな。

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