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悪と呼ばれる存在を友達と呼んではダメですか?  作者: 七篠
【完璧】な天使
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【完璧】な天使

「随分強引な手段じゃないか。そこまでして柊お兄さんを神様にしたい」


 コンは柊と話し終えた後、扉から校舎に入るとクロウが壁の影に隠れていた。

 振り返ることなくコンは言う。


「はい。私は柊様を神にしたい」

「神にしたところでどうする。確かにこの世界の壁は崩壊しつつある。でも僕達にとっては何の問題でもない。柊お兄さんだって僕達の内の誰かの世界にかくまえばそれで済む。無理にこの世界の壁を修復し、神に至らせる必要はない」

「そうですね。ええその通りです。神に至らせる必要はない」

「それじゃ何で神にしようとする。大体の予想はついているけど、君の口から聞きたい」

「……だって、神になっていただければもう二度とあのような思いをせずに済むじゃありませんか」


 それは柊の友である6体のアンノウン全員のトラウマ。

 友の死。

 完璧であるが故の慢心、人間という種族が完璧でなかったことを忘れていた失態。

 誰より、何よりも完璧を好むコンにとって最大のトラウマだった。


「私はあの顔が忘れられないのです。私達を悪だと知りながら関わってくれる人間に心地よさを感じていた。そして不完全な物を完璧にする必要性に対して悩んでいた私にとって、彼は本当に私の期待をいい意味で裏切り続けてくれた。不完全だからこその進化、不完全である事による多様性こそ、我々に欠如していたことだと理解させてくれた。しかし、不完全であるからこそ亡くなられてしまった」

「……」

「あなたにだって彼の死はトラウマでしょう。いえ、私達にとって、でしたね」

「そうだね。あの事件は僕達全員にとってトラウマだ」

「だからこそ柊様には神になっていただき、せめて、せめて不老不死の存在になっていただきたいのです。もしそうならなければ、また私達は彼を見送る事になる。たとえ幸福に満ちた最期であったとしても、私達は見送る事しか出来ない。また死んだ彼の魂を探し求めるのも選択肢ですが、その時の彼はもう私達の知っている彼ではないでしょう。何せこの世界の死んだ方々の魂のほとんどが無に当てられ、消えていくのですから」


 たとえ記憶がなくとも魂が同じであれば似たような性格になる可能性は非常に高い。

 相当悪辣な環境でなければ魂が歪む事はない。

 だが魂が無に当てられ消えてしまえば、魂が新たな肉体で次の生に繋がる事もない。

 つまり柊とはこれでもう二度と会う事はない可能性の方が非常に高いのだ。


「だから私は柊様に神になっていただきたいのです。そうすればいつまでも、永遠に私達の隣にいてくれる。それを願い、思い、行動するのはそれほどまで愚かな行為でしょうか?」

「愚かだよ。柊お兄さん自身も言ってたじゃないか。人間は人間以上にはなれない。それに君の言葉は一部間違っている。いや、わざとそう言っているんだろうけど、柊お兄さんは神にはなれない。僕達と同じ、世界の敵(アンノウン)になると言った方が正しいだろう」

「そんなのは些細ささいな違いです。だって彼ほど善悪を見たうえで肯定してくれる方はいない。ある意味あの世界の人間達は正常だった。汚い物にはふたをしろ、醜い物は焼き払え、おぞましい物は排除しろ。人間はどうしても綺麗な物を好む。そして自身も綺麗な物だと言いたがる。他者から見れば汚い物に分類されると分かっていながら、それでも自分は綺麗だと言いたい。ある種知能が発達しすぎたが故の固定概念。汚い物、醜い物は排除されるから。でも彼だけは違う。汚い物、醜い物であっても自分が気に入ったから話しかける、抱きしめる、愛すると言うあの傲慢とも取れるあの愛こそ、私達はかれた。それはあなたも分かるでしょう。だから私達全員、柊様と添い遂げたいと思っている」

「……そうだね。人間は綺麗な物が大好きだ。でも1つだけ訂正させてもらうよ。柊お兄さんは僕達の事を汚いとは思ってないと思うよ」

「でも周囲の人間は違う。私達を醜い物と決めていた」

「そうだね。でも柊お兄さん個人は僕達を醜いと一言も言ったことがない。そして態度にも一度も出たことがない」

「ですが自称民主主義のこの世界では意見の多い方こそが全体の意思とみなされる。柊様個人の意見など、あの世界にはまったく響かなかった」

「そうだね。そして彼らを先導していた神々の言葉も酷かったからね。ねぇコン。君は世界が欲しかった?」

「いえ、全く」

「僕もだよ。いや、本当は僕達世界なんて大規模な物、欲しいなんて一切思ってなかったんだよね」

「【強欲】であるあなたが言いますか」

「そうさ。僕だから断言できる。【強欲】と言われた僕だから説得力がある。僕達は世界なんて欲しくなかった。欲しかったのは、きっとあの廃ビルの一室だった。ただ仲の良い友達とゆっくり過ごす事が出来るだけの空間があれば十分だった。でも人間達も、神や僕達を目障りだと思った連中は、そんな空間1つ許してはくれなかった」

「だから私達は奪った。彼らが大切にしている信者達を。力尽くで、計算高く、隙を見て、連中が屈辱だと思う方法で私達は奪い続けた」

「そうだ。僕達は大切な物を奪われた腹いせに連中の宝を奪っただけだった。今もベルの所で苦しませているけど、本当はあいつらがどれだけ苦しもうとも、もうどうでもいい」

「その通りですね」

「でも、柊お兄さんとまた会えた。その柊お兄さんを無理矢理僕達と同じにするなら、僕は許さないよ」

「無理矢理にするつもりならとっくに動いています。柊様のご両親もすでに特定済み。本当にただ柊様を神にするだけなら赤ん坊の内にさらっています。それをしなかったのは、柊様の事を思ってです」

「それじゃ何で今更柊お兄さんを僕達と同じにしたいなんて言い出すの」

「今も柊様の事を閉じ込めようとしてしている方々がいるからです」

「……あいつか。最後まで僕達に対して返せと言い続けた勘違い女」

「はい。彼女は必ず柊様を取り返そうとしてくるでしょう。そして彼らの正義を押し付け、私達を捨てるよう言うでしょう。柊様を奪ったのは彼女らなのに!」

「彼女も分かっていなかったからね。それにジャパンに来るよう君は調整していたんだろ。柊お兄さんはもう覚えてすらいない事を」

「この世界の転生者達を見て彼女は勘違いしていると思いますから。ですが、それを選択したのも彼女達です。たとえ彼女自身の行動ではなかったとしても、彼女はその行為に手を貸しているのだから」

「つまり君の目的は2つ同時に行おうとしている訳だ。彼女に絶望を与え、柊お兄さんには僕達と同じ存在になるように」

「……いけませんか」

「僕としては無理やり出ないのなら別にいい。でも責任は取るべきだと思うよ。君なら余裕か」

「はい。永遠に柊様に仕えさせていただきます」

「……僕はずっと友達でいさせてもらうよ。柊お兄さんが僕の事好きだ、彼女になってほしいって言われた時は彼女兼友達になるつもりだけど」

「私も完璧を名乗っておりますが、これほどまでに苦悩したことはありません」

「それは良い。完璧を求められた天使様が苦悩すると言う感情を見れるとは思わなかった」

「私は神の手によって完璧に造られたと思っていましたが、思い違いだっただけですよ」

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