文化祭初日
こうして文化祭まで順調に準備を進めてきた結果、特に何の問題もなく文化祭当時になった。
文化祭は3日間開催される。
1日目は生徒と教師による簡単に言えば生徒同士で楽しむ日、2日目と3日目は保護者や外部の人を呼んだ物となっている。
今日は初日なので生徒同士で楽しむ。
ちなみにクラスの出し物は当然シフト表が組まれており、顔に自信のない俺は初日に多めにシフトを入れてもらい、2日目3日目はちょっとだけシフトが入っている。
と言っても所詮学生同士によるものだからそこまで気合入っている訳ではないけど。
ついでに準備期間中にちょっとした事件が起きた。
それは愛香さんのファン、コッペリアのファン、コンのファンたちが誰がどのシフトで姿を現すのか情報を聞き出そうとしていた。
何故これが事件なのかというと、この3人目当てで来る生徒がいるのは目に見えていたからである。
そして詳しい情報を聞き出したらその時間帯だけ混む事も可能性として十分考えられるのでそれは避けようとクラス内で決めていた。
しかしその約束を破り、友達に話した者、文化祭限定の交換券と交換で情報を流したりと、色々あった。
そのため3人のシフトは3人しか知らない感じに変更されたのである。
他のクラスメイト達のシフトは体育館で見たいステージがあるからこの時間は開けてほしいとか、この日は他のクラスの友達とめぐるからこの日はなしっという感じで決めていく。
初日の方が客は少ないのでゆっくり見て回る事が出来るから初日に休む人が多かったのでちょうどいいと言われた。
で、文化祭が始まって現在。
「何でこうなった」
「ちょっと柊君。もうちょっとサービスしてよ~」
「あの~先輩?何でそんな太もも触ったりしてくるんです?」
「ちょっとあなたばっかりズルいわよ。私にもお酌してもらってもいいかしら」
「どのジュースが良いですか?お酌します」
「ね~このミックスナッツ食べさせて~」
「は、はぁ。それじゃあ~んしてください」
「あ~ん。う~ん美味しい~」
何故か俺を指名する女性の先輩達が多くて俺は戸惑っている。
現在クラスの出し物であるキャバクラ兼ホストクラブは大盛況中。意外と男子女子関係なく入って来てくれるのでほっとした。
一応指名制度もネタ感覚で入れたのだが……何故か俺に指名が集中しているような……
現在は複数人用の席で俺1人に対して5人は相手してるんだが??
「あの、少しいいですか?」
「ん?どうかした?」
「いや、なんで俺の事指名してくれたのかな~っと思って。聞いても大丈夫ですか?」
そう聞くと5人は、あ~っという感じで納得し教えてくれた。
「そりゃウチら柊君の事狙ってたもんな~」
「そうそう。この学校じゃ珍しい草食系!!狙わない訳がない」
「ガツガツしてる男子が好みじゃないって訳じゃないだけどさ~、こう紳士さが足りんのよ。いっつも目玉ギラギラしててがっつきすぎなんよ」
「紳士じゃないと嫌」
「す~ぐ鼻の下伸ばしてお猿さんだもんね~。ウチのクラスの男子達もそう。それにこういう感じで女の子に慣れてない男の子にちょっかい出して恥ずかしがる姿も、悪くないよね~」
「「「ね~」」」」
マジでそんな先輩達いたんだ。
まぁ女の子が紳士の方がいいって言うのは当然だろう。俺だって俺に対してガツガツ迫ってくる女の子はちょっと怖いし。
なんて5人は代わる代わる俺の隣を譲り合い、あまり話さすジュースを飲んだりおつまみ系の菓子を食べている先輩?がいた。
「あの、楽しんでますか?」
ちょっと不安になって聞くと、女子生徒はびくっと肩を揺らした。
そのまま顔を真っ赤にしてうつむいてしまったので、どうしたらいいのかとワタワタしていると先輩が言う。
「あ~この子柊君にガチ恋勢。中等部の子でね、この間悪魔に憑りつかれた女の子助けに行ったっしょ。その時の女の子に対して優しい顔してたのがずきゅん!ってなっちゃったんだって」
「え、そうなの?」
多分加奈ちゃんの時の話だろう。
あの時にこの子もいたんだ。
俺は聞くと女子生徒はただ顔を真っ赤にして頷いた。
初々しいな~っと思いながらもとりあえずお礼だけは言っておく。
「ありがとうね」
俺はそう言うと女の子は顔を真っ赤にしたまま完全に固まってしまった。
他の4人の先輩はヒューヒューなんて言ってはやし立てるし、女の子はたまらず飛び出してしまった。
「あ!ちょっと待って!!お会計まだしてない!!」
「うちがまとめて払っておくから先追いかけてあげな」
「サンキュー!そんじゃまたね!!」
と言って4人が先に行ってしまった子を追いかけてクラスの外へ。
俺はお会計をしておつりを渡す時に何かメモを渡された。
「これ、私のラインのIDね。よかったら連絡ちょうだい」
「え、いいんですか?」
「良いの良いの。楽しかったからまたね~」
そう言って先輩は外に出て行った。
ありがとうございましたーっとだけ言ってメモは一応ポケットにしまう。
これでひと段落着いたかな~っと思っていると。
「柊君次5番テーブルさんのお相手お願い!」
「……マジ?」
文化祭スタートの朝8時30分から始まって昼をはさんでフルタイム営業中。俺指名のお客さんが後を絶たない。
やっぱり草食系が珍しいのだろうか?
相手をしたお客さんは基本的に先輩達ばっかりだが、おとなしそうな中学生とか意外と客層が広い。
たまにトイレ休憩などもはさんでいるが、ずっと食ったり飲んだりしてばっかりの気がするな……
そして指名されるたびに向けられる男子達の嫉妬深い視線。
愛香さんからの悲しそうな、寂しそうな表情。
コッペリアからくる鼻の下を伸ばしたらお仕置きすると言う視線。
コンは俺がモテモテなのにどこか誇らしげにしている。
そしてお客があまりにも行き過ぎた行為をしないか見守っている奥さんまでもがモテモテね~みたいな感じでのほほんと見ている。
「お待たせしました、シュウです。ご指名いただきありがとうございます」
「やっと来てくれた!もう待っちゃったよ~」
酒だしてないよな?っと思うほどに絡みがすごい先輩。
俺を隣に座らせるとすぐに肩に頭を乗せて甘えてくる。
「あ、ズル~い。私達だって待ってたのに~」
「いいじゃない。このお店で柊君が初日に長くやってるって情報掴んだのは私なんだから少しくらいいでしょ。ほら柊君好きなの頼んで、お姉さん奢っちゃうから」
「ありがとうございます。それじゃ……サイダーで」
「店員さ~ん!柊君にサイダーおねがーい!」
「……かしこまりました」
指名されない男子生徒は自然とウエイターをしているので、指名ばかりされてずっと飲んだり食ったりしている俺の事を血の涙でも流しそうなくらい悔しがっている。
俺は心の中でごめんといいながらお客さんとおしゃべりをする。
しゃべって楽しませるのも仕事なのでこの日のために女子達からいろんな話を聞いたり、実際に話して今の女子はどのような事に関心があるのか聞いた。
そして代わる代わる先輩達と話していると、背伸びをしながら言う。
「う~ん。やっぱり柊君と話すのって楽しい。そしてやっぱり紳士だ」
「そうですかね?」
「そうよそうよ。他の男子達だったらちょっと足を組んだだけですぐに鼻の下伸ばすんだから。柊君はそう言う事をしないから安心できるというか、いい友達でいれそうな雰囲気があるんだよね~」
「ありがとうございます。そう言っていただけると女性と話すのに自信が持てます」
「ちょっと柊君は普段からいろんな女の子と話してるでしょ。クラスの女の子だけじゃなくて、最近は小学校の事も仲良くしてるって聞いてるよ」
「あ~、あの子はちょっと事情がありまして。決して俺が小学生が好みとかそう言う事ではないんですよ」
「分かってるって。他の子も言ってたけど、あのくらいの女の子本当に気を許しているって事は私達から見ても悪い事をしない男の人だって分かるんだよ。悪い男はあんな小さい子でも手を出すから」
「光源氏ですか?」
「そんなロリコンみたいなのだったらまだマシ。まぁこれは前世の頃の価値観も混ざっちゃってるんだけどさ、前世の頃は女も強くないとあっという間に男に悪い事されちゃうような世界観だったからさ。柊君みたいな絶対に女の子を泣かせたりしないって分かる相手だとついこうして見たくなっちゃうんだよね」
「そうなんですか?」
「そんなもんよ。女はそう言うところ凄く敏感で、警戒心が強いんだから。だから安全だって分かるまで警戒しておくものなの」
「そうなんですね。勉強になります」
「柊君の場合は他にも愛香さんとかに軽く手を出したりしないって分かってるからこうして隙を見せられるんだけどね。あ、店員さんコーラおかわり!」
なんて感じで話していく。
どうやらモテていたとかではなく、単に安全パイとして客を呼んでいたらしい。
それ接客する側の男子からぐいぐい来られたら困るよな。
そう納得しながら午後5時、文化祭初日が終了した。
クロウが慣れた手つきで計算していると、ため息をつきながら言った。
「柊お兄さん。どんだけ稼いだの」
「どんだけって言っても別にジュースとかちょっと勧めただけで、あとは先輩達がいつの間にか調子よくなってバンバンジュース飲んでただけ。でもコップ一杯分で安くしてたからそんなに高くないはずだよな?2リットルのジュース頼む人も普通にいたけど」
「謙遜しすぎ。柊お兄さんが接客したお客さんからのお金が4割行ってるんだから本当のホストクラブだったらトップ間違いなし。まぁあくまでもこれは男子の中だけの話だから売り上げ的には愛香お姉さん、コッペリア、コンがトップ争いだけどね」
やっぱりその3人がトップ争いしてたか。
3人は時間を微妙にずらしながらキャバ嬢をしていたが、1度入ると男子達が見栄を張ってかどんどん注文していた。
愛香さんは無理をしないようにと言っていたが、コッペリアとコンはいっぱいお金落としていってくださいの精神で接客してたのでかなり稼いだと思う。
恐ろしいな。キャバ嬢。
「他の店がどうかは分からないけど、なかなかの経営具合だ。つかみは良い。でも明日来るのは生徒よりも父母の方々が来るから本当にいかがわしい訳ではない事をアピールする。今日は少し怪しい雰囲気にしてお客さんを楽しませたけど、明日は少し店を明るくしてキャバクラごっこ、ホストごっこをしてることを前に出す。それこそご両親とかが本格的にキャバ嬢のまねごとをしていたと聞いたら怒られそうだからね。それじゃ今日はお疲れさまでした!!」
「「「「「お疲れさまでした!!」」」」」
こうして文化祭初日は良い感じにスタートしたのである。




