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悪と呼ばれる存在を友達と呼んではダメですか?  作者: 七篠
【強欲】な悪魔
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【強欲】な悪魔

 あれから1週間。

 町のインフラや壊れてしまった町は物作りなどが得意な転生者達の技術によって修復された。

 もちろん他の戦闘系の転生者多とも他に悪魔がいないか入念に調べ、もう町には悪魔は存在しない。

 目の前の悪魔を除いて。


「それじゃ最後は加奈ちゃんの悪魔だけか……」


 俺はそう少し寂しく言った。

 そう。残っているのは加奈ちゃんと契約して復讐の手助けをしていたこの悪魔だけだ。

 ずっと鳥籠の中にいたが、特に暴れる事もなく大人しく加奈ちゃんと過ごしており、しかも知能もかなり向上している印象を受ける。

 前は人間の言葉を完全に理解できていないよう感じだったが、今はしっかりと理解しているし、時々加奈ちゃんと一緒にゲームをしているところも見た。

 見た目は変わっていないが、少し輪郭がはっきりとしてきた気もする。

 俺はこのまま加奈ちゃんと悪魔が契約してもいいような気がするが、やはり周囲の人達は認めようとはしないだろう。

 少し寂しいがこればっかりは俺の気持ちだけで決められるものではない。


「相棒にしては本当に意外だね。そんな風にあの子達の事を考えているだなんて」

「でも……こればっかりは俺や2人の気持ちだけでどうこうできるもんでもないだろ。なんせこの事件を引き起こしたのは結局加奈ちゃんとあの悪魔だ。どんな形だろうと責任はとならきゃならない。それは子供であったとしてもだ」

「ふ~ん。どんな形だろうと、か」

「なんか含みのある言葉だな」

「そりゃね。でも相棒の協力は必須だからあとで力を貸してね」


 一体何の事を言っているのかよく分からない。

 とにかく加奈ちゃんとは悪魔がどうするのか見守っていると、加奈ちゃんは作戦本部長に向かって頭を下げた。


「お願いです!これからも一緒にカンナちゃんと一緒に居たいです!!」


 これに関して俺はちょっと驚いた。

 まさかまだ加奈ちゃんが、小さな女の子が大人に向かって悪魔と一緒に居たいからお願いするとは思っていなかった。

 だが当然作戦本部長や他の転生者達は難色を示す。

 もちろんまだ幼い女の子に罵倒したりはしないが、それでも表情から賛成できない事は伝わっている。

 そこにクロウが前に出て加奈ちゃんに聞く。


「加奈ちゃん。ちゃんとお父さんとお母さんに相談した?」

「した」

「それでどうだった?」

「一緒に居ていいよって言ってくれた」


 クロウは加奈ちゃんの後ろにいるかなちゃんのご両親に視線を送るとお2人は頷いた。

 それを確認してからクロウは作戦本部長に言う。


「本部長。彼女にはこの悪魔は必要な存在なので除霊などはしないでいただきたい」

「何故だ。その悪魔こそが今回の事件の発端なのだ。その悪魔を除霊して今回の事件は幕を閉じるのは分かっているだろ」

「それでもこの子にとってこの悪魔は必要な存在です。それに使い魔を持つ転生者達だって多くいるじゃありませんか」

「使い魔とそこの悪魔を一緒にするな!使い魔はいわば転生者との間にれっきとした主従関係があり、勝手に暴れないと制約を施させている!そしてその悪魔はいわば首輪のついていない野生の獣と同じ!何もせず放置すればまた新たな災害を生み出しかねない!!」

「だから彼女にはこの場でこの悪魔との間に主従契約を結んでいただきます」


 クロウの言葉に他の転生者達は少し悩み始めた。

 俺は主従契約と言う物が具体的にどんな物なのか分かっていないが、おそらく作戦本部長が言っていた内容なのだろう。

 おそらく主人となる人間の命令を無視して勝手に行動しないように制限する。

 と言っても転生者達の使い魔は基本的に妖精や精霊、聖獣と言った人間に大きな利点を生み出す存在が非常に多い。

 逆に悪魔や妖怪と言った存在と契約している転生者は聞いた事がないな。


 それでも作戦本部長は聞き入れてくれない。


「そんな事許すわけがないだろ!いいか!貴様所詮悪魔だからこそあの悪魔に対して何か思い入れがあるのかもしれないが、我々正義が悪の存在を認める訳にはいかない!!よってその悪魔は強制的に排除する!!」

「へぇ。それは聞き捨てならないな」


 俺の口は自然とそう出てきた。

 自分でも驚くくらい低い声で作戦本部長に放った。

 作戦本部長はすぐに俺の事を睨んできたが、何故かすぐに怯えた表情に変わった。


「それじゃ正義の味方(お前達)はまた俺の時のように殺すのか。悪と言われる存在を擁護ようごした、悪と言われる存在を友と呼ぶ俺達に正義の鉄槌と言ってまた殺すのか。そうやってお前達の正義にそぐわない者達をすべて悪と決めつけ、虐殺を繰り返すのか。そんなくだらない事で悪と断定された俺達はまた、殺されないといけないのか。お前達はまた俺達を殺して、屍の歴史を積み上げるのか。力を持たない俺達の上に、正義と言う光でごまかしながら、俺達を踏みつけるのか。ああ、いくらでもそうして踏みつければいい。その時俺達はお前達正義を掲げる者達の足にしがみついて、必ず引きずり込んでやる。引きずり込んで、下に下に引きずり込んで、何時か俺達よりも下に押し込んでやる。その時にようやく分かるだろう。正義の味方(お前達)がどれだけ多くの存在を踏み台にしてきたのか、どれだけ重くなるくらい積み上げてきたのか、必ず思い知らせてやる」


 俺が思っている事を全て口に出すと、作戦本部長は俺を化け物を見るような表情で後ずさりした。

 少しスッキリした後、俺は加奈ちゃんの視線に合わせてしゃがんでから改めて聞く。


「その子と契約するんだな?」

「うん。カンナちゃんと一緒に居たい」

「分かった。クロウ。こういうの得意だろ?手伝ってくれ」

「分かった」


 こうして俺達は加奈ちゃんと他の人達が納得する内容を作り上げる事になった。


 ――


 ここからは僕、クロウが加奈ちゃん達の今後について説明しておこう。

 まずは改めて転生者達の上層部と相談しながら加奈ちゃんとカンナの今後について話し合った。

 その結果加奈ちゃんは小学校を転校してもらい、僕達がいる転生者達がいる小学校に転校する事が決まった。

 これは加奈ちゃんとカンナが主従契約を結んだとしても、悪魔を使い魔としている点は変わらないので、何らかの原因で悪魔が暴走した際に早急に対処できるようにだ。

 もちろん加奈ちゃんはそうならないように小学校で使い魔について勉強してもらう。


 まぁ僕から見れば問題ないと思うけど。

 主従関係で最も大切なのは信頼関係だ。

 互いに信用し合い、助け合う。

 悪魔の僕が言うのもなんだが、そんな理想的な関係を築く事が出来ているのだらか問題らしい問題を起こす事はないだろう。


 そしてご両親も一緒にこの町に転勤してきた。

 実は加奈ちゃんのお父さん、転生者達向けの文房具やちょっとした小物を作る社員だったらしい。

 なので転生者達を必要以上に怖がることはないし、むしろ出世したと喜んでいるくらいだそうだ。


 そして当然僕達も1つ契約する事になった。

 簡単に言えば僕と相棒が加奈ちゃんを引き込んだのだから、最後まで責任を取れっという事。

 だから僕達は定期的に加奈ちゃんとカンナの様子を見てレポートにまとめている。


「加奈ちゃん思っていた以上に元気だったな」

「まぁいじめっ子達から離れたわけだし、もう二度と会う事もないだろうしね」


 おまけだがあの悪魔の集合体に憑りつかれた女の子以外はみんな回復した。

 取りつかれていた女の子はやはり後遺症が残って現在もリハビリ中。痣のような黒い部分は消えたらしいが、麻痺のような物が残ってしまったそうだ。


「それにしてもさ、やっぱクロウ何かした?」

「何かって何?」

「いや、頭の固そうな上層部が意外とあっさり加奈ちゃん達の事を認めた気がしたら、意外だな~っと思ってて。なんかこう、俺の知らないところでまた動いたのかな?って」

「まさか。残業なんて僕の主義じゃないよ」


 実際には相棒が言ったあの言葉が原因だ。

 相棒が作戦本部長に言ったあの場にいたほとんどの人、正確に言うと転生者達は全員恐怖に侵されていた。

 自分達が悪と決めつけ、殺していった者達が突然足元にしがみつき、引きずり込もうとしてくる幻影を見てしまったのが原因だ。

 あの時相棒が言った言葉は愛香の盗聴器を通して上層部にも聞こえており、その声を聞いただけで精神の弱い者達は気絶したり発狂してしまったと聞く。


 こればかりは転生者達の業とでも言うべきものだろう。

 自身の正義のために殺していった敵が、本当に絶対的な悪だったのかと聞かれれば、そうだと言える者はいない。

 戦争で殺し合った者達は必ず勝利する事で正義を掲げるのは、相手を悪だと決めつけなければ自分達の精神がおかしくなってしまうから。

 各国の上層部の命令だけで戦っていた彼らは、本当に悪と決めつけていいのか?国が悪だからと言ってそこに住む住人達も全員悪と決めつけていいのか?

 そう疑問に思っていながらも目を逸らしてきた転生者達にとってこれは猛毒であり、呪詛だ。

 実際に相棒の言葉を聞いた転生者達は苦しそうな表情をしていた。


「ふ~ん。まぁいいか。加奈ちゃん達が幸せに過ごせるなら」

「……ねぇ柊お兄さん」

「ん?どうした?いきなり久しぶりに会った時の言い方して」

「やっぱり僕も名前で呼びたいな~って思ってたから、これからはそう呼ばせてもらおうかなっと思って。いいかな?」

「好きに呼べ。お前らの名前も俺が勝手に決めた物だからな」


 うんそうだね。

 僕達の名前も柊お兄さんが勝手に決めた。


 でも柊お兄さん。

 本当の僕は噓つきなんだよ。


 僕の能力は本当はお金なんてかけなくても出来るんだ。

 無から有を生み出すある種の魔法の極み。

 何もない所からパンだろうとワインだろうとなんだって生み出す事が出来る。


 だから僕の所に来た信者達はみんな強欲ばかり。

 宝石や大昔に失った美術品、歴史的な価値がある物ばかりを求められた。


 本当はね、柊お兄さんに出会うまでもは本当にお金で買えない物なんてないと思ってたんだよ。

 お金さえ払えば食べ物も水も手に入る。

 お金さえ払えば住む場所を手に入る。

 お金さえ払えば娯楽品に囲まれて暇じゃない生活が手に入る。

 お金さえ払えば病気になっても薬を買ったり臓器を買って命が手に入る。

 お金さえ払えば――世界だって手に入る。


 でも全てを手に入れると物に対して執着心がなくなる物だったんだよ。

 金さえ払えばいつでも食べ物も水も手に入るから捨てる。

 金さえ払えば済む場所はいくらでも選べるから場所に拘らなくなる。

 金さえ払えば娯楽はいつでも手に入るから真新しい物しか目に入らない。

 金さえ払えばいくらでも命を奪える。


 何時だって金さえあれば他の物なんてどうでもよくなるのが――僕の世界。

 だから僕の世界の信者たちは常にやる気がない。

 病気にかかっても金さえあればいつでも死にかけても治療する事が出来るから命の危機にすら鈍感な世界。

 僕自身こんな世界もうどうでもいいから、いつの間にか顔を見せなくなった。

 そしていつの間にか滅んでたけど、何とも思わなかった。


 でも柊お兄さんに出会ってから、思い出とか感情とか、大切だって本当の意味で気が付いた。

 そしてちょっと前まではそんな強欲まみれの感情が好物だったけど、今はほんの少しでも柊お兄さんの楽しいと言う感情や、嬉しいという感情の味の方が美味しいと感じるようになってたんだよ。

 それはあの加奈ちゃんと契約した悪魔と同じ。

 負の感情よりも美味しい物を知ってしまったからもう食べようとも思わない。


「あ、そうだ。僕も柊お兄さんから対価をもらわないと」


 そう僕が言うと柊お兄さんはギクッと体を振るわせた。

 どうやら対価の事を忘れていたらしい。


「あれれ~?もしかして僕の事をこんなに働かせておいて、何のご褒美も無しなんて言わないよね~?」

「えっと、その、金になる物なんて俺持ってないぞ。どう払えばいい?」

「そうだな~、それじゃ体で払ってもらおうかな~」


 僕はわざとらしく言うが柊お兄さんは本気で怖がってる。

 まさか内臓を売って~みたいな事を言うわけないじゃないか。


「確か長期の遠征の後って1週間お休みがもらえたよね?」

「あ、ああ確かそうだったな」

「2泊3日でデートしてくれたら対価を支払ったって事にしてあげる」

「……2泊3日のデートって言われても、そんな急にホテルとか予約取れないだろ」

「実はもうすでに申し込んでるんだよね~。ジャパンのデ〇ズニーランドとシーでデートしようよ」

「い、何時の間に行動してたんだよ」

「それはもう僕達の事を放ったらかしにして働いてた時にだね。あの時僕たち戦闘組はちょっとしたお手伝い程度だけだったし、暇な時間を使って予約しておいたのだ~」

「いや、それでも結局金出してるのクロウじゃん。それで支払いになるのか?」

「ジャパンに来てオタク文化を調べてて知ったんだけど、ジャパンにはこんな言葉あるそうじゃないか」


 柊お兄さんと出会ってからようやく僕にも分かった価値観。

 それは――


「思い出はプライスレス。なんでしょ?柊お兄さん」

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