これからは復興です
加奈ちゃんの監視と言う名目で部屋でずっと大人しくしていた俺と加奈ちゃん。
戦力にならないからおとなしくしていろと言うのは当然かもしれないが、何かあった時のために加奈ちゃんと一緒に逃げる準備くらいはしておかないといけない。
と言っても加奈ちゃんは俺の膝の上に座り、さらにその上に鳥籠の中に入った小悪魔を乗せている。
小悪魔は鳥籠の隙間から手を伸ばして加奈ちゃんの手を優しくなでる。
「加奈ちゃん大丈夫か?怖くない?」
「……ちょっと怖い」
「そうか。でも大丈夫だ。俺以外みんな強いから」
「お兄ちゃんは強くないの?」
「あ~、みんなと比べると全然だ。でも加奈ちゃんとその小悪魔の事はちゃんと守ってあげるからな」
不安にさせないように笑いながら言うと加奈ちゃんも笑ってくれた。
さっきから遠くで何かが壊れる音や、激しい声が聞こえてくる。
相手は憑りつかれた住民だからこそ簡単に戦う訳にもいかないんだろう。
工程としては憑りつかれた住民を除霊して解放、そのあと安全なところまで運ぶと言う手間が多い。
ただ倒すだけなら必要のないものが戦いの枷になっているんだろう。
でもしばらくすると1度大きな音がしたと思ったら、さっきまでの戦いの音が嘘だったかのように静かになった。
まさかもう戦闘が終わったのかと思いながら、警戒していると扉が開いた。
「ふぅ。相棒、たった今戦闘が終わった。核となる奴を閉じ込めたら他の悪魔達も逃げ出したよ」
「え、もう戦闘終わったの?」
あまりにも早すぎる終了に俺は驚いた。
逃げきれなかった住人と言ってもそれなりに数がいたのは斥候の時に見ていたし、その住人達を傷付けず無力化するのは本当に大変なはずだ。
それなのに半日くらいで終わったのか……
「そうか。それじゃ俺が何かやる事ってあるか?」
「そうだね……補給部隊の手伝いとみんなへの労い、かな?まぁこれに関してお疲れ様って言えばいいと思うよ。それから自由になった住人達も衰弱してるからそんな彼らを介抱する方がちょっと忙しくなるかも」
「町の人達はみんなすぐに家に帰れるのか?」
「流石にそれは無理。インフラが壊れてないかどうか確認する必要があるし、戦闘で壊れた家や道路もある。それにまだ悪魔が残っている可能性があるからその除霊もある。だからすぐにとはいかないかな」
「そうか……それじゃしばらくは町の人達をサポートするのが仕事って事か」
「そうなるね」
「それじゃ俺も仕事の時間だな。悪いな加奈ちゃん。お兄ちゃんちょっとお仕事だ。代わりにクロウと一緒に居てくれ」
「分かった。行ってらっしゃい」
こうして俺は自由になった住人達のために働く事となった。
と言ってもまだ一応学生と言う立場なのでは以前の手伝いや住人に水などを配る程度。
どの人達も基本的には軽微の消耗、軽い飢餓状態だったり、疲労が溜まっているくらいで大きな治療などを必要としている人達は非常に少なかった。
急いだ治療が必要なのは加奈ちゃんを虐めていた女の子達や、その両親、そして見て見ぬふりをしていた教師達。
教師や両親達はあまり傷付けられていなかったが、直接虐められていた女の子達に関しては傷が化膿していたり、脱水症状などが出ていて少し危険な状態。
そう言えば1人足りないなっと思っていると、遠くから奇声が聞こえた。
他の住人達同様に驚いて規制が聞こえた方向に振りむくと、1人の女の子が俺に向かってきた。
肌の一部が打ち身か何かで黒くなっており、それは腕や足だけではなく目元まで黒くなっている。
黒くなっている足を引きずりながらやってくる女の子は凄い気迫であり、怒りがあふれ出ていた。
「りゃんたのせい!!りゃんたと加奈のせいでこんなぐろくなっひゃった!!ろうしてこんな事したの!!」
呂律が回ってなくてよく分からないが、おそらく加奈ちゃんを虐めていた女の子の1人だろう。
それは予想できたが……
「君誰?」
俺はそう言った。
俺の言葉にぽかんとする女の子に続けて言う。
「いや、昨日会ったとは思うんだけど……俺君と話した事ないよね?」
「な、なひ言って……」
「とりあえず、その体の痣もなんかよく分かんない治療用ポッドの中に入れば多分治るだろうから、その人達と一緒に病院に行った方が良いよ。ほら、早く行きな」
俺はそう言うと女の子はあっけにとられている間に他の転生者達によって病院に送られる事になった。
一体誰だったんだろうと思いながら、首をかしげているとクロウが笑いをこらえながら加奈ちゃん達と一緒に来ていた。
「あ、相棒……やっぱり君は最高だよ……」
「何が最高なんだよ?ただ痣だらけの女の子にさっさと病院行けって言っただけだぞ」
「それがだよ!!あーもう無理!!」
そう言ってクロウは思いっきり笑った。
何が何だ分かっていないので状況についていけていないと、コッペリアと愛香さんがやってきて言う。
「あの女の子ですよ。昨日柊君が怒った女の子」
「カナを虐めていた主犯格の子。忘れたの?」
「忘れたな。と言うか覚えてない」
正直に言うと確かに言動は気に入らないと思っていたが、同時に覚える必要もないと思っていたので顔なんて全く覚えていない。
ただ漠然と加奈ちゃんと同い年の女の子としか覚えていなかった。
その事を説明すると、クロウはとうとう笑い転げてしまった。
一体どこがツボに入ったのかよく分からないが、俺は続々とくる住人たちの受け入れと下っ端としての仕事が忙しくなりそうな気がして仕事に戻る。
「それじゃ俺仕事に戻るから。3人は戦闘組だったんだからゆっくり休めよ」
俺はそう言って疲れ切っている住人達に飲み物や軽いお菓子などをもって配るのだった。
――
「お腹、お腹が痛い……」
「ちょっとクロウ。いつまで笑っているつもり?確かにあれに関してはもの凄いあれだとは思ったけど」
「だってさ、だって復讐しに来たと思ったら相手の方は全く覚えていないってそんなにないだろ!!普通はどれだけ忘れてたとしても頭の片隅にはあるものでしょ!!」
「そうね。でもそれがシュウでしょ。シュウはいつまでも怒りに囚われているような男じゃない事くらい」
「でも、でもあの子の表情が……あ、ダメだ。思い出したらまた笑いが……」
「えっと、加奈ちゃんは大丈夫ですか?その、嫌な子を見ましたけど……」
「大丈夫だよ。でもお姉ちゃん。聞いてもいい?」
「なんですか?」
「私やお兄ちゃんは悪魔さんと契約しても何ともないのに、どうしてあの子はあんなに真っ黒になっちゃってたの?」
「あれは……何と言いましょうか……その……」
「ああ、あれは単に無理矢理悪魔を支配していた反動みたいなものだよ。あまり気にしなくていい」
「支配?反動?」
「クロウさん!」
「まぁ詳しくは言わないから。あのね加奈ちゃん。僕やその悪魔は自分たちの意思で契約者、つまり相棒や加奈ちゃんの事を考えて、できるだけ相棒や加奈ちゃんに負担がかからないように力を制御してるんだ。でもあの子はそんな悪魔はいないし、無理矢理力で悪魔を屈服させようとした。だからその無理した部分が体に傷を残しちゃったんだよ」
「治るの?」
「そればっかりは分からないかな。体の黒くなったところは治ると思うけど、少しリハビリは必要かもね。こればっかりはお医者さんの腕次第ってところだね」
「ドラマに出てくるようなお医者さんなら治る?」
「それはどうだろうね。僕にも分からない」
「あと……もう1ついい?」
「僕に答えられるものなら何でもいいよ。今回はサービスだ、相談料は無料にしよう」
「元々子供からはお金とってないじゃない」
「コッペリア。これでも僕は悪魔なんだ。子供からだって容赦なく代金をもらう事はある」
「訂正するところはそこかしら?そこは子供を脅かさない内容で言うものじゃない」
「元々悪魔を計画的に召喚しようとしてる連中から代金をもらう事は必要な対価だ。今回と話が違う」
「悪魔の矜持と言う物かしら?まぁ何でもいいけど」
「全く、話の腰を折らないで欲しいな。それで何を聞きたいのかな?」
「この子、カンナちゃんと一緒に居たい」
「……カンナちゃんって言うのはこの悪魔の事だね」
「うん。これからも一緒に居たい」
「……そうか。でも加奈ちゃん。一緒に居れる方法は知っているけど、それを他の人達が許してくれるかどうかは分からない。お父さんお母さんだって、勝手にペットを飼う事を許さないようにね」
「カンナちゃんはペットじゃないもん。お友達だもん」
「これは失礼。僕の言い方が悪かったよ。でもね加奈ちゃんにとってカンナちゃんは大切な友達でも、カンナちゃんは僕と同じ悪魔だ。周りの人たちみんなが受け入れてくれる存在じゃない。これは分かるかな?」
「やっぱり悪魔は悪い子だから?」
「そうだね。周りの大人たちはそう思っている事の方が圧倒的に多い。でも僕を見て、僕は今も相棒と一緒に居る。だから一緒に居る事は出来るけど、それなりの制限がかかるんだ。分かるかい?」
「……パパとママと一緒に居られなくなる?」
「それはまだ分からない。でも君が本当にそう願うのであれば、契約しよう」
「クロウさん!!」
「大丈夫。今すぐこの場でって訳じゃないから。それに僕はこれでもロマンチストなんだよ、相棒の影響でね。でも下準備は必要だ。だから加奈ちゃんには1つお願いしてほしいんだ」
「何をすればいいの?」
「お父さんとお母さんを説得して、カンナちゃんと一緒に居ていいって認めてもらう事。それが出来たら契約してあげる」
「本当?」
「本当だよ。でも嘘はダメ。本当にお父さんとお母さんが認めてくれたらだ。約束できるかい?」
「指切りする!」
「分かった。それじゃ指切りしよう」




