緊急事態発生
加奈ちゃんを連れて戻ってきた俺達は、作戦本部長から俺達が責任を持って加奈ちゃんを保護するように命令された。
その理由は色々あるが、1番の理由は加奈ちゃんが俺達の事を信頼してくれたからだろう。
他のゴツイ大人たちは加奈ちゃんから見て怖かったのか、俺かクロウの後ろに隠れる事が多く、まだ幼い事から尋問するとしても少し時間を置いてからいいだろうっという理由から俺達と一緒に行動する事になった。
で、現在ちょっとした問題が起きている。
「シュウお兄ちゃんと一緒がいい……」
加奈ちゃんを風呂に入れようと話あっている時に加奈ちゃんは何故か俺と一緒に入りたいと言ってきたのだ。
流石の俺もこれは女の子同士の方が良いだろうと思い、愛香さんとコッペリア、クロウに任せようと思っていたのだが、かたくなに認めてくれない。
「でも加奈ちゃん。一緒にお風呂入ったりするときとか大変だからお姉ちゃん達と一緒に居ない?」
「う~」
「ほ、本当にお風呂の時とか、トイレの時だけだから。納得してくれないかな~?」
「……お兄ちゃんがいい」
「ど、どうしましょう……」
「どうしましょうって、こればっかりは女子風呂に入れるしかないだろ。小学生とはいえ男の大人と一緒に風呂入るの嫌じゃないの?それに他の男性隊員も普通に風呂入る訳だしさ」
「ですよね……家のお風呂とかなら問題ないと思いますけど、みんなで使う公共の場ですから……」
「だよな……加奈ちゃん。本当に頼むから我慢してもらえないかな?」
「……お家のお風呂とは違うの?」
「違うね。どちらかと言うと銭湯とか、温泉みたいにみんなで入るところだから。加奈ちゃんも嫌だろ?他の男の人達と一緒にお風呂入るの」
「……お兄ちゃんと一緒なら別にいい」
「……マジでどうするこれ?預かってる子他の連中と一緒に入るとか俺にとっても難易度かなり高めなんですけど」
「こうなったら無理矢理時間をずらすしかないんじゃない。さすがに終了時刻ギリギリなら人も少ないでしょ」
「そうするしかないか。全く、加奈ちゃんは甘えん坊だな~」
そう言いながらくすぐると、加奈ちゃんは笑いながらくすぐられた。
で、仕方なく時間ギリギリ加奈ちゃんと一緒に風呂に入り、加奈ちゃんの体を念入りに洗った。やはり数日とはいえ風呂に入っていなかったからか、何度も洗う事になった。
でも加奈ちゃんはすっきりした表情であり、気持ちよさそうにする。
そして風呂場から部屋に戻っている途中で眠たくなったのか、寝てしまったので背負って部屋まで運んだ。
そしても遅い時間だったので俺達も電気を消して寝る事にした。
「……相棒。まだ起きてるか?」
「僕だけじゃなくて加奈ちゃんとその小悪魔以外はまだ起きてる」
「じゃあみんなに聞きたいんだけどさ、なんだ加奈ちゃんは俺に懐いてるんだ?普通こういう時って女の子同士で懐きそうな気がするんだけど?」
あくまでも想像だが俺の中ではそんなイメージがある。
加奈ちゃんは今も俺の隣で寝ているし、加奈ちゃんの頭の所に小悪魔が鳥籠の中で寝ている。
どうしてここまで懐かれているのか俺には理解できない。
「そうですね……もともとお父さんっ子だったとか?」
「それだとしたらお父さん限定じゃね?」
「それじゃ……柊君に一目惚れ?」
「それだったら逆に一緒に風呂に入りたいなんて言うか?」
「う~ん。私だと他に思いつきませんね……」
「私もパス。人間の感情、特に子供は単純そうに見えて複雑な事が多いから分からないわ。想像も付かない」
愛香さんとコッペリアは思いつかないか。
だがクロウは意外な事を言う。
「多分加奈ちゃんと相棒は同族だと思ったからじゃないかな」
「同族ってここに居るのみんな人間だぞ。この部屋では半分だけど」
「そうじゃなくて、最初に体育館で自己紹介した時、僕の事を悪魔で相棒は僕と契約してるって教えてたでしょ。だから同じ悪魔と契約した者同士なら悪い事はしないと子供なりに考えて出した結論だったんじゃないかな」
「……なるほど。まぁこの世界だと悪魔=アンノウンって事でこの小悪魔も倒される可能性が圧倒的に高いしな。多分この事件の最終目標はこの小悪魔を倒すなり、元居た場所に戻して終わりになるだろうからな」
元の場所に戻すか、もしくは倒して終わりか、どっちかなのは間違いない。
そう考えると加奈ちゃんはこの小悪魔と分かれたくないと考えているのだろうか。
もしそう考えているのだとしたら、この先少し大変そうだな。
「とりあえずこの事件のきっかけである加奈ちゃんはこうして保護できた。残ってる子悪魔達は除霊だかなんだかしても問題ないんだよな?」
「問題ないね。元々あのいじめっ子達への復讐が目的だったわけだし、それはもうほとんど達成されていると見ていい。だから後は一緒に召喚された小悪魔達を送り返せばいいだけだ」
「そうか。それじゃ後は除霊できる連中に任せてればいいか」
そう思うと後は楽勝な気がした。
大きな欠伸が出てきた後、俺はあっさりと眠りに落ちた。
――
翌朝、ほんの少し騒がしい気配を感じて俺は目が覚めた。
何だろうと思っていると、先輩が大慌てで扉を開けた。
「起きろお前ら!!緊急事態だ!!」
あまりにも大声に隣で寝ていた加奈ちゃんも起きてしまった。
「先輩……子供が寝てるんです。もう少し気を使ってあげてください」
「その子のためでもあるから!!それより早く起きろお前ら!!憑りつかれた住民達がこっちに向かって来てるんだよ!!」
「……え」
それは確かに緊急事態だ。
何故だと考えながらも俺達は慌てて着替え、加奈ちゃんはパジャマのまま俺が背負い、小悪魔はクロウが両手で持ってきた。
俺達が作戦本部にたどり着くと、作戦本部長から言われる。
「つい先ほど憑依された住民達がこちらに向かって来ているという情報が入った。全員憑りつかれているが、状態は軽微のため簡易な除霊などで悪魔を祓う事が出来る。が、それでも数は膨大だし、倒れた住人をそのままにする事も出来ないため除霊後に作戦本部に連れてくるようにする。そしてどういう訳か小学校の体育館から異常な反応が出ていると斥候から報告があった。現在はこちらに来ると憑りつかれた住人を除霊して救いつつ、同時に小学校で何が起きているのか探る。そしてこの作戦はスピード重視で行う。全員行動開始!!」
どうやら状況が一気に変わってしまったらしい。
だがどういう事だろう?
悪魔を召喚した原因、つまり加奈ちゃんはこの場にいるし、最初に召喚した悪魔もこうしてすぐそばにいる。
なのにどうしてそんな状態になり、しかも住民達が町を出てこちらに向かって来ている理由も分からない。
だが俺達がこの状況の変化に対して何か知っているだろうと言う予想だけで作戦本部に呼ばれてしまった。
「で、今回の原因に心当たりは」
作戦本部長は厳しい口調で言ってくるので加奈ちゃんは他の女性に任せ、俺達は何が原因か考える。
「小学校の体育館って事は多分あの加害者の中に原因がいると考えるのが当然ですよね」
「でもあの中には加害者、加害者の親、見て見ぬふりをしていた先生達だよな。その中で誰が原因かと聞かれると……」
ぶっちゃけ分からない。
俺達は誰だろうと持っていると、クロウがタブレットを見ながら口を開いた。
「どうやら加害者の主犯だったこの女の子みたいだね。この子に小悪魔達が群がって大きくなってる」
クロウがそうタブレットを見ながら言うので俺達もそのタブレットを覗き込むと、この子と言われても分からないくらい小悪魔達が群がっており、一体誰の事を言っているのか分からない。
クロウはそのタブレットを作戦本部内のスクリーンに映像を共有した。
他の人達が驚いている中、俺は素直な疑問を口に出す。
「クロウ。これどうやって繋いでるんだ?確か妙な霧のせいで電波は通じないんじゃなかったっけ?」
「普通はね。でも僕の能力は相棒は理解してるでしょ。現代科学で作られた道具でも、結局は僕の魔力を利用して作られた道具だって事。僕以外の誰かとつなげるのは難しくても、僕が作った道具同士ならどんな状況下でも問題なく動かす事が出来る。壊されない限りは、だけどね」
「いつの間に仕込んでたんだよ」
「体育館を調べている時に仕掛けさせてもらった。名目は一応捕まっている彼らの健康状態を確認するためだったんだけど……意外な形で役に立ったよ」
まさかそこまで可能とは思ってなかった。
つまりこれは今現在進行形で進んでいる事って事か。
「で、これってどういう事だ?」
「おそらくだけどこの子の怒りがこれだけの悪魔を呼んだんだろうね。召喚しているのも多分この悪魔達だと思うし」
「どういう事?」
「悪魔の召喚方法に関しては加奈ちゃんと同じ怒りが原因って事。この子の怒りの感情が今群がってる悪魔達にとって好きな味だったんだろうね。でも明確な契約はされてない、勝手に寄生されている感じだから払ってもこの子には影響はなし。無理やり引きはがしてもまぁ……ちょっと肌が傷つくくらいじゃないかな?」
「で、この子の正体誰?結構いただろ虐めてた女の子」
「本当に忘れちゃったの?最後に相棒が怒った女の子だよ」
「…………あ、あいつか。え、ちょっと待ってくれ。それってつまり……」
「逆ギレ、だね。相棒に怒られて逆ギレしてその感情に触発されて悪魔を召喚。そして元々憑りつかれていた住民達を使って相棒、もしくは加奈ちゃんを探しているってところかな?」
「え~っと、それってつまり……」
「相棒が原因って言えなくもないね」
クロウが悲しい事を言った。
この騒動の原因が俺だとかかなり厳しい現実をぶつけてくれるじゃないの。
ちょっと泣きたくなってくると作戦本部長は言う。
「この小学校に囚われている少女を助ける事は可能かね?」
「僕じゃ無理。元々僕はそこまで戦闘に特化した悪魔じゃないんだ。でもやろうと思えばできなくはないけど、物理的な被害が大きく出るからあくまでもサポートってところかな。戦争だとお金もかかるし」
「ではあの紫色の霧をどうにかする事は可能かね」
「それならできるよ」
「ではあの霧を消す事に力を注いでくれ。君は……悪魔と契約した少女の監視、及び護衛を任命する」
「分かりました」
俺はそう言われて加奈ちゃんの護衛をすることになった。
それにしても戦いが得意じゃない悪魔か。
「クロウも色々隠すね~」
「当然だろ。戦いの手札はできるだけ多く隠し持っている方が有利なんだから。それに僕の戦いはかなりお金が必要になるんだから、こんなところで散財したくない」
「確かに。お前の魔法、魔法って言うより錬金術の方が近いんじゃないか?」
「そのイメージは間違ってないよ。と言ってもまぁ鉄を金にする魔法は、それなりに生きた悪魔なら簡単にできるさ」
そう言ってクロウは特殊な空間から札束を取り出したのだった。




