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悪と呼ばれる存在を友達と呼んではダメですか?  作者: 七篠
【強欲】な悪魔
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斥候として町に行きました

 今回現れたアンノウンがいる町を包囲する仮設住宅の1つに俺達はたどり着いた。

 顔見知りを中心に集めたせいか先輩達も愛香さん達も一緒に居る。

 そして現地で指揮を執っていた人から学校で聞いていた以上に詳しい情報を教えてもらった。


 何でも今回の事件の発端は町でいじめられていた引き籠りが悪魔召喚の儀式を行ったのが原因らしい。

 復讐のために悪魔召喚の儀式をしたら、本当に悪魔型のアンノウンが現れ、契約を果たすために今も町で活動中らしい。


「あのすみません。1つ質問よろしいですか?」

「なんだね」

「この事件の原因となるいじめっ子はまだ悪魔に殺されていないという事でいいのでしょうか?」

「いや、加害者は全員学校に閉じ込められて被害者がやらされたいじめ全てを今も受け続けている。これを飲まず食わずで永遠に殴られ、蹴られ、屈辱を与え続けている」

「よく生きてますね。そのいじめっ子達」

「おそらくだがこれも悪魔との契約によるものだと考えられている。悪魔と契約した者が満足するまで殺す事が出来ないと予想されている。質問は以上か」

「以上です。教えてくれてありがとうございます」

「では続いて今回の作戦を告げる。今回の作戦は悪魔と契約した少女を除霊し、悪魔と切り離す事だ。しかし町の住人たちは全員悪魔の手によって隷属化されているが、動きは鈍く、判断能力も低い。さらに斥候部隊の報告によれば完全な敵対行動、今回は住民にかけられた魔法の解呪や除霊を行わない限りは攻撃してこない事も判明している。よってほとんどの者は悪魔と契約した者を除霊する邪魔をされないようにしてもらう。何か質問はあるか」


 特に質問はないのでこのまま作戦は終了した。

 俺達は自室に戻った。

 この仮設住宅では4人1組で二段ベッドしかないので本当に寝るためだけの施設という感じだ。

 それぞれベッドの上で座ったり横になったりして話始める。


「それにしてもいじめが原因で悪魔召喚ね。本当に成功するもんなんだな」

「かなり稀ですけどね。それに憑依型とはいえかなり弱い悪魔のようなので、この悪魔がアンノウンかどうかも分かりません」

「と言うかこれ契約なんでしょ?だったらいじめっ子をぼっこぼこにして満足するまで放っておけばいいんじゃない?」

「僕はそれ反対。確かに契約した本人と今いじめられている連中だけならそれでいいかもしれないけど、問題は契約内容だ。契約内容を確認できない限り町の住人達全員が対価として魂を奪われる可能性もある。そうしたら町1つ終わるね」

「面倒ね。まぁ私の目的はシュウの護衛だし、その契約者もいじめっ子もどうなるが知ったこっちゃないわ」

「そう言うのは危ないですよ。もうヨーロッパの方の情報でコッペリアさん達がアンノウンである事は上層部にバレてるんです。少しでも人間と協力的な姿勢を見せておかないと、柊君と一緒に居られなくなります。それはコッペリアさんも嫌でしょ」

「……本当に仕方ないわね。まぁ最低限の事は手伝ってあげるけど、あくまでも私達の目的はシュウが幸せに暮らせる事。それだけは変わらないから」

「それで充分です。ただ……柊君は何をしているんですか?」

「ん?ちょっと手続きの紙に記入してた」

「手続きってなんのです?」

「さっき言ってた斥候部隊への参加希望の願書。ちょっと確かめたい事があって」

「え、え!?柊君それって本当に大丈夫なんですか?本来斥候は非常に危険な物なんですよ!!いつどこでどんな攻撃をされるか分かりませんし!!」

「だから悪いけどこの部屋にいるみんなの事巻き込ませてもらった。相棒、これでどうよ?」

「どれどれ……うん。これじゃ最低限ってところだね。僕が書き足しておくよ」


 俺からクロウに渡された願書はさらに書き足される。

 その光景を見ていたコッペリアは不思議そうに言う。


「ねぇそれ書いてどうするの?斥候という事は戦わずに済ませようって事?」

「いや。ちょっと気になったことあるから大胆な事して見ようと思って。それにこれは俺とクロウがいるからこそできる作戦だから。もちろん念のためコッペリアと愛香さんは護衛として一緒に来てもらうけど」

「それは構いませんが、何しに行くつもりですか?」

「な~に、ちょっとその契約者ちゃんに差し入れを持って行こうと思っただけ」


 愛香さんとコッペリアさんは首をかしげながら不思議そうにする。


「相棒。書き終わったよ」

「よし。それじゃちょっと作戦本部長に直談判してくる」

「え!?それ本当に大丈夫なんですか?」

「多分うまくいくと思うよ。まぁちょっと条件は増えそうだけど」


 俺はそう言ってからクロウと一緒に作戦本部長室に向かうのだった。


 ――


「ま、まさか本当に斥候として承認されるとは思いませんでした……」


 次の日、俺達は例の町の中にいた。

 町の中は不気味な紫色の霧のような物でうっすらと覆われており、視界が悪い。

 そしてたまに見かける人影はこの町の住人達。

 みんな虚ろな瞳でこちらをただじっと見ている。


 そして俺とクロウによる作戦が承認されたことに愛香さんは驚きを隠せないでいる。

 まぁこれに関しては俺と言うよりはクロウのおかげと言うべきだが。

 なんせクロウの方が口が上手いから。


「さてと。契約者がいると思われるのは……この小学校のどこかだ。いじめられていた仕返しとなると……その子がいたクラスとか体育館裏とかか?一応定番の所から探してみるか」

「あの、本当に今回は退魔の方はしなくていいんですね?」

「しなくていいって。むしろ作戦の本番の時に変なミスを犯したくないから除霊はなしって言われた。あくまでも今回は契約者と接触して健康状態の確認と悪魔の存在を確認する事だから。他の斥候部隊の話によると学校以外は全部調べたから多分学校にはいると思うんだけど……」

「それならとにかく行きましょ。こうして話し合いながら学校に向かうことは出来るでしょ」

「それもそうだな。そんじゃ行こうか」


 俺は地図を持ちながら小学校を目指す。

 この霧の影響なのかスマホなどの電子機器などは使えないのが難点なので地図を見ながら小学校に向かう。

 どうも悪魔そのものは大した力を持っていないのか、地形が変化しているとか、同じところをグルグル回るみたいなことはないそうだ。

 だから地図を見れば迷子になることなく小学校に行ける。

 ただし小学校に関しては結界が張られているので結界の外側から視認でしか状況が分からないと言う。


「ところでその女の子はどんないじめを受けてたの?」

「それに関しては逃げてきた小学校の教師や生徒さん達の証言で色々出てきてる。と言うか報告書に書いてたじゃん」

「どうでもいいから読み飛ばしてたわ」

「コッペリアさんよ~、これ一応お仕事だぞ。しかも人を救う系の」

「私が守ろうと思うのシュウだけ。他の人間がどうなろうが知ったこっちゃない」

「清々しいなそれ。まぁなんだ、ぶっちゃけいじめとしてはよくある内容だよ。持ち物を勝手に捨てられる、体育の授業で集中砲火、わざと足を引っかけて転ばせるとか、ある意味小学生らしい内容」

「……その程度?」

「いや、クロウに調べてもらったらもっとえげつない事もしてたな。男子生徒の前でスカートとパンツ同時に下して下半身丸出しにしたり、ハサミで髪を切ってたみたいだ。子供故の残酷さとでもいうべきか?」

「それは……酷いですね」

「だからその子は引き籠った。情報源はその子の両親で、事情を聞いた両親は学校側に苦情を入れて、いじめてた子やその両親にも話したそうだが、相手にされなかったらしい。だからその子の両親は契約者の心の傷が消えるまで学校に行かない事を認めてたらしいんだが……」

「悪魔召喚の儀式をしてまさかの成功。そして現在に続くと言う訳さ」

「あの、その酷い方のいじめないよう報告書に書いてなかったですよね?どうやって調べたんですか?」

「何言ってるの?そんなのちょっとお金を払って情報を売ってもらっただけさ。それに僕は悪魔だよ。口の上手さは相棒に認めてもらってるんだから」

「そう言う事。ま、裏がちゃんととれているかどうかの確認は必要だからね。っとここだここ」


 話している間に小学校にたどり着いた。

 特にここは紫色の霧が集まっているようで視界が非常に悪い。

 ぱっと見はそれだけだが……


「なんか結界みたいなのある?」

「あるね。侵入者を入れないための結界と、結界の外からは中の状況が分からないようになってる。壊すのと侵入、どっちがいい?」

「今回は侵入で」

「了解。それじゃちょっと術式組むね」


 そう言ってクロウは結界に触れて俺達が侵入できるように調整してくれる。


「す、すごい。結界を壊すならともかく、素通りできるように侵入できるように調整するのは大変なのに」

「まぁクロウは悪魔だから。愛香さんが思っているよりもクロウは凄いよ」

「それは分かってるつもりでしたが、本当に分かっているつもりだったって強く感じます」

「出来たよ。一応今回は僕たち4人分だけ侵入できるように調整した。中の様子が分かるように一部だけでも破壊しちゃダメ?」

「今回はダメ。まだ契約者がどんな子なのか分かんないからできるだけ刺激したくない。それじゃ行こう」


 俺は校門をよじ登って校内に侵入する。

 他のみんなは軽くジャンプして校内に入った。


 とりあえず校庭だが……特に変わった様子はない。

 あえて言うなら校庭に入った瞬間周囲から強い視線を感じるようになったくらいか。

 でも視線を向けてくるだけなら問題ない。

 俺達は堂々と校舎に入った。


「さてと、とりあえずここからはしらみつぶしだな。例の契約者といじめっ子達がどこにいるのか、そして校舎内にはどれだけの人がいるのか、確認していこう」

「そんなことまでしなくいちゃいけないの?」

「仕方ないだろコッペリア。一応人を助けるためにやってるわけだからさ、校舎内の人数やどんな人たちがいるのかも調べてきてほしいって言われちゃったんだから」

「それが斥候としていかせてもらう条件の1つだからね。それじゃ地道に行こうか」

「仕方ないわね~」

「まぁコッペリアさん。これも大切な事ですから。あとから皆さんを助ける時にどれくらいの人数がいるのか知るのは必須ですから」


 こうして文句を垂れるコッペリアを連れて教室や理科室などの特別教室などを確認しながら契約者を探した。

 と言ってもどの教室も空で人は見つからない。

 町にあれだけ人がいたのに校内にはどれ1人としていないと言うのはどうも不気味だ。

 最終的に体育館以外の教室は全く人がいなかった。


「そうなると……全員体育館に居るって事でいいのか?」

「おそらくそうでしょうね。最低でも契約者といじめっ子達は体育館にいるかと」

「それじゃ次は体育館か。地図見ると体育館には放送室と用具室くらいしかないみたいだな。問題はどこに隠れているか、隠しているかってところか」

「こうなると契約者と加害者しかいないんじゃない?」

「でも小学校の体育館だからね。全校生徒が入れるくらいの広さはある訳だし、どれくらいいるのかは実際に見てみないと分からないかな」


 そう言いながら体育館の前に来たが、体育館だけ鍵がかかっている。


「あれ?開かない」

「鍵がかかってるみたいですね。職員室から鍵を借りてきますか?」

「いや、面倒だからこういうときの正攻法を取ろう」

「正攻法ってこの扉壊すの?」

「いや、正攻法と言ったこらこれだろ。すみませーん!ウーバーイーツでーす!!」


 大声でそう叫んだら俺以外全員ずっこけた。


「あれ?こういうのってこう叫べば腹減った子が出てくるもんじゃないの?」

「出てくるわけないでしょ!!あっちは悪魔の力で好きにできるんだから!!相手を死なない程度にいたぶれるよう調整できるなら自分自身の調整だって――」


 コッペリアがそう叫びながら言うと女の子が扉を開けてくれた。


「あの……ご飯ありますか?」


 明らかに今まですれ違ってきた町の住人と違い、しっかりと目を合わせて話してくる女の子を見て、俺はほら見ろと言う視線をみんなに送った。

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