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悪と呼ばれる存在を友達と呼んではダメですか?  作者: 七篠
【怒る】ドラゴン
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【怒る】ドラゴン

「ギヤアアアアァァァァァーーーーーーー」


 コッペリアに首根っこを掴まれてパラシュート無しで飛び降りると言う恐怖体験を今現在進行形で体験している。

 しかし途中でコッペリアの背中からブースターのような物が現れ、それによって俺と愛香さんは無事に下りる事が出来た。


「お、おおう。大地のありがたさよ」

「シュウなんか変じゃない?」

「いえ、これはコッペリアさんが悪いかと。普通の人は命綱なしで飛び降りたりしませんから」


 恐怖で膝が笑ってツッコミを入れる暇もない。

 何で2人は平気なんだと聞こうとしたとき、大きな爆音が聞こえた。

 なんだと聞こえてきた方向に顔を向けると、そこには龍型のアンノウンがドラコに向かって威嚇していた。


 今回の龍型のアンノウンは非常に厄介なデバフもりもりで攻撃してくる厄介なアンノウンだと資料に書かれていた。

 あの黒い雲から降ってくる雨は毒性と酸性が強く、俺のような普通の人間が雨に当たった場合すぐに毒で痺れて動けなくなり、そして強い酸性によって徐々に体が溶けていくらしい。

 しかもあの黒い雲から絶え間なく雷を落とす事も可能らしいので、中国の転生者達はその毒の雨と雷の攻撃に大苦戦していたそうだ。


 非常に厄介な相手と思えるアンノウンにドラコはどうするのかと見守っていると、何とも言えない強引な攻撃に俺の開いた口がふさがらなかった。

 だっていきなり口を掴んだと思ったらはるか上空に投げ飛ばしたのだから、これで驚かない方が不思議じゃない。


「ちゃんとシュウとの約束は守るつもりみたいね」

「どういうことだよ?」

「ドラコは宇宙空間であの蛇を殺すつもりみたい。あの方法なら確実に殺せるし、周囲に被害も出ないからあの子のお気に入りの攻撃よ。それにしてもワンパターンね」

「え、それってつまりあのアンノウンを宇宙までぶん投げたってこと!?」

「だからそう言ってるじゃない」


 同じことを何度も言わせるなっという雰囲気で言うコッペリア。

 でもそれは俺にとってかなり衝撃的な事だぞ。

 だって宇宙空間って事はとにかく浮いていて地面もないから動けない、空気もないからそのうち勝手に窒息する、そもそも空気がないのだから気圧?みたいなものですぐに潰されるんじゃないか?


「宇宙空間に敵を放り投げて倒す。規格外じゃないと絶対に出来ない戦い方ですね」

「愛香さん。ちなみに聞きますけど、宇宙空間で戦える転生者っています?」

「戦えると言っても普通は宇宙船を使っての戦いになります。さすがに宇宙服を着て直接戦えるような人は聞いた事がありません。あと柊君なんで敬語なんです?」

「あ、ごめん。色々衝撃的過ぎて敬語になってた」


 でもこれは驚く方が多いと思うな~。

 それにしても一応はいるんだね。宇宙船に乗って戦うようなタイプの転生者。

 でもガンダムみたいなのに乗って戦うタイプの転生者はいないのかね?


 なんて考えていると何かが影を作った。

 なんだろうと思って見上げてみると、そこには宇宙から降りてきたドラコが居た。


『ただいま~』

「お帰りドラコ。アンノウンは倒したか?」

『倒したよ。全然大したことなかった』

「そ、そうか。それじゃ帰るか」


 俺達が出来る事はここまでだ。

 今聞こえてきた先輩達が乗る飛行機の音が聞こえてきたが、もうこれ以上やることないよね。

 学校に帰っても大丈夫かな~?


 ――


 ドラコはドラコ。

 シューが名前をくれる前までは名前のないただのドラゴン。


 ドラコはずっと1匹だった。

 他のドラゴン達はドラコの事が怖いから近付かない。

 ドラコに近付いてくるのは人間や神で、みんなドラコの事を殺そうとしてきた。

 理由はいつもくだらない事。ドラコを殺せば1番強い事を証明できるからだって。

 勝手にそんな事を言われてもドラコは困る。

 だからドラコはドラコを狙う馬鹿な人間の国や神の世界を何度も焼き払った。

 そうすれば数百年は大人しくしているが、それでもまたドラコを殺しに来る。

 もうそんな事に疲れたドラコはドラコ自身を封印した。

 ほんのちょっとだけ血を垂らして小さな分身を作ってから永い眠りにつく事にした。


 ドラコの耳は地獄耳、前に人間がこんな事を言っていた。

 ドラコと同じくらい強い世界の敵がいるって。


 だからドラコはそいつらに興味があったからそいつらを探しに旅に出た。

 小さな血の一滴で作った分身は弱いからすぐにドラコだと気付かれないのはよかったけど、気付かれた後は本当に面倒くさい。

 だってドラコの分身だって分かってから、ドラコの身体ばっかり狙ってくる。

 生け捕りにしてドラコの鱗や牙、爪なんかをどう使うかばっかり考えながら殺しに来る。

 もう少し強い分身を作ればよかったんだろうけど、そんな事全然考えてなかった。


 で、そんなドラコと同じような世界の敵って言われたみんなに会って、最後に昔のシューに会った。

 昔のシューはドラコの事をドラゴンの赤ちゃんと勘違いしてた。


『へ~、ドラゴンの赤ん坊は初めて見た』

『やめろ人間!くるくる回すな!!』


 あったばかりのシューは好奇心で頭の先から尻の穴まで本当に見てきた。

 初めて見るからってこの扱いは酷すぎる。

 だから何度も怒って噛んだり引っかいたりしたらすぐにやめた。

 元々話は出来るからやめてって言えばすぐやめてくれたけど。


『それにしてもこんな小さいドラゴンが世界の敵ね~。本当に滅ぼせるのか?』

『この身体はあくまでも分身体。本体はもっとでっかいし、お前なんて爪の先よりも小さいんだぞ!!』

『ほ~そりゃ怖いな。ほれほれ~』

『あ、そこ気持ちいい。もうちょっと強くかいて』


 なんて感じでドラコとシューは仲良くしていた。

 そんなある日、シューはじっとドラコの事を見ていた。


『今度はどうした?もう色々見せただろ?』

『そうじゃなくてさ、みんな名前が無いって【傲慢】から聞いたからさ、名前つけてやろうと思って』

『またペット感覚か?それなら名前なんていらない』

『そうじゃなくてさ、単に呼びづらいんだよ。いつまでもドラゴンじゃなんか変だろ?あくまでも種族名だし』

『……ペット感覚じゃないなら何で名前なんて付けるの?』

『だから、友達を呼ぶときに名前無しじゃなんか嫌なんだよ。だから名前つけさせろ』


 友達?

 人間とドラゴンが友達??


 その時のドラコは本当に意味が分からなかった。

 だってこの分身体でも殺そうと思えば殺せるくらい脆弱な生物である人間がドラゴンと同等だと言っているような物だ。

 そんな事を脆弱な存在から勝手に同等と思われるのが、想像以上に気持ち悪かった。

 だからこの時はまだドラコはドラコと名乗る事はない。

 まだドラコは名前のないただの強いドラゴン。

 でもシューは勝手にドラコの事をドラコと呼び続けた。


 そしてある日、シューがいつまで経ってもやってこない日が続いた。

 マザーは心配してずっとうろうろしているし、コッペリアもシューが来ないからイライラしてる。

 もっと驚いたのはベルが起きてた事。寝てばかりのベルがシューが来なくなってからどんどん眠りが浅くなっていき、とうとう起きた。

 そしてコンがドラコ達に言った。


 シューが連れ去られた。


 そう聞いた時ドラコはなぜか強い怒りを覚えた。

 それまで怒りなんて感じた事がなかったのに、初めて怒った。

 すぐに分身体から本体に意識を移し、結界を解除してシューを探し回る。

 そしてコンがシューの居場所を見つけた時、もう何もかもが遅かった。


 人間の形をした肉の塊がシューだとは思いたくなかった。


 でもシューは皮膚のない顔でドラコ達の事を見て、ただ嬉しそうに、ドラコ達の名前を呼んで、久しぶりとだけ言ってあっという間に死んだ。

 まるでその一言を言うためだけに今まで生きていたかのように。


 そのあとの事はあまり良く覚えていない。

 ただ自分自身の意思がなくなるほどの強い怒りが、世界とドラコに向けられていた事しか覚えてない。


 シューをこんな目に合わせた世界が許せない。

 こんな事を許した世界が許せない。

 これを許す世界は絶対に滅ぼす。


 そして……こうなるまでシューの事を大切に思っていながら、しょうもないプライドで目を背けてたドラコ自身に怒りが止まらない。


 頭の痛みと共に目を覚ますと周囲は燃えていた。

 人間が作った建物も、兵器も、神々や人間も、みんなみんな燃えていた。

 そしてドラコを殴って起こしてくれたみんなの前で、ドラコは大泣きした。

 ドラゴンのプライドなんて忘れて、みんなの前で泣き続けた。


 みんな最初は黙って泣き止むのを待ってたけど、【強欲】が言う。


『あいつからもらった名前と言う宝、今度は大切にしろ』


【強欲】が物以外でそんな事を言うのは本当に驚いた。

【強欲】は金や宝石、美術品と言った形に残る物しか大切にしないとばっかり思っていたから。


 だからドラコはドラコと名乗り続ける。

 シューからもらった大切な大切な宝だから。


 ドラコはドラコ。

 大切な友達からもらった大切な名前。

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