みんなに頼りながら子守してます
ドラコがやってきてから2週間後、ようやく俺は学校に帰ってきた。
精神的にヘロヘロで学校に戻ってきたときにはもう疲れ切っていた。
「お、お帰りなさい柊君。どうしてそんなにヘロヘロなんですか?」
「ドラコの面倒が大変だった。それに研究者チームもアンノウンをしっかりと調べる事が出来るとか言って、ドラコの事怒らせそうなったからそれ止めるのに疲れた」
「お疲れ様です。それでその、ドラコって言うアンノウンは……この子でいいんですか?」
「ん」
現在も俺の頭の上にしがみついている小さなぬいぐるみのドラゴンみたいなのがドラコだ。
今は色々疲れていてお眠中。
鼻ちょうちん作りながら寝ている。
向こうじゃ研究者共がドラコの事を興奮しながら迫ってくるもんだからそりゃ疲れるよな。
とりあえず現状俺が制御する事が出来るからっという理由で監視付で解放された。
ちなみに監視と言うのはこの学校の生徒や先生達全員だ。
アンノウンはこの世界の敵だから仕方ないと言えば仕方ないが……頭の中では理解できていても心の中では納得できない物もある。
そんな感じで本当に暴れないか、暴れそうになった時俺に止める事が出来るのかと色々確認出来てからこうして学校に帰ってこれたわけだ。
しかも今月からバイト頑張ろうかな~っと思っていたのに、ドラコにどんなことが起きるのか分からないからと言う理由でバイトは国の方でしないように言われてしまった。
国の命令じゃ出来ねぇよな……
「あ~あ。バイトしたかったな~」
「残念に思うのはそこですか。これからかなり大変な生活になるはずなのに」
「だって~、自由に使える金もう少し欲しいからさ。バイトして稼ぎたかったけど……ドラコがいたらそんな暇ないよな~っと思って」
「それは確かに。子供お世話って大変だって聞きますもんね」
「まぁドラコの場合はちゃんと要望を聞けば大人しいからまだマシ。腹減ったって言えばご飯食べさせれば大人しくするし、遊びたい時に遊ばせれば人に迷惑かけないし」
「遊ぶってどんな?」
「ちょっと広い所で鬼ごっことか、キャッチボールとか。たまに部屋の中でゲームしたりおままごとしたりする」
「結構遊びの幅が広いですね。ちなみにゲームってどんなゲームですか?」
「大乱闘だったりポ〇モンだったり、最近の流行はマ〇オパーティー。ドラコ用にスイッチもう1台新品で買ったから現在金欠です。しばらく漫画の新刊とか買えねぇや」
今月は新しいのないからいいけど、その先はと聞かれるとどうなるんだろうな……
やっぱりバイトして金稼ぎたいけどドラコを連れてバイトなんてできないし、それ以前に国からやめるよう言われてるし……
「うう。自由に使える金が欲しい……」
「ま、まぁまぁ。でも切実な問題ですよね。ドラコちゃん?でいいんですよね。食べ物とか色々お金もかかりそうですしね」
「そうなんだよ。特におやつ代が意外とバカにならねぇんだよ。ドラコはあんまり食べ物を食べなくてもいいらしいが、嗜好品として食べるらしい。極端な言い方するとガムとかそう言うのでもいいのかもしれないが、俺が食べるものは全部食べたそうにするんだよな。まだがっつり食べる訳じゃないからいいけど、その代わり細かくお菓子を要求してくる事が増えてきてな~」
「そうなると余計にお金がかかりますね」
「あ~あ、どっからか金が降ってこねぇかな~」
今は安い駄菓子系でしのいでいるが……そのうち好みの菓子とかできるだろうし、その時に偏食家になったらいやだな~。
「ふ、ふわ~あ」
なんて思っているとドラゴが起きたようだ。
「ようドラコ、起きたか」
「う~。ドラコ、まだ眠い」
「ならもう少し寝てていいぞ」
「う。寝る……」
そう言ってまた頭の上で寝始めた。
こうして寝てくれている間は本当に平和でいいんだけどな~。
「全く。ドラコまでシュウと同じ部屋なんてズルじゃない。私とも一緒になりなさいよ」
「コッペリアやっほ~。久しぶり」
「ええ久しぶり。ずいぶん時間がかかったわね」
「安全性の証明。ドラコ自身の性格。アンノウンの本格研究などなど、色々不利そうな条件を飲まないように素人なりに頑張った結果だよ」
もしあのまま何もしなかったらドラコと別れ別れになっていたし、ドラコがどんな目に遭っていたのか分からない。
強い弱い関係なく友達が酷い目に遭うと分かっていながら何もしない訳にはいかない。
だから頑張ったし、ドラコの機嫌を損なうとどうなるか分からないぞと、脅したり色々頑張った結果だ。
「ま、アンノウンを調べられる機会なんてもうなさそうだものね。最近のアンノウンは超巨大、そうでなくてもかなり強い類ばかり現れるらしいじゃない」
「そうみたいだな。だから何で強いアンノウンばっかり出てくるのか調べてるらしいが……いい結果はどこも出ていないらしい。だからこそドラコは貴重なサンプルとして手元に置いておきたかったみたいだが、ドラコ自身が俺の言う事しか聞かなかったこともあるし、俺と離して暴走されるくらいなら安全性を取りながら長期的に見る方が得だと思ったらしい」
「暴れられたら日本なんて簡単に終わるしね」
「そう言う事。だからまぁ監視カメラとか先生達を通してドラコの生態を解析、うまくいけばアンノウンがこの世界にやってくる方法や目的なども分かるかもしれないって事だそうだ」
「でも、この教室の緊張感はなかなかね」
そう。この教室の緊張感は今マックスと言っていい。
何せ世界を滅ぼしたアンノウンがすぐそばにいるのだから当然だ。
しかも俺の頭の上にいるので非常にやり辛い雰囲気。
何か変な動きを一瞬でも見せれば武器を取り出し、何時でも殺せる準備だけはしているが、俺ごと殺しかねない雰囲気もある。
つまりドラコを殺すために俺を巻き込まないといけないらしい。
他の誰かが上手く俺とドラコを引き離すすべを持っているのかどうかは分からないが、最悪の時を考えると……
「やっぱ弱いって選択肢がなくなるな」
「当たり前よ。と言ってもこのクラスのみんなはまだ大丈夫だから。シュウごと倒そうとはしないでしょ」
「それは本当に助かるよ」
「誰も柊君ごとなんて思ってないから。でも過激な人はどこにでもいるから少し気を付けた方がいいかも」
愛香さんは心配しながら言う。
確かに一枚岩の組織なんて存在しないだろうし、あの手この手でドラコの事を殺そうとしてくる奴はいるかもしれない。
もしかしたら俺ごと殺そうと考えてくる奴もいるかもしれない。
あまり考えたくないけど。
「でもまぁ、ドラコに喧嘩を売るほど馬鹿な人間ばかりじゃないでしょ。ドラコを怒らせたら本当にこの世界終わるわよ」
「冗談でもそう言う事は言わないでくれ」
「冗談なわけないじゃない。ここに居る全員、いえ世界中の転生者達はもうすでに気が付いてる。だからこそ安易に殺すのではなく、こうして時間を掛けて観察し、弱点を探っている。すぐに殺される事はないから安心して。それから――シュウを殺そうとしたら私達も動くから」
最後だけコッペリアは何の感情もない冷たい声色で言った。
それは俺ではなく俺以外のみんなに向かって言ったんだろう。
全員ビビって体を振るわせる。
「柊君が不安なのはよく分かりました。しかし私も柊君が隣で死んでしまうのは本当に嫌です。ですから守らせてもらいます」
「でも、いいのか?俺を守るって事はアンノウンを守るって言ってるのと変わらないって思われるんじゃ?」
「柊君はアンノウンじゃありません。それに問題を先延ばしにしていると考えられるかもしれませんが、何の対策もないのに攻撃したところで勝てる相手ではありません。コッペリアさんが言ったように今は勝てるように情報を集めている段階。もし急いでドラコさんと柊君に手をかけようとした場合は私が守る事でドラコさんに敵意がない事を示す事も出来ますし、無意味に被害を広げる事もなくなります。だから私達に守らせてください」
俺はその言葉に情けないと感じた。
本来ドラコは俺が守らなければならない相手として俺は見ている。
前世の頃からの付き合いだからこそ、俺はドラコの事をよく知っている。
ドラコは孤独に耐えられないタイプだ。
だから俺が1番近くで守ってあげないといけない。
そう思っているのに……守る力がない。
これを情けないと言わずに何と言えばいいのだろうか。
「……ごめん、助かる」
でも実際に力がないから頼る事しか出来ない。
「そういう時はありがとうと言ってくれた方がモチベーションが上がるのですが」
「ありがとうございます。これからも頼らせていただきます」
「はい。守らせていただきますね」
そんな会話をしている時に俺の事を見ていたコッペリアは、俺に対して冷たい視線を送っていたことに気付けなかった。




