友達がアンノウンとしてやってきた
夏休みが終わってようやく少しずつ涼しくなってきたかな~っと思い始めた時に、今までにない脅威が迫っていた。
ヨーロッパ、バチカン市国上空で新たなアンノウンが現れた。
そのアンノウンがヨーロッパにいる転生者達の攻撃を無視してまっすぐアジア方向へ飛んで行く。
これによりアジア諸国は警戒を最大で注意している。
何故注意でとどまっているかと言うと、相手があまりにも巨大過ぎる事とあれに対しての情報があったからだ。
あのアンノウンと戦った転生者曰く、倒せなかったアンノウンである事。
弱点不明。倒し方不明。ただ感情的に暴れまわるだけのドラゴンだそうだ。
倒せなかった奴もアンノウンとしてやってくるとか俺聞いてない。
まぁ似たような友達はいるけど。
しかもそのアンノウンの行動予測として、進行方向上に日本があった。
だから日本では全ての転生者達を集めて最大の警戒にあたっている。
日本と言う小さな島国で暴れられてはそれはもう大きな大災害だ。
実際最悪のケースを想定して海外に逃亡する人達もいるし、缶詰や水など災害に備えている人が一気に増えた。
いや~……マジで日本危機的な状況じゃない?
ゴ〇ラとかウ〇トラ怪獣が攻めてきたときと何も変わらないぞ。
さらに言うとヨーロッパにいる転生者達も当然戦ったのだが、うるさいと吠えられただけ後は素通り。敵としてすら認識されなかったほどに強い。
ただ吠えただけと言ってもその被害は非常に大きい。
吠えた時の衝撃波で窓ガラスなどが割れて怪我した人も少なくないようだし、それに現れた場所がよくなかった。
バチカン市国の上空、つまり世界に影響力があるキリスト教徒やらそれに関連する信者さん達が世界の終わりだと騒ぎだしたそうだ。
何でも聖書に書かれている終末論に出てくるのも赤いドラゴンらしく、バチカン市国の上空に赤いドラゴンが現れた事で終末がついに来たとパニックになってしまったらしい。
おかげで信者さんネットワークでも話題は赤いドラゴンの話一色。現実的な問題と宗教的な問題が合わさって情報もごちゃ混ぜになってしまっている。
でもまだマシと言える状況なのはその最初に現れた時以外被害らしい被害がまだ出ていない事だ。
何せ赤いドラゴン型アンノウンはただ飛んでいるだけでまだ攻撃らしい攻撃はしていないとの事。被害としては家畜がパニックになって暴れたり、アンノウンから逃げようとした人達が交通事故を起こしたりとか、そんな感じらしい。
なのでアンノウンだけど下手な刺激をしなければいいのではないかとネットでささやかれている。
だから他の国も警戒しているだけで基本的には傍観。
下手な事をして戦いたくはないと。
で、今のところ何もせずただ飛んでいるだけのドラゴンなのだが……
「なぁ。これどういう感じなの?」
「良いからそこで大人しくしていなさい。あの子に気付いてもらいやすいようにしてもらってるんだから」
「いやね、なんで例の紅いドラゴン型アンノウンをおびき寄せる、及び日本に被害を出さないようにするのに俺がこんな所にいるの?他のみんなも、本業の人達もめっちゃ戸惑ってるよ」
日本海側のとある漁港で唯一無二、あのアンノウンをどうにかする作戦が進行されていた。
そのどうにかする作戦の内容とは、俺が生贄になる事。
「生贄じゃないって言ってるでしょ。あの子の場合あなたに会えばすぐに落ち着くだろうからこうして分かりやすくしてるの」
「いやそう言うけどさ、これ見た目は完全に生贄だからね。俺食われるんじゃないかって怖いんだけど」
急遽用意している櫓のような物は転生者の中でもサポート系に優れて人達が作ってくれているものだ。
この櫓、俺にとっては生贄の祭壇のような場所に俺が座って待つ。
その後俺がドラゴンを落ち着かせて無害化しようと言うのが作戦の内容である。
ちなみにこの作戦はあのアンノウンがきてすぐにコッペリアと奥さんが立案したもので、成功率は100%と言うので学校のお偉いさんを通して政府のお偉いさんの耳に入り、他に作戦もないしこれで被害を抑えられるのであればっという感じで実行された。
ちなみにこの作戦が失敗したと判断された時、アンノウンが攻撃してきたら学校のみんなだけではなく日本中から集まった転生者達の集中砲火が始める。
その場合俺がどうなるのかは不明であり、コッペリアと奥さんが必ず俺の事を守ると言ってくれているが、ぶっちゃけ心配の方が大きい。
ベルもベルの方で「暴れたら本気出す~」っと言ってはいた。
現在は俺の腕の中でまだ寝ている。
本当にどうにかなるんだろうか……
「と言うかあのアンノウン。コッペリア達は本当に知ってるのか?俺見たことないんだけど」
「あら薄情なシュウ。貴方に1番べったりだったあの子の事を忘れちゃうだなんて、知られたら大暴れ間違い無しね」
「てことはお前らと一緒に居たって事だよな?でもあんなでっかいドラゴンと一緒に居た記憶なんてマジでないけど」
「あらあら~。でもあの大きさじゃないドラゴンなら覚えているんじゃないかしら~?」
「あの大きさじゃない?もしかしてドラコの事か?」
ドラコ。
コッペリア達と同じように世界の敵と言われた存在。
でも見た目も大きさもあのアンノウンとは全く違う。
ドラコはもっとファンシーな形と言うか、あんなごっついドラゴンの姿じゃないし、大きさだって今俺が抱いているベルとそう変わらないぬいぐるみサイズ。
そのドラコとあのアンノウンが同一人物?
「その話マジ?」
「マジじゃなきゃこんな事してないし、本当にあの子を怒らせたら大変なんだから。感情的過ぎて世界の大陸を1/6焼き払ったんだから」
「……1/6?」
「この地球で言うところのユーラシア大陸は全部焼き払ったわね」
「………………」
絶句。
いや、大陸を焼き払ったって何?
ユーラシア大陸の1/6じゃなくて?
「あの時は本当に大変だったわね~。どれだけ海水をかけたり~雨を降らせても消えないんだもの~。おかげで火が消えたのはずいぶん先になってから自然鎮火したわね~」
「ちなみにずいぶん先ってどれくらいの間燃えてたの?」
「確か~……5年くらいじゃないかしら~?」
「5年!?」
そんな長い間燃やされてたまるか!!
それにユーラシア大陸を燃やすって日本だったらもっと簡単に全部燃やされそうだ。
絶対に回避しないと。
「って気が付いたんだがドラコがアンノウン判定受けたのなら、お前らもアンノウン扱いされるんじゃないのか?」
そっと声を潜めながら聞くがコッペリア達は首を横に振った。
「そうならないように色々誤魔化してるから大丈夫よ。もし誤魔化しきれてなかったら学校に入学できるわけないじゃない」
「そうね~。私も寮母として働けてないわ~」
「大丈夫ならそれでいいんだが……ドラコはどうするよ」
「シュウが面倒見るしかないじゃない」
「やっぱり?」
「私でもいいけど~、やっぱり柊ちゃんのそばが1番いいんじゃないかしら~。1番安心できるところだから」
大陸を焼き払う事が出来るくらいの実力者が安心できるってなんか矛盾してる気がする。
だってそんなに強ければどこでだろうと安心して寝る事が出来る気がする。
それなのに何の力もない俺のそばが安心できるって変なの。
なんて考えていると警報が鳴った。
どうやらもうすぐドラコ?が来るらしい。
「それじゃ私達は少し離れたところにいるわ。そこで他の転生者達が勝手に攻撃しないように止めておくから」
「だから私もそっちに行くわ~。愛香ちゃん達の事は任せてね~」
っという事でここからは俺と念のために一緒に居るベルだけ。
組みあがった櫓の上で座って待つ。
警報が聞こえてきたという事はそれなりに待つのだろうかと考えていたが、すぐに来た。
バカデカいドラゴンの頭が見えたかと思うと、すぐに俺の事を捉えた。
人間数人分の直径はありそうな巨大な目玉と俺の目がはっきりと合った事がなんとなく分かる。
アンノウンは咆哮を上げたかと思うと、俺に向かって突っ込んできた。
本当に大丈夫なのかと思っていると、アンノウンの体が少しずつ小さくなっているような気がする。
「お前ええええぇぇぇぇぇ!!」
「げふっ!!」
目を擦って本当に小さくなっているのか再確認する前に何かが俺の腹にぶつかった。
吐きそうなくらいの衝撃で変な声が出た。
一体何がぶつかったのか確認すると、全裸?の女の子がいる。
何故疑問形なのかと言うと、その女の子は多分裸だと思うが顔以外ほとんどが赤い鱗に覆われており、服のようにも見えなくもないからだ。
赤い鱗は首から足まで全て覆われており、頭には角、背中には真っ赤な翼もある。
歯はギザギザで鋭そうだし、目の瞳孔も縦長で人間でない事は分かる。
でもこの大きな目は子供っぽいと言うか、幼い印象を俺に与えた。
そしてこの人懐っこいこの顔は、確かにドラコだ。
「一応確認するが、お前ドラコか?」
「お前分かったか!!ドラコはドラコ!!お前にまた会えて嬉しい!!」
そう言いながら頬ずりしてくるドラコ。
とりあえずいつもの奴やっておくか。
「ドラコ。今の俺の名前は柊だ。しゅ、う」
「シュー?シュー!!」
「ちょっとイントネーションが違うけど、まぁいいか」
それにしても今更だが、今後ドラコと俺はどうなるんだろう?
ドラコはこの世界でアンノウンとしてこの世界に来た。
そうなればドラコは愛香さん達に狙われる立場であり続けるし、今後ずっと一緒にいれるかどうか分からない。
コッペリア達はこの後の事をどうする感じで考えているんだろう。
「シュー?シュー。寝るのか?ならドラコも寝る」
大の字になって考えていると、そう言って犬か猫のように俺の上で丸くなって寝ようとする。
この辺は確かに昔のドラコと変わらないな。
そう思いながら俺はこのままなるようになれっと思うのだった。




