閑話 正義の光
今日も疲れた……
転生者として生まれ育った私は今日も弄ばれた。
私達を滅ぼした化物共の親玉がこの世界を滅ぼそうとしてくる。
生まれた時から自我があった私はその危険性を知っていたので、すぐに体が自在に動かせるようになってから奴らについてレポートを書き込んだ。
私の世界を滅ぼした化物は6体。
世界が滅ぼされるという事だけあって神も悪魔も関係なく、奴らに立ち向かったが……全員殺された。
生き残っている者がいたとしても彼らはもうすでに奴らの信者として取り込まれているのは間違いない。
彼らを助けようとする前におそらく化物共が私達を殺しに来る可能性の方が圧倒的に高い。
悔しい。
世界を滅ぼされそうになった時、必死になって戦ったのに結局負けた。
仲間は全員焼かれ、切り刻まれ、食い千切られ、銃弾の雨によってハチの巣にされ、今までの戦いは何だったんだろうと思えるほどだ。
戦い続けて資源が尽きかければ死んだ仲間の肉を食い、壊れた家から汚い布で傷をふさぎ、壊れかけの武器でまた奴らの前に立つ。
心が折れて彼らの信者となった仲間達もかなり多い。
勇ましく戦っていった仲間は最初の1年だけだろう。2年目以降は生き残るための防衛の方が多くなり、自分達から攻撃を仕掛けようとする事はほとんどなくなった。
もう最後の方は自爆覚悟で戦っていた事の方が圧倒的に多い。
人がいようが居まいが関係なく発射された核ミサイル。
強力な代わりに何十人もの人の命を犠牲にする魔法。
死んだ人たちの肉片を集めて作った怪物。
道徳だの倫理だのはもう私達の頭の中にはなく、奴らを殺す事しか頭になかった。
もうあの時の私達はすでに人間ではなくなっていたのだろう。
ただ必死に生き残るために戦い続ける獣。後先など一切考えず強力な兵器を無駄に消費していくだけの愚かなヒト。
結局戦えない人達は私達の姿を見て私達と一緒に居るよりも、化物達と一緒に居る方が生き残れると判断したのだろう。
どの化物達の世界も彼らに支配されるという事以外は理想的な世界だと噂に聞いた事がある。
何不自由ない管理された世界。
私達が化物達に屈した人達の事を信者と呼ぶのは、化物の事を神として慕っている皮肉った表現だが、結局勝てないと分かっていながら戦い続けた私達の方が愚か者だったんだろう。
そんな私達の最後は意味のない拷問だった。
爪を剥がされ、骨を折られ、髪の毛を一本一本引き抜かれ、目を潰され、喉を潰され、殴られ続ける。
最低限の生かす方法として毎日カビの生えたパンと、泥水だけは与えられた。
普通の状況なら口にすることすらないが、あまりの飢えと喉の渇きから私は食らい、飲み続けた。
もうカビが生えたり少し腐っているくらいで食べる事をためらわないほどに私の精神は削られていたのだろう。そうでなければカビて緑色になったパンと死んだ虫が浮いた泥水を飲もうとはしない。
なぜ彼らが処刑と言う言葉を使わず、拷問に拘ったのかは分からない。
化物達の中で最も感情的な奴が「あいつが食らった痛み以上の物を食らわせてやる!!」っとよく言っていたがあいつと言うのが誰だか分からない。
永遠の拷問が待っていると思っていたが、私は死んだ。
死んで本当にほっとした。
これ以上無理に生きる必要はないんだと、これで苦しいだけの生から逃げ出せると分かったから。
しかしそれすら甘い認識だと転生後に感じた。
もう二度と化物共と関わる事はないと思っていたのに、化物の一体がこのヨーロッパに現れたからだ。
しかも天使型と言うこのヨーロッパ一帯では宗教上の理由として非常に倒しにくい相手であり、化物の中でも最も強いと思われる奴がここで私達を弄んでいる。
何故弄んでいるという言葉を使っているかだが、死者が誰1人としていないからだ。
明らかに手を抜いて死なない程度に倒してどこかに消える。
それを繰り返し私達に絶望を与える。
あの化物の怖さを知らない転生者の中では神が与えた試練、とまで言い出す者がいた。
あれはそんな可愛い物じゃない。
ただ気まぐれに人間で弄ぶだけの人外の化物。
試練なら駆らず倒せるようになっているだろうが、あの化物は絶対に倒せない。
死んで何度も対策を考え、様々な手段を尽くしたというのに……全く倒せない。
今日もあの化物が遊び出来ているため重傷者は出ていても死者はいない。
様々な理由で疲れ切っている私の目に、さらなる絶望が襲い掛かってきた。
それはマリアナ海溝付近で発見された新たなアンノウンの情報。
あまりにも巨大すぎて全体像をとらえることは出来なかったが、上空から監視していたヘリコプターから撮影されたそのアンノウンの顔は、確かに私の世界を滅ぼした化物の1体だった。
発見された後、マリアナ海溝に潜って行ったのちに姿を消したので現在も捜索中とあるが、あの世界を終わらせた顔を忘れることなど出来ない。
私は慌てて仲間の元に向かう。
「ちょっとこれ見て!!」
前世の頃から仲間だった人達に私はこの記事を印刷して見せる。
その中の1人は化物が増えていた事の驚愕し、怒りに震えていた。
彼にとってこの化物は宿敵と言って間違いないだろう。その理由は彼の妹はこの化物の手によってどこかに連れ去られた。
唯一無二の家族を。
しかしこのヨーロッパからはあまりにも遠すぎる。
それに倒しに行きたいと思っていても目の前にはあの天使の形をした化物が立ちふさがっている。
動きたくても動けない。
元々天使の形をしているというだけで信仰深い人達は攻撃するべきではない、攻撃したら神罰が下るのではないかと恐れる人も少なくない。
アンノウンと正式に下されているのだからあれは本物の天使でない事は知っていても、信仰心がそれを邪魔をする。
だから現状は天使もどきの化物と戦いながら他の人にこの化物について調べてもらう。
これしか今動く事が出来ない。
あの化物に関しては出現したマリアナ海溝付近の国々が血眼になって探しているようだし、その情報を手に入れるだけでも大きな価値が生まれる。
ただ気になるのは他の事。
それは子の2体の化物だけではなく、他の化物共もこの世界に来ている可能性は捨てきれない事だ。
今までは天使もどきの化物1体だけだと思っていたが、化物全てがこの世界に来ている事も想定しなければならない。
一度完全に世界を滅ぼした化物6体。今度こそこの世界で滅ぼす。
この世界ならありとあらゆる世界の英雄達が集まっている世界。
もしかしたらあの化物達に勝つ事が出来るかもしれない。文字通り世界を股にかけた英雄達の手で。
勝利したところであの世界が復活する事はないかもしれないが、それでもあの世界で化物達に戦ってきたみんなへの供養にはなるだろう。
そう思っていた時、アンノウン警戒放送が流れた。
アンノウンがこの世界に来た際の時空のゆがみを感知し、周囲に警戒を求めると同時に私達転生者が戦いを始める合図。
もちろん私も戦いに出ようとしたが、天使もどきの化物と戦っていない転生者達に休むよう部屋に押し込められた。
だが私の頭の中で警報が止まらない。
今すぐここから逃げろ、全てを投げ出してがむしゃらに安全な所まで走れと警報が鳴り響く。
前世の頃に味わい続けた絶対的な絶望の感覚。
だから私は屋上の扉を開いてアンノウンがどこに現れるのか探す。
そしてちょうどこの国の上空に、超巨大な穴が出現した。
アンノウンが現れるときに発生する扉と言われる穴。
アンノウン達はこの穴を通ってこの世界にやってくる。
そして現れたアンノウンは、本当の絶望だった。
何千メートルあるのか分からない超巨体。
全身を流れる血がマグマのように暗く、赤く光る。
鋭い爪と牙は高層ビルよりも太く長い。
広げる翼は町よりもあまりにも大きい。
頭から生える5対の角は重なって1つの巨大な角に見える。
現れたアンノウンの正体は超巨大なドラゴン。
怪獣映画ですらここまで描かないだろうと思えるくらい巨大すぎる化け物。
私のいた前世の世界の1/6を焼き払い、他の化物達がいなくなった後に人間狩りをしていた感情的なドラゴン。
世界の終わりが近づいてきていると、私は感じた。




