責任はとる
「大変申し訳ありませんでした」
夕方、スイカを食べた後からずっと奥さんは暴走し続け、ようやく落ち着いたのはみんながヘトヘトになった夕方である。
全員肩で息をしていたり、転生前から持っている武器を杖代わりにして休んでいるほどだ。
まぁ俺は守られているだけだったので、アンノウンとの戦いはこんな感じなのかもしれないっと強く思う戦いを見せつけられた。
そして現在。
正気に戻った奥さんは砂浜で土下座してみんなに謝っている。
「はぁはぁはぁ……キツい」
「これ、ある意味ちゃんとした合宿になり過ぎてないか?」
「実戦訓練って感じになっちゃたけど」
他のみんなもかなり辛かったのか膝が震えている人も多い。
無事そうなのは途中参戦した先生達。ベテランなだけあって長期戦での戦い方に慣れているような印象を受ける。
「奥さん」
「柊ちゃん……本当にごめんね~。怖がらせるつもりはなかったのよ~!でも、つい嬉しい事言われちゃって、暴走しちゃって~!!」
泣きながら言うもんだから怒るに怒れない。
それになんだか情けない姿を見せているから見た目年齢よりも幼くなっている感じがする。
本気で反省しているようだから俺はため息をついてから奥さんに言う。
「俺もちょっと言い方が悪かったみたいなのでこちらこそすみません」
「何で敬語で話すの柊ちゃん!!もしかして嫌われちゃった!?それから柊ちゃんが謝る必要は全くないのよ」
「嫌ってない。さっきと言うか、暴走する前に言ったようにまた会えたのも嬉しいし、ありがたいと思ってるから。あ、でもさっきみたいな暴走はほどほどに頼む」
「うん!もう暴走しないから!!」
何か本当に軽い幼児退行してない?
いつもの大人な余裕ある雰囲気が全くしないのですが。
まぁ何はともあれ奥さんの暴走は無事終了。
みんな疲れた疲れた言いながら合宿所に戻る。
そして戦闘に一切参加しなかったコッペリアはいつの間にか俺の隣に来てからかう。
「どう。女の怖さを知った?」
「身にしみましたよ。つーかお前はどこに行ってたんだよ」
「少し離れてみんなの戦いっぷりを楽しませてもらってたわ。異世界の英雄と言うだけあってみんな強いじゃない」
「それって戦艦のアンノウンが出てきたときに見てたんじゃないのか?」
「残念だけど、あの戦いのときは私のステップが早過ぎてみんな追いつけないんだもの。ほとんど1人で倒しちゃったわ」
「そう聞くと本当にお前ら強いのな」
「ええ。それなのにあなたを守れなかった」
「昔の事はもう言いっこなしって事にしてくれ。俺の方が罪悪感で押しつぶされそうだ」
なんて言っているとコッペリアは俺の背中にくっ付いた。
背中に少し硬い感触、額でも俺の背中にくっ付けているのか、立ち止る。
「ごめん。でもこればっかりは本当にどうする事も出来ないの。人間で言うところのトラウマって奴ね。最強の悪役でもこればっかりは本当に、どうする事も出来ない。だからたまにはこうさせて」
意外だ。
本当に意外だ。
俺にしか聞こえないくらいの小さな声だが、みんな合宿所に戻っている人前でコッペリアが弱い所を見せるとは思ってなかった。
でも少しだけ訂正させないとな。
「好きにしろ。ベルの奴は何も言ってこないが、きっとお前や奥さんの方が正常だと思うぞ。本当に怖い目に遭ったから、忘れられなくなってるんだろ?そりゃ仕方ないって」
「またそういう事を言う。今いる私達だけじゃない。きっともうすぐ現れるみんなにも同じ事言うんでしょ」
「当然だろ。俺にとってお前らは全員大切な友達だ。同じように言うし、同じように大切にする」
「だからダメなのよ。マザーみたいに暴走する仲間、増え続けるわよ」
「責任はとる」
「本当に、ダメな人」
そうコッペリアは言うとさっきまでのしおらしさはどこに行ったのやら、いつもと変わらない感じで先に合宿所に戻っていく。
そして今度は疲れた様子の愛香さんが話しかけてくる。
「……本当に大切な方なんですね」
「それはまぁ、前世からの友達だからな。そっちには前世からの友達とかいないの?」
「いない訳ではありませんが、彼女はヨーロッパの方で生まれたのでエアメールか電話でしか話せなくて、まだ直接会った事がないんです。それでもまた同じ世界にいるというのは嬉しいのですが、彼女も忙しいみたいです」
「それってやっぱりアンノウン関係で?」
「はい。何でも天使型のアンノウンがいるとか。かなり手ごわい相手らしくて、何度も逃げられているそうです」
「あれ?でも警報装置でどこにいるのか分かるんじゃ?」
「たまにいるんですが警報装置を掻い潜るアンノウンもいるんです。ほら、前の淫魔型のアンノウンみたいに」
「それじゃかなり特殊なアンノウンって事か」
「はい。それにより最近は電話する暇もないみたいなんです。元々時差もあってあまり電話できてなかったんですけど」
「それは……寂しいな」
「はい。寂しいです。ですから柊君とコッペリアさん達みたいな関係は本当にうらやましいんです。前世からの友達がすぐそばにいるって」
確かに。
少しこの状況に慣れてきたが、普通に考えれば異常と言う方が正しい。
同じ世界に転生してきて、同じ場所にいるというのはかなりの確率だろう。
俺の場合はコッペリア達の方が俺の事を探して見つけ出した、の方が正しいみたいだがそれでも奇跡に近い確率なのは分かる。
「それでもあの告白みたいなことを寮母さんに言うのは驚きましたけどね。本当に友達なんですか?本当は恋人同士だったとか」
「ちょっ!?そんな事は無いって。当時はあいつらに余裕なんてなかったし、今も昔もみんなと恋人関係とか全く築いてないから!!」
「ふふ。なんとなく分かりますよ。柊君特別な誰かを作るの、下手ですよね」
「うぐ」
変な声が出た。
すると愛香さんはやっぱりそうだっという感じの納得と、どこか安心したような表情を見せる。
「そっか。まだ特別な人はいないんだ」
「ん?」
ぼそりと言った言葉が聞こえてきたが、意味までは分からない。
なので首をかしげながら聞くと愛香さんは言う。
「大した事じゃありませんよ。今日は疲れたのでご飯早く食べたいですね」
「確かに。今日の晩飯は何かな~」
「私、お刺身が食べたいです」
「海の近くだから食えるかもな。ただ……今日の暴れっぷりで魚逃げてないと良いけど」
「……そうですね」
俺の言葉にちょっと不安な表情を作った愛香さんの顔を見てつい笑ってしまった。
愛香さんはキョトンとしているが、俺は構わず笑い続けた。
――
その後は奥さんとの戦いで疲れ切ったみんなが晩飯を競うように食べ、自室に戻っていった。
全員疲れていたのであとは寝るだけなのだが……昼間の勝負の結果俺の両端には愛香さんとコッペリアの2人が寝ている。
流石に女の子2人に囲まれて寝るのはやっぱり緊張するな……
寝返りをうったりしている時にエロ漫画みたいに変な事にならないと良いけど。
それにどちらか一方に背を向けても落ち着かない。
運よく愛香さんは俺に背を向けているので今はそっちを向いているが……いつ寝返りをうつのか分からない。
結局天井を見て寝るしかないのだが、俺の腕には相変わらずベルがいるしな……
寝返りうちすぎてベルの眠りを妨げるような事はしたくない。
「……ねぇ柊君まだ起きてます?」
1人でゴロゴロしていると愛香さんから声をかけられた。
「はい。まだ起きてます」
「やっぱり落ち着きませんね。こうして隣で寝るのは」
「そうだな。俺も緊張しっぱなしで寝れん」
「実は初めてなんですよ。家族以外の男性と一緒に寝るの」
「多分それ普通。と言うか合宿とはいえ男女一緒なのがおかしい。コッペリアが仕掛けてきたとはいえ無理することなかっただろ」
「それは……やっぱり意地と言いますか、放っておいたらコッペリアさんが何をするのか分からなかったので。それに……きっと根本的な部分はコッペリアさんとあまり変わらないような気がします」
「変わらない?」
「ええ多分ですけど」
コッペリアと愛香さんの変わらないところなんて全く想像できない。
どこが同じなんだろうと考えていると、俺の手に何か触れた。
少し柔らかいが、所々硬い部分もある不思議なもの。確かめるようにあまり力を入れずに揉むように触っていると愛香さんが顔を真っ赤にしていた。
まさかこれって……
「その、ちょっとした好奇心と言いますか、どんな感じなのかな~っと思って手を伸ばしただけだったのですが」
「その、ごめん。分からなかったとはいえベタベタ触って」
「いえ、私が柊君に触れてみたくて手を伸ばしたんですから、柊君は悪くありません。でもその……」
慌てて手を放したが愛香さんは恐る恐るという感じで手を伸ばし、俺の小指を摘まんだ。
「これくらいは……許してもらえるでしょうか?」
「……好きにしてくれ」
どんな反応をすればいいのか全く分からず、愛香さんに丸投げした。
愛香さんは嬉しそうに俺の小指を摘まんでは放しを繰り返し、俺は多分顔を真っ赤にしながら耐えて、寝落ちするのを待った。




