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悪と呼ばれる存在を友達と呼んではダメですか?  作者: 七篠
この世界について
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慣れない学園の日常

 輪廻学園は将来的にアンノウンと戦うために偏差値が高い。そのため俺の場合授業についていくのでやっとである。そのうち行われるテストの結果は……あまり想像したくない。

 そしてこの輪廻学園は外から転校生が入ってくる事はあまりない。転生者である反応は赤ん坊の頃にすぐ検査で判明する事から物心ついた頃からこの町で住んでいる人の方が圧倒的に多い。

 転校してくるとしても小学校低学年ぐらいまでであり、それ以降転校生や転入生などが入ってくる事はまずない。

 まぁ高校だと普通の学校でも滅多にないと思うけど。


 そんな中、俺だけが高校に唯一他の中学からやってきた生徒として無駄に視線を集めた。

 事情を説明されているとは思えないが……その辺りは自分で説明するしかない。

 実際クラスメイトの連中は気の良い奴が多く、比較的早く学校に馴染めたのは良い方だろう。だが俺にほんのわずかに転生者の反応があるだけで、他の転生者と違う点を説明するのは面倒だった。


 そして授業内容はレベルが高く、特に体育がキツい。

 普通体育と言えば半分お遊びみたいなものでスポーツを少しするような物だろう。

 だが輪廻学園の体育はマジで戦闘訓練であり、キツい体力作りのトレーニングを行ってからそれぞれ自分が持っている武器やら魔法で戦い始める。

 俺はそんなもん持っていないので地味に体力トレーニングの続きをして時間を潰す。


 他の転生者達はアニメかマンガのバトルシーンを実演している様な感じで俺では目で追うだけでも大変だ。

 ある程度転んだり叩き付けられたりしてもいいように地面は砂が敷かれているが、こんな物で本当に衝撃を和らげることが出来ているのだろうか?

 俺の偏見であるが上手く受け身を取っているだけで砂なのは経費削減ではないかと思う。


 そして面倒な事に放課後は補習がある。

 何でもこの輪廻学園なら小学校から習っていて当然の、アンノウンに関する授業を俺は受けていないので放課後に受けなければならないらしい。

 なので俺の平日はほぼ自由なし。寮に帰ればすぐに飯を食って風呂入って寝るを繰り返している。

 土曜日は午前中だけ補修を受けてあとは自由。日曜日は丸1日自由だが基本的に疲れていて寝ている事が多い。

 クラスメイトからカラオケとか遊びに誘われるが、今はそんな余裕がないので断っている。

 リア充はこういう時断らずに遊びに行くのだから凄いもんだ。俺には到底できそうにない。


 そんな風に思ってから1カ月が過ぎた。


 ――


しゅう君?柊君生きてる~?」


 放課後、何故か俺の事を気にかけてくれている女子のクラスメイトが俺に声をかけてきた。

 俺は顔を上げながら彼女に言う。


愛香あいかさん。生きてますよ」


 姫野ひめの愛香さん。同じクラスの女子生徒で金髪碧眼の美少女。

 顔面偏差値が非常に高いこの学校でも特に美少女ランキングで上位に迫る美少女様。性格は明るく、接しやすいので人気がある。

 クラスの男子からこっそり教えてもらった話によると、愛香さんのファンクラブが中学時代からあるらしく、誰かが愛香さんとくっ付かないようにお互いに監視しているとか。


「クラスメイトなんだからさんとか敬語じゃなくていいのに。それより大丈夫?何だか辛そう」

「5時間目が体育だったからまだ少し疲れてるだけ。どうにか6時間目は寝ずに頑張ったが……補講は寝そう」

「補講は先生と2人っきりなんでしょ?それで寝てたら怒られちゃうよ」

「分かってんだけどさ~。どうしても疲れたって思っちまうんだよ。この学校の体育、マジで本格的」

「だって将来はアンノウンと戦うのは決まってるからね。みんなその準備期間として真面目にやってるから」


 そう愛香さんは何て事のない様に言った。

 この学校のアンノウンに関する授業を受けてから知った事だが、1人の転生者につき必ず1体のアンノウンが現れる。

 そのアンノウンは転生者にとって最大の敵と呼べるものばかりでかなり大型の魔物やモンスターと言われる存在が非常に多い。

 そんなアンノウン達に対して転生者達は必ず1人で倒していた訳ではない。仲間と共に戦ったり、戦争の様な感じでそのアンノウンと戦ってきたのだから当然他の転生者達にも協力を願う事になる。

 もしその作戦に参加する事になれば本当に自分が死んでしまうかも知れないから真剣に授業に取り組む。


 仮に転生者が自分と戦う予定のアンノウンが出現する前に敗れると、そのアンノウンを倒す事が非常に難しくなる。

 ただ単に強くて倒すのが難しいだけならともかく、その死んでしまった転生者の武器が必要となってしまうとそのアンノウンは二度と倒せない事になってしまう。

 そうならないように国で管理しているそうだが、何らかの事故や別の戦闘で自分のアンノウンと戦う前に亡くなってしまう人も居ない訳ではないのだ。


「……なぁ。下らない事を聞くかもしれないし、怒らせたらごめんなんだけどさ……」

「うん」

「戦いから逃げたいって思わないの?またその強敵と戦う事に怖いって思わないの?」


 俺は愛香さんに聞くと、教室が静まり返った。

 やっぱりこの質問は彼らを怒らせる内容だったのだろうか。

 仮に怒らせた場合俺は何も出来ずにただの暴力だけで死んでしまうだろう。

 それが嫌なので俺は慌てて謝罪した。


「やっぱりごめん!こんな事聞いて悪かった!空気読んでなかった!!」

「……ううん。そう思うのは自然な事だよ。そして確信した」

「確信?」

「うん。やっぱり柊君は普通の人なんだな~って。確信した」


 どういう意味だろうと俺は分からなくなるが、愛香さんは言う。


「あいつらと戦う事に怖くないって事はないよ。柊君が言うように逃げられるなら逃げたいって感情もある。でも逃げるわけにはいかないから逃げられないって感じの方が私は強いかな」

「逃げるわけにはいかない?」

「うん。だってあいつらは私達を狙ってくるんだもん。仮に私のアンノウンがやってきたとして、私が逃げちゃったら他の人達が死んじゃうかもしれないもん。それは嫌だから戦うしかないんだよ」

「で、でもいつその、アンノウンが現れるか分からないんだろ?そんなのゴールが見えないマラソンとかと同じじゃないの?」

「そうかも。私はいつ私のアンノウンが現れるのかビクビクしてる。私個人で対処できるぐらい弱い奴じゃないから」


 そんなヤバい奴に愛香さんは狙われているのか?

 そんなとんでもない奴にもう1度戦わないといけないのか?


「だから私はアンノウンの情報を先に纏めて提出してる。私に何かあってもいいようにね」


 その言葉に俺は……何と言葉をかければいいのか分からない。

 様々な事態を想定して動いている愛香さんに対し、同情する事も出来ないし、同感する事も出来ない。

 だから俺は口を動かすが、パクパクと動くだけで何と言えば良いのか分からない。

 それなのに愛香さんは何故か優し気に俺に言う。


「さっき確信したって言葉はね、柊君は本当に普通の人なんだって分かったって事。その質問は戦いに出た事のない人の言葉だから。きっと前世でも戦いに参加した事はないんだよね」

「それは……その……」

「そんなに申し訳ない様にしなくていいよ。私はね、ある小説の主人公の言葉が気に入らないんだ」

「主人公の言葉?」

「うん。『人はみんな戦える。戦う事を選ぶか選ばないかだけだ』ってセリフ。何で聞いたのか忘れちゃったけど、多分アニメの動画かな?そんな簡単に言えるなら英雄なんて生まれないよ」

「何でだ?別に間違っている事を言っている訳ではないと思うけど……」

「確かに間違ってはいない。でもね、戦えない人はやっぱりいるんだよ。身体に関する理由だったり、単に武器を持つのが怖い、何かを殺す事が怖い。そんな人がいるのは当然なんだよ、戦えない人がいるのは当然なんだよ。そして戦えない人達の代わりに戦うのが私達英雄と呼ばれる存在。私達は戦える存在だから」


 そう言われて俺が思ったのは何故と言う疑問だった。

 何故彼らは戦えない人のためにそこまで頑張れる?

 何故彼らはそこまでして戦う?

 何故そんな彼らを何度も戦わせる?


 彼らは悪人ではない。あえて言うのであれば人の不幸を放っておけないお人好しとでも表現するべきなのだろうか。

 そんないい人である彼らが先に戦いで傷付いたり、亡くなっていくのはおかしい。


 では俺に何が出来る?

 そんな彼らの代わりに武器を取れるのか、彼らの代わりにアンノウンを倒せるのか。

 きっと倒せない。

 でも彼らが先に傷付いてしまうのはどうしても気に入らない。

 俺は結局そんな戦える彼らに守られるしかないのか。


「これで分かってくれたかな?」

「……何となくだけど、分かった」

「よかった。それじゃまた明日ね」


 そう愛香さんが言うと時間がまた動き出したかのように他のクラスメイト達も帰宅し始めた。

 でも俺は思う。

 分かったけれど納得は出来ていないっと。

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