やっぱり美人の水着は良いよね
夏合宿2日目。
今日も男子生徒達に追いかけまわされている。
息切れを起こしながらどうにかやり遂げた午前中。疲れて飯も食い辛いが、食わなかったらマジでぶっ倒れそうな感じがしたので無理矢理にでも腹の中に食い物を入れていく。
「柊君本当に大丈夫?」
「まぁギリギリっというか、わざとギリギリのところを狙ってやってる感じだからどうにかなってる」
「全くもう。シュウは昨日風呂から帰ってきたらすぐに寝るから夜這いのし甲斐がなかったじゃない」
「え、マジで俺狙われてたの?」
マジで寝ていたのでそんなこと知らなかった。
そして同時に感じる男子生徒達が俺達の会話に聞き耳を立てている気配。
もうこの夏合宿で俺の存在は上級性にもしっかりと覚えられそうだ……
「当然じゃない。ぐっすり寝てるからこそ色々出来たとも言えるけど」
「え、マジで何されたの俺!?変な事してないよなコッペリア!!」
「大した事してないわよ。精々添い寝したり、浴衣からはだけた肌の所に手を突っ込んでまさぐってみたり、ディープキスしてみたり。そんなところね」
「いつの間にかファーストキス奪われてた!!」
せめて記憶がある状態でキスしてほしかったですよそれ!?
「大丈夫よ~。キスに関しては雫ちゃんと愛香ちゃんが阻止したから~。それに添い寝って言っても柊ちゃんがベルちゃんのこと抱きしめながら寝てから~、背中にしかくっつけなかったのよ~」
「あ、そりゃよかった。さすがに寝てる間にファーストキス卒業はちょっと悲しい」
「それならすぐにでもキスしましょうよ」
「自称淑女がキスキス言うな。それに大切にしたいからそういうのはそう気軽にしたくないって言っただろ」
「大切にするのはいいけれど、だからって全く手を出されないのも不満なんだけど。と言う訳で午後は私達と一緒に遊ぶわよ」
「遊ぶってどこで?」
「海に決まってるじゃない」
言われて見れば確かに。
せっかく島に来たのだから海で遊ばないというのは正直勿体ない。
まぁダイビングとか本格的なことは出来ないが海に来るなんてかなり久しぶりだし、いいかもしれない。
「確かに良いな」
「でしょ。それにこの日のために水着だって買ってきたのよ」
このコッペリアの言葉にそれなりの男子が反応した。
でも俺はどちらかと言うと不安の方が大きい。
「お前大丈夫なのかよ?その、泳げるのか?」
「泳げるわよ?防水加工はしているし、いざとなったら水中用装備を動かせばいいし」
まぁ問題ないのであれば別にいいが……本当に後で錆びたりしないよな?
「それならその、私も参加します。コッペリアさんが何するか分からないので」
恐る恐るという感じで愛香さんも手をあげた。
何でそんな感じで手を上げるのだろうと思っていると、めっちゃ多くの男子達が反応した。
あ~、これが嫌だったのかな?
「愛香さん大丈夫?無理してない?」
「水泳の授業とかもあるので水着になる事は抵抗ないんですが……その、視線が集まるのは慣れません」
「そりゃ慣れませんよね」
「ちなみに私も一緒に居るわよ~。一応水着も持ってきたけど、誰かがおぼれたりしないように見守ってあげないとね~」
その言葉にほとんどの男子が奥さんに視線を向けた。
男子達の視線はもちろんバカデカい胸。あの爆乳の水着姿を拝みたいと思うのは男子としては自然かもしれない。
「あの一応ですけどマザーさんは水着の上から服を着た方がよいのではないでしょうか」
「あらどうして~?水着の方がすぐに動けると思うのだけど~?」
「いや、その。男性の視線は気にならないんですか?」
「ん~。これはもう仕方がないと諦めちゃってるから~。それに年頃の男の子としては健全な反応って言ってもいいかもしれないから~」
「それでもやっぱり……恥ずかしくはないんですか?」
「ちょっと恥ずかしいけど~、女として見られる嬉しさも少しはあるから~。ほら~こんな若い子達にそういう目で見られるのももうお終いだと思うから~」
「そういう物なんでしょうか?」
「あくまでも私はだけどね~。雫ちゃんは無理しなくていいのよ~?」
「……いえ、私も風紀を守るために参加しようと思っていましたので、無理と言うほどではありませんから」
その声にどこからか拍手……いや、ハイタッチする音?が聞こえてくる。
まぁ元巫女として肌を見せるのが得意じゃないみたいだし、本当に無理しちゃいかんよ。
「そっか。それじゃ飯食った後海で筋トレでも――」
「つまんないからそれは無し。一緒に遊ぶわよ」
「でもコッペリア。俺力ないからちょっとでも鍛えておくべきだろ?逃げ足くらいは自信付けたい」
「今日はダメ。せっかく海で遊ぶ機会が出来たのだから遊ばないと青春じゃないんでしょ?あなたが遊ばないなら水着は無しね」
コッペリアの発言に男子達が驚き、俺に海行くよな?な??っという強い意志を感じる。
まぁ正直に言えば俺も海で遊びたいし、あまり深く考えなくてもいいか。
「分かった分かった。ちょっと真面目になり過ぎてたからちょうどいいかもしれねぇ。それに筋肉痛だから程よく疲れを抜かないといけないだろうしな」
「それでいいのよ。アイカ。どっちがシュウを魅了出来るか勝負ね。勝った方が今夜シュウの隣に寝れる権利を得るって事で」
「ちょっと本気出します」
なんかコッペリアに焚き付けられてる……
その様子を見て俺は何やってんだと思い、寮母先輩はため息をつき、奥さんは「あらあら~」っと手を頬に当てていた。
――
で、学校しての水着を着て浜辺に来た俺。
コッペリア達は水着を楽しみにして待ってろと言われてパラソルやらブルーシートやらを準備しながら待つ。
と言うかこのパラソルどっから持ってきたん?絶対荷物に入ってなかったよね?
そう思いながらパラソルを砂に突き刺して、ブルーシートも飛ばないように端っこに杭を打ち込んで飛ばないように努力する。
やっぱ靴を端っこに置いておいた方がよかったかな……
それにしても周りの男子達がめっちゃそわそわしてる。
まぁ学校のアイドルが一堂に水着になるのだから期待しない方がおかしいのかもしれないが、そわそわしすぎじゃないか?
「シュウ。来たわよ」
「おう。やっと来たか」
コッペリアの声に気が付いて振り返ると、確かにそこには絶景が広がっていた。
コッペリアの水着はスレンダーを生かした競技用の水着のようで上下がくっついている水着だ。足の長さと白い肌が紺色の一見地味な色合いでありながらコッペリアの素材の良さを引き出している。
愛香さんの水着はフリルのついたビキニタイプで、花柄で華やかさもある。全体的に可愛らしい感じで華麗さが際立っている。
寮母先輩はやはり人の目が気になるのか体を隠すようにしている。タンキニと言うタイプの水着で他みんなよりも露出は抑えられているが、健康的な美がある。
で、最後に奥さんなのだが……発育の暴力とでもいうべきか。来ているのは普通の水色のビキニなのだが……胸や尻の発育が凄すぎてどうしても胸や尻に視線が行ってしまう。コッペリアとは真逆の女性らしさ全開のとんでもボディーだった。
「奥さん……もう少し露出抑える水着なかったんですか」
「あら~?これが普通の水着だと思ったんだけど~、どこか変かしら~?」
「変ではないけど……スタイルが良すぎるって言うのも困りもんだな。ほらこれ、俺のTシャツだけど海に入らない間は着ておいた方が良い」
「あらあら~。柊ちゃんは紳士ね~。ありがとう」
一部の男子から何故そんな素晴らしい物を隠すんだと、無言の圧力を感じるがあれは俺の目にも色々と毒だ。
「シュウもムッツリよね~。見たいなら堂々と見ればいいでしょ」
「見たくないから隠してもらってんだよ。俺にだって羞恥心はある」
「でも人間の男としては真っ当な反応じゃない。私の趣味ではないけど」
「そうだとしても昔の知り合いをそう言う目だけで見るのは罪悪感があるんだよ。お前に告られてすぐに返事出せないチキン野郎なんだよ」
「確かに臆病者ね。でも大切にしたいという感情も嘘じゃないみたいだから待ってあげてるの」
「コッペリアの寛大なお心に感謝を」
わざとらしく言うと何人かの男子生徒が膝をついているのが見えた。
おそらくコッペリアに本気だった連中だろう。
少し気の毒な事をしてしまったが、まだ告白を受け取ってもいない先延ばし状態である事にまだ希望があると思ってもらいたい。
「…………で、他に言葉は」
「その水着よく似合ってる。意外と地味な色の奴にしたんだな」
「その方が私の美しさを際立たせる事が出来るから当然でしょ」
水着の感想を言うとコッペリアは自信満々に言いながらも嬉しそうな表情もする。
そしてコッペリアは無理やり愛香さんを俺の前に押し出した。
「ちょっとコッペリアさん!?」
「シュウの隣で寝れる勝負をしているんだから私だけ評価してもらうのは不公平じゃない。柊はアイカの水着どう思う」
「えっと、よく似合ってると思う。かわいい系なんだな」
「う、うう~」
愛香さんは顔を真っ赤にしながら唸る。
他に感想を言う余裕はないのでこれで勘弁いただけると助かります。
「それで、どっちが勝ち」
「え~っと、甲乙つけ難いので2人が両端……と言うのはどうでしょう?」
肝心なところで逃げてしまった俺だが、コッペリアは俺と愛香さんの表情を見てからため息をついた。
「仕方ないわね……できればはっきりとどっちがいいか答えてほしいのだけど」
「んな事言われてもよ……ぶっちゃけ失礼じゃない?」
「失礼じゃない。この日本じゃ結婚できるのは1人だけなんでしょ。それなら奪い合って当然じゃない。1番を決めないといけないときは必ず来るのよ」
「そうだとしてもまだ学生の俺はそこまで考えたことないって。と言うかそこまで先の事を考えてる学生いるの?」
「意外といるわよ。私と仲の良い女子生徒はその辺の事よく話してるし」
「あ~。お前の友達、肉食系が多そうだもんな……」
「恋に全力で挑む事は悪い事ではないと私は思うわ。それじゃ海を楽しまないと」
「柊さん。一緒に遊びましょうか」
「まぁそうだな。奥さんと寮母先輩はどうします?」
「私は少し様子を見てから行くわ~」
「私も半分は寮母さんの手伝いなので他の先生達が来てから遊びます」
「分かりました。それじゃちょっとだけ先に遊んでますね」
こうして俺は初めて夏らしい事が始まるのだった。




