モテる秘訣?
さて、ジャージに着替えて体力作りいつもよりちょっとハードバージョンをやろうと思って合宿所を出ると、そこには怖い顔をした同級生から最上級生までが武器を構えて入り口前で集まっている。
剣を肩でトントンしていたり、杖の先端が光っていたり、ごっついバイクに跨っていたりと様々な様子で俺の事を待ち受けていた。
「えっと……これは……」
そしてその中に見慣れない、明らかに上級性だと思う男子生徒が俺の肩を組みながら話しかけてきた。
「やあ、新入り君。最近天音さんや姫野さんと仲がいいじゃないか。しかも最近転入してきた子や、新しい寮母さんとまで仲がいいとか」
「いや、それは……」
「しかも恋人噂が出るくらい親しくてこの合宿中も彼女達と同じ部屋だとか。いや~どうやってあのガードの硬い2人を口説いたのかぜひご教授願いたい」
「…………」
「もちろんただで教えてもらうだなんて一切思ってないさ。聞く限り君には特別な能力も、特別な身体能力を持っている訳でもないから体力作りをしていざって時に逃げれるよう頑張っているとか。それじゃその体力作り、俺達にも協力させてくれよ」
これは絶対協力ではない。
何の力もないモブキャラが可愛い女子生徒達にモテてるのが気に入らないだけだ。
ダラダラと冷や汗が流れ始め、俺は――逃げ出した。
「追うぞてめぇら!!あいつの体力を限界まで上げてやれ!!」
「「「「「おう!!」」」」」
俺の後ろの方でパンパンと乾いた音がする。
逃げながら振り向いてみると明らかない発砲した後の構えをした生徒がいた。
このままじゃ本当に撃たれる!!
そう思いながら俺は必死に逃げるのだった。
――
「いででで。絶対明日筋肉痛確定だわ……」
「情けねぇな~。このくらいで音を上げるとは。そんなんじゃ戦場から逃げきる事すら難しいぞ。マジで」
「ついこの間までただの一般学生やってた奴にはスパルタすぎますよ。と言うか今もただの一般学生と変わらないんですからね」
夕食後の風呂の時間。
散々追い掛け回された先輩達と一緒に風呂に入っていた。
愛香さん達と一緒に居る恨みはあったが、それでも俺の体力作りに関しては真っ当に相手してくれたのでいつもより頑張って走ったくらいで大きな怪我などは一切ない。
水分補給はしっかりしていたし、休憩するときもしっかりと休憩した。
いつもよりペースが厳しいくらいか?
「分かってるって。だから武器で脅すときは上に向かってぶっ放してただろ」
「それは分かってますが……それでも発砲する音とかが聞こえるとやっぱりビビりますって」
「そのビビるのに慣れさせるのも目的だからな。今日お前を追いかけまわして分かったが、本当にお前は普通の人間だ。だから無理に武器を取らずに逃げるって言うのは当然の選択だし、ある意味賢い選択だ。だが戦場を知らないから少しでも戦場に近い状態で走らせる方が良い。今言ったみたいにビビっている間に逃げ遅れたり、気になって撃たれたら終わりだからな」
「うぐ。はい……」
「だからお前を追い立てるために後ろで剣戟をやったのも、お前に当たらない程度に銃を乱射したのも戦場の雰囲気を感じてもらうためだ」
「出来ればどっちもあってほしくないな……」
「まぁお前は戦えないから戦場に出る事はないだろうがな!」
そう言って大笑いする先輩。
話は終わったし、風呂でゆっくり疲れを取りながら筋肉痛が少しでもマシになる様にもんでいると、先輩はじっと俺の事を見る。
「あの、まだ何か?」
「いや普通に気になったんだが……どうやって天音と愛香を口説いたんだ?」
「口説いてませんって。そんな根性ありません」
「やっぱり草食系の方がモテるのか?」
「分かりませんよ。まぁ女の子に怖がられないようには気を付けているつもりですが」
口説いた覚えもないのにどうやってと言われても困る。
前世では既婚者だったりハーレム築いていた奴もいたのだから、モテたいのであればそいつらに話を聞けばいいと思う。
しかし恋愛話と言う奴は男女関係なく人気がある訳で、聞き耳を立てていた他の男子生徒達も集まってくる。
「怖がられないようにって具体的には?」
「具体的って言うと……分かりやすく下心を見せないとか?」
「何で疑問形なんだよ」
「だって俺今のところ年齢=彼女いない歴ですよ。アドバイスを求められても困りますって」
「でもあのガードの硬いトップ2、天音と愛香があそこまで男の近くにいるのはかなり珍しいぞ。まぁそれはあいつらの前世にも関係している事だが……」
「また前世ですか。それ俺聞いてもいいんですか?結構プライベートな事だと思うんですけど」
「俺達が知っている事は報告書にも載ってることだ。少し調べれば分かる。だから教えたっていいんだよ。あの2人はな、巫女と聖女だったんだよ」
巫女と聖女。
まぁ単語としては普通にこの世界でも存在するものなので少しは分かるが……
「何で巫女さんと聖女様だからって男が苦手になるんですか?」
「正確に言うと前世の頃は男に近付くことそのものが危険だったって言うべきか?前世ではあの2人は処女じゃないと力が発揮できないとかなんとか」
「マジでそんな制約あるんですね。普通に一緒に居たので知りませんでした」
「あるんだよ世界によってはな。男でも普通にいるぞ、童貞じゃないと力が発揮できない聖人タイプの英雄。まぁ力を得る代わりに何かしらの制限がかけられるって言うのは意外とありふれた話だ。それこそ神仏との契約、もしくはそれに近い天使や聖獣との契約、あとは精霊や妖精の類か」
「処女や童貞が好きなのは変態だけじゃないんですね~」
「なんだその言い方。俺だって処女は好きだぞ。お前は違うのか?」
「まぁ童貞と言う立場から、同じ恋愛経験0って言うのは一種の安心感がありますね。男慣れしてなければ詐欺みたいな事してこなさそうで」
「そういう見方かよ。つまんねぇな~」
そう言いながら頭の後ろで手を組む先輩。
でも忠告するように言う。
「いいか。力を得るって言っても方法は様々だ。さっき言った契約もそうだし、今おまえがやっているように体力作りも立派な力を得る方法の1つだ。だが、それだけでアンノウンと真っ当に戦えると思うか?」
「全然思えませんね」
「だからこそもっともっとと言い出して色んな事に手を出す。さらに強力な神や精霊と契約しようとしたり、科学の力でさらに強力な武器やパワードスーツを生み出す。後者のは戦隊モノや仮面ラ〇ダーの強化パーツみたいな感じだな。どちらも共通している事はどんな力もただで手に入る訳ではないって事だ。新しい素材とか、時間とかを使って強化する事が出来る。契約系ならさらに条件を増やす代わりにより強力な力を得るって感じだ」
「……なるほど」
様々な創作物でいろんなパワーアップを見てきたが、確かにそう口にされるとただで手に入った力はそう多くない。
修行と言っても時間を消費する。
強化パーツで強くなるためには素材が必要。
契約には自身の制限か。
あれ?でも寮母先輩や愛香さんが処女じゃないと力が出ないって事は……
「つまり寮母先輩と愛香さんに手を出したらアンノウンと戦う力を失うって事ですよね?なのに何で皆さんお2人を狙ってるんです?」
「え?だって美人じゃん。性格もいいし家事も出来る。最近そういう女の子めっちゃ減ってるじゃん」
「いやでもエロいことできないんですよね?だとしたら付き合う事が出来ても皆さんが望んでいるようなエロいことは出来ないんじゃ?」
当然の疑問を口にすると先輩達は難しい顔をする。
何か間違った事を言っただろうかと思っていると先輩は言う。
「普通に考えればお前の考え方が正しいんだが……何故かそう言う事は起きてない」
「何でです?言ってしまえば寮母先輩と愛香さんが強い理由は処女である事、契約条件を満たし続ける必要があるって事でいいんですよね?それじゃその条件を破ってしまった場合は力を失うって解釈で合っていますよね?」
「それが……何故か本当に起きてないんだ」
「どういうことですか?」
「前に天音と愛香みたいに巫女や聖女みたいな感じのOGがいたんだが、その人が結婚して子供を産んだ後も何故か力は使う事が出来たんだよ……」
「え。それ本当にその人の子供なんですか?こう言ってはキツいですけど、養子とかじゃ……」
「でも実際に子供は病院で生まれたし、同伴した医者や看護師たちも生まれる瞬間を見ている。なのに力は消える事がなかったんだよ。しかも全員だ」
「全員ってまさか……」
「童貞を貫かないといけない奴も、処女じゃないといけない女性も全員子供作っても力が消える事がなかった。研究者の見解では契約は満了したがその報酬として力は残っているって説と、ただ単に力を与えた存在が気が付いていないって説のどっちかだな。まぁ契約として残っている以上後者は考えにくいが……」
「それじゃ2人とも普通に結婚して子供作っても今後戦力が減る事はないと」
「今のところそうだな。だからお前が考えているようなエロいことをして戦力が減るって状態にはなっていない。と言ってもその辺の意識が強いから元巫女や聖女だけを集めた転生者限定の女子高もあるらしいがな」
聞けば聞くほど不思議な感じだ。
つまり転生前の契約が続行されているわけではない可能性も考えなければならないのかもしれない。
だとしたらそのエネルギーはいったいどこから供給されているんだ?
全く分からないまま唸っていると、先輩が言う。
「で、話は戻るんだが、どうやってあの2人を口説いたんだ?」
「だから口説いてませんって!!」
風呂場で俺が誰を狙っているのか根掘り葉掘り聞かれた。
本当に今はそういう彼女とかの事を考えている暇はないと伝えると、つまらなそうな反応で返されるのだった。




