肩身が狭い
島を降り立った俺達は港近くの合宿所に向かって歩く。
距離は大体歩いて10分くらいの所なのであまり遠くなくてよかった。
潮風が当たって少しは涼しく感じるが、それでも8月になるとかなり暑い。少しでも早く涼しい部屋に行きたいものだ。
「日本の夏は暑いと聞いていたけど、これは少し厳しいわね……」
「毎年そうですが熱中症にだけは気を付けてください。十分なスポーツ飲料を用意していますので遠慮してはいけませんよ」
「雫ちゃ~ん。やっぱり氷枕とか用意した方がよかったかしら~?」
「…………視線が痛い」
「あはは……他の男子達の視線がちょっと怖いね」
隣にいる愛香さんが俺が小さくなっているのを見て同情してくれた。
実はこの合宿、大きな落とし穴が1つだけあった。
それは必ず5人1組でチームを組まないといけないというルール。
何で?っと聞かれるとこれは合宿であり、もし1人だけで行動して問題を起こしてはいけないし、危険な事をしないようにするための措置だ。
まぁこれに関しては学校行事だから、という感じで納得できる。
ただ問題は男子だけ、女子だけでチームを組まないといけない、みたいなルールは存在しない事だ。
ほぼ自主練習みたいなものと言われてはいるが、最低限のルールはあるだろうと思っていたのだがこの辺のルールは一切なし。
異性どころか学年が違くても別に構わないというオープンっぷりだ。
それでも俺は男子同士でつるむ方が楽だろうな~っと思っていたのだが、これに対してコッペリアとコッペリアの友達が先制。クラスの男子を遠ざけ俺とコッペリアがチームを組めるように動いていたのだ。
そしてコッペリアが俺と組むと知って愛香さんがなぜか仲のいい女子チームから脱退、俺の所に来る。
他の男子に助けを求めようとしたが、美少女に挟まられてる男として見られた俺は他の男子達から冷たい視線を送られながらチームを組んでもらえなかったのである。
結果チームは3人しか組めず、合宿どうしようと考えていた時に寮母先輩と奥さんがチームにってしまった。
奥さんは先生枠じゃないの?っと思っていたが、こういう微妙に人数が合わない時の数合わせ的な感じで生徒達のチームに入る事はよくあるそうだ。
なので俺以外全員美人さんで、クラス1の美少女、幼馴染?、頼りなる先輩、美人な寮母さんのハーレム状態になってしまった。
成り行きではあるが奥さんの事をターゲットしていたスケベ男子からこの情報が流出。
クラス内だけではなく学年、もしかしたら学校全体の男子達から妬ましい視線を向けられているかもしれない状況になってしまったのだった。
「何で……何でこうなった!」
「あらシュウ。まさかと思うけど私と一緒に居るのが嫌、なんて言わないわよね」
「コッペリアさんが無理やりチームに入れたのが原因じゃないですか。それがなければ男子とチームが組めたかもしれないに」
「そういうあなただってすぐにシュウのチームに入ってきたじゃない」
「だってあなたが柊君の事をその、エッチな目的でチームを組んだとしか思えないもの!」
「当然じゃない。それ込みでチームを組んでもいいでしょ」
「な!?」
「こういう青春時代?に好きな人と結ばれる。そのための努力は当然だと私は思うけれど?実際シュウは意外とモテるみたいだから私の物だって主張しておかないと」
「モテるって絶対今みたいな状況で勘違いされてるだけだろ。今じゃ奥さんもプラスされてるし」
「あらあら~。そんな風に思わせちゃってたのね~。私もちょっと本気出しちゃおうかしら」
「マザーさんいけませ!!教師と生徒でその、禁断の愛はいけません!!」
「コッペリアさん!!柊君の事をそんな目で見ちゃダメですってば!!」
ああ、はたから見れば面白い物なんだろうが、なぜかその中心人物になっている俺にとっては腹が痛くなる状況だ。
もう既に他の男子だけで組んだチームとかから凄い目で見られてるしな……
今にも武器を取って俺の事を殺しかねないくらいの視線を送ってくる……
「ああ。普通に男友達も欲しい」
そんな言葉がぽろっと出てしまったが、周りの女子と女性の話し声によりあっさりと消えてしまうのである。
――
「お。意外といい部屋じゃん」
騒がしい感じで俺達は合宿所に到着し、そのまま俺達の部屋に来たのだが、思っていた以上に良い部屋だったことに驚いた。
普通よりちょっといい感じの和室という感じでテレビあり、エアコンあり、Wi-Fiありの十分くつろげる。
それに一応の配慮なのか部屋に風呂もちゃんとあった。
温泉があるらしいからそっちはいるつもりだけど。
5人泊まるのに十分な広さがあるし、何なら8人くらい泊まる事を想定しているのではないかと言うくらい広い。
これなら十分荷物を置いて合宿を楽しむ事が出来る。
「こんないい部屋が合宿で使えるってマジか。もっとボロボロのイメージだったわ」
「普段は普通の宿として使用されていますから。この辺りの海は綺麗で夏の間はダイバーさん達が泊まりに来ることも少なくないとか。まぁ1週間だけ私達が使わせていただきますけどね」
「へ~。そうだったんですね」
俺の疑問に寮母先輩が答えてくれた。
それにこれだけ広いのであればこの部屋の中でも男女に分かれる事が出来るかもしれない。
そう思いながら俺は言う。
「俺の布団敷くときは荷物の近くでいいか?」
「いいけど何でです?」
寮母先輩が聞いてくるので答える。
「だって端っこの方なら男女別に出来るかもしれないじゃん。こう、いい感じにふすま閉めれば部屋2つ分になりそうかな?って思って」
「ちょっと。シュウはみんなの真ん中で寝る事をこっちで予定してたんだけど」
「え!」
俺以上に驚いたのが寮母先輩だ。
元々男女一緒と言うのにある程度認めてはいるが、みんなの真ん中で寝るとは思っていなかったんだろう。
それは俺も同じだし、せめて俺は端っこで寝る予定だった。
それなのにコッペリアがあっさりとその予定を壊すような事を言う。
これ他の男子にバレたらマジで殺すつもりで追いかけまわされそうだな……
「そ、そそそ、そんなのダメです!!」
「どうして?良いじゃないシズク」
「この学校は不純異性交遊禁止です!!確かに男女一緒でも問題はありませんが、それでもある程度の節度と言う物がありまして!!」
「雫ちゃんも恥ずかしいのよね~。大丈夫、私とコッペリアちゃんが間に入るから恥ずかしくないわよ~」
「知り合い2人に挟まれるとかいろんな意味で危険感じるんですけど」
「コッペリアさんだけは柊君の隣で寝ちゃダメです!!絶対その、柊君の事を襲う気がする!!」
「そのつもりがなかったら隣で寝るなんて言うわけないじゃない」
「認めた!!認めましたよ寮母先輩!!」
「レッドカードです!!コッペリアさんは柊さんの隣で寝ちゃダメです!!不純異性交遊に発展する可能性はいけません!!」
「嫌よ。そういう目的でチームを組んだんだから。ね、シュウ」
「俺に同意を求めるな。俺は元々そういうつもりでチームを組んだ覚えはない」
「あら?私があなたの事を惚れさせるって言ったの忘れたの?ならこういう機会をちゃんと使ってもっと親密にならないと」
「惚れてる云々だったらとっくに惚れてるからお前の勝ちでいいよ。でも大切だからそう性欲任せで抱いてたまるか」
「え」
俺の言葉に何故かこぼれた感じで言う愛香さん。
そんなに驚かせるような事を言っただろうか?
なんて思っているとコッペリアの顔がほんのりと赤くなっている。
「あら。そういうところは素直に言うのね。不意打ちで驚いたわ」
「惚れてなかったら友達として一緒に居ないっての。そうじゃなかったらとっくに逃げ出してるって」
「……やっぱり訂正。今夜確実に仕留める」
「シュウちゃん。今のはあんまりよ~。コッペリアちゃんの事も考えなくちゃダメね~」
「でも奥さん。俺今彼女作る余裕とかないって。体力作りと勉強で忙しいし、夏休み終わったらようやくバイトする時間作れそうなんだから」
そう。ようやく補習期間が終わりバイトする暇が出来そうなのだ。
流石に平日は長時間働くことは出来ないだろうが、少しでも金を稼いで好きに使える金が欲しい。
「それでもね~」
「バイトしてデート資金を稼いでるとでも勝手に思ってろ。まぁしばらく彼女とか要らないって考えは消えないと思うけど」
「さっきの話と矛盾してるけど」
「実際付き合ってるわけでも何でもないんだから、別にいいだろ?それから最低でも今夜は女性陣と離れて寝るからな。そっちだって男と一緒に寝るの嫌だろ」
「私は全然」
「私もシュウちゃんなら構わないわよ~」
「あの……さすがに私は緊張するので助かります」
「……惚れてる……」
なんか愛香さんだけぼ~っとしているがまぁ問題ないだろう。
とりあえず今夜は安心して眠れそうだ。




