表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪と呼ばれる存在を友達と呼んではダメですか?  作者: 七篠
【愛欲】の母神
15/80

友達が就職してきた

 しばらく時間が経って熱くなってきた今日この頃。

 あと少しで夏休みだーっと普通なら言いたいところだが、いつアンノウンが出てくるのか分からないためこの学校では夏休みと言っても学校に待機している人の方が多い。

 俺みたいなただの一般人同然の生徒は1人もおらず、実家に帰るとしても長くて1週間、短い生徒だと1泊2日で終わりらしい。

 そのため面倒だと思う生徒は電話で済ませてしまうとか。


「それで柊君は夏休みどうするんですか?」

「帰るよ。うちの母親心配性だし、必ず帰って来いって言われてるから」

「ねぇそれ付いて行っちゃダメ?」

「やめとけ。母ちゃんすぐ勘違いするから」


 俺がコッペリアを連れて行ったら彼女が出来たと絶対勘違いされる。

 愛香さんはコッペリアの言葉に反応してむっとした表情になる。

 3人で寮に帰宅している途中、寮母先輩がまじめな表情をしながら何かを見ながら歩いていた。


「寮母先輩こんにちわ」

「あ、柊君たちこんにちわ」

「難しい顔をしてどうしたんですか?」

「いえ、寮の事で少し話が出まして、私もちょっと呼び出されてしまったんです」

「まさか誰か何かしました?」


 寮母先輩はこの寮の事をいろいろ管理してくれている。

 でも本来は学校が雇った寮母さんが管理するのだが、現在その寮母さんを募集中のため寮母先輩が代わりにやっている状況だ。

 そのためぱっと思いつくのは寮に住む誰かが何かやらかしたのではないかという事。

 コッペリアもいつの間にか俺の部屋に忍び込み、愛香さんが無理やり連れだそうとしている光景に何度も出会った。

 そういった問題の対処もしているためなんだかんだで忙しい立場にいる。


「いえ、そういう事ではなく新しい寮母さんがやってきたので、その方の働きをサポートしてほしいとの話がありましたので、新しい寮母さんとこれから会うんです」

「夏休みに入る直前にですか?」

「ええ。本当は4月ごろから入ってもらっていたのですが、今回は時間がかかってしまったので夏休み前になってしまったんです。しかも夏休みは生徒の皆さんが寮にいるので特に忙しい時期なんです」

「あ~、休む時間も長いですからね」

「はい。ですからその間私がいろいろサポートしてくれないかと学校側に頼まれたわけです」

「それ断れないの?あなただって学生なんだから遊びたい時期じゃないの?」


 コッペリアは誰に対してもため口なのが困る。

 さすがに先輩くらいには敬語で話したらと言っているのだがまったく気にしない。

 寮母先輩は気にしていないからいいが、そのあたり気にする先輩だったら大変なことになる。

 だって俺以外全員英雄で身体能力もすごいし、そのため喧嘩を止める風紀委員は必ず英雄の中でも特に戦闘に特化した人たちしかなれないとの噂があるくらいだ。


「今のところあまりないですね。代わりに夏合宿があるのでそこで遊ぼうかと」

「夏合宿?」

「学生の戦闘強化が目的の合宿です。と言ってもそれは名ばかりで遊ぶ時間の方が多いので生徒達にとって夏休みと言ったら合宿先で海を楽しむのが普通ですね」

「へ~そうなんだ。それって俺も参加出来ますか?」

「生徒なら誰でも参加できますよ」


 それもそうか。

 ついでに申請ってどうやるんだろ?


「柊君も夏合宿行くの?」

「うん今決めた。俺も海行きたい」


 海なんて子供の頃、小学校低学年くらいじゃないか?

 それ以降は海よりも近くのプールの方が多かったと思うし。

 だがコッペリアは少し不満そうに言う。


「だとしたらこの間の海はいったい何だったのかしら」

「それはっきり言って仕事じゃん。遊びに行ったわけじゃないじゃん」

「船の中にいろいろあったけど、遊べるものはアナログゲームしかなかったからね」

「夏合宿に行くには申請が必要です。いつも通りならそろそろプリントが配られると思いますよ。寮母さんにはそのお手伝いもしてもらうので忙しいんですよ」

「それで夏休みぎりぎりのこのタイミングで来る寮母さんのサポートを寮母先輩がすると」

「そうです。これから会うので皆さんもお会いしますか?」

「興味あるから行きます」


 こうして寮母先輩と共に新しい寮母さんの事を見に行った。

 いったいどんな人なんだろうと思いながら寮母室に向かう。

 しかし妙なことに寮母室に向かうにつれてコッペリアが何か違和感を感じているように見える。


「どうした?」

「いえ、なんというか……知っている気配がしたものだから」

「知ってる気配?まさかまた誰か来たのか」

「おそらく。そして寮母になれるとすると……絶対に彼女ね」

「あ、あの人か……苦手なんだよな~」


 でも会ってみないと本当にあの人なのかどうか分からない。

 俺とコッペリアの話を聞いていた寮母先輩と愛香さんは首をかしげていたが、聞かれる前に寮母室に到着した。


「失礼します」

「はぁ~い。どうぞ~」


 寮母先輩がノックをして返ってきた声はおっとりとした女性の声。

 この話し方と声に覚えがあるな~っと思っていると寮母室が開いた。


 その女性は優しそうな顔におっとりとした目元、柔和という表現がとてもよく似合う穏やかな雰囲気。髪は仕事をしやすくするためか短めに整えられ、化粧はしているがあまり濃くないメイクを心がけているように見える。

 そんな優しそうな顔とは別にもっとわかりやすい特徴がある。

 とにかく色々デカい。

 2メートルを超える身長に胸や尻と言った女性らしさが大爆発している。

 服の上から来たエプロンが胸の大きさのせいでのれんのように垂れている。


「あら~雫ちゃん。それに……あら、あらあらあら!懐かしい子がいるわね~。久しぶりね坊やちゃん!!」

「あ~うん。久しぶり、奥さん」

「そんな風に呼ばれると寂しいわ~。前みたいに~レディ~、もしくはマザーって呼んでほしいわね~」


 レディ・マザー、俺の前世に出会った友達の1人。

 つまりこの虫も殺せなそうなおっとりした女性が人類の敵である。

 とにかく人を子供扱いし、爺さんだろうがおっさんだろうが赤ん坊だろうが全員私の子供っというよく分からない価値観を持っている。

 詳しくは聞けなかったが子供たちが独り立ちしようとしたときに、泣いて止めようとして人類の敵認定されてしまったとか。

 なんでそんなことで人類の敵認定されたのかさっぱり分からない。


 それで俺が出会ったときに改めて名前を奇妙と思ったときに神話の女神とかの名前はどうかと言ったが、女神系の名前は嫌だと。

 なので苦肉の策で思いついたのがレディ・マザー。

 そんなにお母さんしたいならそれを名前にしてしまえと適当に作ったら気に入られた。

 それでも奥さんの方が言いやすいから奥さんと呼んでいるが。


 そんなことを思い出しながらため息をついていると、思いっきり抱きしめられた。

 奥さんの胸はマジでデカいの顔が埋もれる。

 やわらかいとか気持ちいいと思う前にあ、これ窒息死するわ。と思うくらいの大爆乳である。


「む~!!」

「も~そんなに暴れちゃだめよ~。久しぶりの、ぎゅ~」

「む、む~!!」

「しゅ、柊君!?」

「レディさんそこまで!その辺りで止めないと柊さんが死んじゃいます!!」

「え~……もう少しいいじゃな~い」

「いいからその下品な胸から解放してあげなさい。今度はあなたが殺すことになるわよ」

「それは嫌ね~」


 ようやく放されたと思うと俺は思いっきり深呼吸をした。

 ま、マジで息が出来なかった……息が吸えるって本当に素晴らしい!!


「あら?」


 ぜーぜー言っているとまるで小さな子供を持ち上げるようにあっさりと持ち上げられた。

 持ち上げられた俺の顔のすぐ隣には奥さんの顔がある。

 つまり抱っこの状態にされてしまった。


「それじゃ~その代わりに~、ちょっと一緒にいましょうか~」

「コッペリア、ヘルプ」

「おとなしくしてなさい。いつもおとなしくされるがままになってたじゃない」

「新しくできた友達の前であれは恥ずかしいって」

「彼女もあなたに会えてうれしいのだからそれくらい我慢しなさい」

「…………あい」

「うふふ~。一緒にいましょうね~」


 上機嫌で寮母室に連れていかれる俺。

 その後ろを追うように寮母室に入った寮母先輩たち。

 寮母室は俺達が使っている部屋より少し広くて1LDKで風呂とトイレ付。ちょっといいマンションの一室みたいな感じだ。

 部屋にはまだ重なった段ボールがあり、中途半端に開けた物とまだ開けていない段ボールがある。

 まさに引っ越してきたばかりという感じの部屋だ。

 そして奥さんが座ると俺は逃げる間もなく奥さんの膝の上に座らされる。


「奥さん……やっぱりこれなのね」

「あらあら~、膝枕の方がよかったかしら~?」

「問題そこじゃない。俺、高校生。友達の前、恥ずかしい」

「もうちょっとだけ、もうちょっとだけだから~」


 そう言って膝の上にいる俺の腹に手をまわし抱きしめる。

 頭に奥さんの胸が当たって気恥ずかしい。

 それから胸に頭を当てないように首を伸ばしているから首が苦しい……


「コッペリア、ヘルプ」

「諦めなさい。あなたが死んだあと暴走した1人がマザーよ。いつもの調子に見えるかもしれないけど、もうしばらくそうしてあげて」


 コッペリアにそう言われてから気が付いた。

 奥さんの手が小刻みに震えている事に。

 この人も俺が死んで本気で悲しいと思ってくれたのかと思うと、嫌とは言い辛い。

 俺は大きなため息をついてから奥さんによりかかる事にした。


「あらあら~、ようやく甘えてくれるのねぇ~。ママ嬉しいわ~」

「今だけだ。この年になって母親の膝の上に座るとかないから」

「そう言いながらもたまにはこういう事させね~」


 抱きしめて顔を擦りつける奥さん。

 俺は大きなため息をついてから呆気に取られている2人に言う。


「これが俺の知っているレディ・マザーと言う人物です。別にこれは俺に対して特別と言う訳ではなく、誰にでもやるから気を付けてください」

「は、はぁ。少し風紀が乱れそうな気がしますが、そこは私がフォローしましょう」


 寮母先輩は驚きながらも奥さんにこれからの事を話した。

 寮母としての業務、もうすぐ夏休みに入り、夏合宿にも同行してほしい事などを伝える。

 俺の事を抱きしめながらと言う違和感はあるが、1つ1つ丁寧に奥さんは答えた。


「あらあら~、この学校は色々行事があるのね~」

「夏休み直前に寮母が決まる事も稀ですが、ご協力お願いします」

「いいわよ~、私も海は好きだし~、子供たちのお世話は大好きだからお世話させてね~」


 間延びした雰囲気でのんびりしているが、奥さんって海大丈夫なんだ。

 いろんな母親と言う概念を詰め合わせた存在、みたいな感じの事は聞いているが、苦手な事は子離れ以外よく知らない。

 そして個人的な事として奥さんにお世話されるというのは個人的に疲れる。

 業務的な話が終わったので俺はお茶菓子を食べながら奥さんに聞く。


「ところで奥さんは最近こっちに来たのか?」

「最近……と言うほどではないわねぇ~。あちこちの学校に通っていたわ~」

「学校?それって仕事?」

「いいえ~。お料理教室とか、裁縫とかの学校に通っていたの~。おかげでほら~、いろいろ免許も取得できたわ~」


 そう言って見せてくれるのは調理師免許に栄養士資格、裁縫の免許?みたいなものから教員免許まで様々な資格が入ったカードケースを見せてくれた。


「え、何その量。マジで色んな資格取ってる。栄養士とか教員免許とか国家資格じゃなかった?」

「子供達に勉強を教えるのなら必要かと思って~。栄養士も子供達にはバランスのいい食事を上げたじゃな~い。だからママ頑張っちゃいました~」


 頑張ったで国家資格いくつも取れるって本当に凄いな。


「でも何でこの学校に就職しようと思ったの?」

「ん~。やっぱり子供達にお世話するのが好きだから~」

「それならもう少し幼い方が良いんじゃないか?小学生とか……幼稚園児とか?」

「それも悪くないけど~、やっぱり坊やがいるところが良いな~って~」


 そう言ってまた俺の事を抱きしめる。

 全く、本当に甘やかしたがるのは変わらないな。


「自分で選んだんだろうから別にいいけど、俺の事は別に考えていいんだからな」

「いやよ~。坊やは私の長男なんだから~、できるだけ一緒が良いの~」

「……奥さん、ちょっとだけマジな話しするぞ」


 俺がそう予告すると奥さんは姿勢を正した。

 相変わらす俺は膝の上に乗せられたままだが。


「俺の中で母親ってのはこの世界で俺の事を産んで育ててくれた人の事を言うんだ。だから奥さんの事はどうしても母親じゃなくて女性としてしか見れないんだよ」

「女性としてぇ……」

「だからあまりこういう事はしないでもらえないか」


 そう言うと奥さんは少しだけ頬を赤くしながらようやく俺を膝から降ろした。

 そしたら顔を赤くして片手を頬に当てながら恥ずかしそうに言う。


「ヤダ、ちょっとキュンと来ちゃった」

「あれ?なんかいつもの間延びした言い方が消えたな」

「……シュウ。気を付けた方が良いわ」

「え、何に?」

「いつもの間延びした言い方がなくなると男として狙われてる証拠だから」


 コッペリアはそう警戒しながら俺に教えてくれる。

 その意味を理解した後そっと奥さんを見てみる。

 そのマザーの目は何と言えばいいのだろうか。獲物を見つけた肉食獣の目?それともエロゲで見た若い男に色目を使う人妻の目だろうか?


「あなたわざと目を逸らしてるでしょ。現実をしっかりと見なさい。彼女はこの寮の寮母、確実に狙ってくるわよ」

「うぅ。俺そんな気ないのに……」


 俺達の会話と奥さんの目を見てか、愛香さんと寮母先輩が言葉の意味を理解し、愛香さんが先に動いた。


「だ、ダメです!!柊君をそう言う目で見ちゃダメです!!」

「教員が生徒にその、そういった事をしてはいけません!!」


 奥さんから俺を隠すように両手を広げながら割って入ってくれた。

 するとすぐ奥さんの雰囲気は落ち着いて困ったような表情に変わる。


「あらあら~、ごめんなさいね~。ちょっと~、いえ~、かなり久しぶりに女の部分が出ちゃっただけよ~。大丈夫~。ヤる時はお互いの気持ちがぴったり重なった時が一番気持ち良いから。だからコッペリアちゃん達が考えているような事はしないわよ~」

「ちょっと待て。今少しのセリフだけ間延びがなかったぞ。え、俺マジで狙われてる??」


 ほんの少し危機感を覚えながらも今年は楽しい夏休みになりそうな気がした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ