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悪と呼ばれる存在を友達と呼んではダメですか?  作者: 七篠
【嫉妬】する機械人形
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【嫉妬】する機械人形

 超巨大戦艦型アンノウンを倒したという知らせが届いてから1週間後、みんなが帰ってきた。

 誰1人として欠ける事なく無事に帰ってきてくれた事は嬉しい。


「みんなお帰り!無事でよかったよ」

「ただいま~。流石に今回はちょっと大変だったぞ」

「海の上での戦闘だもんな。ボート壊されたり、ミサイルが際限なく飛んできたり大変だった~」


 みんなそんな事を言いながら自分達の席に座る。

 その表情はまだ疲れが取れない様子で気だるげだ。

 そんな中唯一いつも通りに姿を現したのはコッペリアだった。


「コッペリア、お帰り」

「ただいま。シュウが居なくてつまらない船旅だったわ」

「そんな旅行じゃないんだから俺が行けるわけないだろ。俺が行った所でただの足手まといだ」

「そんな事ないわよ、私のパフォーマンスが跳ね上がるもの。あの戦いもあなたが居たらもっと派手に勝利していたでしょうね」

「どんだけテンション上がってんだよそれ」


 俺はコッペリアの事をある程度知っている。

 本当は機械?の身体でただ人間を再現しているだけだという事。

 そのため味覚や触覚と言った人間の五感を再現が難しくて何度も協力した。

 何度も俺と実験を繰り返している間にある程度人間に近付けたと俺は思うが、コッペリアとしてはまだ満足していない様で俺に何度も確認を取る。


「全く。みんなの事を驚かせるような戦い方してないだろうな」

「あら、私人前で簡単に秘密をさらすような性格じゃないわよ」

「それでも戦いとなると狂気的になるじゃん。バトルジャンキー?って奴みたいにさ」

「そんなに豹変してたかしら?」

「他のみんなから聞いた時はそんな印象受けたけど?」

「そう。でも今回はさっさと相手の中に入ってコントロールルームを破壊しただけだから、あまり派手に戦ってはいないわ」

「なら良いのかな?お前も女の子なんだからその辺気にしろよ」


 何気ない一言だったがコッペリアはきょとんとした表情で俺の事を見ている。


「ん?どうした??」

「いえ、その、ちゃんと私の事女の子として見てたのね」

「何当たり前のこと言ってんだ?前世の時からお前は女の子だったろ?え、まさかどっちでもなくなった??」

「……ぷ。ふ、ふふふ、そうね。私は最初から女の子で今も女の子よ。だからちゃんと女の子として扱いなさい。じゃないと――独り占めしちゃうから」


 最後の言葉だけ俺の耳元でこっそりと言った。

 何やら上機嫌だが本当にどうしたんだろう?

 久々の日常が嬉しいのかな??


 そう考えながらようやく戻ってきた日常に俺は嬉しく感じているのだった。


 ――


 私には本来眠るという行為は必要ない。

 むしろ常に起動して少しでも人間の情報を得てより人間に近付く方が良いだろう。

 だがその人間に近付くために睡眠は必要な物であり、ちょっとした矛盾が発生している。

 なので私はこの睡眠と言う時間を記憶データ整理のために使用する。

 人間も夢と言う物を見ながら記憶の整理をしているというのだからこれは人間らしい行動のはずだ。


 私が整理する記憶は非常に大切で、“私”を作り出す切っ掛けのデータ。

 それは前世の彼が生きていた頃の話である。


 当時の私達は私達を破壊しようとしていた者達から逃れ、偶然彼と言う人間と出会った事から始まる。

 そのため当時の身体は小さな西洋人形に似せた身体であり、オリジナルからかなり遠ざかってしまった事に苛立ちを隠せないでいた。

 様々な人間を捕らえ、実験を繰り返す事で人間の五感や思考などを研究していたがどれも答えとなるものがなく、さらに研究材料を探している時に英雄たちに身体を破壊されてしまったのだ。

 その場から逃げるためだけに少ないパーツをかき集めて作り出した身体こそ、みすぼらしい手作り人形のような身体だった。

 そして現れた彼は私に向かって言う。


「へ~。随分可愛い人類の敵だな」


 その言葉は当時の私にとって非常に屈辱的な物であり、いつか絶対元に戻ってやると誓った。

 その後も彼は私達と近い距離に居て色々聞いてきた。

 何故私達が人類の敵と呼ばれているのか、なぜ私達がこれほどまでに弱っているのか、色々聞いてきたが私はすべて無視していた事は覚えている。

 そんなある日、彼は奇妙な物を持って私の前に現れた。


「なぁなぁ、これ手に入れたんだがこっちの方が動きやすそうじゃないか?」


 そう言って取り出したのはフィギュアだ。

 真新しい感じでフィギュアはまだ箱から開けた様子すらない。

 まだフィギュアと言う物に詳しく振れていなかった私は初めて彼に質問した。


「それはなに?」

「これはフィギュアだ。ゲーセンでゲットしたやつ。お前の新しい身体にどうかな?って思って」

「どうって……」

「だってその西洋人形じゃスゲー汚れやすいじゃん。それにこっちの方が俺は好みだ」


 そういう彼が持つフィギュアは銀色の髪で目は赤く人間ではありえない肌の白さ、パワードスーツを着た16歳くらいの女の子だった。

 背中には小型の飛行ユニットが装備されていたり、銃やサーベルなどもある。


「あなたこんなのが好みなの?」

「こんなのって酷くね」

「だってあなたの好みなんて初めて知るもの。でもこれあまり人間に似てない様な気がするのだけど」

「そりゃどっかのアニメのキャラらしいからな。原作は見てないからよく知らん」

「はぁあ?知らないのに取ってきたの?」

「だってお前、前にもその人形の身体に不満だって言ってただろ。それなら新しい身体に何か良いのないかな~って思って取ってきたのに」

「ふん。それならこんなSFの女の子じゃなくてもっと普通の女の子のフィギュアにしなさいよ」

「あ、それは無理」

「何でよ」

「俺クレーンゲームとか得意じゃないからさ……クレーンで玉拾ってアタリの所に玉が入ったら景品がもらえるって奴で取ったから他のは無理。自信ない」

「…………」


 そういう事なら仕方ないのかしら?

 でも今の汚い人形の身体よりはマシなのは事実。

 小さいとはいえフィギュアの方が動きやすそうなのも確かだ。


「そういう事ならもらうわ」

「そりゃよかった。とりあえず箱から出すぞ」


 そう言ってからはフィギュアを箱から出し、私はフィギュアの身体を移し替えた。

 前の身体である人形は私が居なくなった事で自然と倒れ、私の身体は新しくフィギュアが身体になった。


「おお。本当に動いた」

「当たり前でしょ関節とかを動かせるように少し改造したけど、この身体の方が動かし易いわね」

「それは何より」


 そう言って彼は学校指定のカバンから本を取り出して読み始める。

 本当にこの身体フィギュアを渡すためだけに来た様でもう興味を失ったように集中する。

 そして私は人間とは何なのか、どうなれば人間と言えるのか、聞いてみたいと思った。


「ねぇ、人間って何」

「……どう言う意味だ?」

「私は人間になるという理念のもとに設計された。だから私は人間にならないといけないの。だから人間について教えて」


 そう私が聞くと彼は本をしまってから考え始めた。


「人間ねぇ………………考えた事もないな」

「それはやはり最初から人間だから?」

「だろうな。最初から人間だと言われて生まれて、人間として育てられたからな……何をもって人間と言うのかなんて考えた事がない」

「それが普通?」

「多分?」

「何で疑問系なの?人間なんだから分かるでしょ」

「そんなこと言われてもな……家族でも結構違うもんだぞ。熱いも寒いも、視力も匂いの感じたも違う。それなのに何をもって人間なんだって言われると全く分からん」


 彼はどこか遠くを眺めるように考え始める。

 ぶつぶつともうすでに知っていること、偉人と言われる人間たちが言っていた火を使うだのそんなことが人間とは思えない。

 しばらくすると彼は私に向かってこう言った。


「めんどくせぇ。もう自分が人間だと思ったら人間でいいんじゃない?」


 …………彼は考えることを放棄したようだ。


「あのね、私の事は【傲慢】から聞いているでしょ。私がなぜ人間を使って実験しているのか」

「確か自分自身が人間になるためだっけ?」

「少し違うわよ。オリジナルになるためよ」

「あ、それは最初から無理だと思ってる。だから多分一生無理だぞ」

「そこははっきりと言えるのね。それで理由は」

「さっきも言った通り人間と言ったって所詮しょせん種族的なものでしかなくて、誰かと全く同じものになる事だけはできない。どれだけ憧れていようがな」


 彼のいう言葉にはどこか実感がこもっているように聞こえた。

 夢を挫折した者、理想をかなえられなかった者、そんな言葉が合う気がする。


「あなたもあったの?憧れというものが」

「そりゃあるよ。子供の頃はアニメの主人公に憧れたり、自分にとってやってみたいことで成功している奴を見て嫉妬したり。今はまぁ……俺には無理だって事が分かって何を目標にすればいいのか分からずゴロゴロしてる所」

「……次の憧れはないの?」

「探してる途中~」


 そういってまた彼は本を取り出し読み始める。

 私は1つの疑問を思いつき、これは自分自身で気が付くことができる重大なバグであることを自覚しながら確認するように聞く。


「もし……もしオリジナルになれないと結論付けた場合私はどうすればいい?」

「さぁ?好きにすればいい」

「これからもいろんな人間で実験するかもしれないのに?止めないの??」

「止める理由がない。いや、普通は悪い事をしようとしているのであれば止めるのが本当の友達っていうらしいけど」

「私とあなたは友達じゃないから放っておくって事?」

「お互い友達になろうなんて言っていないし、俺には友達の定義が分からない」

「それじゃあなたの思う友達の定義は?」

「う~ん……そうだな…………あくまでも俺の理想だが、一緒にいれる奴が友達だと思う」

「一緒にいれる奴?」

「一緒に遊んだり、喧嘩したり、何もしてないグダグダした時間を一緒に過ごせる奴が友達じゃないかな?あと友達っていうのは口に出すもんじゃなくて、気が付いたらお互いに友達だと思ってれば十分だと思う」

「……その定義だと私たちはすでに友達になっているように聞こえるのだけど」

「そう思うのなら大手を振って俺達は友達だと言えるな。でも名前がないのは面倒だな……名前つけてもいい?」


 新しい名前を貰う。

 私のデータがそれを否定しろと電流が流れる。

 新しい名前を貰うということはオリジナルにはならないと言っているようなものだ。


 否定しろ。

 オリジナルになる事を諦めるな。

 まだ時間はあるし終わっていない実験もある。


「……どんな名前?」

「コッペリアはどうよ?機械の身体の女の子、ちょうどよくない?」


 コッペリア。

 バレエの音楽であり、自動人形の恋物語。

 ああ、その名前は――


「私にピッタリね」


 認めてしまった。

 これにより私のデータは大きなバグに埋め尽くされた。

 今までの実験データが破損したり消去されることはないが、今までの意義を失ってしまった。

 これから私が進む道は創造主の娘(オリジナル)になる事ではない。

 コッペリアという個人オリジナルになるために実験を繰り返してみよう。


 彼が……――が私の友達。

 ――が新しい名付け親(マスター)


 こうして私は本来の目的、オリジナルになるという重要な目的をバグによって失ってしまった。

 今でも思い出すことはできるが昔のように必死にはなれない。


 彼は私の実験に協力してくれた。

 と言っても本当に小さなもので、私の身体の感覚、五感に関してチェックする作業だけだ。

 彼に手を握ってもらい温感や冷感、痛覚や触覚などを確かめてもらい、味覚に関しても協力してもらった。

 彼が買ってきた食料を実際に食べ、自分たちで決めた味に関する評価を比べる。

 味に関して差異はあったが、問題ないだろうと彼は言う。


 そんな彼との時間はとても心地よかった。

 コッペリアという存在を大きく成長させたと感じる。

 だがその他の者達は彼を許さなかった。


 彼は私達をかくまい、世界を滅ぼす手伝いをしていると勝手に認識する。

 それにより私達の日常はあっさりと終わりを告げ、次に会えた時は彼の死体を見つけた。


 この時私の中ではっきりと怒りという感情が理解できた。

 これは制御できない。

 制御しようとも思わない。

 怒りのままに敵を滅ぼすのも悪くないと思った。

 これにより私が一応使っている世界は人間を完全に管理する世界にすることにした。


 これで二度と彼を傷付ける者はいない。

 これで二度と日常は消えない。

 これで――彼と一緒にいられる。


 それだけでいい――

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