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第61話 神薙玲於奈は地球にやさしい。

未亜&綾乃視点のつもりでしたが、気が付いたら玲於奈に乗っ取られました。

「それじゃあ行きましょうか」

「でも、芳人様は鴉城の屋敷で待ってろ、って……」

「甘い、甘いですよ静ぽん。ケーキにハチミツをぶっかけて水飴を塗り付けたような甘さです。男の草食化が嘆かれる現在、私たち女のほうから向かっていかないといけません。肉食です、血と肉の宴ですふはははは。芳くんのバッタものをバッタバッタと薙ぎ倒して、私たちの好感度をホームランしましょう。バッターだけに」


 それは芳人がヘリで出発した直後のことである。

 玲於奈は静玖を連れ、鴉城家の本邸を抜け出そうとしていた。


「恋は戦争、ハーレムは紛争地帯、重要なのは補給です。ああ、ちょうどいいところにちょうどいい人が来ましたね」


 彼女らはこのとき板張りの廊下で話をしていたが、ここを一人の男が通りかかった。

 鴉城白夜である。


「アラサーで一児の父のくせにホストめいたファッションの小物さん、少しいいですか」

「……ハァ? ケンカ売ってんのか?」

「落ち着いてください。中年チンピラとかもう救いようがありませんよ。私がやりたいのは売りじゃなく買いです。武器ください、武器。できれば霊験あらかたなヌンチャクとか拳銃とか。予算は0円です」

「買いじゃなくてタカリじゃねえか」


 呆れ顔で嘆息する白夜。


「テメエら、芳人のトコに行く気か?」

「ほう、よく分かりましたね」

「オレだってそれなりに修羅場を潜ってるからな。今から()りにいこうってヤツの空気は分かる。

 ……待ってろ、刀の一本くらいは見繕ってきてやる」

「ありがとうございます。お礼にうちの姉をアレコレしてもいいですよ」


 玲於奈の姉、真姫奈は鴉城邸に運び込まれている。

 出がけに芳人が《催眠術式》をかけており、今はただ深い眠りの中にあった。


「お断りだ。あの女、地雷の予感がヒシヒシとしやがる」

「チッ」

「人に不良在庫を押し付けようとするんじゃねえ。ったく、イイ性格してやがるぜ」

「ふふん、もっと褒めていいんですよ」

「れ、玲於奈ちゃん、そこまでにしておいたほうが……」


 さすがにやりすぎだと感じたのだろうか、静玖が間に入る。


「す、すみません白夜さん。うちの玲於奈ちゃんが失礼なことを……」

「気にすんな、イキのいいヤツは嫌いじゃねえ。ついでにおまえさんの分も探してきてやる」

「えっ、いいんですか?」

「ああ。その代わりと言っちゃなんだが、伊城木直樹をぶっ飛ばしてくれ。

 オレや朝輝も足手纏いにしかならねえからな。けれどおまえらは違う。だから頼むぜ」

「よろしい、ならば鴉城家の金銀財宝をすべて差し出す権利をあげましょう」

「うるせえこのペタン星人」

「殺す」

「れ、玲於奈ちゃん! 落ち着いて! お願いだから落ち着いて!」


 という一幕はあったものの、二人はほどなくして鴉城邸を発った。

 車や電車ではヘリに追い付けない。

 そこで、


「へへっ、お任せくだせえ静玖の姐さん。オレっちの足ならどんな場所でもひとっとびッスよ」

「日本語、喋れたんだ……」


 伊城木月から預かっている黒狼に乗ることになった。


「能ある鷹はツメを隠すって言葉もあるじゃないッスか。ま、オレっちはオオカミですがね!」

「わははははは」


 無表情のまま笑い声をあげる玲於奈。


「なんスかそのワザとらしい反応。オレっちに喧嘩売ってるつーかなんで一心不乱に横っ腹を撫でてくるんですかちょ、くすぐったいくすぐったいやめてとめて勘弁してひゃうん!」

「私、モフモフをモフるのが好きなんですよ。でもその声は気持ち悪いからやめてください」

「そんなっ、渋いダンディボイスと業界じゃ評判だってのに!」

「三下感に溢れている、とだけ言っておきます。

 ほら、コントはこれくらいにしてさっさと行きましょう。なんだか水着めいた悪い予感がします」

「意味わかんねえッス。姐さん、翻訳できます?」

「玲於奈ちゃん、ときどき電波受信しますから……。

 でも、不思議とそういうあてずっぽうが当たるんですよね」


 事実その通りであった。

 このとき芳人は006(スク水の変態)と一度目の交戦状態にあり、その精神力を (主にグロ画像的な方向性で) 削られつつあった。

 

「じゃ、行くッスよ。しっかり捕まっててください、ご両人」

「うん」

「良かったですねくろべえ。美少女二人がしがみついてくるなんてハーレムですよ」

「くろべえってオレのことッスかね……。つうか自分メスなんで何とも思わないつーか」

「えっ、くろちゃん女の子だった、ってひゃあああああああっ!?」


 静玖の言葉を待たず、くろべえ (仮称) は走り出していた。

 認識阻害のスキル()を持つため、一般人には見ることができない。

 山々を駆け抜け、街に出た。

 ビルからビルへと飛び移り、なんとなく京都タワーに登って飛び降りる。

 JRの湖西線の新快速と競争しながら滋賀県へ。

 そこから南下して鈴鹿山脈に入る。


 直線距離にしておよそ50㎞。

 わずか10分のことであった。


 




 * *






 同時刻。

 

「……人気者は辛いねえ。できれば美人のねーちゃんに囲まれてえんだけどな」


 傷だらけの身体を引きずりつつ、しかし、青年は不敵に笑う。

 唯一、芳人の側についた複製体(クローン)である。


「投降しろ、013。今ならば命までは取らん」

「んだ。せたっかく生きとるんじゃけぇ、早まっちゃならんべ」


 だが青年(013)は、


「お断りだ、直樹の操り人形ども」


 短くそう吐き捨てる。


「こっちは正義の味方ごっこの真っ最中なんだよ。洗脳手術の前に脱走キメた、世のため人のため女の子のために戦うヒーロー様だ。テメエらみたいなザコ怪人に負けやしねえよ」

「随分とよく吠えるものだ。だが、ただの人間でしかない貴様が勝てると思っているのか?」

「そうだべや。009のいうこたぁ間違っちゃおらん。オラも自分と同じ顔をした仲間を殺したくはないっぺ。白旗さあげちゃくれんかのう」

 

 敵は二体。

 識別名称、YST-ε009、そして010。

 複製体の中では五指に入る実力の持ち主である。


「うるせえ、同じツラも声も聞き飽きたんだよ。芳人はオレとオリジナルで十分だ。

 かかってこいや、直樹にケツ出した変態どもが」

「誤解があるようだな。我々は伊城木直樹の指示で動いているわけではない。

 ……だが、今の侮辱はさすがに聞き捨てならん」


 009の目が細められる。

 キィン、カシャン、カシャン、クォォォォォォォォ――。

 周囲に響き渡るのは、機械じみた駆動音。


「貴様がいやしくも正義の味方を称するのなら、此方は悪の流儀に則るとしよう。

 冥途の土産に教えてやる。俺は009、“八矢房芳人”の遺体をベースにした改造人間(サイボーグ)だ」


 上着のシャツを脱ぎ捨てた。

 そうして露わになったのは、素肌にあらず。

 黒い、鋼鉄の皮膚。

 先刻から降り始めた小雨を冷たく弾いている。


「この左腕には《氷結術式》を、右腕には《火炎術式》を組み込んでいる。

 絶対零度の凍結と、推定一兆度の融解。好きなほうを選べ」

「いんや、第三の選択肢もあるだよ」


 もう一人の敵――010は右手を高く掲げた。

 虚空から生まれたのは、巨大な(クワ)

 その切っ先は断頭台の鎌のごとく鋭い光を放っていた。


「この身体にゃあ、大昔の錬金術師が作ったっちゅう永久機関が組み込まれちょる。

 二百年でも三百年でも田畑の世話ができるっぺ。おまえはオラが耕してやるべや」


 010は右肩で担ぐようにクワを構える。

 その姿には一分の隙もなく、どのような荒地であろうと開拓してしまいそうな力強さに満ち満ちていた。


「……ドキッ、男だらけの三角関係とか需要なさすぎだろマジで」


 013は顔を引き攣らせつつ、低く腰を落とした。

 彼は複製体の中ではけっして強いほうではない。

 何も“混ぜ物”をされておらず、その素材は八矢房芳人の遺体のみ。

 せいぜい伊城木月から簡単に魔法の手ほどきを受けたくらいであり、それだってまだロクに練習していない。

 009と010。

 真正面から対峙すれば敗北は必至である。

 ゆえに狙うのは、時間稼ぎの逃走。

 オリジナルの負担を減らすことに注力する。


「半分は引き付けるつもりだったんだがな。……ったく、とんでもないビッグマウスを叩いちまったじゃねえか」


 自らを奮い立たせるように軽口を叩く、が。






「――この程度の有象無象に手こずるなんて、同じ芳くんとは思えませんね」






 風が吹き抜けた。

 

「んだ!?」


 まず犠牲になったのは、010。

 両手に握ったクワが、腕ごと地面に落ちる。

 

「農家系クローンとか、日曜日にテレビでも見ながら作ったのでしょうか。ま、とにかく死んでください」


 次に転がったのは、首。

 血液がシャワーのように吹き出し、残った体が倒れ込む。

 

「何者だ、貴様」

「ご存じないのですか。私こそ敵役からフラグを掴み、メインヒロインの座を駆け上がっている超時空美少女玲於奈ちゃんです。噛ませ犬として死んでくださいワンワン」

「ちぃっ、《加速術式(アクセラリィ)》――」

「遅い、遅さが爆発してますよ。爆発したら早い気もしますがとにかくスロウリィです」


 少女――玲於奈は009に斬りかかる、と見せかけその足を払った。


「なぁっ!?」

「その程度の実力で私の前に立つとはいい度胸です。まあこっちから向かっていった気もしますが、こんな格言もありますしオーケーでしょう。『寄らば斬る。寄らなければ寄って行って斬る』」


 白刃が閃く。

 刹那、五月雨のように降り注ぐ斬撃が009を切り刻む。

 足を払われて宙に浮いた一瞬。

 その身体は二十以上の断片に分割されていた。


「人は土に帰りますが、機械はそうもいきません。

 切り刻むことによってゴミの持ち帰りを簡単にする。これがエコというものです」


 玲於奈は妙に得意げな表情で刀を鞘に納めた。

次回こそ未亜&綾乃 (たぶん)


ヨシトシリーズ紹介


009

 サイボーグ……いや何でもない。奥歯に加速装置……いえ何でもありません。ロボ子大好き。


010

 農家系ヨシト。東京でべコを飼う(意味深)のが夢。耕したり掘ったりする。

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