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第58話 正義の味方には悪が必要と言うけど、世間は悪の供給過多

“10”は「と」

2番目の“3”は「す」(スリーのス)と読んでください(伏線)

「オレは認めない。オマエが、オレの未来だなんて絶対に認めない。

 ――《加速(Beschle)術式(unigende)》・《我が(En )秒針は(thauptung)無慈悲の( von )断頭刀である(Träumerei)》!」

「今度は変態じゃなくてイタい系なのか……?

 ――《加速術式(アクセラリィ)》・《我が(中二病)秒針は(患者の)蓮池に(ドイツ語は)垂らされた(たいてい)蜘蛛糸(文法が)である(変だよな)》!」


 それは一瞬を刻む攻防だった。

 薙ぎ倒された木々の破片が飛び散り、それらが地面に落ちるより早く次の斬撃が迫る。


「おい、どうした! 守ってばっかりかよ、なあ!」

 

 くっ……。

 まずい。

 完全に防戦一方だ。

 ひたすら《歪曲術式(ディストーションリィ)》で相手の攻撃を受け流すばかりになってしまっている。


 こっちは5歳児、向こうは18歳。

 身体能力に差がありすぎた。

 それでもなんとか生きているのは、おそらく戦闘経験の差だろう。

 相手の先を読んでの回避。

 そのか細い命綱だけが頼みだった。


 もちろん反撃の機会は伺っているし、【鑑定】もかけている。

 結果はというと、






[名前] ヨシト003

[性別] 男

[種族] 中二病 (真性)

[年齢] 不詳 (肉体は18歳相当)

[自称] 【ヨシトV3】 ※V3=Version 3.0

[能力値] (現時点)

  レベル 555

   攻撃力 18782

   防御力 18782

   生命力 37564

   魔力    1092

   精神力  4410

   敏捷性   563


[アビリティ]

 【(数字じゃ)(人の能力)(なんて)(測れないし)(自分は)(まだ)(本気を)(出していない)

  思春期男子にありがちな考え方。

  しかしヨシトは真性のアレであり、狂信に近いレベルでそう信じ込んでいる。

  レベル・能力値はその時のテンションによって変動 (最大99999)。

【大鉄塊剣の呪詛】

  ヨシト003の意思は、大鉄塊剣に籠った怨念と完全に一体化している。

  両者の分離は不可能。

【複製体】

  彼は“八矢房芳人”という人物のクローンであり、常に“[状態異常]存在不安”となる。


[スキル]

【原始魔法】

【我流魔法】

【精神干渉】

【ヘイズヴェルグ流剣術】


[状態異常]

存在(キャラが)不安(弱いんじゃないか)

幼女趣味(ロリコン)

【筋肉フェチ】

【潔癖症】

【処女信仰】

【ナルシスト】

 





 あのさ。

 なんだよこれ。

 ちょっとシリアスな気分だったけど色んなものが吹っ飛んだよ。

 

「ロリコンで筋肉フェチって、マッチョな幼女が好きなのか……?」

「何故それを知っている!?」

「【鑑定】だよ。というかその性癖、いったいどこから来たんだ」


 俺の好みは昔から一貫して、「くっ殺せ!」な女騎士だ。

 ロリは……眺める分にはYesだが、Noタッチ。


「どこから? 決まってるだろう。この、剣だ!」


 振り下ろされる大鉄塊剣(グラン・ブレード)

 後ろに跳んで躱すと、その幅広の刃が地面に叩きつけられた。

 まるで隕石が落ちたかのような衝撃。

 さっきまで俺がいた場所にはクレーターが生まれている。


「剣、だって?」

「そう、この剣の意思だ。こいつはな、オマエ(オレ)みたいにむさくるしい男じゃなく、金髪でちょっと邪悪な笑みの、豊満な上腕二頭筋をした幼女に使ってもらいたがってるんだよ!」


 いま明かされる衝撃の真実。

 とんでもない剣を使ってたんだな、オレ。

 ……そういやロリ系の魔族相手だと勝率がイマイチだったんだが、もしかして大鉄塊剣のせいだったんだろうか。


「でもな」


 追撃の手を止めないまま003は続ける。


「最近はオレも思うんだよ。マッチョ幼女もアリ、ってな」

「ねえよ!」


 思わず叫び返してしまった。

 さっきの006やら008もそうなんだが、クローンどもの性癖にはさっぱりついていけない。

 直樹や真姫奈の変態性が伝染したんじゃないんだろうか。


 いちおう自分の名誉のために主張しておこう。

 俺はこう、男勝りでちょっと不器用だけど乙女なところのある女騎士を追い詰めた上でR-18したい系男子なんだ。

 きわめてノーマル。

 ……ノーマルだよな?

 

「じゃあ訊くけどよ」


 と、003は問いかけてくる。


「正義の味方にとって必要なのはなんだ? 答えてみろよ、オリジナル」

「随分と唐突だな」


 マッチョ幼女の話から一変して、正義の味方。

 もしここに第三者がいれば脈絡のない話題転換に感じたことだろう。

 とはいえ同じ自分どうし、意図は何となく察することができた。


「悪だろ。倒すべき敵だ」


 その上で、敢えて、ベタな“不正解”を口にする。


「違う」


 即座に否定する003。

 次の言葉は、完全に俺の予想通りのものだった。


「悪と戦ってるからって正義になれるわけじゃない。暴力を振るう時点でこっちも悪者だ。

 傍から見ればバカとバカが潰し合ってるだけだよ」


 ああ、まったくその通りだよ。

『争いは同じレベルでしか発生しない』なんてフレーズもあるが、悪と戦うヤツは悪なんだ。

 その自覚を忘れちゃいけない。


 003はさらに続ける。


「誰かを守ろうとする僅かな間だけ、そいつは『正義の味方』になれる。争いを起こした時点でもう正義とは言えないが、正義の味方()()()はできる。だから必要なのは『守るべき相手』だ。

 その点、小さな女の子ってのはピッタリだろ。しかも身体が強けりゃ、ま、そうそう死ぬこともない。

 ――死なないんだ」


 言葉の最後、003は自嘲めいた笑みを浮かべた。

 その(まなじり)は悔恨の色に濁っている。

 かつて守れなかった人たちのことが頭をよぎったのだろう。


「間違いなくお前は俺だよ、003」


 俺はそう言わずにいられない。

 

 後悔と自責に足を取られ、気の狂ったようなナナメ下の思考に沈み込む。

 003の姿はまさに過去の自分そのものだった。


「違う。オマエのような、周囲に女を侍らせてヘラヘラしてるような軟弱者はオレじゃない」


 けれど003は吐き捨てるように言葉を返した。

 大鉄塊剣を構え直す。

 幼女談義で緩んだ空気が、再び張り詰めていく――。

 

「殺す、必ず殺す。転生の余地もないほどに消滅させてやる。

 ――《鎧装(Geist on)》」


 その呟きとともに現れたのは漆黒の鎧。

 背後から食らいつくようにして003の身体を覆っていく。

 間違いない。

 これもまた、異世界で俺が使っていたもの。

 黒鎧の……オリジナルだ。


 果たしてどこで手に入れたのか。

 それを詮索する余裕などなかった。


「《時間術式(Tempus)》・《我は(Accipe)いま(quam)時の(primum:)(brevis)より(est)解き(occasio)放たれん(lucri)》!」


 黒騎士と化した003はすでに俺の眼前に迫っていた。

 

「《加速術式(アクセラリィ)》・《我はいま時の最果てを(ニホンゴデ)疾走し駆け抜ける(シャベレヨ)》!」


 咄嗟に加速をかけるが、それで避けきれるものじゃない。

 そもそも《加速術式》と《時間術式》じゃ、文字通り次元が違う。

 ゲームに例えるなら《加速術式》はせいぜい「AGIアップ」、《時間術式》は「絶対先制 (AGI無視)」。


 ゆえに。

 俺はその巨大な刃によって胴体をごっそりと抉られていた、

 が、


「――《黒騎士は(Geist)彼方より(onって)此方に(英語とドイツ語)帰還する(半端に混ぜるな)》」


 変身するだけの時間を稼ぐには十分だった。

 5歳児のままだと《時間術式》は使えないからな。


 右の脇腹がドクンと疼く。

 体内に寄生する《無貌の泥》が活性化し、俺の身体情報を書き換えていく。

 

 前世の自分。

 今世の自分。


 過去と現在がひとつに重なり、ここに漆黒の騎士が再び顕現する。

 腹部の傷は塞がっていた。

 全身に魔力が満ち満ち、鎧の鋼が擦れた音を立てる。


 俺は、003を真正面から見据える。

 目線の高さは同じ。

 

 いつのまにかパラパラと雨が降り始めていた。

 空はひたすらに黒い。

 立ち込める暗雲の向こう、唸るように雷鳴が轟いた。


次回、ニセモノの黒鎧を纏ったオリジナル VS オリジナルの黒鎧を纏ったニセモノ

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