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第57-1話 悲劇の人魚

 ヘリは鴉城家のものを借りることになった。

 俺はすぐさま未亜たちが消息を絶った現場へと向かう。


「うっわー、この高さまであがると人がゴミのようつーか、むしろオレがゴミだな、うん」

「……お前は何を言ってるんだ」

「ほら、アレだよアレ。空からの雄大な眺めに感動して、自分の小ささを思い知る的な?」


 暢気なヤツだ。

 ヘリに乗っているのは俺と、俺のクローンである“ヨシト”だけ。

 他は全員、鴉城家の屋敷でお留守番だ。


「男2人で空中散歩とかマジ寂しいんですけど。なんで他の連中を置いてきたし。つーかオレ、なんで同行させられてるんだ」

「さっきも言ったろ、交換条件だ。偽の戸籍なら用意してやる。その代わり、未亜たちを探すのを手伝ってくれ」


 ヨシトを連れて来たのは他にも理由があるんだが、まあ、それは言わなくても――


「へいへい。ま、気持ちはわかるけどな。オレのこと、疑ってるんだろ」

「……否定はしない」

「隠すだけ無駄だぜ。オレはおまえなんだし、考えなんてマルッとお見通しよ。

 『コイツは“トロイの木馬”で、直樹を裏切ったフリをしながら静玖や玲於奈を攫うチャンスを伺っているのかもしれない』――おおかた、こんなトコだろ?」


 まったくもってその通りだ。

 さすが自分自身。

 ぐうの音も出ないほどの正解だった。


「別にいいけどな、逆の立場だったらオレもそうしてた」


 ぽんぽん、と気安い調子で俺の肩を叩くヨシト。


「そういやおまえ、静玖って子と何かあったのか?」

「……どうしてそう思うんだ」

「いや、誰が見ても分かるだろ。なーんか妙な感じだしよ」


 俺は少しだけ答えに迷う。

 ヘリに乗る前、少しだけ静玖と話をする機会があった……ものの、こっちとしては気まずいことこの上なかった。

 そりゃそうだろ。

 フったフられたの関係なんだから。

 ただ、静玖のほうはまったく気にしていないというか、むしろ前より積極的になったようにも感じられた。

 さっきだって、

 ――困ったことがあったらいつでも念話(テレパス)してくださいね。

 ――静玖は、芳人さまのお役に立つことがなによりの幸せですから。

 なんて言葉とともに後ろから抱き締められ、正直、いろいろやばかった。

 幼い男子の頭にお胸様を置くのは反則だと思います。


「あーあ、なんでコイツ爆発しねーのかな。真姫奈の本命はテメーだし、玲於奈も静玖も攻略済み。今から助けにいく未亜は義妹で、綾乃とやらもどーせハーレム要員なんだろ? くそっ、だんだん腹が立ってきたぞ。これ、もうマジで『お前を殺してオレがオリジナルに成り代わる』みたいな展開に行ってもいいんじゃねえの?」

「ベタすぎる展開はやめてくれ」

「いやいやお約束は大事だぜ。もし自分が誰かのニセモノだなんて聞かされたら、中二病的にはオリジナルとの対決とか夢見るだろ? よし、せっかくだから今のうちにそのへんのイベントもやっとくか。――じゃんけん、ぽん!」


 俺はグーを出した。

 ヨシトはチョキだった。


「ふっ、これがオリジナルの強さか……。確かに感じたぜ、おまえと、まわりの女たちの強い絆をよ。そいつが勝負の分かれ目になるなんてな」


 ぱたり。

 狭いヘリの座席の中、器用に倒れこむヨシト。

 なんかそれっぽい台詞を吐いているが、じゃんけんに絆も何もないと思う。


「運任せの勝負だからこそはっきり分かるものもあるんだよ。そう、世界はおまえを選んだんだ……」

「おまえ、本当に俺のクローンなのか?」


 18歳当時を思い返してみても、ここまではっちゃけた言動ではなかった気がする。


「往々にして自己イメージってのは現実と乖離するもんだ。認めろ、昔のおまえはこんなヤツだよ」


 嘘だっ!

 という俺の叫びは爆音に飲まれて消えた。

 ヘリが激しく揺れる。

 今のは……魔法による攻撃、か?


「この気配、連中だな」


 隣でヨシトが呟く。

 ここまでのお茶乱(ちゃら)けた様子はどこへやら、抜き身の刀剣じみた鋭さを感じさせる表情だった。


「おい“俺”、今のではっきり分かった。未亜とやらを襲ったのは他のニセモノだ。たぶん12()全員が揃ってやがる」


 12人ではなく、12匹。

 なぜそんな言い方をするのだろう。


「もう知ってると思うが真姫奈と直樹はおまえを蘇らせようとした。死体に神薙家の秘術をぶちこんで、それでもうまくいかねえからって、古今東西の怪しげなモンを混ぜやがったんだ。人魚の肉、呪われた刀の破片、人皮で装丁された手記――ここにいる12匹はそういう連中だ。控えめに言って人間の範疇じゃねえ」


 舌打ちをし、衝撃で歪んだドアを蹴破るヨシト。


「じゃんけんで負けちまったし、半分は引き付けてやる。その間にさっさと2人を見つけて逃げろ。いいな?」


 俺が止める間もなく、宙に身を躍らせてしまう。

 魔法も使えないのにどうやって着地する気だろうか。

 いや、もしかすると習得しているのかもしれないが――考えるのは後回しだ。

 ボヤボヤしていると俺の身まで危ない。

 ヘリのパイロット代わりをさせていた阿修羅 (白夜から借りた式神) を回収し、ヘリの外に飛び出す。


「《歪曲術式ディーストーションリィ》・《我が代替に(イタイノ)痛打を譲る(トンデケ)》」


 地面に降り立つ。

 衝撃はそのへんに立っていた木に押し付けた。

 そのせいで幹が真っ二つに割れてしまったが、えっと、地球に優しくなくってごめんなさい。


 ここは京都市のはるか南東に位置する山中。

 厳密に言うなら京都府ではなく、東隣の滋賀県になる。

 富士の樹海ほどじゃないが、なかなかに鬱蒼とした森が広がっている。


「くく、どうやら“当たり”だったみたいでスクね……」


 背後に気配。

 俺は振り返りざまに魔法を放とうとしたが、精神集中がうまくいかない。

 なぜなら、


「おまえを倒して唯一無二の“ヨシト”になるでスク、スクスクスク……!」


 わざとらしい語尾と笑い方によってキャラを立てようとしている痛々しい男は、まさに18歳当時の俺とそっくりの顔で、


「スクスクスク、どうやら驚きのあまり声もでないみたいでスクね。そのままあっしの水魔法で溺れ死ぬがいいでスク」


 そいつは、着ている衣装の肩ひもを少しだけ持ち上げて、手を離す。

 パチン、と乾いた音が響いた。


 ええと。

 もうこの時点で察しが着くかもしれないが、ちょっとしたグロ画像が展開されていた。

 ヒントは「スク」。


 なにこれ。

 オヤジもとい直樹さん、あんたちょっと性癖マジ歪みすぎてませんかね!?

 いやまあ確かに人間の範疇を超えてますよ。超えすぎてますよ。

 でもさあ、倫理的に超えちゃまずいラインってあると思うんですよ。

 紺色テカテカのスクール水着を着た18歳男子とかマジきつい。

 ほんとキツい。

 やめてくれ。


「あっしは人魚の肉を混ぜたヨシト、人呼んでヨシギョ (自称) でスク!」

「《火炎術式(うるせえ)》・《汝は己が血液の(人魚ならさっさと)沸騰する音を(泡に)聞くだろう(なっちまえ)》」


 全身全霊の一撃で葬ることにした。

 さもないと俺が死ぬ。精神的に。

「人魚の肉を入れてみたらスク水を着た変態が生まれた件について」(by直樹)

「これはこれで……」(by真姫奈)


 ※残るクローン(変態)は11匹です。

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