第55話 誰かこの話の正式なサブタイトルを覚えてませんか
閑話投下の前後に間違えて消してしまった55話を復元しました。
サブタイトルを忘れてしまったので覚えている方がいたら感想欄にお願いします。
そいつの姿は、前世の俺そっくりで、
「オレの名はヨシト、お前らに名乗る名前はない」
その声も、その言い回しも、あの頃とまったく同じだった。
「シャキーン」
うわー。
ヨシト (偽) くん、流し目までキメてますよ。効果音を自分で言っちゃってますよ。
さすがに俺本人はここまで恥ずかしいヤツじゃない――ウソですごめんなさい。やってました。
『人間は過去から逃げられない』なんて言葉がありますが、何もこんな形で追いかけてこなくてもいいんじゃないでしょうか。
息苦しいというか首を掴まれたガチョウの気分だ。
もういっそ殺してくれ。
俺はあまりにも大きな精神ダメージを食らい、そのせいで反応が遅れてしまった。
朝輝と白夜もいきなりの闖入者に戸惑っている。
そんな中、最初に動いたのは玲於奈だった。
「――なんだかフリーダム系のキャラがかぶってる気がします。死んでください」
ワープじみた速度でヨシトへと肉薄し、喉元めがけてナイフを突き上げる。
その刺突は音を置き去りにして空気を切り裂くが、
「やめろよ、暴力系ヒロインはもう時代遅れだぜ。
出会い頭に殺しに来るとかいまさら何のインパクトもねーし、これが小説なら読者人気が大暴落だぜ」
「ここは現実世界ですよ。だいいち私は爆乳美少女なのでいつも人気者です」
「爆発して何も残っちゃいないつーことだな。グラウンドゼロ」
「セクハラまで本物そっくりですね。……断首から断種に切り替えましょうか」
「えっ、ちょっ、そこは狙うな! いやマジで! オレは取引に来ただけなんだよ! ――シャッチョサン、シャッチョサン、アナタ、ワタシノトモダチ。イイハナシアルネ」
「どう考えても信用ならないフラグですよそれは……!」
おお。
玲於奈がツッコミに回るなんて珍しい。
少なくとも俺の前じゃ初めてのことじゃないだろうか。
「いい加減に斬られてしまいなさい、このニセヨシ」
「うっわー、ひっでえアダ名。ああもう、斬りたいなら斬れよ、ほら」
玲於奈の白刃がヨシトの右腕に突き立てられる。
否。
「この桜吹雪が目に入らねえか、なーんてな。ツルツル素肌だよ。入れ墨とか怖えーし」
ナイフは僧衣の右袖を引き裂いたものの、それに先んじてヨシトは片肌を脱いでいた。
セリフの通り、『遠山●の金さん』みたいなポーズになっている。
「女をボコるのは趣味じゃねえんだ。そいつは預からせてもらうぜ」
「なっ…………!」
まるで奇術か何かのような手つきでサッとナイフを奪い取るヨシト。
玲於奈はそれ以上の追撃を諦め、飛び退くようにして俺のところに帰還する。
「芳くん、気を付けてください。あのニセモノ、かなりの実力です」
「そうみたいだな」
「戦うなら黒騎士の姿になったほうがいいというか、私、そのための時間を稼いだつもりなんですよね。なんで五歳児のままなんですか。放置プレイはTPOを読んでくださいよこのサドッホ伯爵」
なんだその悪魔合体。
いちおう整理しておくと、
Sの語源:サド侯爵
Mの語源:マゾッホ伯爵
だな。
知ってたらすまん。
それぞれ18世紀と19世紀の小説家なんだが、自分の名前が残り続けるとは思っていなかっただろう。
ちなみにマゾッホ伯爵のほうは存命中から「マゾヒズム」だの何だのと議論されていたらしい。
なんという精神的処刑。
ああ、でも、むしろご褒美か。
元祖Mだし。
いや、本家Mと言うべきか?
どっちでもいいな、うん。
「おいおい、サド侯爵とマゾッホ伯爵が混じってるぜ」
俺の思考とほぼ同時、ヨシトが玲於奈に突っ込みを入れていた。
「つーかサド侯爵とくりゃアレだ。なあ、“俺”、覚えてるか? 中学のころに男子で回し読みしてたよな。これはエロ本じゃない、文学だ。なーんて言い訳してよ」
「よく知ってるな」
「当たり前だろ、同一人物なんだからよ。……って、いきなりそんなことを言われてもワケが分かんねえか。
オーケー安心しろ、ちゃーんと説明してやる。
そいつがおまえを蘇らせようとしてたのは知ってるな?」
「ああ、記憶を覗いたからな」
ヨシトの言葉に俺は頷く。
「なら、お前はその成果ってことか」
「ピンポーン、正解。商品としてスーパーヨシトくん人形をプレゼント!
……したいトコだが、まだ作ってねえんだよ。ま、そのうち届けるから待っててくれ。
ともあれ正体はお察しの通り、ってヤツだ。
高校3年生のあの日、おまえはトラックに轢かれて死んじまった。
その屍に神薙の秘術とやらをブチ込んで生まれたモノのひとつ、それがオレだ。
よろしくな、本家芳人。ああいや、元祖芳人にしとくか? ……むしろお兄ちゃん? オレ、生まれたのは昨日の深夜なんだよ。18年分の記憶はあるが、リアルで生きてるのはまだ1日足らず。なんつーか違和感すげえわ、コレ。大河ドラマを途中から見始めたような気分だよ」
「俺のくせによく喋るんだな」
「ああ、悪ぃ悪ぃ。自分の半身っぽいモンに出会って感動中なんだよ。
つーかおまえ、オレのくせにテンション低いな。
異世界ってのはそんなにキツいとこだったのか?
ま、今はおたがい第二の人生だ。パーッと楽しくやろうぜ。パーッとな」
いったいどこから取り出したのか、紙吹雪をハデに散らすヨシト。
そういや俺、昔はこういうどうでもいい演出にこだわってたよな。
服に花火を仕込んで火傷しかけたこともあったっけ。
「さっきも言ったがここで殺り合うつもりはねえ。みんなの公園を血で汚すとか最悪だろ。
そういうわけで取引をさせてくれ。まずはオレから暴露するが、実はYHYNから命令されてんだよ」
「YHYN?」
「ヤンデレ・ホモ・ヤロウ・ナオキ。オーケー? 唯一神っぽい略し方で面白いだろ」
「ただの悪趣味だ」
「ま、その通りだわな。ともあれナオキからのお達しなんだが、オレはピンチの真姫奈を助けて、いい感じにフラグを立てにゃならんらしい」
「なら、そっちの要求は真姫奈の返還か?」
もちろん応じるつもりはない。
それは親父の戦力を削ぐためでもあるし、なにより俺自身、一度でいいから真姫奈と話がしたかった。
となれば交渉は決裂、かと思いきや、
「いやいや、あのヤンデレに従うとかありえねえだろ。アイツはオレらの仇だしよ。
ナオキもそのへん分かってたんだろうな、キッチリ精神干渉をカマしてくれやがったが、親切な和服美人が手助けしてくれたんだよ。ま、それはオレのプライベートだ。別にいい」
和服美人?
いったい誰だろう。
俺の知る範囲で思いつくのは……伊城木月か。
けれどあの女は親父にべた惚れのはずだし、ヨシトの洗脳を解くなんて考えられない。
まさかここにきて第三勢力とかそういう展開なんだろうか。
そういうのはやめてくれ。ややこしいから。
「つーか女のトラウマと罪悪感につけこんでオトすとか最悪だろ。男として終わってる。
しかもナオキのヤツ、後でオレの身体に憑依する気満々だしよ。好きな女くらい自分で口説けっての。
そういうわけでマキナのことは好きにしてくれ。
ほれ、『これまで奪った命の数だけ俺の子供を産めー』みたいな鬼畜展開とかどうよ?」
「発想が最低すぎないかそれ……」
お前は性欲を持て余した男子中学生か。
「おまえいま『男子中学生っぽい』って考えただろ」
「よく分かるな」
「当たり前だ、同じ人間なんだしよ。
ともあれオレは自由の身だ。呪いも消えてるし、恋愛だってできる。
つーわけで喪われた青春を取り返そうと思うんだ」
「学校にでも行くつもりか?」
「おいおい、ハイパーヨシトくん人形2個目かよ。その通りだ。どっかの高校に潜り込んで、美人の女教師に特別授業をしてもらったり、お嬢様な感じの転校生にハンバーガーを食わせてカルチャーショックを受けさせたり、アイドルな同級生のためにストーカーを撃退したり――まあそんな感じのラブコメいた毎日を送る予定なんだよ」
「いや、そんなマンガみたいな展開はありえないだろ」
「うるせえこの非モテハーレム野郎」
なんだその矛盾しまくったフレーズは。
「じゃあ訊くが、おまえ、キャラ的にモテるタイプかよ? 違うだろ? ナオキだのマキナだの、ついでにレオナだったかマァムだったか、そこのお嬢ちゃんを見りゃ分かる。オレらはなんかこう、アレな感じのヤツばっかり引き付けるんだよ。誘蛾灯とか流し雛みたいなもんだ」
くっ。
否定できない。
生まれ変わってからは綾乃がその代表格だし、異世界でもわりと身に覚えがある。
「……オレはそれを乗り越える」
キリッと引き締まった顔で宣言するヨシト。
「高校で甘酸っぱい青春を味わって、T● LoveるかつT● Heartなハーレムを築くんだ。つーわけで偽の戸籍とか用意してくれねえか? どうせ妙なコネとかあるだろ、本祖芳人。……本家と元祖を混ぜてみたんだが、なんか吸血鬼っぽいな、コレ」
まったく何を言っているのやら。
というかコイツ、本当に俺なのか?
「ああ、そうそう。おまえの死体から作られたのはオレだけじゃないからな。
にせ仮面ライ●ーみたいな感じでワラワラといるし、そいつらの動きには気を付けろよ」
そんな風にあっけなく重要情報を明かすところも含めて、むしろ玲於奈に似ているような――
ブルルルルルルッ!
俺の思考を打ち切ったのは、ポケットの中の振動。
それは執事の時田さんから連絡用に渡されていた携帯電話だった。
『芳人様、少々困ったことになりました』
時田さんの声はいつもと違って余裕のないものだった。
曰く。
未亜、そして綾乃。
2人は俺の無事を知って京都へ向かうことを決めたらしい。
真月家の車に乗り、そして、
『つい先程、何者かの襲撃を受けて消息を絶ったとのことです……』
昨日は「なろう」のサーバーが落ちてびっくりしました。




