第40話 「寝取る」をG○OGLE翻訳にかけると「Nettle」。ネ↑トゥー↓
俺は退魔師たちの制圧を終えると、そのまま朝輝と白夜の争っている現場へと向かった。
中庭の端から延びる、竹林に挟まれた細道。
そこを全速力で駆け抜ける。
サアサアと滝の流れ落ちる音が聞こえ、やがて水場に出た。
「テメエももうおしまいだな、朝輝。――《中呪》・《愛染明王金剛杵雷撃》!」
「私を舐めないで貰おうか、白夜。――《中呪》・《金剛夜叉明王金剛杵雷撃》!」
激しい術の応酬を繰り広げる男が2人。
年は20代後半から30代前半くらいだろうか。
片方はキリッとした黒いスーツ姿で、やり手のビジネスマンといった雰囲気。
背は高く、銀フレームのメガネが知的な空気を漂わせている。
もう片方はスーツを着崩しており、印象としてはホストっぽい。
脱色した髪をやや長めに伸ばし、毛先をピンと外ハネさせていた。
【鑑定】曰くビジネスマンが朝輝、ホストが白夜とのこと。
ここまで出会った退魔師に比べると、ずいぶんマトモな恰好だ。
「逝けやクソ兄貴がァ! ――《震為雷》!」
「雷は落ちるもの。天に届くと思うな、愚弟。――《天雷无妄》」
白夜の手から無数の稲妻が放たれるが、しかし、どれも朝輝に届かず地面に落ちる。
「雷、山、地、月、水、火、風、天。八卦易経、常世の理に通ず。塵ひとつ残さず消滅するがいい。――《冥王》」
「バカが、その術はオレの十八番なんだよ! 《烈王》!」
互いの頭上で漆黒の光弾が大きさを増し、猛烈な勢いで激突する。
衝撃波が弾け、あたりに暗闇の火花が散った。
……戦っているのは、朝輝と白夜だけじゃない。
「死捨合合合合合合發!」
「雄乎乎乎乎乎乎乎發!」
両者の中間、そこでは6本の腕を持つ異形2体が互いに激しく切り結んでいた。
ステータスは、というと、
[名前] あっしゅ (主人:朝輝)
スーパー白夜マン3号 (主人:白夜)
[性別] 男
[種族] 阿修羅
[年齢] 15歳
[称号] 【乙種式神】
[能力値]
レベル210
攻撃力 315
防御力 297
生命力 256
霊力 345
精神力 326
敏捷性 312
[アビリティ]
【三面六臂】
彼は三つの顔と六本の腕を持つ。
[スキル]【六刀流Ⅷ】
もう名前については突っ込まないからな。
乙種式神。
さっきの土蜘蛛には及ばないものの、まあまあ強い式神のようだ。
「介入なさいますか、総帥閣下」
尋ねてきたのは静玖だ。
子供たちは中庭に置いてきた。連れてきても危険なだけだしな。
「ああ、当然だ。シェルはそこで援護を頼む」
「承知いたしました。――『すべては神の真意のままに』」
秘密結社っぽい文句とともに一礼する静玖。
俺は物陰から飛び出し、まず、片方の阿修羅に掴みかかる。
「《分析術式》・《汝の正体を明らかにせよ》」
脳裏に浮かぶのは、阿修羅を構成する術式。
あの土蜘蛛に比べるとずいぶん単純だ。
これなら弄るのは難しくない。
「《強奪術式》・《汝の遣いは我が術技の前に堕落せん》」
やったことは、支配権の強制移譲。
この瞬間、一方の阿修羅は俺のものになった。
残るもう一方にも《強奪術式》をかける。
ここまでで2秒。
「チッ、何者だァ!?」
「我々の式神を奪い取っただと!?」
白夜と朝輝は驚きの表情をこちらに向ける。
ここで一気にケリをつけるのもいいが、後の交渉を考えると、もう少しインパクトを与えておきたい。
だったら――
「《影霊術式》・《汝は我が下僕として現世に舞い戻るべし》」
瞬間。
あたりの竹林をなぎ倒し、夜空を覆うほどの大蜘蛛が顕現する。
甲種式神、ヤツカハバキ。
真の名前を、つちっこ。
さっき倒したんじゃないのかって?
影の中に捕らえただけだ。
殺しちゃいない。
あのあと退魔師たちと戦いながらつちっこの術式を分析し、主人を俺に書き換えた。
《時間術式》で全身の傷を修復し、ついでに、あちらの世界の魔法も組み込んだ。
おかげでステータスは5割増し、レベルは500を突破している。
「飛哉亜破亜亜亜亜亜亜亜亜亜亜亜亜亜亜亜亜亜亜亜亜亜亜發!」
強化されたことを喜んでいるのだろう。
つちっこの咆哮が高らかに響く。
全身から立ち上る魔力が、あたりの風景を陽炎のように歪めた。
そこから先は、一方的な蹂躙だった。
戦後処理に移る。
といっても、俺はさほど大したことをやっちゃいない。
気絶させた朝輝の懐からスマートフォンを拝借して、あちこちに電話を掛けただけだ。
まずは真月家執事の時田さん。
「ご無事でしたか芳人様、この時田、心臓が干からびるような思いで心配しておりましたぞ……」
「すみません迷惑をおかけしまして。今、鴉城家の屋敷にいるんです」
「ほほう?」
「朝輝派も白夜派も全滅させたんで、ちょっと来てもらっていいですか?」
「おお、これはまた……」
絶句する時田さん。
とりあえず状況把握のため、すぐにこちらへ来てくれるとのこと。
続いて、宗源さんにも電話する。
「なんと! もう朝輝と白夜の首を取ったとな!?」
「いえ、殺してはいないです。気絶させただけで」
「よいよい、ワシのアドバイスが生きておったようじゃな」
思い返してみれば宗源さん、『静玖を助けたくば、鷹栖文鷹・鴉城朝輝・鴉城白夜の三名を討ち果たせ』なんてこと言ってたっけ。まさかその通りの展開になるとは思わなかった。
「これは血が滾ってきたぞ。おまえさんと時田だけでは事後処理も大変じゃろう。今からヘリを出す、ちょっと待っておれ」
「京都に来るんですか?」
「うむ。こんな面白そうなイベント、見逃す手はないからのう!」
宗源さんの声は、やたらめったら弾んでいた。
ものすごく楽しそうだ。
「ではまたな、芳人!」
プツリと通話が切れる。
そういうわけで宗源さんも合流することになった。
わりとありがたい話と思う。
俺、あんまり退魔師業界について詳しくないしな。
この後の交渉をまとめるにあたっては、宗源さんの知恵や経験を思いっきり頼らせてもらおう。
ふう。
これで一段落、かな。
騒ぎになると厄介なので、屋敷にいる人間は戦闘員も非戦闘員もみんな眠らせてある。
おかげで屋敷は静かなものだ。
俺は5歳児の姿に戻り、中庭の一角で休憩していた。(変身解除で一瞬だけ魔力が枯渇したものの、すぐに静玖が補給してくれたので気絶せずに済んだ)
ベンチに腰掛けたまま風景を眺める。
大きな池、そこに掛かった赤い橋。
辺には桜が咲いていて、ハラハラと花びらが散った。
「隣、いいかな」
声をかけられる。
長い黒髪が、風にふわりと揺蕩っていた。
月光が白磁の肌を冴え冴えと照らしている。
鴉城深夜だ。
「ああ、どうぞ。――じゃ、俺、用事があるから」
「いやいやいや、どうして逃げるんだい」
「だって話が長そうだし……」
「そう言わずに、ほら、せめて礼だけでも言わせておくれよ」
引き留めようとする深夜に負け、俺はベンチに座り直す。
ま、本気で席を外すつもりはなかったけどな。
深夜って、静玖とは違う方向性でいじめてオーラが出てる気がする。
「ありがとうヨシト。方法はちょっと……どころじゃない強引さだけど、とにかく、結果としてキミは朝輝派のみんなを助けてくれた。感謝してる」
両陣営を叩き潰してそれ以上の被害を防ぐ。
今更かもしれないが、たしかに無茶苦茶な手段だったと思う。
「本音を言えば白夜派だけをやっつけてほしかったけど、さすがにそれは無理だと思っていたよ。なにせボクたち朝輝派は、相鳥静玖を陰謀の道具として使い捨てようとしたわけだしね。……だから、ヨシトにとって最大限の譲歩がこの結果だったんだろう?」
どうなんだろうな。
俺はそこまで細かく考えてたわけじゃない。
たぶん深夜に頼まれなくても同じことをしていたと思う。
利権争いや派閥争いは嫌いなんだ。
前世、あちらの世界。
人族はギリギリまで追い詰められても内輪揉めばかり――って、愚痴っぽい話はやめだ、やめ。
どうせ揉むなら女の子の身体がいい。
胸とか尻とかふとももとか。
そうそう、まったくもって関係ないんだが、タガログ語ってのを知ってるだろうか。
フィリピンの公用語のひとつだ。
前世にネットで調べた知識なんだが、ふとももはタガログ語でヒータと言うらしい。
ヒータ。
なんか文字列的にエロくないか?
ちょっと実験してみよう。
1.俺は深夜のふとももに目を向けた。
2.俺は深夜のヒータに目を向けた。
どうだろうか。
2番のほうがイケナイ感3割増しだと思う。
たぶんこの「ヒ」って文字が「秘」というイメージに通じてうんぬんかんぬん。
以上、愚痴っぽい空気を消すための雑学でした。
「ところでヨシト、少し、思い出話をしていいかな」
俺が微妙な表情になっていたのに気づいたのだろうか、深夜はそんな風に話題を変えた。
「これはナオキと出会う前のことだけどね」
そう前置きして、彼女は語り始める、
曰く。
高校時代、深夜は繁華街でガラの悪い連中に絡まれたことがあるらしい。
すでに乱裁烏としての修行を積んでいた彼女にとって、その場を実力行使で切り抜けるのは決して難しいことではなかった。とはいえ目立つ行動は避けるべきであり――
「どうしたものかと困っていたら、親切な人が助けてくれたんだ。ボクのことをまるで普通の女の子みたいに心配してくれて、ああ、とても嬉しかったよ」
なにその甘酸っぱい青春のワンシーン。
羨ましすぎてそのへんの桜を意味もなく爆発させてしまいそうだ。
「当時のボクはうぶで、助けてくれた彼に名前を訊くこともできなかった。公園でちょっと雑談して、それっきり。……けれど心の片隅でいつも再会を期待してたんだ。思い返してみれば、あれがボクの初恋だったんだろうね」
深夜は視線を空へ向けると、虚空に右手を伸ばした。
まるで過ぎ去った日々を掴み取ろうとするかのように。
それから、ゆっくりとこちらへと向き直り、
「ヨシト、キミはあの人と雰囲気がそっくりなんだ」
と、口にした。
「この業界じゃ50年に1人くらいは早熟の天才が生まれるけれど、それでも限度ってものがある。
キミは年齢と比べてあまりに大人びている。不自然だよ。だからボクは思うんだ――」
――キミは、彼の生まれ変わりじゃないかな、って。
* *
前世。
俺は何度か、不良に絡まれた女の子を助けている。
ただし当時はダンディズムとハードボイルドを拗らせており、「名前も告げずに去るのがベスト」なんて考えていた。
助けた子の顔もろくに見ちゃいないから、深夜と縁があったかどうかも分からない。
* *
俺と深夜は並んでベンチに座っている。
互いの距離はそう近くない。
その間を、四月の肌寒い風が駆け抜けた。
「……なーんて、冗談だよ、冗談」
長い沈黙のあと、深夜はクスリと笑みを浮かべた。
「生まれ変わりについてはナオキが研究してたし、おかげでボクもちょっとは知ってる。転生なんてものは偶然に起こるものじゃない。条件を揃えて術式を実行しても、99パーセントは失敗する。その程度のものだよ。ま、無限大の魔力を用意できるなら話は別だけどね」
ゆえに「俺=初恋の彼」ではない、と。
深夜はそう結論付ける。
実際のところ、どうなのだろう。
前世の記憶ってわりと曖昧だからな……。
うーんと頭を悩ましていると、ふと、遠くからブロロロロロ……と風切る音が聞こえてくる。
空に目を向ければ、ヘリが一台。
小さな影が落ちてきたかと思うと、バッと落下傘が開いた。
「待たせたのう、芳人」
降り立ったのは宗源さん。
ほんと元気だなこの人。
さらに同じタイミングで時田さんも駆けつけてきて、全員集合。
それじゃあ戦後交渉みたいなものを始めようか。
朝輝と白夜を起こし、話し合いの準備をする。
滝近くの和室、集まったのは四人だ。
俺、宗源さん、朝輝、白夜。
ちなみに俺は18歳の姿だ。
黒騎士モードのまま交渉というのは失礼だし、かといって5歳児の見た目じゃ締まらないしな。
まずは大前提として、現在に至るまでの経緯を確認することとなった。
ここで意外な事実が明らかになる。
「結界を覗き込んだ拍子に中へ引きずり込まれるなんて、姉さんはだめだなあ。だめ可愛いなあ」
鴉城朝輝。
外見はクールなメガネキャラであるものの、なんと筋金入りのシスコンだった。
甘やかし系のダメっ子製造機。
「しかも自分のせいで私たちが危機に陥ったと勘違いするなんて、ああ、愛おしくてたまらないよ」
どうやら深夜のへっぽこ軍師ぶりは周知の事実であり、朝輝派はみな当たり前のように白夜派の襲撃を警戒していたらしい。
「ケッ」
吐き捨てるようにつぶやく白夜。
「これだからクソ兄貴はクソなんだ」
見た目はチャラいホスト風だが、実はそれなりの常識人なのだろうか。
「姉貴のダメっぷりは、もっとこう、遠くから愛でるもんなんだよ。ったく」
お前もシスコンかよ。
俺、鴉城家は滅ぶべきだと思います。
戦闘シーンはカットしましたが、朝輝と白夜は全力モードだとカラスの着ぐるみ姿になります。
「天に輝く夜の使者、レイヴンホワイト!」
「地に輝く朝の使者、レイヴンサンシャイン!」
「邪悪なる闇の騎士よ!」
「とっとと地獄に帰るがいい!」
みたいな。
さすがに冗長なので削りました。




