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第39話 蜘蛛で糸とかエロ展開必須だけど今回は自重した

需要があれば緊縛シーン書きます。ただし雉間さんの。

後半三人称あり。

 いやー大蜘蛛は強敵でしたね雉間さん。まさか韋駄天(いだてん)の力を借りての超加速で女の子を助け、さらには大蜘蛛の足を一本ずつもぎ、その順番で五芒星を描いていかにも陰陽師っぽい技で一撃必殺するとは思いませんでした! 


 ……という展開もあったかもしれないが、まあ、世の中そんなに甘くない。


「甲種式神など何するものぞ、安倍晴明の遺せし術を見るがいい。臨! 兵! 闘! 者! 皆! 陣! 列! 在! 前! 《(mūla)(mantr)》・《(oṃ vidhati)(mahāghota)(svāhā)――ぬうううっ!?」


 詠唱途中に糸を吐きかけられ、全身グルグル巻きにされる雉間。


「や、やややっ、ヤァァァメロォォォォォォォォ!」


 大蜘蛛はそのまま雉間をグルングルンと振り回し、仰角45度で夜空の向こうに投げ飛ばした。


「ヌワーッ!」


 イメージとしてはアンパンなパンチを食らったバイキン○ン。

 これがアニメならジョークで済むが、あいにくここは現実だ。

 地面に叩き付けられれば、間違いなく雉間は命を落とすだろう。

 

「《加速術式(アクセラリィ)》・《汝は我が()鈍足に()追いつくこと()能わず()》」


 俺は放物線を描いて飛ぶ雉間を追い越し、落下地点で優しく受け止めた。


「大丈夫か」

「き、貴殿は……?」

「“神の真意(ダアト)”。近しい者からはそう呼ばれている」


 本名を名乗るわけにもいかず、静玖のノートから設定を借りることにした。

 

「あの大蜘蛛は何だ」

 

 そう問いかけたものの、正直なところ返答は期待していなかった。

 向こうからすれば初対面で、なおかつ、味方というわけでもないのだから。


「…………甲種式神。日本国内でも七体しか存在しない最悪の呪装兵器だ」


 けれど雉間は答えた。

 躊躇いがちながらも、ポツポツと話し始める。


「正式名称は『ヤツカ(八束)ハバキ(覇吐)』、かつて鴉城(あじろ)家が調伏した土蜘蛛よ。そやつに呪術的な改造を重ね、天魔・鬼神の域まで届かせておる。生半可な術では弾かれよう」


 どうやらかなり厄介な敵らしい。

 たしかに【鑑定】でもそういう結果が出ていた。

 



[名前] つちっこ

[性別] 男

[種族] 土蜘蛛

[年齢] 1056歳

[称号] 【甲種式神】【ヤツカ(八束)ハバキ(覇吐)


[能力値]

 レベル398

  攻撃力 805

  防御力 399 (+1000)

  生命力 550

  霊力   844

  精神力 521

  敏捷性 232


[アビリティ]

 【千年化外】

  彼は千年もの時を生きた大蜘蛛である。

  もはや存在そのものがひとつの神秘と化しており、

  同じだけの歴史を持ったモノでしか傷をつけられない。

  防御力に大幅なボーナス。


[スキル]

 【高速再生Ⅹ】

 【陰陽術耐性Ⅴ】


[状態異常]

 暴走:白夜派のコントロールを受け付けていない。


 ※「蜘蛛の口元にぶら下がってる子は、朝輝って人の娘さんだよ。

 名前は鴉城黎明(れいめい)。できれば助けてあげてね」 (byアルカパ@善神アピール)


 あのー、白夜派のみなさーん。

 つちっこくんが暴走してますよー。


 おいおい。

 まずいんじゃないかコレ。

 とくに黎明って女の子。

 ふとした拍子にバリボリ食われてもおかしくない状況だぞ。

 

 俺は急いで戦場に戻ろうとして、


「黒騎士よ、これを持っていけい」


 雉間が投げつけてきたのは、竹簡だった。

 丁寧な書体で梵字(マントラ)が彫り込まれている。

 

「韋駄天の呪符だ。その木気をもってすれば、土気の化外たる大蜘蛛を倒せるかもしれん。……後は任せた。黎明さまを助けてくれよ、我が宿敵(ライバル)


 ニッと口元を吊り上げる雉間。

 誰がライバルだ、誰が。

 とはいえここで議論をしている暇はない。

 再び《加速術式》をかけて、走り出す。

 

 それとほぼ同じタイミングで、


「れいめいをはなせ!」

「いまたすけるからな!」


 大蜘蛛という強敵を前に攻めあぐねている退魔師たちの間から、二人の少年が飛び出した。


 どちらもかなり幼い。

 5歳くらいだろうか。

 二人は果敢にも大蜘蛛へと接近し、同時に呪符を投げつける。


いそぎ()りつり()ょうの()ごとく()あるべし()もくこくど(木剋土)!」

いそぎ()りつり()ょうの()ごとく()あるべし()すいしょうもく(水生木)!」


 呪符は空中でパァンとはじけ、無数の木の葉へと変じた。

 風が吹き(すさ)び、真空すら生み出して葉っぱが蜘蛛へと突き刺さる。

 

()()()()()()()()!」


 だが大蜘蛛は怯むことなく、むしろ猛烈な戦意を乗せた咆哮を放っていた。


「ひっ……!」

「っぁ……!」


 立ち竦む少年二人。

 威圧感に呑まれていた。

 大蜘蛛は左の前肢を高く掲げ、少年たちを容赦なく叩き潰そうとした。


 俺はそんな二人の前に立つ。

 ステータス上、防御魔法をフル稼働させても受け止めきれるか怪しい。

 鎧を少し削られるだろうが、どうせ《時間術式》で再生すればいいだけの話。

 必要経費というやつだ。

 ――そんな風に覚悟を決めた矢先。


「《黒死鳥は(ゴッド)我に立ち(アロー)塞がる(・オブ・)者を光芒(シャイニング)に葬る(スパーク)》!」


 横合いから飛び込んできたのは、稲妻を纏った漆黒の神鳥。

 蜘蛛の肢を阻むように激突し、爆発を起こす。

 

「ご無事ですか、総帥閣下!」


 魔法を放ったのは、物置小屋から出てきたばかりの静玖。

 燕尾服姿になっている。

【夜よ来たれ】を再び発動させたのだろう。


()()() () () () () ()……」


 呻き声をあげる大蜘蛛。

 魔法を食らった肢はボロボロに炭化し、崩れ落ちている。

 あれ?

 千年の歴史を持ったものでしか傷つけられないはずだよな。

 ああ、そうか。

 今の静玖は、綾乃の――邪神の力を借りている。

 存在している期間は千年どころじゃないだろうし、そりゃ、魔法が効いて当然だ。


「ナイスフォロー、シェル」

「光栄です、総帥閣下」


 俺は短く告げ、一気に大蜘蛛まで距離を詰める。

 静玖が肢を迎撃してくれたおかげで、かなりの手数を省くことができた。


「《時間術式(クロックリィ)》・《汝に()幾星()霜の()時を()与えん()》」


 雉間から渡された呪符は、よく見るとヒビが入っていて効力を失っていた。

 けれど問題ない。 

《時間術式》でもって、これに二千年分の時間を付与する。

 あっちの世界にも「ウン千年もの時を経た伝説の剣」なんてものがあったが、《時間術式》の前じゃ大した飾りにもならない。

 姿形を変えず、風化もさせないまま、悠久の時を経た神秘の宝具を一瞬で生み出す。

 これができてようやく邪神との戦線に立てる最低ライン。

 甲種式神?

 天魔・鬼神の域?

 俺からすればこの程度、ちょっと強い雑魚キャラでしかない。


 大蜘蛛の左目に竹簡を突き刺した。

 さらにそれを触媒にして魔法を放つ。


「《木霊術式(ドリアドリィ)》・《駆け巡れよ(グングン)死棘の薔薇(グングニル)》」


 それは、媒介にした物質から無数の棘を伸ばして敵を引き裂く魔法だ。

 絶叫が響いた。

 大蜘蛛は苦し紛れに右の前脚を振り下ろすが、

 

「――《月輪の斧は(ムーン・)旋風の如く(トマホーク・)怨敵の首を(ブーメラン)落とす(・スラッシュ)》」


 再び、静玖によって阻まれる。

 三日月を象った魔力の斧が飛来し、その足を切り落としていた。

 いいアシストだ。

 俺はさらにいくつもの魔法を放ち、大蜘蛛へダメージを与えていく。

 反撃はあった。

 けれども静玖がすべて払いのけてくれる。

 一緒に戦ったのは今日が初めてだというのに、奇跡的なくらい呼吸が合っていた。

 かつてないほどの一体感の中、俺は大蜘蛛へとトドメを刺す。


「《影霊術式(シャドウリィ)》・《汝、我が虚影の城(ツチッコハ )の住人となるべし(モラッテイキマスネ)》」


 俺の足元から延びる影が広がり、瀕死の大蜘蛛を呑み込む。

 亡骸も残さない。

 断末魔を叫ぶ暇すら与えず、地上から()消滅させた。

 

 もちろん大蜘蛛に捕まっていた女の子のことは忘れちゃいない。

 ちゃんと助けて、今は右腕に抱えている。

 

「おじさん、ありがとう」


 お礼を言えるのは偉いと思うが、おじさんとはなんだ、おじさんとは。

 顔も見てないのに決めつけるんじゃない。

 

 複雑な気持ちになりつつも静玖のところへ戻る。

 そこには少年二人の姿もあったが、反応はそれぞれ真逆のものだった。


「ありがとな、おじさん!」


 片方は素直に喜び、


「れいめい、はやくこっちにこい!」


 もう片方は警戒心を露わにしていた。

 無理もないか。

 甲種式神とやらはとんでもなく強いらしいし、それを倒した相手となれば、感謝より恐れが先立つこともあるだろう。

 前世の時点でそういう反応には慣れていた。


「黎明さまをお助けしろ!」

「ご息女を奪われたとあっては朝輝さまに合わす顔がないぞ!」


 だしぬけに、朝輝派の退魔師たちが攻撃を仕掛けてくる。

 ま、当然だ。

 俺はここまで朝輝派も白夜派も関係なくぶちのめしてきたしな。

 ハタから見れば正体不明の第三勢力。

 朝輝派としては「黎明さまを(さら)おうとしている!」と考えるところだろう。


「皆の者、白夜様への忠義を見せよ!」


 ここで白夜派も動いた。


「黎明は放っておけ! 我々にとっては何の損害でもない!」

「これは機ぞ! 朝輝派を皆殺しにせよ!」

「オオオオオオオオオオオオオオッ!」


 連中は俺たちを無視し、朝輝派へと襲い掛かった。

 双方とも主戦力をこの中庭に集めていたらしく、数百名規模で凄惨な殺し合いが始まる。

 たとえばこれが誇りを賭けた戦いなら、まあ、まだ救いがあっただろう。

 けれど実際はそうじゃない。

 ただの内輪揉め、醜い派閥争いだ。


 それを目にして、


「なんでだよ! なんでそんなにころしあいがしたいんだよ!」

「やめろよ! れいめいがたすかったからもういいじゃないか!」

 

 二人の少年が、必死に声を張り上げた。


「……こわいよ」


 鴉城黎明が悲しげに呟く。


 俺は、というと。


「シェル、ありったけの魔力をよこせ」


 もともと双方を殴って止める気だったが、尚更に急ぐべきだと感じた。

 

「こんなの子供に見せていいものじゃない。五分で全部終わらせる」

「承知しました、芳人さま。わたしのすべてをあなたに捧げます」


 さあ。

 強引かつ迅速に、この戦いに幕を下ろそう。















 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆















 白夜の乱。

 後にそう呼ばれることになる事件は、あまりにも意外な形で終わりを迎えた。


 予期せぬ第三勢力。

 漆黒の騎士により、両陣営は壊滅的な打撃を被ったのだ。

 

 乱に加わった退魔師は、双方合わせて500名超。

 そのほとんどが黒騎士によって戦闘不能へと追い込まれた。

 白夜派においては甲種式神のヤツカ(八束)ハバキ(覇吐)を投入したものの、わずか3分で撃破されている。


 これがきっかけとなり日本の退魔師業界は大きな転換期を迎えることになるのだが――今はそれよりも、3人の少年少女の話をしよう。


 鴉城朝輝の娘、黎明。

 その幼馴染である孔雀(くじゃく)(すばる)、そして鴨上(かもがみ)(あきら)


 彼らは白夜の乱において、黒騎士と接触している。

 三人が黒騎士に対して抱いた感情は、それぞれ全く異なるものだった。



 黎明は深い感謝の念を覚えた。

 いつか黒騎士に会うことがあれば、必ずお礼を言おうと心に決めた。


 孔雀昴は憧憬を覚えた。

 百を超える退魔師を相手取ってなお、余裕のままに自分たちを守り抜いた黒騎士。

 その姿は孔雀昴の脳裏に焼き付き、彼の生き方を決定づけた。


 鴨上章は恐怖を覚えた。

 百を越える退魔師を相手取ってなお、余裕のままに蹂躙する黒騎士。

 その姿は鴨上章の脳裏に焼き付き、彼の生き方を決定づけた。


 後年、彼ら三人と黒騎士――伊城木芳人はひとつの学び舎で顔を合わすことになる。

 それがどのような喜劇を、あるいは悲劇を引き起こすことになるのか。


 今はまだ、誰にも分からない。



 


作者も分からない。

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