第24話 「ジロウ、章始めは人物紹介で話数を稼ぐのじゃ」「やだ!」
本話で1年ほど時間が進み、ハーレム要員が一人増えます。お金持ちです。
真月綾乃の誘拐事件からしばらくが過ぎた。
月日は少しだけ流れ、再び春がやってくる。
俺は幼稚園2年目となり、「年少組」から「年中組」に進級した。
この時のクラス替えで未亜とはバラバラになってしまった。
元ばら組だけに。
……すまん今のナシ。
「今日は、綾乃と一緒に花冠を作ったの」
帰りのバスの中、未亜は楽しそうに一日のできごとを話す。
俺は「すみれ組」になったが、未亜は「ゆり組」。そして真月綾乃も「ゆり組」だったりする。
クラスの名前が影響しているのかどうかは知らないが、二人はやたらめったら仲良しになっていた。
お兄ちゃんちょっと寂しい。
さらには、
「未亜さま、芳人さま、お迎えにあがりました」
休日になると33%くらいの頻度で、黒塗りのリムジンが家にやってくる。
車から出てくるのは、いつもと同じロマンスグレーの老紳士。
行き先は真月家のお屋敷だ。
そうして夕暮れまで三人で遊……ばない。
未亜&綾乃はなんなのおまえらストロベリーがパニックしてるのってくらいのイチャイチャで、この前なんてお互いに手を合わせて「二人の絆が永遠でありますように」とかやってたんですがコレもうキマシタワー確定ですよねというか片方が魔王の後継者でもう片方が邪神とかマジ怖いんですけど勇者さま何とかしてくださいよっていうか俺勇者だったひいい。
取り乱してすみません。
ともあれ2人の間に入り込む余地はなく、ついでに俺は別の人物から呼び出しを受けていた。
「――今日もよく来た喃」
真月宗源。
当主の座はとっくに退いたものの、いまだ大きな影響力を持つ真月家の重鎮だ。
今年で68歳になるらしい。
宗源さんが住んでいるのは真月家の離れ、畳敷きの和風建築だ。
あたりは竹林に囲まれ、遠くからはカポーンと鹿威しの音が聞こえてくる。
どうでもいいが「ししおどし」と聞くと、「獅子脅し」って書きたくなるよな。
けれど正しくは「鹿威し」らしい。
さあ全国の中二病諸君、「鹿」と書いて「しし」と読ませる系の苗字を作って黒歴史を増やそう。
「……」
宗源さんは無言のまま、こちらへ鋭い視線を投げつけてくる。
たぶん普通の幼稚園児だったら泣いているだろう。
とはいえこの人、満面の笑顔でフィリスの椅子をやってたしなあ。
俺の頭をよぎるのは、数か月前のヨトゥンヘイム。
アレを見てしまった以上、もはや宗源さんには何の威厳も感じられない。
「今日は、マリオカ○トでもするか喃」
やがて宗源さんはポツリとそう呟くと、ニンテンド○64の電源を入れた。
厳しそうな顔つきに似合わずゲーム好きらしいが、遊んでくれる相手がいなくて退屈なんだとか。
そのくせ執事やお手伝いさんには「あの子供がゲームゲームとうるさいから仕方なく付き合っているだけじゃ」と言い訳しているあたり、ややこしい性格だと思う。
俺が宗源さんの「ゲーム友達」になったのはフィリスの紹介によるものだが、まあ、その辺の話は今度にしよう。
こうして穏やかに日々が過ぎていく。
他の連中の消息についても話しておこうか。
まずはフィリス。
彼女は自分の本拠地に帰った。
なんでもイギリスの近くにある島をひとつ、まるごと結界で包んで所有しているんだとか。
そこで研究活動にいそしんでいる。
ただまあ、月に一回くらい俺の定期診察にやってくるので交友が絶えたわけじゃない。
次に相鳥静玖。
この4月からは中学3年生、いよいよ高校受験のシーズンだ。
彼女は真月学園の高等部を目指しているらしい。
『合格したら松来市に引っ越しますので、ぜひぜひ遊びに来てくださいねっ!』
『そのセリフ、どう考えても落ちるフラグだよな』
『ええっ!? そこはご主人さまのコネで……ほら、宗源さまから推薦状を出してもらったり……』
『いや、普通に勉強しろよ』
静玖の自宅は東京近郊にあり、本来、俺の家からじゃ念話は届かない。
そこでフィリスに協力してもらい、特殊なマジックアイテムを作ってもらっていた。
黒曜石のペンダント。
これを持っている者同士は、本州の端と端くらいの距離なら会話を交わすことができる。
本来は神薙真姫奈やアリア・エル・サマリアの報復に備えてのものだったんだが……、最近、「寝る前のおしゃべり」にしか使ってないんだよな。
30分くらい静玖の雑談につきあって、受験頑張れと励ましたり、悩みがあれば耳を傾けたり。
この頃やっと日本の退魔師業界も落ち着き始めたものの、それでも厄介事は多いようだ。
原因のひとつは、去年の誘拐事件。
あれは、表向きの真相として、
――フィリスイリスと相鳥静玖の二人が、ヘルベルトの手から真月綾乃を救い出した。
ということになっていた。
俺と未亜の存在は伏せられているが、これはフィリスと宗源さんの配慮らしい。
曰く「幼いころからあの業界に関わると性格が歪む」とか。
そして実際、退魔師業界はロクでもないところのようだった。
事件解決に関わったとされる静玖は「他の家を出し抜いた裏切者」として扱われ、嫉妬と憎悪をぶつけられるばかり。相鳥家への風当たりは事件前より強くなったのだとか。
どんな魔境なんだ、退魔師業界。
ぜんぜん魔が退いてない。
むしろ魔が棲んでいる。棲みつきまくってる。
『けれど事件のおかげで真月家とのコネもできました。差し引きゼロ、ううん、プラスのほうがずっと大きいですよ』
そんな風に強がる静玖が心配で、俺はマメに連絡を取るようにしていた。
* *
春桜が散り、枝に青々しい葉を茂らせる。
燦々と太陽が照り付ける夏になった。
生活は大して変わっていない。
幼稚園では折瀬浩介を連れて遊びまわり、女子からはやたらと「とうとい」と言われる日々。
休日は真月邸の離れに向かい。宗源さんとゲーム対決をする。
やがて秋が訪れ、俺は5歳になった。
綾乃からは真っ赤なハンカチを送られたんだが、コレ、血染めじゃないよな?
問いかけてみると答えは無言だった。マジ怖い。
未亜からは、夕子さんと一緒に編んだ白いマフラー。マジ癒し。9割5分は夕子さんが担当したけど、兄的には妹の手編みという判定。
冬はこのマフラーのおかげで乗り切れたといっても過言じゃない。効果には個人差があります。
そして再び春が訪れ、桜が咲き始めるころ――
「将を欲すればまず馬を射よ、という。……おまえさんのことは、フィリス様との間を取り持ってもらうための道具としか思っておらんかった」
宗源さんが衝撃の告白をかましてきた。
「じゃが、最近ではおまえさんと遊ぶこと自体が楽しくなってきて喃……。本当の孫のように思うておる」
ポッと頬を染める69歳老人。
なんだこれ。
おじいちゃんを攻略するとか、オヤジのハーレム級に需要ないと思う。
どうなってんだ。
「芳人よ、おまえさんさえよければ、綾乃のいいなづ――――げはあああああああああっ!?」
容赦のないドロップキックが、宗源さんを吹っ飛ばした。
犯人は、もちろん、俺じゃない。
「久しぶりね、ヨシト」
突如として和室に飛び込んできたのは、銀髪の美女。
フィリスイリス・F・クラシアだった。
強烈な一撃を放ったにもかかわらず、その純白のドレスにはシワひとつ見当たらない。
「ちょっとソウゲンと話があるから外してもらっていいかしら」
断る理由はない。
いやあ、今日も平和だなー。
離れを去る俺の背後では、宗源さんの嬉しそうな悲鳴が響いていた。
……さっき一瞬感じたけど、宗源さん、自分から吹っ飛んでドロップキックの衝撃を減らしてたな。
実は武術の達人とかそういう設定がありそうだ。
これが、3月のこと。
そこからさらに1ヶ月が過ぎた、4月の夜。
『ご主人さま、助けてください…………』
もはや定例となった「寝る前の念話」。
真月学園高等部の入学式を明日に控えたにも関わらず、静玖はどこか暗く沈んだ調子だった。
何事かと思って訊ねてみると、
『今度、若手退魔師のトーナメントがあるんですけど、色々な事情のせいで優勝しないとまずいことになりまして……』
ほうほう。
『申し訳ありませんご主人さま、わたしに変装して出ていただけませんか……?』
先に言っておくと、トーナメント戦を予選からやったりはしません。
紆余曲折の末に秘密結社が生まれます。
人物紹介は、需要がありそうなら活動報告で。
とはいえたぶん
・伊城木芳人
主人公。悪役にとって死亡フラグ。
ウルトラマ○とか、『むこうぶ○』の傀とか。そういう系統のキャラ。
弱点は両親の前で萌えアニメが流れること。
未亜や修二さんが無自覚にそういうものを手に取るので、レンタルビデオ店は地獄だぜフゥハハハー。
こういうヌルい感じになる予定。




