第22話 「やろう、ぶっころしてやる」 「きゃあ、じぶんごろし」
「やめろよ。じぶんどうしのあらそいは、みにくいものだ」
※『ドラえもん』5巻を読もう! (ダイレクトマーケティング)
いまや俺は、前世における最盛期の力を取り戻していた。
それとともに当時の感情が蘇ってくる。
――師匠にフられた悲しみ。
――世のカップルへの嫉妬。
――イケメンに対する憎しみ。
リア充死すべし、是非もなし。
んん?
だったら俺は、まず俺自身をぶっ殺すべきじゃないか?
なにせ、
1.義理の妹から好意を寄せられていて、
2.中二病だけどエロゲヒロインみたいなスタイルの子に「ご主人さま」と呼ばれてて、
3.二千……じゃなくて、たった数百歳の魔女を【魅了】してて、
4.美少女巫女剣士とも仲良し。 (倫理観が崩壊してる点は全力でスルー)
他にも水華さん (猫耳) とかマーニャ (淫魔) とも深く関わっているわけで、ううむ。
どう考えてもリア充ですありがとうございました死ねこんちくしょう。
それに比べてヘルベルトを見てくれよ。
フィリスにフられた挙句、精神的にボコられてついには人間ですらなくなってしまった。
よーし、俺はヘルベルトの味方だ。
俺をギッタンギッタンにぶちのめしてやる。
……あれ?
ちょっと待て、すごく落ち着け。
いま明らかに思考がおかしな方向に行ってたよな。
ヘルベルトから未亜とフィリスを助けなきゃいけないのに、なんでヘルベルトの側につくんだよ。
これはまずいな。
長時間変身しているとリア充への憎しみに染め上げられ、自分で自分の首を刎ねてしまいそうだ。
なんだそれ。
大きな力にかかる代償と制限。
定番の設定とは思うが、もうちょっと格好いいものにしてほしかった。
この感じだと……魔力を使いながら抵抗しても、活動限界は3分くらいだろう。
まるでウルトラな巨人だな。
そういや「ウルトラ○ンは地球上では3分しか戦えない」って設定、初代じゃ存在してないんだっけ。
あくまで「エネルギー切れが近づくとカラータイマーが鳴る」というだけ。
時間制限は次々回の、恋人が車で轢殺されたりするシリーズが始まってからのことだ。
どうでもいい豆知識失礼しました。
「なんなんだよぉぉぉぉ、おまえはぁぁぁぁぁぁ!?」
怪奇ツタ男もといヘルベルトが叫ぶ。
無数の蔦がしなり、俺を捕らえようと迫る。
「《時間術式》・《汝、時に逆らうこと莫れ》・《付与》――」
けれど、無駄だ。
「――《光霊術式》・《我が光輪は暗黒を八つに裂く》」
放たれるのは光の円月輪。
蛇腹剣と並ぶ中二御用達の武器だ。
高速回転する光の刃が、次々に蔦を散らしていく。
それに並行して、
「《火炎術式》・《我が刃は浄華灼滅の魁である》」
俺は剣を抜く。
当時使っていた、武骨な幅広の剣。
その刃が炎に包まれた。
こんな感じの技ってよくあるよな。
志々○様とか、シ○ナとか。
駆け抜けて、一閃。
蔦に捕らえられていた未亜とフィリスを救出する。
二人とも宙吊りにされていたので、落ちてくるところをしっかりキャッチ。
「……兄、さん…………?」
姿が変わりすぎているからだろう、未亜は戸惑っているようだった。
「どうやら格納されていた概念情報を引き出せたみたいね」
他方、フィリスはフィリスなりに納得しているようだった。
ちなみに蔦に絡みつかれていた影響か、白いドレスはかなり乱れていた。
右肩は露わになり、胸に至っては上半分が惜しげもなく晒されている。
「……触りたい?」
ふふっ、と妖艶な表情を浮かべるフィリス。
「鎧の下を調べさせてくれるなら、少しくらいはいいけれど」
ものすごく魅力的なお誘いではあるが、今はそれどころじゃない。
「痛いぃぃぃぃぃ、どうして僕を傷つけるんだよぉぉぉぉぉぉ!」
ヒステリックに叫ぶヘルベルト。
いくつもの蔦が絡み合い、巨大な「腕」を形作る。
殴りかかってきた。
避けるわけにはいかない。
背後には未亜とフィリスがいる。
腰を低く落として、真正面から受け止めた。
俺ひとりくらいなら簡単に押しつぶせそうなほど大きな拳だが、
「うああああああああああああああああああっ!?」
悲鳴をあげたのは、ヘルベルトだった。
その拳が崩れ落ちる。
理由は、この術式。
――《反射術式》・《我には黒き象の加護が宿る》
要するに物理反射であり、有効時間はきっかり1秒。
俺にダメージはなく、衝撃はそのままヘルベルトに返っていた。
「痛ぃぃぃぃ、痛い、痛いぃぃぃぃ!」
苦痛にのたうちまわるヘルベルト。
そこに先程放った光輪が追い打ちをかける。
手足を切り刻み、逃げる手段を奪っていた。
ところで。
ひとたび邪神やその眷属に捧げられてしまった者は、どうあっても助からない。
彼もしくは彼女を元通りにすることは《時間術式》を用いても不可能だ。
まあ。
そのあたりの葛藤は、もう、とっくに前世で済ませている。
「《重力術式》――」
トドメの一撃を放とうとする、その寸前。
「……ヨシト、私がやるわ」
フィリスがそんなことを口にする。
「詳しいことは分からないけれど、ヘルベルトはもう、死なせるしかない状況なのでしょう?」
「……ああ」
「なら、私がやる。やらせて。――じゃないと、後悔しそうだから」
それは彼女の、弟子に対する責任の取り方なのかもしれない。
ヘルベルトの《時間術式》は中和してある。
フィリスの魔法でも、十分その命に届くだろう。
「さようならヘルベルト、貴方は男性としては微妙だったけれど、弟子としては…………えっと、やっぱり微妙だったわ」
いやいや。
そこは嘘でも「弟子としては優秀だった」って言ってあげてくださいよフィリスさん。
「師に仇なせば死罪。それが私たちの世界の掟だけれど、恨むなら恨めばいいわ。――《十重二十重の葬送火竜》」
炎の竜が咆哮し、ヘルベルトの身体を容赦なく焼き尽くす。
蔦が燃え落ちていく。
その中で、ヘルベルトは最後にこう言い残す。
「こ、こんなことなら……こんなことなら誘拐した子を手籠めにしておけば…………!」
ひどい遺言もあったもんだ。
マザコンでロリコンとか、赤くて三倍の人じゃないんだから。
* *
男としても弟子としても微妙と言われたヘルベルトは、俺たちの心に微妙なものを残して消滅した。
* *
俺は黒騎士への変身を解く。
自殺衝動を抑えるのも、そろそろ限界だったからだ。
鎧がすうっと消えてなくなり、いつもと同じ四歳児の身体に戻る。
「……っ!?」
その途端、ほぼ満タンだったはずの魔力が枯渇した。
ほんの一瞬のことだった。
変身の反動だろうか。
意識が薄れる。
とても立っていられない。
「に、兄さん!? しっかりして! しっかりして!」
地面にぶつかる直前、未亜に抱き留められた。
そこで一度、記憶が途切れる。
次に気が付いたとき、俺は家のベッドに寝かされていた。
天井が近い。
というか、二段ベッドの下だ。
「ここは、家、か……?」
目をこすりながらあたりを見回す。
窓からは赤い夕陽が差していた。
時刻は夕方、だろうか。
「あっ、おはよう、兄さん……」
横でモゾモゾと温かいものが蠢き、
「んゆ、くぅ――」
俺の脇腹に顔を擦りつけてくる。
未亜だ。
まだ寝ぼけているのだろう。
あれから何がどうなって、俺は自宅に戻ってきたのだろう。
30分ほどすると未亜が目を覚ましたので事情を訊いてみれば、
「後始末ならフィリスさんがやってくれたよ。後でお礼を言いにいかないとね」
とのこと。
なんでもフィリスは俺たちを家まで運んでくれた上、あの場にいた退魔師への説明、宮内庁神祇局への報告をすべて済ませてくれたらしい。
細かい追及は、長年培ってきたコネで捻じ伏せたという。
フィリスって、もしかしなくてもすごい存在なんじゃないんだろうか。
ありがたいと思うと同時に、それにケンカを売った雉間の度胸はすごいと思う。
ちなみに雉間の身柄は神祇局に引き渡された。今後の扱いについては検討中のようだ。
「あと、兄さんが《時間術式》で退魔師の人たちを蘇らせたことなんだけど……」
いま思えば我ながら軽率なことをやったような気もする。
別にそう大して便利な魔法じゃないんだけどな、アレ。
遡れるのはせいぜい1時間くらいだし、魂そのものが崩壊している場合は助けようがない。
肉体の死と、魂の死。
この両者は分けて考えるべきものだ。
「いちおうフィリスさんが催眠をかけて誤魔化してくれたみたい。ただ、思い出す人がいるかもしれないから気を付けて、って」
「わかった。いろいろ教えてくれてありがとうな」
礼を言ってかるく頭を撫でてやると、
「~♪」
未亜はちょっと嬉しそうに右手へ抱き着いてきた。
「ねえねえ、兄さん」
「なんだ?」
「洞窟では魔力を分けてあげたわけだし、ちょっとお礼してほしいなー、って」
「まだ幼稚園児だし、お小遣いはほとんどないぞ」
「プレゼントとかじゃないよ、ただ」
「ただ?」
「ぎゅってしてほしいな。ぎゅっ、って」
「……こうか?」
前みたいな布団越しじゃない。
直接、未亜の小さな身体を抱きしめる。
未亜もまた、俺の腰に手を回した。
いつになく甘えたがりなのは、死地を潜ったばかりだからかもしれない。
お互い、同じ布団の中にいる。
互いの体温が溶けて混ざり合うような錯覚。
こんなところを修二さんや夕子さんに見られたら誤解されるだろうな、なんて思っていたら。
…………コツ、コツ。
足音が近づいてくる。
まさか俺たちの様子を見に来たのか?
というか、両親とも昨夜俺たちがどこで何をしていたかは知らないわけで。
そのへんはどう説明していたんだろう。
未亜は何も話さず、そして、俺を抱きしめる手を放そうとしなかった。
……コツ、コツ。
さらに近づく足音。
俺は、自分の鼓動が早まるのを感じていた。
――キィ、パタン。
よかった。
修二さんか夕子さんかは知らないが、自分の部屋に入ったのだろう。
俺がほっと胸を撫で下ろしていると、
「兄さん」
朱色に染まった頬で、未亜が呟く。
「…………今の、ちょっと楽しかったね」
小悪魔のような、いたずらっぽい表情。
あまり開くべきではない扉を、開いてしまったような気がする。
なお。
未亜は両親に対して「あたしも兄さんもなんだか怠いの。インフルエンザかも」と説明していたらしい。
今は2月なのでありえない話じゃない。
おかげで一日中寝ていたことも、別に怪しまれはしなかった。
その夜。
俺たちはベッド下のゲートを潜り、フィリスのアパートへと向かった。
残念ながら、彼女は不在。
事後処理で忙しいのかもしれない。
さらに翌日の昼下がり。
俺と未亜はリビングで映画を見ていた。
修二さんも一緒だ。
『るろ剣』実写版のラスト、『伝説の最後編』。
おお。
志○雄様、原作もなかなかだったけど、こっちのラスボス感もいいな。
「あたしも十本刀みたいなの欲しいな……」
スタッフロールが流れる中、未亜はそんなことを口にする。
念のために説明しておくと、十本刀というのは「四天王」「七英雄」「八王子」みたいなものだ。
八王子は違うか。
ともあれ、その辺に目が行くあたりは魔王の後継者というべきだろうか。
――――この映画が遠因となり、後に俺たちは秘密結社じみたものを作ることになる。
映画が終わった後、俺たちは修二さんと一緒にGE○へ行くことになった。
次は何を観よう。
アニメの『るろ剣』、追憶編はやたら評判よかったっけ。
TVと絵が違うから敬遠してたけど、せっかくなので借りてみようか。
と思ったら誰かがレンタルしていた。残念。
俺が店で落胆していると、未亜が近くにやってきて、
「ねえねえ、これ、兄さんが昨日使ってた技に似てるよね」
とDVDのパッケージを見せてきた。
炎髪かつ灼眼な少女が、炎に包まれた剣を構えている。
メロンパンばっかり食ってて、「うるさいうるさいうるさい」のくぎゅ。
……おっと、ストップ。
これ以上語ると、前世、日本にいたころの俺がどういう人種だったかバレてしまう。
俺はガンダ○とか○ルトラマンをちょっと齧ってるだけの一般人です、いいね?
そんな風にモノローグしているうち、いつの間にやら修二さんが会計を済ませている。
ひい。
結局○ャナ借りてるし。
萌え萌えのハーレム系アニメじゃないだけマシだが、俺としてはちょう気まずい。
親の前で観るの、コレ?
というか、忘れたい黒歴史がですね、あるんですよね、はい。
あっちの世界でのこと。
《時間術式》で自己再生するときに、《我は零時を永遠に彷徨う迷子である》とか詠唱しちゃったり……うう。
大胆すぎる自己解釈は若さの特権。
もう死にたい。
精神に多大なダメージを受けながら家に戻る。
ヘルベルトとの戦いよりもこっちのほうがキツかった。
GE○新松来駅前店を出て、徒歩で住宅街へと戻る。
そろそろ家が見えてくる……というあたりで、黒塗りのリムジンを見つけた。
へえ。
いかにもお金持ち御用達って感じの車なんだが、もしかしてやんごとない家のお嬢様がこのへんに住んでたりするんだろうか。
って、おい。
吉良沢家の前に止まってないか?
何事かと思いつつ、修二さんや未亜と一緒に車へと近づく。
車の横には、黒スーツで白手袋の老執事が立っていた。
俺たちの姿を見つけると丁寧な仕草でペコリと一礼し、真月家の執事と名乗った。
「突然の訪問をお許しください。綾乃お嬢様がぜひにお会いしたいと申しております、よろしければ、お越しになってはいただけませんでしょうか」
ところで。
俺の通っている幼稚園の正式名称は、『私立真月学園付属おおみち幼稚園』。
そして修二さんが勤めている学校は『私立真月学園高等部』。
ついでに言うと真月家ってのは、この松来市一帯の名士だったりするわけで。
断れるわけないよな、うん。
「しょ、少々お待ちください……」
いつもキリッとした様子の修二さんが焦るところを、久しぶりに見た気がする。
俺も未亜もブラウスに着替えさせられ、修二さんも夕子さんもよそ行きの立派な格好に。
一家勢揃いでリムジンに乗り込む。
「よ、芳人」
緊張しているのだろうか、珍しく修二さんの声は震えていた。
「真月家のお嬢さんと、仲良し、なのか」
そういや俺、あんまり幼稚園でのことを話してないんだよな。
親子の語らいが不足している現代社会、その弊害がここに現れていた。
「う、うん」
俺のほうも実はガッチガチだったりする。
それは別にお金持ちの家に呼ばれたからとかそういうわけじゃない。
思い出したのだ
昨日、黒騎士に変身する前後。
頭の中に響いた声。
――わたしを『フォアグラ』って呼ぶのやめてほしいな、って。
――わたしを生贄にわたしを召喚するとか意味わかんないなー。
――喚ぼうとしてる本人が目の前にいるのに、誰も気づいてないの。ちょっと面白いよね。
あれは、真月綾乃だ。
え、なにこれ。
今から真のラスボス戦なの?
けれどなんか好意的な感じだったし、大丈夫なようなそうじゃないような。
ええい。
考えたってしかたない。
いつも通りにしよう。
丸投げだ。
頑張れ未来の俺。
……いつか未来から反撃されたりしないよな?
真月家のお屋敷は、松来市の北、山の手にあった。
どうして金持ちは高いところに住みたがるのか。
洪水や津波に備えているのかもしれない。
両開きの外門をくぐり、リムジンは敷地の中に入る。
噴水のある庭園を抜けて、やがて辿り着いたのはホテルみたいなエントランス。
ここで俺と未亜は、両親と別行動となった。
真月さんの部屋へと案内される。
「兄さん……」
未亜は少し不安そうだ。
すでに俺は「真月綾乃=あの邪神」ということを念話で伝えている。
きっとそのせいだろう。
「大丈夫だ。何があっても俺が守るよ」
手を握ってやる。
それで未亜は少し安心したようだった。
「いいなあ……」
俺たちを案内していたお手伝いさんが、ちょっと羨ましそうに呟く。
「わたしなんてもう28歳なのに独身で……しくしくしく――――」
そんなことを4歳児に言われても、その、困る。
とりあえず、俺に言えることとしては、だ。
30歳目前なのに「しくしく」なんてセリフはキツい。
途中の道はかなり複雑だった。
無事に玄関へ戻れる気がしない。
廊下にはよく分からない前衛絵画やら、高そうな壺なんかが飾ってある。
さすがお金持ち。
吉良沢家も俺の【金運】の影響でそこそこ稼いでいるようだが、真月家には遠く及ばない。
いつかこんなところで暮らしてみたいなーなどと考えていると、ようやく真月さんの部屋に到着する。
長かった。
そして俺たちは真月綾乃に、前世で完全消滅させたはずの邪神に相対する。
彼女は深々と頭を下げ、こんなことを口にした。
「久しぶり、未亜ちゃん。ううん、ミーア・グランスフィールド。
その様子だと、わたしが何者か教えてもらったみたいだね。
それなら話が早いかな。
ミーアちゃん、自分の仇を討ちたくない?
今のわたしはものすごく弱体化してるし、たぶん、芳人くんの力があれば簡単に滅ぼせるよ。
これは罠とか策略とかじゃなくって、本当の話。
信者のやったこととはいえ、ミーアちゃんの人生を台無しにしちゃったわけだしね。
恨まれて当然だし、報いはあって当然と思うよ。だから文句は言わない。
未亜ちゃん、どうする?」
真月さんはまるで煽るような調子で問い掛ける。
その様子は、どこか裁かれたがっているようにも見えた。
未亜は。
しばらく目を閉じて考え込んだ後、
静かに呟いた。
「殺す殺さないより先に、真月さんにはするべきことがあるよね」
「賠償金とか、そういう話かな?」
「ううん、違う」
首を振る未亜。
「綾乃ちゃんも幼稚園に行ってるんだし、先生から教わってるはずだよ。
……悪いことをしたら『ごめんなさい』って」
言われてみれば、確かにその通りだ。
常識といえば常識なんだが、横で見ている俺はすっかりそれを忘れていた。
真月綾乃が邪神の生まれ変わりということを意識しすぎていたのかもしれない。
それは真月さんも同じだったらしい。
「えっと、その……」
どこか戸惑ったような様子で、言う。
「……依代にして、ごめんなさい」
「もうあんな迷惑なことはしちゃ駄目だよ、綾乃ちゃん」
窘めるように言う未亜。
「じゃあこの話はお終いね。はい、仲直り」
右手を差し出す。
……もしかして未亜のやつ、実はかなりの大物なのかもしれない。
「いいの?」
先程とはうってかわって、おずおずとした様子の真月さん。
「だって信者の人が勝手にやったことだよね」
「それはそうだけど、わたしは邪神で――」
「何か悪いことをする予定あるの?」
「別にそういうわけじゃないけど……」
「だったら仲良くしようよ」
自分から真月さんの手を握りにいく未亜。
「事情はよく分からないけど、人間として生まれ変わったんでしょ?」
「一応、そうなるかな」
「だったらもういいんじゃない? それよりあたしと友達になってよ。幼稚園じゃ気軽に話せる相手がいないし、正直、あんまり楽しくないの」
「あー、確かに未亜ちゃん、いっつもひとりぼっちだもんねー。お弁当とかどこで食べてるの? トイレ?」
「……やっぱり消滅しろー!」
じゃれた調子で飛び掛かる未亜。
「きゃー、たーすーけーてー」
真月さんもなんだか楽しそうだ。
前世で依代にした/されただけあって、性格的な相性は悪くないのかもしれない。
――そのあと、俺たちは真月さんから今回の事件の一部始終を教えてもらうことになった。
気付いたら未亜が綾乃ちゃんを攻略していた不具合
次、真相究明回&エピローグ
3章では芳人が秘密結社と言うか新興宗教と言うか、謎の組織を作ります(予告)




