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幕間 実はこれ2020年代の話なんだよね……

祝! 100回記念! ただの解説回!


芳人のサブカル知識 (web小説時代のSAOを読んでたり、シャナのファンだったり) やら直樹の年齢やらを考えると、2020年代になってしまうのです…… 

 ここで少し時系列についての補足を挟む。

 八矢房芳人が異世界に召喚されたのは2007年のことで、当時、伊城木直樹は高校1年生――わずか15歳の身の上だった。


 それから14年後、2021年の秋。

 伊城木直樹が29歳のとき、“YST―ω101”が完成する。

 この肉体に八矢房芳人の魂が宿り、「伊城木芳人」として生を享けた。


 時は流れて2027年4月。

 伊城木芳人は5歳、直樹は34歳となっている。

 

 芳人が京都を訪れたのが4月10日の土曜、朝輝派・白夜派の両者を下したのはその夜のことである。

 翌11日、相鳥静玖からの告白を断った後、鴉城深夜と交戦。これを打ち破っている。


 4月12日、月曜。

 神薙真姫奈を捕縛し、さらに自らのクローン複数体を撃破。

 このときに《時間術式》が暴走し、未来の己と融合してしまう。

 黒獣と化した芳人、鷹栖家ならびに神祇局を襲撃。

 鷹栖派を中心として数多くの退魔師を再起不能に追い込んだ。


 4月13日、火曜。

 地上に降臨したアルカパにより、主要な関係者への説明が行われる。

 鴉城朝輝、生き残りの退魔師を緊急招集。

 表向きは「黒獣の討伐」、真の目的は「伊城木芳人の救出」。


 4月14日、水曜。

 鴉城朝輝、ストレスで胃痛を訴える。

 全国から集まってきた退魔師への指示、黒獣への対策立案と根回し、さらには内閣や宮内庁に対する現状報告――多すぎる仕事を前に、彼の処理能力はとっくに限界を迎えていた。

 弟の白夜やアルカパの手伝いでなんとか回っている状況。

 

 4月15日、木曜。

 鴉城朝輝、疲労のあまりアルカパを「お姉ちゃん」と呼ぶ。

 直後にものすごく冷たい視線を向けられる。

 ちょっと気持ちよかったらしい。

 

 4月16日、金曜。

 神薙真姫奈が目を覚ます。妹の玲於奈に対し、その出生の秘密を明かす。

 フィリスイリス、鴉城邸に到着。013の心に痛恨の一撃を与える。

 水華、京都駅にて静玖と合流。やたらと意気投合する。

 鴉城朝輝、その実権を (密かに) 吉良沢未亜へと移譲。彼の表情は晴れやかだった。

 

 4月17日、土曜。

 未亜、徹夜で仕事をすべて片付ける。

 黒獣との交戦地を定めたのち、細かな指示をアルカパに任せて爆睡。


 4月18日、日曜。

 アルカパ考案の()()()()()にて黒獣を誘引、交戦開始。


 


 改めて振り返ってみれば、まさしく激動の日々である。

 それだけではない。

 

 後世、2027年の4月――とくに中旬の10日間は歴史の転換点として語られている。

 なぜなら、この僅かな期間で日本の退魔師というものが大きく変わってしまったのだから。


 朝輝派と白夜派は和解を果たし、他方、鷹栖派はあえなく瓦解。

 当時の神祇局は腐敗の温床だったが、これも黒獣によって壊滅的な打撃を受けている。

 無事だった者はみな良識派の (良識派であるために中央から排斥された) 退魔師であり、彼らは対黒獣に向けて結束を強めていった。


 結果として退魔師たちは“業界の膿”というべきものを出し切り、「派閥抗争の余力で悪霊退治」と揶揄される状況を脱出したのだった。

 

 しかしその反面、現役退魔師の総数は半分以下にまで落ち込んでいた。

 黒獣によって霊力を完全剥奪された者、あるいは、伊城木月の策謀に巻き込まれた者――。

 後者の詳細については別の機会に語るが、いずれにせよ、若手の育成は大きな課題となる。


 これがやがて退魔師専門の教育機関の設立に繋がり、伊城木芳人の人生に大きく関わってくるのだが――ひとまず、視点を現在に戻すとしよう。


 

 

 


 * *






 4月17日。

 吉良沢未亜が「ねる!」と宣言して布団にくるまったのと同時刻のことである。


 場所は関東の(ひな)びた地方都市――久板市。

 伊城木直樹の生家、その地下で怪しげな機械が低い駆動音を這わせていた。


 中央には円柱状の水槽が屹立し、四方八方に色とりどりのコードとパイプが伸びている。

 それらは別の装置に繋がり、計器の針が不安定に揺れていた。


「ひとはどうしてガチャを回してしまうのでしょう」


 部屋の隅に、和装の女が立っていた。

 右手にスマートフォンを持ち、上品な指遣いで画面をタップする。


「……特攻キャラは揃いましたけど、なんだかもう疲れてきましたわ。後はひたすらイベント限定のクエストに突撃しておいてくださいまし」


 伊城木月は影の中から一匹の狼を召喚すると、そちらにゲームを任せることにした。

 狼はものすごく嫌そうな表情を浮かべつつ、ポチポチと前足でスマートフォンを操作し始める。

 

「さて、合成の調子は悪くないみたいですわね」


 月は計器を眺めながらそう呟く。

 水槽の中では赤黒い肉塊が蠢きながら、少しずつ、人間めいた形を取りつつあった。

 このまま順調に進めば、明日の未明にはすべてが終わるだろう。


「男性として芳人さんに憧れていた。彼のようになりたかった。けれど壁が高すぎる」

 

 まるで吟遊詩人のように伸びやかな声で、しかしどこか嘲るように月は謳う。


「女性として芳人さんに恋していた。彼とひとつになりたかった。けれど壁が高すぎる。

 ――ええ、ならばこれもひとつの解答でしょうね、()()()()()


 呼びかける。

 水槽に浮かぶ肉塊へ向かって、親しげに。


 伊城木直樹の研究施設は黒獣によって破壊されたものの、いくつかの実験装置は無事なままだった。

 また、芳人のクローンを生み出すための“材料”もわずかに残っており――すべてこの地下室に集められている。


「以前、真姫奈さんはわたしの細胞を使って玲於奈さんを作りましたが……ふふ、幼馴染だけあって発想がずいぶんと似ていますわね」


 彼女の言葉に応えるわけではないだろうが、肉塊が大きく震えた。

 それは伊城木直樹であると同時に、八矢房芳人でもある。


 一週間前、月はこう問うた。


 ――芳人さんのこと、どう思っていますか?

 ――芳人さんと、どうなりたかったのですか?

 ――貴方の想いが届くよう、及ばずながら助力させていただきますわ。


 直樹の答えが、()()である。

 人体の融合。

 001から012までの精製法を応用し、芳人のクローンに対して己の肉体を“添加”する。

 

 果たしてどのようなキメラが生まれることになるのか。

 その答えは誰にも分からない。


「……もうじき芳人さんもこの時間軸に戻ってくるでしょうし、わたくしも戦力を整えておきましょうか」


 しばらくの後、伊城木月は地下室から出て行った。

 各地で「黒獣に霊力を奪われた退魔師」が行方不明となったのは、その数時間後のことである。


 ちなみに「退魔師育成の教育機関」は、裏で「対《泡》のための人員養成」も兼ねてます。

 主なスポンサーは真月家。これが中学・高校編の舞台になる……かも。


 次回から8章。

 情報はそれなりに出し尽くしたので、すごい勢いで幼少編をたたみに行く予定。

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