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まだ続く反撃

 まだ会社員や学生の姿がまばらな住宅街を進み、今日も柚木は心春を迎えに行く。

 昨日のうちに柚木が通っている道場の門下生については調べたが、やはり同校はいなかった。

 ついでに近場の道場1件も聞きこんだが成果は同じ。

 その結果は予想もしていたので、大きな落胆はない。


 自分の調べと、悠斗や葵の報告があれば、持っている手札だけで十分特定できるだろうとも思っている。

 剣道でいうなら、あとはもう打ち込むのみだ。


「おはよう柚木くん、今日も心春のことお願いね」

「は、はい……」

「お、おまたせ~柚木、じゃあ今日一緒に登校しちゃおう……」

「おう」

「行ってらっしゃい、2人とも」


 なんだか今日の心春はいつもに増して顔が赤い。

 そう思いながら、心春の母親に見送られ、学校にへと向かう。


 昨日の葵との遭遇には驚いたけど、そのおかげでいつも通りになれている柚木。

 今朝は十分に頭は働いている。


「「……」」


 2人きりの登校。

 昨日までならどうしようもなく意識してしまっただろう。

 だか今は、ちょっとドキっとしてしまう程度だ。

 その僅かな隙でも、今は浮かれるなと自分を律せられる。


 だから冷静に周りを見れた。


 怪しい人はいないかと駅に向かう人たちに目を向ければ、学生の中にも結構男女で登校している人もいるんだなと思う。

 部活の先輩後輩の関係、もしくは幼いころからの幼馴染、もしかしたら恋人同士なんて2人も居るのかもしれない。


 そんなことを思いながらも、視線を常に動かし危険が及ばないよう注意を払う。

 そんなきょろきょろしている柚木を見て、何だか不服そうな顔を心春は向けた。


「……な、なんで柚木いつも通りなの?」

「はあ? どういう意味だよ? って、お前やっぱ顔赤いな。反撃考えすぎて知恵熱でも出たのか?」

「っ! そ、そんなんじゃないんですけど!」

「具合悪いとかなら、ちゃんと言わなきゃダメだぞ」

「それ、小学生に言うものいいじゃん……」


 柚木を何度も見ては、心春はちょっと悔しそうに両手をぎゅっと握る。


「おい、俺じゃなくて周り見てくれよ。その方が気づくことあるかもしれねーし」

「っ! ……えっー、ほんとにあたしだけなの!」


 心春はそう呟くと共に、口を少し尖らせ周りに目をやる。

 そして、なにを思ったのかいつも通りの天真爛漫な笑顔を作った。


「なんか見つけたのか……?」

「見つけたっていうか、まだ昨日の反撃完遂してないってことに気づいた、みたいな」

「それ、どういう意味だよ?」

「どこで犯人が見てるかわかんないっしょ。考えてみてよ、昨日のあれのあと、今朝はいつも通りって絶対変じゃん。だから、このくらいはするよね!」


 その言葉と共に、心春は柚木の無防備な左手を掴み握って来る。

 それもただ繋いだだけではなかった。

 指と指とを絡めるような、なんだかこそばゆい手繋ぎだ。


 前の男女を見れば同じようにしている。

 一瞬、昨日と同じようなドキドキと共に顔が真っ赤になるのがわかった。

 なんだかこれは特別なこと何だろうなってことは柚木でも察する。

 だが、それでもふうと息を吐けば冷静になれる自分がいた。


「っ!? そうだな。このくらいはしないと怪しまれるか」

「う、うそでしょ、超冷静。恥ずかしがるところでしょ!」

「そんな時じゃいまはねーだろ」

「……ああ、そっか、そっか、あたしとしたことが昨日の反撃の続きなら、恋人繋ぎのレベルじゃないじゃん」


 心春は手を繋いだまま、柚木に自分の体を寄せてくる。


「ち、ちかっ! おまっ、やりすぎだ。これじゃ俺が動けねーよ」

「右手が空いてんじゃん。それで十分制圧出来るっしょ」


 心春は柚木の少し慌てた反応を、やっとこみれたとでも言うように満足そうな顔になる。


「……まっ、心春の言ってることはその通りだ。このまま行こうぜ」

「ちょ、なんでそんな切り替え速いの! もっとそこは昨日みたいに……あー、もう」


 今にも地団駄を踏みそうな心春を横目に校舎が見えて来た。

 身を寄せ、そのくせ表情まで楽しそうに笑う心春。

 そんな彼女を見れば、昨日の反撃は演技だったのかの疑問も消え失せるだろう。


 どこで見ているかわからないというのは本当にその通りで、柚木も極々自然な感じで振舞いながら校庭へと入ると、なんだかいつもとは違う雰囲気が漂っていた。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 一途ではあるものの雑念を挟まない一意専心の理念が、柚木さんの切り替えを早くしているのでしょうね。あまりにも切り替え過ぎてて、心春さんのメンタルは嫌がらせを受けたときより傷付いてそうですが。…
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