第17話 樹精達と顔つなぎ
第四位階上位
交流の為のパーティーを用意したから、皆と仲良くなってね。
そんな事を言い、ユキの案内で街を歩いた。
ついさっきまで草原だった場所、今は道路が敷かれ、家々が立ち並ぶそこを少し歩き、地味に作り込まれた怪しい路地裏に到着した。
読めない文字の様な物に、謎の人型だったり動物だったりする絵が描かれた壁。
積み上げられた木箱の影に、地下へ降りる階段。
だって、皆、好きでしょ? そう言って、ユキは妖しく微笑んだ。
まだ小学生の子もいるだからその顔はやめろって……マジで性癖歪むから。
さっさと踵を返し、ユキは階段を降りて行く。
狭い階段を追いかけ、開かれた重そうな扉の先には——
◇
——広いバーになっていた。
バーにあるのは無数の気配。
最近アナザーで感じられる様になったそれを信じるなら……ここにいる奴等の殆どは俺よりも圧倒的に強い。
はっきりと分からない者の方が多いが、分からない方が却って強者に感じる。
……バーなのに皆ブレザー着てるのはどうなのよ?
これ等と仲良くしろと言付け、動揺する俺等を置いてユキはさっさと奥に歩いて行った。
取り敢えず交流しろとのご命令な訳で、こう言った場に慣れてるらしい何名かが速攻で顔を繋ぎに行き、遅ればせながら俺達も動き出す。
こう言う時、あまり大きなグループで動くのは良くない。
友好を結ぶのが目的なら、相手に無用のプレッシャーを掛けるのは得策では無いから、多くても3〜4人以上にはならない方が良い。
そんな訳で、1人で行けそうな者はソロ。補助が必要そうな者はデュオ、またはトリオに分かれて行動を開始した。
まぁ、何人か知ってる顔もあるし、何とかなるだろう。
カウンター席に座り、ちょうど良さそうな相手を物色しようと視線を動かした次の瞬間、俺の前にコトッとグラスが置かれた。
置いたのは、バーテン姿の黒霧さん。この人あちこちに居るみたいだけど誰も突っ込まないんだよなぁ。
見下ろしたグラスは、下が無色で上が麦茶っぽい色をしたカクテルだ。
「ウィスキー・フロートです」
「……頼んでないけど?」
訝しむ様に見上げると、黒霧さんはチラリと視線を右に向けた。
見るとそこには1人の緑髪の美女……が、なんか人の頭よりもでかい樽の様な取手が付いた何かを傾けて何かを飲んでいた。
良く見ると樽を傾けながらも視線が此方を見ている。
……やべー奴に目を付けられたぞーっと。
ウィスキー・フロートなるカクテルを片手に、一応その美女の隣に腰掛ける。
飲み終わるのを半秒程待って、声を掛ける。
「……えーっと、こんばんは?」
「はい、こんばんは、タク。噂はかねがね聞いていますよ……飲んでますか?」
「いや、今来たばっかで飲んでは無いな」
噂ってどんな噂だ? ユキが何か言ったのか?
緑髪の美女は緩く微笑んだ。
「私はルメール。樹精の一種です。どうぞよろしく」
「あぁ、俺の事は知ってるだろうが、タクだ。此方こそよろしく、ルメール」
握手の代わりにグラスと……樽をぶつけ合わせる。ボスっと鈍い音が鳴った。
チラリとみたルメールの隣の机上には、二等身くらいのデフォルメされた人っぽい物がいた。
着物っぽい物を着て、人が飲むサイズのカクテル・グラスを両手で持ち上げ傾けて至福の表情を浮かべている。
……これも強いのかね?
またコトっと音がして、一口サイズに切り分けられたブラウニーの様な物が置かれる。ナッツがふんだんに使われたちょっと高そうな奴だ。……酒に甘い物はちょっとなぁ。
そんな事を考えつつ、酒に口を付ける。
アルコールがじわっと滲みて喉が少し熱くなる。
「飲み辛かったら薄めても良いんですよ?」
「……いや、折角だからな」
微笑むルメールに笑みを返し、案外と飲みやすかったそれに再度口を付ける。……結構甘味が強いな。
やっぱ合わないんじゃないかと思いつつもブラウニーを口に放り込む。
やっぱり合わないと思いつつも……普通に美味かった。
ふと、視線を感じて斜め右に目を向けると、着物謎生命体が物欲しそうに此方を見ている。
ブラウニーを拾って左右に振ると、謎生命体の視線も左右に揺れる。
ちょいちょいっと招くと、謎生命体はとててっと駆け寄って来た。
その口元にブラウニーを押し付けると、謎生命体も両手でそれを受け取り、至福の表情で齧り付く。
なんだこれ、結構可愛いな。
指で頭を撫でるも、謎生命体は構わずブラウニーを齧っていた。
「無知とは斯くも——」
——ドンっと音が鳴り、先の樽よりも更に大きな樽杯が置かれた。
何かを喋りかけていたルメールは、間髪入れずにそれを傾ける。
……見た感じ20キロくらいはありそうなんだが……まぁ、良いか。
◇
酒呑みのルメールとミニ生物と顔を繋いだ後、ルメールの部下に当たる連中を紹介して貰った。
ユキが作成したパーソナルカードとか言うアイテムで見せられた写真を頼りに探すと、相手は直ぐに見つかった。
ルメールよりも僅かに明るい緑髪の美女だ。
1人でぼーっとしているなぁと思ったら、どうやら遠くで幼児くらいの子を撫でているユキを見ている様だ。
取り敢えず声を掛ける。
「……こんばんは、ルメールの紹介で来た、タクだ。初めまして」
すると女は鋭い目付きで此方を見上げた。
「初めまして……? タク。私と貴方が顔を合わせるのはコレで3度目ですよ」
……ま?《マジで?》
「マジか……いや、でも、こんな美女は忘れる訳が無い……筈」
「……まぁ、人の姿で会うのは初めてですが。……べーた島と言いましたか? ……そこの大樹です」
……ま……?《マジかよ……?》
「……へ、へぇ……そりゃまた……随分とまぁ……大樹だと皆そうなるのか?」
「まさか。マスターのお力あってこそですよ」
「だぁよなぁ〜」
そりゃぁユキだわ。もうユキるとか言う動詞が出来ても良いレヴェル。少しでも追い付こうと思うなら、おかしいと思ってる暇はない。
自慢気に胸を張るアルナン。しかし、次の瞬間にはむすっと顔を顰めた。
「それと……言っておきますが、私はルメールの部下ではありません。マスター直属ですので勘違いなされない様に」
「左様で……まぁそう言いたい気持ちは分かる」
「むむぅ」
むすぅっと膨れっ面のアルナンに苦笑いした後、プイっと視線を逸らしユキを見詰めるアルナンの背中を強く押してから、その場を後にした。
構って貰えんの待ってたら最後になっちまうからよ。
ギロリと睨まれて肝が冷えたが、名前は覚えて置いてあげます。とか言ってたのでOKだろう。
ただ敢えて突っ込むなら……最初から名前覚えてただろ。素直じゃねぇなぁ。
「さって……次は、ララースァだっけ?」
名前長い奴とその姉妹だったな。




