第16話 ユキちゃん先生
第八位階下位
意識を加速するアイテムの存在。
十日間を予定している強化合宿。
それらを説明した所で、多少の驚きを得つつも皆直ぐに納得してくれた。
しおしおになっていたナツナを慰めて、早速授業開始である。
「魔力とは。世界に満ち、凡ゆる物質を構成している根源因子を指す。勿論それらは人体にも宿っており、多くの者は体に宿る魔力を使って魔法を行使する。主に体外に存在する物をマナ、体内に存在する物をオドと呼ぶので、良く覚えておく様に」
そこで手を上げたのは、マヤ。
「はい、マヤ」
「……魔力量を増やすにはどうしたら良い?」
「方法は主に4つ。レベルを上げる。肉体を増量する。魔力を保持する装備を身に付ける。魔力を保持する構造を魂に増設する。詳しくは後日説明してあげる」
まぁ、マヤとかは魔法使うの大好きだし、魔力量の増加は悲願だよね。
取り敢えずは納得した様で、マヤは席に着いた。他に質問は無い様なので、講義を再開する。
「魔力には複数の属性が存在する」
手を突き出し、その上で火の塊や水、風、土と次々に魔法を発動させてみせる。
魔力感知能力が微妙に上がってきているメンバーは、何となく手のひらから講堂全体に広がっている属性魔力を感じている様だ。
感知出来ていないのは、新規や若干遅れてるココネちゃん達と……クリアぐらいの物である。クリアはなんかもう……ぼーっと生きてるよね。
まぁ、ぶっちゃけ誤差である。
「これらの属性は、凡ゆる魂から発生する意志に魔力が反応して変質した結果だ。よって、魔力の属性は概念の数だけ存在する」
そこでささっと手を上げたのが、リナだ。
「……概念の数だけ属性は存在する……ユキ属性もある?」
「勿論、存在する」
そこで多くが納得したと言わんばかりに頷いた。何に得心がいったのか。
取り敢えず説明を続ける。
「ユキ属性は主に2種類ある。僕が持つオド、固有属性か、皆が生成するオド、信仰属性だ。詳しく後日説明するから、ちゃんとメモしておいてね」
特に信仰やら魂やらの授業は長くなる上、今の皆は構造を理解出来ても実感は出来ない。
単なる知識として覚えておいて欲しい。
「さて、今回はそれらの属性魔力の中でも、謂わゆる操気法で使用される、気と呼ばれる物について覚えて貰うよ」
前提で何度か引っ掛かったが、そこら辺は皆知識に貪欲なので良い事だ。
そしてこれからが本題である。
「先ずは……セイト君」
「は、はい!」
少し慌てながら立ち上がった彼に、質問する。
「君は以前、死神と戦った時に、何かを感じたと思うけど、どうかな?」
僕が死神役をやった時の事だ。
「あ、あぁ……うーん……死神に背後から襲われた時、何か……背中の辺りがチリチリする様な物を感じた気がするんけど……」
「それが気の一種。殺気だ。殺気は死属性の魔力だから今回やる内容とは違うけど、生あるが故に死は生まれる。殺気を感じられる様になれば、精気もより感じられる様になるだろう」
そこで言葉を区切り、耳目を集めてから口を開いた。
「今回学ぶのはその精気。生命力。または生属性魔力と呼ばれる物についてだ」
一般では気と魔力は分けて考えられている様だが……そんなだから操気法以上の使い手が増えないのである。
まぁ……天災が意思を持って闊歩するこの世界、人間の歴史は積み上がる側から崩される物だ。仮に誰かが悟りを得ても、その偉業は歩く天災に蹂躙され、遺失してしまう。
発展しないのも宜なるかな。
「生命力の主な特徴は、エネルギーの効率的供給と言える——」
生属性魔力は肉体を循環しており、何らかの理由で生命維持に異常が発生した時、そこで不足しているエネルギーに変換され、自動的に補給される。
また、毒などの過剰なエネルギーを中和、分解する役割も担う。
即ち、生命力を十全に扱う事が出来れば、ほぼ不死になると言って良い。
ただし、本当の意味で不死になるには、体内の生命力、オドだけではなく、体外の魔力、マナを意識的に取り込み、オドに変換する必要がある。
これを完全にコントロール出来る様になれば、晴れて不老不死の出来上がりだ。
それ以降は魂の領域に至るのでここでは割愛としておく。
大切なのは3つ。生命力とは、生命維持を補助する本来必須では無いエネルギーであると言う事。
生命力とは、何物にも変換しやすい特徴を持つ力であると言う事。
生命力とは、他の何よりも御し易い力であると言う事。
つまり、扱い易く、変換しやすく、ギリギリまで使って良い力であると言う事だ。
「——生命力について理解して貰った所で、次はその力の感知についてだよ……とは言え、ここにいるメンバーの8割は既に生命力を感知出来ている筈だけどね」
見回した所、複数名が何かしら感じた事があるようで、それぞれの反応を見せた。
「分からない人もいるだろうし、詳しく説明するよ……生命力は身体の全てに宿っている。その為、それらをより簡単に理解するには、血液の循環を意識すると良い」
そうすれば、体内を循環する生命力と、その流れに引き込まれて流動する生命力を観測出来る筈だ。
遅い方を認識するか早い方を認識するかは当人の資質次第であり、魔術の指南書によると早い方を認識した者は魔法使いの素養が無いなんて書かれているが……まぁ、低次の者達の言い訳だから気にしなくて良い。
ただ単に、早い方を認識出来る者は、素早い反応を必要とする身体強化や硬化等の魔纏術が得意で、その代わりに繊細な魔法式を構築する魔術が苦手なだけ。遅い方はその逆。
正しい修行を行えば両方出来る様になるし、なんならそもそも片方が得手でもう片方が不得手となる程尖った才能を持つ者はそうそういない。
大体は両方出来るけど努力が足りないだけか、もしくは師が悪い。と言うか技術を滅ぼす魔物が悪い。
「と言う訳で、明日はちょっと運動した後、魔力感知の修行から始めるからね? 補足情報としてだけど……人体には魔力が溜まりやすい部位が幾つかある。謂わゆる丹田の辺りと心臓と脳だ。そこら辺少し意識して見ると、より魔力の循環が分かりやすくなるかもしれないね」
その後、詳しい訓練のやり方を説明し、ちょっとだけ属性変換の話に寄り道した後、直接的、間接的にセクハラしてくる何名かにお仕置きして、本日の講義を終了とした。




