第12話 イベント会場を下見
第七位階上位
光が薄れ、見えて来たその場所は、そこそこに大きな円盤の上だった。
周囲は雲一つない晴天で、太陽が燦々と輝いている。
地上を見下ろすと、そこには一つの島があった。
形状はそう作ったかの様に綺麗な円形をしており、大きな建築物が幾つかと、広い森が存在している。
十中八九あそこがイベント会場だろう。
そこまで確認した所で、円盤の上に立つ面々に視線を向ける。
ウルル。僕の方にスタスタやって来る。快調だろう。
リッド。小型状態で僕の方にヌルヌルやって来る。多分快調。
メロット。椅子に腰掛けたままぼーっと海を見下ろしている。いつも通り。
ニュイゼ。蛇身をウネウネ動かして僕の方に来る。いつも笑顔。
レイーニャ。猫の姿で円盤の縁に立ち、島を見下ろしている。
特に疲労している様子も怪我をしている様子も無いので、問題なく進める。
グイグイ鼻先を押し付けて来るウルルを撫で、視界の右上に表示されている小さなメッセージウィンドウを見る。
先ず目に付くのは、120から減少し始めたカウントダウン。
表示されている準備完了にチェックを付けるか120秒が経過するとスタートする仕様なのだろう。
おそらくは、この円盤の上でチームメンバーと顔を合わせ、ちょっとした交流をする為の時間を取っている物と思われる。
取り敢えず準備完了にチェックを入れた。
「くぅ〜ん」
「よしよーし」
「主人、私も、私も」
「よしよーし」
「ふぁ……」
最近ちょっと主張する様になって来たニュイゼとウルルを撫で、シュタタッと歩いて来たレイーニャに視線を向ける。
「ユキ、行くんじゃにゃいにゃ?」
「レイーニャ、視界の右上に何かない?」
「にゃ?」
にゃにゃにゃにゃと右上を見て、そのままグリグリと回転し始めたレイーニャ。
撫でるのを切り上げ、レイーニャを捕まえる。
そのまま頭を固定した。
「目だけ動かして」
「にゃ……」
「チェック、入れた?」
「にゃ? ……入れたにゃ」
続いてウルル。
頭を固定しチェックを入れさせる。
「あの〜主人、私もやり方ワカラナイデス」
「それじゃあ右上見て」
ニュイゼの頭も固定して、チェックを入れされた。
そのタイミングで、視界端のメッセージウィンドウのカウントダウンが急激に進み、5秒から再開した。
リッドが出来たのは元々視界が全方位だったからだとして、メロットは……首すらあまり動かさないからだろう。
そんなこんなで僕達は、再度光に包まれた。
◇
気が付くと、大きな城の前にいた。
周囲の気配を探り、瞬時に状況を把握する。
場所は無骨な城塞前の広い空間。
城は外壁に覆われており、僕の感覚を信じるなら、壁の外側にフィールド制限と思わしき見えざる壁がある。
外壁には大きな二重の門があるが、内側は兎も角外側を開ける事は出来ないだろう。
壁の内部には幾らか部屋と通路があり、城にも無数の部屋と通路、広間がある。
その部屋、通路、広間、外壁の上、あちこちに、夥しい数のドールやゴーレムがいる。
そしてなにより、壁と城の間にある広い空間、僕等の周りを、無数のドール達が囲んでいた。
いや、囲んでいたと言うのは語弊があるだろう。
正確には、複数の小集団が広場のあちこちに点在している。
「取り敢えずここはレイーニャ。一体一体丁寧にね?」
「にゃ? ……仕方にゃいにゃー」
徘徊する人形 LV8
徘徊する人形 LV10
はぐれ人形 LV23
ざっと見た感じ、防具は木製、武器も石槍の様な物で、はっきり言って貧弱だ。
敵が弱すぎて、範囲攻撃を放ったら一瞬で終わってしまう。
ここは丁寧に術式を編み、微細で精緻な魔力コントロールを身に付ける為のトレーニングをして貰う。
「あ、あと人状態でね?」
「にゃ!? にゃんでにゃ!?」
「そっちの方が不得手でしょ?」
「にゃー……仕方にゃいにゃー!」
レイーニャは少し不満気に人化し、雷の魔法を行使した。
一般的には上級魔法に分類される、雷でできた体を持つ蛇を生成する魔法、ライトニング・サーペントだ。
魔導生成系の魔法はその殆どが上級以上で、本来は何らかの触媒をベースにする物だが、レイーニャなら自力で生成した雷をベースにソレを生成出来る。
実際に現れたのは、通常のライトニング・サーペントよりも5倍くらい大きな大蛇で、数は3体。
それらが一斉に動き出し、正に稲妻となって次々と人形達を襲い始めた。
……蛇を生成した理由は、ニュイゼがいたからかな?
のほほんとそんな事を考えている内に、雷の蛇が己を使い潰し、周囲の人形達は黒こげとなって機能停止した。
黒こげ達は青白い光を放ち、宙に溶ける様に消滅する。
チラッとイベントインベントリを見ると、回収枠に大量の壊れた道具とコア、焦げた木材が入っていた。
「ユキ、私はいつ戦えば良いですか」
いつのまにか人化していたウルルが、僕を捕まえる。
「ちょっと待ってね」
背後から僕を抱き竦めるウルルの手を撫で、考える。
本当に敵が弱すぎて、ここにいるメンバーなら1人いれば殲滅出来てしまう。
何かしら制限を掛けてやらせるべきか……いや、イベントのチケットにはより上位の物がある筈だし、今回の低次なチケットは適当にクリアしてしまおう。
「よし、それじゃあ……レイーニャとニュイゼは協力して外と壁の敵を殲滅、ウルル、リッド、メロットは僕と一緒に城へ攻め込むよ」
イベントの概要も理解したし、さっさと攻め入るべしだ。
◇
城門を守る番兵ゴーレム2体を、ウルルが蹴り壊し、メロットが杖で殴り壊した。
その際に門やその周りが破壊され、砕けた欠片が青白い光となって消滅する。
どうやら、壊した物もアイテムとして回収されるらしい。
城に攻め入るや、複数の小部屋や通路、ホールに無数の徘徊人形、はぐれ人形、守衛人形、守護者人形が現れるが、それらは草を払う様にばったばったと薙ぎ倒される。
これなら分かれて攻略した方が早いので、取り敢えず一階と隠された地下はリッドにやって貰い、二階はウルルに先行して貰う。
僕は各停メロット便に搭乗し、ゆっくりと最上階に当たるボスがいると思わしき部屋を目指した。
道中、凄まじい轟音や何かが弾ける様な音が響き、城が揺れたり窓の外に見える外壁が崩れて青白く光るのを見たりしたが、全く気にせず進んだ。
三階に至る階段を守護する鎧の番兵と言う僅かに強くなったゴーレムを、メロットの杖と剣が一瞬で粉砕し、そして三階。
そこには、今までのドールやゴーレムとは一線を画する、白い鎧のゴーレムがいた。
無地の鎧 LV45
いざ、とメロットが面倒くさ気に腕を振り上げ、杖……と言う名の鈍器が振りかぶられた所で——
——城が崩壊した。
ガラガラ音を立てて崩れ去る床や天井。
落ちて行く鎧。
晴れ渡る空。
辺り一帯の地面を飲み込むリッド。
——リッドに落ちる鎧。
空を掴む様に伸ばされたその手は、何者にも届く事は無かったのであった。合掌。
《【イベントクエスト】『無地の鎧と人形の城』をクリアしました》
《【イベントクエスト】【限定クエスト】『イベント招聘』をクリアしました》




