第11話 ゆっくりと確実に
第七位階上位
転移して僕の近くに現れた、老人の姿をした爺様と対面する。
「やぁ、爺様。元気そうだね」
「うむ、ユキも壮健そうでなにより」
若い姿だろうが老人の姿だろうが、爺様の木漏れ日の様な柔和な笑顔は変わらない。
人生経験の為せる技だ。なにより人と関わって来た爺様だからこそ、こんな風に笑えるのだろう。
しばしニコニコと微笑み合い、爺様が口を開く。
「……時にユキよ、これらの浮遊島は全てユキの物かの?」
「うん、そうだよ。天命を踏破した報酬」
「そうか……」
少し考える様に浮遊都市を見下ろす爺様。
それを待つ事なく、僕は海上へ指差した。
「爺様、あそこに行きたいんだって?」
「む……」
空をゆっくりと進む巨大な積乱雲。
地上にはクレイドルと言う名前だけが残っている、正体不明の雲。
「むむむ、ザイエめ」
爺様は少し恨めしげに王都を見下ろした。ザイエに恨み電波を送信している。
自分等に匹敵する強敵が複数存在する危険な場所に、僕を連れて行きたくは無かったのかもしれない。
そんな優しい爺様に言葉を続ける。
「ザイエも行きたいって」
「む……」
今度は少し悲しげな表情を浮かべた。
……或いはもしかすると、誰にも頼らず、彼自身の手で、僕の知らないソレを解決したかったのかもしれない。
更に僕は言葉を続ける。
「ドラゴンがいるんだって? 楽しみだねぇ」
そんな事を言ってニタリと微笑んで見せた。
そんな僕に、爺様はきょとんと止まり、そしてとびっきりに優しく微笑んだ。
「……ありがとう、ユキ」
僕はふにゃりと微笑んで——
「……なんの事かにゃ?」
——取り敢えずレイーニャの真似をしておいた。
遠い雲の塊を見る爺様は、覚悟を決めた人間の目をしていた。
◇
力を持った本、歴史的に価値のある本等の選別をしたり、爺様に変わる警備を設置したりと、色々忙しい爺様は図書館に戻った。
明日の朝頃にクレイドルに向かう事を伝えた所、ザイエがいると思われる方に電波を送信していたので、ザイエの奴は伝えていなかったらしい。
……もしくは直前に伝えるつもりだったのかな? あれで結構厳しい……無茶振り激しい人だから。
取り敢えず爺様達は何かと忙しそうなので明日まで放っておくとして……取り敢えず僕はインヴェルノ周りの整備を行なう。
まぁ、整備と言っても、山の方にスポナーを設置して、兎や鼠等の小動物が降りて来る様にするだけだが。
なによりも、倒せる獲物がいる事が大事なのだ。
……街の中の迷宮にいっぱい用意してあるけどね。
その後、各都市の微調整を行ない、マレビト達の傾向を観察して、セミナーやクランへの誘導の成功を確認した所で、まもなく時間である。
◇
エントリー画面からチケットを選択する。
【無地のチケット】
・マップ名:人形城
・難易度:2
・推奨レベル:10〜30
・参加可能人数:300
新たに表示された情報を流し読み、レギオンを設定する。
……参加人数に制限があるなんて初耳だぞ。多分チケットの質次第で人数が変動するんだろうな。
それに難易度が2と言う事は、無地のチケットよりも格下のチケットがあると言う事か。
差し当たってメンバーは、リーダーが僕、メンバーはウルル、リッド、メロット、ニュイゼ、レイーニャ。計6名。
どの様な敵が待ち受けているか分からないし、比較的常識的な行動の取れるメンバーで行ってみる。
推奨レベルとやらが低いし、ワンパーティーで問題無いだろう。
各種設定を行い、確定。最後に動画協力にイエスを押して、完了。
イベントインベントリの持ち込み枠には、一応上級ポーションを6本と魔結晶より上の魔晶核を3個入れて、イベント準備は完了である。
《【探索クエスト】『洞窟を越える者達』をクリアしました》
おっと? どうやらコウキ達が洞窟の迷宮をクリアしたらしい。
若干時間が掛かったのは、ジャイアントシャドーバットが相手だからだろう。
コウキ達はともかく、普通のプレイヤーはジャイアントシャドーバットが生成する小型の影の蝙蝠に上手く攻撃を当てる技術がない。
仮に当てたとしても、魔力が宿らない武器の一撃ではそう時間を掛けずに復活するだろう。
それに、影を操る能力上、部屋に入る弱い者達の人数が多い程ジャイアントシャドーバットは強くなる。
弱点である光属性を使える者がいないであろう事も、時間が掛かった原因か。
報酬は、スキルポイント4P。ロジックポイント2P。50,000MC。上級ポーションセット。
新しい迷宮、大迷洞を手っ取り早く攻略する為、サンディアの軍勢を投入する。
折角なので、中位環境迷宮の初回攻略は全部サンディアの管轄にしてしまおう。
攻略済みの中位環境迷宮は……眠ったままの子達を蘇生して潜らせる事にする。
さて、そろそろイベントの時間である。
初の大規模イベントだが、どんな感じなのかな?
僕は期待に少し胸を踊らせ、大きな光に包まれるのだった。




