第19話 ヤカルナ先生の授業
第七位階上位
「ゴーレムの生成術式は、見ての通り、一般的な魔法式と比べても然程複雑ではありません」
5ページ目も、3ページ目と同じ、右が図解で左が説明と言う形で構成されている。
魔法基礎では魔法文字について詳しく学ばない為、通常では読む事は出来ない。
ここでは、ゴーレム生成術式の魔法陣に書かれている魔法文字について解説されている。
「術式の内容の多くを占めるのは、術者の魔力を使って指定の物体に魂の器を作る術式です。よって、この術式で生成されたゴーレムの基礎性能は術者の力に比例します。ゴーレムは術者の分身とも言えるでしょう」
人間と思わしき目や口が丸い人型が、手からうにゃうにゃ光線を出してゴーレムと思わしき目や口が角ばった人型を作る絵が黒板に描かれ、ゴーレムが丸で囲われて矢印の先に分身と書かれた。
テストで出そうだが、事実『見習い傀儡技師』の資格試験では一番最初に出る問題だ。
暫く学徒の皆が配布されたノートに書く音がなり、それに構わずヤカルナは授業を続ける。
「2番目を占めるのは、物質指定の術式です。内容の示す通り、この術式は『「 」を操作する』と言う意味を持ち、主にゴーレムが体として使用する物体を指定しています」
「先生、術式に空白があっても魔法は発動するんですか?」
「勿論発動します。これは『指向性魔力術式補完』と言います。『魔術基礎』の授業で習いますから、魔法文字について詳しく学びたい方は『魔術基礎』を受講してください」
簡単に言えば、発動時は魔力に混ざる術者の認識、即ち指向性魔力を汲み取り術式が自動的に補完されると言う事。授業では単に『術式補完』として習う物だ。
発動後は、ゴーレムの認識を読み取り術式補完される為、ゴーレムが高い知能を持つ様になれば、砂でも泥でも金属でも水でも自由自在である。
プレイヤーがスキルとして習得する魔法術式は、範囲指定やら個数指定やらがちゃんと決まっている。
その為、基本的な理論で言うなら、魔術の威力は魔力質依存であり、魔力を幾ら込めた所で威力は変化しない。
では何故魔力を過剰に込めたら威力が増加するのかと言うと……魔法術式の空白の場所に術式補完の力が働くからだ。
……つまり魔力をゴリゴリ押し込む事で、魔法陣の外側の何も書かれて無い所も魔法陣の範囲になり、何も無い部分が術式補完されて魔法の威力が増大する訳である。
その際、基本となる術式の影響力を利用して補完される為、場合によっては術式が焼き切れて構造が崩壊する。
この術式補完の力は、魔力が概念により変ずる創世の力の一端である事を表しうんぬんかんぬんと言う事を魔術基礎で習う。
……術式補完は一見便利だが、補完しているのは実は自分だったりする。
所謂想像力で補う部分と言うのがこの術式補完の部分であり、想像による術式補完は精神力の消耗を伴うのだ。
つまり、完全な自力の魔法発動は属性変換と想像力により行使可能で、その代わり膨大な精神力の消耗が起きるのである。
質問した少女は一応の納得を見せ、着席した。
「そして3番目が、生成したゴーレムを使役する術式です。ゴーレムは術者の指向性魔力により魂を形成され、術者の魂の断片を継承、知識を取得しますが、それを利用し行動する知恵を持ちません。ゴーレムを使役する術式無くしてゴーレムを動かす事は出来ないのです。……例外もありますが」
「「「「「あ〜、ユキさん」」」」」
何に納得したんだ。分身して全員の背後に出てやろうか。
「いえ、ユキ様も勿論その一部ですが、一般的に例外と言われるのは野生のゴーレムです」
「あー、野生のって言うからには自力で考えて動くか」
「それでもやっぱりユキさんは例外の内なんですよねー」
「例外はことごとくユキさんだよなー」
ザワザワと喋り始めた学徒達を制する様に、ヤカルナはパチパチと手を打ち合わせた。
「静かに……野生のゴーレム含む付喪神と呼ばれる類いの魔物については『魔物の生態と従属』の授業で取り扱っていますので、気になる様であれば受講してください。では、7ページを開いてください」
次のページはゴーレムのコアの生成方法について、図解と共に詳細な説明がなされていた。
この世界における一般的な方法は、おおよそレベル40以上の魔物の純度が高い魔石を術式で改変してコアとすると言う物。
まぁ、兵士の平均レベルが10代と言う時点でお察しだが、レベル40以上の魔物の魔石なんてそうそう手に入らない。
並大抵の迷宮なら迷宮主クラスの魔物だ。
これとは別の方法だと、迷宮等に現れるゴーレムの壊れたコアを、粉末魔石を混ぜたセメント等で修復して流用する物がある。
これは基本的に失敗する。仮にゴーレムが動いたとしても、コアが脆い為衝撃で壊れたりする。
また、アルバ大陸の文明レベルでも再現可能な方法として、粉末魔石を混ぜて作られた特別な器に粉末魔石を混ぜた水を入れ、そこに高純度魔石の欠片を入れて蓋をして放置すると言う方法も書かれている。
基本的に魔力は互いに引き合う性質を持つので、より多く魔力を保有する魔石に粉末魔石の魔力が引き寄せられ、高純度な魔力結晶が完成するのだ。
これを繰り返していけば、強力な魔結晶を量産する事が可能だ。
……ただし、器の魔力を閉じ込める力が内部の魔力量を上回らないと意味が無いので、器のアップグレードが必要になる他、魔力が宿る不純物が減れば減る程魔結晶が纏まるのに掛かる時間が増える。
更に問題をあげるなら、製造過程で当然魔力の流出が起きるので、強力な魔力結晶を生み出すのに膨大な量の魔石を必要とし、有り体に言えばお金がかかる。
仮に強力な魔力結晶が完成しても、それをゴーレム・コアにするには、それ用の魔法陣を用意して、複数人の魔法使いを集めて儀式魔法を行う必要がある。
弱っちい者達がお金と時間を掛けてようやく完成したゴーレムは……大体良くてレベル100。
僕が指一本振るうだけで10体くらい作れるレベルの物である。
まぁ……方法としてそう言う事もあるのだと、教科書には書かれていた。
後は、ゴーレムの体を構成する素材、土や石、金属、水等についてと必要なコアの質の相関。
ゴーレム一体当たりの戦闘耐久、労働耐久の表。
ちょっとした追加装備の例。戦闘の例。
それらを一頻りやった所で、午前の授業は終了となった。
午後は実際にゴーレムを作ってみる授業である。
これらの授業を通して試験では、コア一つ当たりの操作可能な土の量を計算したり、ゴブリン50匹の集落を潰すのに必要なゴーレムの数を計算したりする。
……この資格を取得すると『ゴーレムの戦術利用』の授業を受講可能だ。
こっちでは、本格的にゴーレムを動かして戦わせたり、仮想空間内で実際に防衛戦をやらせたりする。
基礎範囲外なので情報料や諸経費、即ち学費が掛かるけどね。




