第15話 セイト一行は雲の上
第七位階上位
タク達やリンカちゃん達は、昨日の時点で全員環境迷宮を踏破している。
今は、皆隠しボスへ挑戦する為にレベリングしている所だ。
セイト達は、人が殆どおらず獲物を独占できる雲の迷宮にいた。
背後を気にしていない様子だったので、それとなく戦列に混じる。
進む事およそ1分。空から魔物が降りて来た。
ウェザーボール LV12
ウェザーマン LV29
クラウドやミストの様な、雲や霧の亜精霊の進化種族だ。
クラウドやミストは吹けば飛ぶ様な弱さだが、ここまでとなると、小型魔物くらいなら簡単に吹っ飛ばす事が出来る。
更に付け足すなら、この手の亜精霊は基本的に群れて来るので、数次第では全身鎧の男でも吹き飛ばされる。
おまけに、頭の良い上位種が混じると、竜巻を起こして来たりもする様だ。
敵の襲来に気付いたマガネは、真っ先に前に出て上位種に突撃した。
ウェザーマンはマガネに対し突風を放って見せるも、全身鎧の上大盾を持つレベル50を飛ばす事は出来無い。
マガネが上位種を引き付けている内に、7体いるウェザーボールの内1体をセイトが真っ二つに切り裂いて撃破した。
……運良く核を穿ったのか、経験で核を割ったのか、それとも……気配を掴める様になって来たのかな?
何にせよ、物理攻撃で倒し辛い亜精霊系を一撃で仕留められる練度なら、戦士として不足なしだ。
そうこうしてる内に、マヤが詠唱を終え、杖を掲げた。
「『火炎』」
火炎。火属性最初の範囲魔法だ。
威力が低く、範囲も狭い、大した事ない魔法だが、マヤのレベルと杖の力により強化され、威力、範囲共に10倍近くまで増している。
術式の限界まで強化されている訳だ。
……正直効率は悪い。
下位の魔法を構築する術式は、魔力の許容量もそれに見合う程度しかない。
そこへ過剰な魔力を注入すれば、構築された術式が焼き切れるまで魔力を消費し、威力や範囲等が拡充された魔法が発動する。
その際、過剰分の魔力は霧散するし、マヤのやり方だと投入したオドのコントロールをしていないので、言ってしまえばペッドボトルにシャワーで水を入れている様な形になる。
更に付け足すと、術式はあくまでも下位魔法の物なので、魔法自体の維持が上手くなされず、発動して直ぐに魔力への霧散が始まる。
他にも、術式やスキルに魔力を属性変換する機構が備わっているが、過剰な魔力は変換が間に合わず、単なる魔力として使用されてしまい、変換された魔力による魔法と比べて威力が低下する。
まぁ、要するに、魔法を使うなら過不足ない術式を用意するか、精霊魔法を使うか、或いは自前で現象を引き起こすのが良いと言う事だ。
取り敢えずマヤは……見た感じ杖の力に頼り切りで魔力のコントロールが疎かになっているので、それ様のスキルアッププランを考えておこう。
対してクリアは、水の魔法でウェザーボール達を撃ち減らそうと攻撃している。
因みに、ウェザーボールは高温に弱いが小さな火には強く、基本的に風は効かなくて水には強いが肉体の再構成をしないと行けなくなるので時間稼ぎが出来る。
その為に魔法を使ったなら、クリアも成長した物だ。と思うが……倒そうと思って水魔法を使ったなら、そこはさすがのクリアクオリティと言わざるを得ない。
そして間違いなく後者である。
何故なら、単体中威力の水撃を使ったからだ。
これがマヤみたいにちょっと魔力をコントロールして強化していたら倒せただろうが、定形通りの威力では亜精霊の核は砕けない。
まぁ、なんだかんだ批判してみたが、彼等が苦戦する様な相手ではない。
マヤのフレイムはウェザーボールを一気に4体焼き払ったし、クリアの魔法はウェザーボール1体を足止めした。
セイトは残ったウェザーボールを何度か切って撃破し、マガネはウェザーマンを硬属性の大盾で殴り消した。
ただ、やっぱり荒が目立つよね。
マヤとクリアは例によって、セイトは気配察知が未だ足りず、マガネは、というかマガネ含むタクやセンリ達は闘気法を上手く扱えていない。
全面的教育が必要である。
以前から、その手の修行の話はタク達にしていたが、ちょうど明日マレビト招致でプレイヤーも増えるし、僕の配下達とも合わせて明日の18〜19時くらいから強化合宿を行おう。
そんなこんなで、セイト達は若干スマートじゃない戦いを繰り返し、程々に消耗しながらも、危なげなく雲の迷宮のボスと相対した。
ウェザー・ジャイアント LV50
リトルモクトン LV15
リトルモクトン。もこもこの羊のモクトン・ロードの下位種族。
サイズ的にはウェザー・ボールと同じで、レベルもそれに近いが、実体の部分が多いのでそれが弱点と言えば弱点か。
総合力的に見て、実体を持つから魔力保持容量が多くウェザー・ボールより格上である。
レベルに惑わされては行けない相手だ。
対するウェザー・ジャイアントは、通常のウェザー系亜精霊が水と風の複合属性を持つのに対し、氷属性も持ち、更には光属性をも大量に保持している。
ミストとクラウドの違いは、風属性を持つかどうかだろう。
ならば、多数の属性を付け足されたこのウェザー・ジャイアントは、正式にはウェザー・ジャイアント・亜種と言うくらいが丁度いい、属性の怪物である。
先行、ウェザー・ジャイアントは、全員を吹き飛ばさんと津波が如き突風を放った!
重量と盾で耐えるマガネ、全身鎧でもよろけるセイト、地面に転がされ本能か姿勢を低くして耐えるクリア、そして僕の方に吹っ飛んできたマヤ。
仕方ないのでそれをキャッチ。
「……うぅ……? ユキミンを感じる……?」
「僕から何が滲み出てるのか」
「……おぉ、ユキ。勝った」
「自力で頑張る事だね」
色々とおかしいマヤを戦線に返す。
マヤが吹っ飛んだ事に気付いていない3人は、ウェザー・ジャイアントへ攻撃を開始していた。
風が止まるや否や、マガネは真っ直ぐ突撃。ウェザー・ジャイアントの氷弾攻撃を受け止める。
一方セイトは、近付いてくるモクトンの群れに対し、被弾を気にせず剣を振るう。
クリアも、先ずは雑魚から殲滅する定石を守り、モクトンに水の魔法を放つ。
そしてマヤは、蟹を召喚しようとしたので、さっとその口元を封じた。
「もごもご」
「マジックアローを連発した方が良いんじゃない?」
「もご? もごぺろ」
舐めるな。
アヤみたいな事をするマヤの舌を摘んで引っ張ってから解放する。
即座に詠唱を始めたマヤは、魔力を過剰に詰め込み、大きくなったマジックアローを3本生成、モクトンを3体貫き撃破した。
詠唱を続け、数十匹いたモクトンを次々に撃ち落とす。
間も無くしてモクトンは殲滅され、残すはボスのみ。
このまま普通に戦えば、ウェザー・ジャイアントくらい余裕で勝てるだろう。
明日の予定のメールを送り、僕はその場を後にした。




