第48話 夢郷と神
第七位階上位
ヒメを介抱している間に、ブガンダ君とカッツェを労い送還した。
間も無く、ヒメも正気に戻るだろう。
「……たけのこ出そうデース……」
「我慢して」
「おぅ……おぉぅ……」
間も無く正気に戻るだろう。多分。
……何処までが演技なんだ?
◇
完全復活したヒメに連れられ草原を進み、小川に到着した。
そこには、大きな桃が川を流れていた。
取り敢えず拾うよね。
「——ちょちょちょっと待つデス! せめてもう5分待つデスヨー!」
「桃は待ってくれない」
桃は待ってくれない……!
第一、5分も流したら下のよくわからん川の上に立つ小屋に入ってしまう。
桃を見失う様な失礼な事は僕には出来ない。
「あ、頭がおかしいデースヨー……?」
「まぁ、冗談はさておき」
僕は作り物だった桃を川にリリースし、やる気の無い足取りで小屋へ進む。
そんな僕を見て、ヒメがポツリ。
「……あからさまデース」
桃は明日いっぱい食べられるしね。全然残念じゃないよ。本当に。
「むしろ可愛いレベルデスネ!」
「僕が可愛いのは当たり前の事だよ?」
抱き付いて撫でて来るヒメにされるがままに、小川沿いを歩く。
まぁ、川と桃とくればアレしかないよね。最初から分かってたんだよ。
ただ一応拾っておいただけの話だ。
僕がゆっくり思考している横で、ヒメはニコニコ微笑みながら口ずさむ。
「どんぶらこデース」
「デース」
「桃から子供が産まれマース」
「マース」
「それから時間が流れマスヨー?」
「ヨー」
「……大丈夫デスカ?」
「デスカ」
そうこうしてる内に、桃は小屋の中に消え、小屋に近付くと微妙に創造力の変化が起きて、綺麗な小屋は少し年季の入った小屋に変わった。
若干心配されているが、ヒメはシナリオを進める事にしたらしく、小屋の引き戸に手を掛けて——
「たのもー!」
——バキッ!
引っ張り開けた。
「あらら? ……えへ」
壊れた引き戸を川に捨て、笑って誤魔化すヒメに、小屋の住人が物申す。
「引き戸は横にと何度も申してござろう? 何故に引くのか……」
「えへへ、引き戸デスカラ……ごめんなサーイ」
小屋の中から現れたのは、1人の男。
侍の装いで腰に刀を佩き、髪の毛を一つ結びにした精悍なイケメン青年だ。
その立ち居振る舞いは歴戦の武人のソレ。然りとて破壊神ヒメに肩を竦めて苦笑する物腰穏やかな一面もある。
総じて余裕のある強者だ。
「それデハ、鬼退治に行きまショー!」
「うむ、ユキ殿、共に参ろう」
そう言うシナリオらしい。
◇
侍の青年は、鬼滅、転じて怪異、夜迷夢を狩る大軍団を預かる侍大将であり、名前は桃幻楼軍覇と言うらしい。
それは名前なのかと思わない事も無いが、思えばモンデシウルとかも山の大狼みたいな意味の名前なので、桃幻楼軍覇も一種の神名なのだろう。
そんなグンハはいい奴だ。
腰の巾着から徐に桃を取り出し、僕に振る舞った。
ヒメには筍おにぎりだった。
多分、巾着には対象の好きな食べ物を出す力があるのだろう。欲しい。
その後グンハは、一応とばかりに召喚した桃花に歩きながら稽古を付けてくれていた。
桃花自身も何故かグンハには微妙に敵意と敬意を持っているので、程々の緊張感だ。
「トウカちゃんは面白い精霊デスネ」
「やっぱり珍しいの?」
「夢郷では童話神性がメジャーデスガ……外ではあまり見ないデスネ。それに……グンハと同じ神権持ってマス」
うん。『桃太郎』と『邪気祓い』、それから『勝利』の神権を持ってるね。
……同じ神権だから敵意と敬意があるのかな? 縄張り争いみたいな感じで。
「ははっ! 伸びる剣とは面妖でござるな!」
「ぬぅ……」
それにしてはグンハは嬉しそうだが。
「受けてみなさい! 私の一撃!」
「応! 受けて立つ!」
ちょっと白熱し過ぎなキライがある。
「ふふ、グンハも嬉しそうデス」
「そうなんだ」
「きっと娘みたいな相手が出来たからデスネー。グンハは生まれ付き唯一神デスカラ」
「唯一神?」
「えっとデスネー——」
簡潔に言うと、夢の世界、夢郷では、同じ童話神性を持つ者が複数存在する場合があり、それを何らかの方法で倒す事で神性を奪う事が出来るとか。
ヒメにも同じ神権を持つ妹がいたが、別の当時フリーだった神権にも適性があったので、神権をヒメに譲り、別の神権を取りにすっ飛んで行ったらしい。
唯一神と言うのは、その神権を持つ者が1人しかいない時の呼び名で、平民系の主人公は比較的数が多くなる傾向にあるとか。
歴史上の神権を巡る大事件は、リヨンが起こした『血塗られたブトウカイ事件』の他に、旧代のトランプ王達が起こした『トランプ王統一戦争』。ねむり姫といばら姫と他幾らかの神権が混じって産まれた神性キメラの暴走『ウィザラー森域決戦』。グンハが起こした他神権を巡る『六ツ神合戦』等々。
詳しい話はヒメが話さないと言うので聞けなかったが、随分と夢の無い夢である。
尚、夢想神になるには唯一神である必要は無いらしい。
それどころか、神権を持たなくとも夢想神になれるとか。
具体的に言えば、他の並み居る神々や強者を差し置いて、ただ一人の創造力で世界そのものを変質させる力を持つ者が、夢想神の神権を得られるとか。
普通は強力な神権を得て魂を磨き、他の神権の影響力を振り払って世界を変質させるらしい。
3代目夢想神は、2代目が起こした世界改変の影響で全体の質が上がり過ぎた結果、殺し合う以外で決着が付かなくなったので、基本的には合議制になっている様だ。
現在の夢想神有力候補は、ベルベル。ジャック。リヨン&エラ。グンハ。ダイヤの王の5名。
その内、ダイヤの王は、もしいないのならばわたくしがなりますと表明しているので、実質4名から選ばれる。
順位的には、ベルベルが頭一つ抜き出て、他3人はほぼ同率。若干グンハが上で、リヨン達は3位らしい。
多分、リヨンはここで名を上げて2位くらいになろうと考えていたのだろう。
と言うか……。
「ベルベルってそんなに強いの?」
「ええ、なんて言ったってベルちゃんは夢郷最強の戦神デスカラネ! 深淵に蠢く夜迷夢の群と単身戦い続け、夢郷を今日まで延命した、童話神性とは別のただ一つの神権『ル・ベルム』を持つ赤き神狼デス!」
「へぇ……」
つまり、現神で唯一神で夢想神候補って事かな? 他が唯一神だけとすると頭一つどころか群を抜いているんじゃない?
「……ただデスネ……ベルちゃん、認知されたのも最近デスシ、夜迷夢から刈り取った力を殆ど世界に捧げていたノデ、未だ亜神なんデス」
「ふむ」
つまり僕と同じで、神足るに充分だが総合エネルギーや神権が足りない幼神と言う事か。
童話神性と言い夢想神を巡る戦いと言い、夢郷は何かと興味深いな。
神になれたら一度行ってみたいかも。




