幕間 宮代拓哉の自己定義
第三位階中位
「世界は既に攻略されている」
ユキは、つまらなそうな声で
つまらなそうな顔で
何も無い空を見上げ、呟いた。
九つになったある夏の終わり
俺の親友はこの日を境に
——笑わなくなった
◇◇◇
「——ふふ」
クラスの女子に妖しく微笑んだ雪。
男女問わず人を魅了する花の顔。
それが作り物だと知っているのはほんの僅かな数人だけだ。
ユキは変わってしまってから、変わらない。
ガキの頃から一緒だったユキが、初めて作り物の笑顔をみせた時、背筋が凍り付いたかの様な衝撃を受けた。
それと同時に理解した。
ユキが遠くに行ってしまう前に、俺がユキの足を引っ張らなければならないのだ、と。
——はっきり言って、俺は天才だ。
あらゆる面で、凡人と比べるべくも無い才能に恵まれている。
ならユキは?
ユキは鬼才だ、少なくとも今はまだ。
だからこそ
ユキが遠くへ行ってしまう前に
足元に及ぶ俺がユキの足を捕まえなければならない。
勿論、アヤちゃんもユキに次ぐ天才、リナ姉さんも天才だ。
だからこそ、これは俺のエゴイズム。プライドだ。男の意地とも言う。
俺がユキの隣に立つ。
他の誰でも無い、この……俺が。
面白い物を探した。少しでもユキの興味を引く為の、面白い物を。
スポーツ、勉強、料理にゲーム、何もかもやった。その悉くをユキはこなして見せた。
挑戦しては遠ざかり、いつまで経ってもその背中を追い掛けるだけ。
そうこうしている内に時間は流れ、気付けば高校生になっていた。
◇◇◇
その日も、いつも通りユキの喜びそうな物を探していた。
見付けたのは、某有名動画投稿サイトにアップされた一つの映像。
ハイクオリティなその動画は、俺の目から見てもなんら現実と相違なかった。
CGの様な作り物めいた違和感も無く、幻想的で神秘的なそれは、中々に面白い。
何度目かの投稿を見て、ユキにも見せる事を決めた。
◇
「ふむふむ……アナザーワールドオンライン、ね。ゲームの宣伝かな?……それにしては……」
映像を見せた後、唐突にユキはそう言った。
アナザーワールドオンライン? どう言う事だ?
訝しむ、俺に気付いてか、ユキは何でも無い事の様に説明した。
動画の始まりから今まで、不自然に発光した物のアルファベット、その頭文字を登場する順番で並べるとそう読み取れるらしい。
そこまで見ないといけないのか……次からは気を付けよう。
俺はユキと別れ、家に帰ると直ぐにそれを調べた。
そうして
俺はアナザーのβテストを受ける事にした。
◇◇◇
送られて来たゲームをプレイした。
世界初のVRゲーム。
起動しその世界に降り立ち、暫くの間動く事が出来なかった。
単純に驚いた。驚いて固まって、呆然と周りを見渡していたんだ。
石で出来た家屋。
其処彼処を照らす日の光。
街の中には石で出来たロボットの様な石像が行き交い、吹いた風は暖かく、仄かに若草の香りがする。
感動した。
これならきっと、ユキの笑顔が戻ってくるかもしれないと希望を抱いた。
どんな手を使ってでも、ユキにこのゲームをプレイさせてみせる。
俺はそう、決意した。
……しかし、これは本当でゲームなのか? どうにも違和感が無さ過ぎる……。
◇◇◇
厳しくも楽しい戦いを乗り越え、β期間が終わった。
βの活躍特典で、欲しい物は全部揃った。
後はユキを誘うだけ。
暑い教室の中、僅かに手を濡らす汗は夏故か、それとも——
「——なぁ、雪、ゲームをやらないか?」
◇
時は夏の頃、明日からは夏休みだ。
仮面を被った親友が
その笑顔を取り戻すまで
あと少し——




