第23話 生き様
第七位階上位
未だ僅かに赤い頬を隠す様に扇を広げるダイヤの王。
「……まったく。可愛い過ぎるのも考え物ですわね。うんと難しい試練にするつもりでしたのに」
「ふふん。まっ、僕の武器の一つだからね」
「ふふ、そう言う生意気だけどチョロい所がユキちゃんのチャームポイントですわ」
チョロくないし。チョロいとか言うなし。
「チョロくないよ」
「虚勢を張り切れて無い所もチャームポイントですわね!」
俄然勢いを取り戻したダイヤの王は、魔力を昂らせ、神気を放ちながら僕に詰め寄る。
溢れ出んばかりの愛とキラキラした力ある瞳が僕へ迫り来る。
「……チョロくないよ」
「好きですわ!」
「……チョロくない」
「愛してますわ!」
「…………」
「チョロユキですわ!」
「ちょっ、ちょっと待って。それ、神応とか言う奴だよねっ……ずるい」
僕がまだ慣れていない事を知っている癖に、拒めないと知ってそうやってグイグイ来るんだもん。だから神きらい。
「……ずるいのはユキちゃんの方ですわ〜!」
「うわむぎゅう」
抱き上げられたかと思えば次の瞬間にはその膨よかなクッションに埋められた。
体型に対してそんなに巨大では無い筈なのに、遠近感がおかしくなるボリューム。
手の大きさなんかは余裕で僕の頭を鷲掴みに出来るサイズである。トリックアートか。
「ずっとこんな妹が欲しかったんですの! 良くってよ、良くってよ! あぁ、あぁ! このまま独り占め出来たらどれ程…………悔しいですわー! お父様ばっかりずるいですわ!」
「っ!?」
今の発言から、そして彼女から感じていた力の性質から……僕はある事に気付いてしまった。
彼女は、おそらく……金の神の娘。
即ち、僕の義娘……に……なると…………。
ダイヤの王はその金色の瞳を文字通り輝かせ、僕の中を覗き込む。
「あぁ、照れてますわ! 理性が劣勢ですわ! こんなに可愛かったら妹がたくさん出来てしまいますわ!!」
「ひゃっ!? やーめーてー!?」
妹がたくさん出来てしまうってどう言う事!? お腹を撫でるなー!
と言うかこんな所を配下の子達に見られたら僕はどうにかなってしまう自信がある!
「大丈夫ですわ! お義母様のお恥ずかしい姿はわたくし以外誰にもみせませんことよ!」
「そ、そう、それは……少しはマシ……」
く、くそぅ、配慮されている。出来る子だな。流石は金の神の因子を継ぐ者、抜かりが無い。
……誰の子だろう。やっぱり金の神にはたくさんパートナーがいるのだろうか?
「はぁ……こんなに可愛いらしいのに、一人前に嫉妬してますわぁ」
「むむ……そう言う何でも詳らかにしようとするの、僕はきらいだね」
「あぁ、嫌われてしまいましたわ……でも、こう言う時は……好きですわー!」
「……そうやって僕をチョロい子扱いして、きらい」
僕は押しに弱い訳では無い。ただ身内に甘いだけである。断固抵抗する。
きらいきらいきらいきらいきらい——
「頑なですわね……因みにお父様の事は?」
——きら…………ずるい。
「……それじゃあ……きらいって言えない」
そもそも金の神は嫌われる生物なのだろうか? よっぽど魂の性質が合わない限り、嫌われる様なモノでは無い気がする。
何と言うか……その存在はもはや世の理の領域に入っているのだろう。
まだ首が座った程度の僕が神をどうこう言うのは烏滸がましいだろうが、真の神と言うのは、出会った瞬間にそのカリスマに心奪われる様なモノの事を言うのだと思う。
僕の言葉を受けて、ダイヤの王は僕をストンと地に下ろし、胸元に手を添えて天を仰いだ。
「?」
「……浄化されましたわ」
「……良い事だね」
「反省しましたわ」
「2度としないでね」
「それは出来ない約束ですわ」
……もう良いよ。いずれ乗り越えなければならない壁……売約済みの僕に逃れる術は無いのだ。
◇
ダイヤの王はふんわりと優しい笑顔で目を瞑り、静かに空を見上げている。
その間に僕は、未だ熱の残る頬を両手で抑え、意識して無表情を作り、心を落ち着ける。
しばらくそうして荒んだ心を整えていると、ダイヤの王がニコニコと微笑んで、その大きくも細い指で僕の唇に触れた。
そっと撫でる様に指を動かし、ピタリと止まる。
「……ここに、お父様の因子が残っていますわ」
「がぶっ!」
「きゃー! ユキちゃん可愛すぎですわぁ!」
僕に指を噛まれたまま、口元に手を添えて黄色い悲鳴を上げるダイヤの王。
くそぅ、つい…………て、照れ隠しで噛み付いてしまった。僕は小動物かっ。その上心理を読まれているし。どうして神に関わるとこうなるかな……もう踏んだり蹴ったりだよ……。
そのまま猛獣の如く指を噛みちぎり、何と言う事も無いフリをして気狂いを演じるのが一番良いと思う程には自暴自棄だが、僕は口内の指をペッと吐き出した。
第一、金の神も金の神だ。まさか唇を奪っただけでなく痕を残して行くなんて…………そんな事しなくても——
「——因みに今のはただのカマかけですわ」
「……」
……………………。
「……ふーん、まぁ気付いてたけどね。キスされたとでも思った?」
「あらまぁ……お父様も本気ですわね」
「……」
「わたくし、てっきりいつもの手口で思わせぶりに唇を撫でるくらいかと思ってましたのに。それだけユキちゃんの愛が大きいと言う事ですわね!」
「な、なんでそうなるかな?」
僕の問いに対し、ダイヤの王は派手な美貌を輝かせ、高らかに宣言した。
「愛に逢うては愛を返し、孤独に逢うては愛で包む。それがわたくし達『金因の霊合者』の流儀ですわ! おーほっほっほ!」
『金因の霊合者』。そう言えばイヴも金の因子の事をザ・ゴールドと言っていた。
金の因子持ちはザ・ゴールドと呼ばれるのか。
……しかし、愛に逢うては愛を返しって……つまり、究極的に言えば……アレも売約済みなのも僕がそう望んだからと言う事になるのでは…………。
その時、ふと、寂寥感が心をよぎった。
そうだ。幾ら僕が希少らしい銀の因子の持ち主で青系統とやらの魔眼を持っていて才色兼備な完璧超人だからと言って、第12位階とか言う凄い力を持っているらしい金の神からすれば塵芥も良い所。
僕が求めたから応えただけで、その程度は所詮些末な事なのだ。
スッと心が冷めて行く。
考えてみれば当然だ。
三千大千世界見渡せば僕の様な存在はそれこそ五万といるだろう。
暖簾に腕押し、ぬかに釘。ただただ空回りして、真実は僕が求めた物しか無かった訳だ。
ただ愛が有ったからそれに応えただけ。そう言う現象。なるべくしてなる理。
僕は大きい物に魅せられて、求められてると勘違いして自分を押し付けてる醜い勘違い小娘。お月様を気取って纏わり付くスペースデブリだゴミ屑だいやまてなんか必要以上にネガティブになってる気がする神応の影響かでも事実だしいいかあぁとんだ間抜けだ笑われるのも当然の道化そもそも金の神にとって僕は無価値でそれは分かっていた事僕は愛されてない送った愛を突っ返されて喜んでいた道化僕なんて鏡を見て笑っているのがお似合いの人形あぁあぁ……なんで? なんで悲しいのが収まらないの?




