第19話 ユキ・サーカス
第七位階上位
最初の城へ向かう道すがら、僕はある事に気付いた。
左右に広がる街並みは、いつのまにかぬいぐるみの街から人の街に変わっている。
小綺麗な石畳の道は奇妙に曲がりくねり、ハートの街灯が陽光の元で赤く光っていた。
そんな綺麗で特に臭いもしない街中で——
「——おっと」
僕は足元を通り過ぎたそれを辛くも回避する。
どうにも、それ等は気配が異質で、世界自体が特殊と言う事もあり、気を張っていないと気付き辛い。
存在自体が卑小なのも気付き辛い要因だろう。
チラリと横道を覗くと、それ等は団子状になって此方を伺っていた。
「……ふむむ」
それは注視するに、特に汚らしい訳では無い。
通常街中に現れる物であれば、触るのも憚られる病原体そのものと言える様な存在だが、ここの連中は寧ろ気持ち悪い程に清潔だ。
或いはもしかすると、彼等が無数に存在している事は、何かしらの隠しクエストか、またはヒントか何かなのかもしれない。
何とは無しにキーワードを口ずさんでみる。
「……不思議の世界。トランプ兵。スートの王。夢の国。ネズミ」
ネズミと夢。
考えてみれば、ネズミが出る童話や昔話など、両手の指では数えきれない程存在している。
だが、街中にネズミが大量に出て来る話なら限られる。
ただし、そこに夢の国と言うワードを付け加えると……考えられる事は一つ、誰もが知る、あのキャラクター、そう——
「——ん? もう着いた?」
ふと気付くと、お城の巨大な門の前にいた。
もっと遠かった気がするが、空間がねじ曲がっているのだろう。
ともあれ、早速お邪魔するとしよう。
◇
僕が近付くと、門は独りでに開いた。
自動ドアかと思えばそうではなく、内側から誰かが開けてくれたらしい。
見えて来たのは、赤い羽がついたマスケットハットをかぶった女。
赤い軍服の肩にはAの文字と共にハートと剣のマークが描かれているので、彼女がトランプ兵なのだろう。
顔は起伏の無いツルッとした人形のそれ。
おそらく、他のキャラクター達とは違って器を手抜きされているのだろう。
本体は普通に人間だと思われる。
ハートのA LV300
彼女は念力か何かで門を開けつつ、僕に対して華麗に一礼し、奥へ着いて来る様に促した。
この状況で突然罠と言う訳では無いだろうし、促されるままについて行く。
ハートの装飾品が幾らか置かれた広く長い廊下を歩き、程なくしてそこに辿り着いた。
それは言うなれば闘技場。
立ち並ぶのは10人の兵士。
ハートの10 LV290
ハートの2 LV210
ハートの6 LV250
Aも含めたそれ等は、整列すると西へ向かって礼を執った。
見上げたそこには——
「よくぞ来たわ、小娘」
——サディスティックな笑みで此方を見下すハートの王がいた。
「先ずは道化の様に踊りなさい。面白ければ笑ってあげるわ」
その言葉を合図に、10人の兵士が武器を構え、赤いオーラを身に纏う。
◇
最初はレイピアの様な細長い剣だった。
そうかと思えば、剣でする物とは違った妙な構えを取り、次の瞬間、レイピアは銃に変わっていた。
放たれたのは、赤いオーラを纏う丸弾。
見たところ、着弾すれば爆発するタイプの魔弾だ。
夢属性が混じっている事に目を瞑れば、その弾は火の精霊金属で出来ていると思われる。
僅かな差を付けて正確に僕を射抜く軌道で放たれたそれ等の球形弾。
その一番前の弾を、指と指の間で軽く受け止める。
続いてやって来る弾を全て指の間でキャッチした。
——こんなモノか。
と、思ったのも束の間、マスケット銃の形をしている癖に、瞬きの間に第二射が放たれた。
それも、前の10倍くらい早い弾だ。
仕方ないので、念動力で全てを受け止めて回収する。
さぁ、次は更に10倍か? と兵士達の方を見れば、唐突に何の脈絡も無く地面から馬が出現した。
兵士達はそれに跨がる、と言うよりも乗せられる様にして乗馬する。
気付けば銃は大槍に変わっており、エースが馬を嘶かせ、兵士達は突撃する。
エースを中心にした騎兵達は、僕の逃げ場を奪う様に横一列に並んで突進してくる。
仕方ないので、回収した弾丸を錬成して槍の様な物を作った。
それを——
「ふっ」
「っ!?」
突き出された大槍の先端に合わせてぶつけ、勢いを相殺した。
落馬しそうになったエースは、馬の背を蹴って宙を一回転し、華麗に着地。僕が投擲した槍も易々と大槍で弾いた。
まぁ、初弾と同じ速度だから出来ない理由もないだろう。
それはそうと、僕は軽く跳躍し、交差する様に放たれた9発の銃弾を回避。
僕の着地を狙った次弾は、滞空中の弾に乗る事で回避した。
着地と同時にエースの方から飛来した炎は、ふっと息を吹き付け空いた穴をするりと潜り抜ける。
で、次は猛獣使いでも演れば良いのかな? 僕の配下で丁度いい猛獣と言えば……元合成獣君達。
レベル限界に来て燻っている元合成獣君達6匹に加え、最近仲間になったばかりでレベル限界の低いハミリオン君と、三聖獣の鹿達を召喚した。
頭数で言えば僕を除いて10対10。
レベルでみれば、此方の方が圧倒的に格上。
しかし、戦闘力をみれば……そこそこ鍛え上げられた戦闘技術と、赤いオーラ型の補助効果で……油断すれば負ける程度には強い。
「おお! 奇怪面妖な珍獣だわ! ……余興としてはまぁまぁね」
椅子から立ち上がったのを誤魔化す様に、ハートの王はつーんとそっぽを向いてお褒めくださった。
それ以前から目を剥いて僕の素晴らしい妙技を凝視していたが、別に指摘はしない。
「……それでは演目『人か獣か』。お楽しみください」
僕は余裕の笑みを浮かべつつ、道化よろしく猛獣の輪の中でカーテシーなどして見せた。
第二ラウンドの戦端が開かれる。




