第17話 ル・ベルム
第七位階上位
子豚像と子山羊像をインベントリから取り出した。
次の瞬間、それら2つの像がキラキラと虹色の輝きを放ち……子豚獣亜人達と子山羊獣亜人達が現れた。
ピッグマン・パピー LV100
ゴートマン・パピー LV100
彼等10人は巨狼を認識するや否や悲鳴を上げて逃げ出した。
その恐怖に呼応する様に、巨狼は雄叫びを上げ、その形状をより刺々しく、禍々しく変化させ、無数のスレイブを生み出した。
阿鼻叫喚である。
取り敢えず10人……匹は敵では無い。そしてスレイブにすら食われるレベルで貧弱。
戦わずして逃げる様から見て、ブラッディ・ナイトメアの夢を見ているのはこの10匹で間違いないだろう。
この10匹は念動力で捕まえて保護しておく。
続いて、今にも暴れ出しそうな巨狼を抑える。
「ウルラナ、ボスを」
「任されよ」
人化を解いたウルラナは、巨大な白狼となって赤い狼へ襲い掛かる。
……山羊と豚の目から涙がこぼれ落ちた。
次に、増えた雑魚を殲滅する。
「ミュリア、行けるね?」
「うへへ、ご主人様ぁ」
「そーい」
絡み付こうとしてくるミュリアを敵の群れの中へ投げ込んだ。
空中で姿勢を整えたミュリアは、獣化して狼となり、赤い狼の群れへ襲い掛かる。
……山羊と豚がガクガクと震え始めた。
「ベルベルも雑魚狩りよろしく」
「……ん!」
気合十分と言った様子で、ベルベルは赤い狼型のオーラを纏い、狼の群れを蹂躙する。
……山羊と豚が動かなくなった。
まぁ……大丈夫だろう。
◇
ミュリアの光線で蒸発した狼は、微かな赤い靄と沢山の虹色の靄を噴出させて消滅する。
ベルベルの斬撃で死んだ狼は、虹色の靄のみを噴出して消滅する。
そしてウルラナの攻撃で傷付いた巨狼は、傷口から赤と虹の靄を出す。
この2種類の靄は、夢属性の魔力が可視化された物だ。
赤い靄はやがて集まり狼となり、虹色の靄は宙を漂い世界に溶け消える。
虹色の靄は、天の巨人と戦っている時にも見た。
巨人のお兄さんが踏みつけをした時に、雲の地面から虹色の靄がでていたのだ。
距離があったので感知出来ず、てっきりそう言うファンシーな雲なのかと思っていたが……おそらく夢の世界の物質は夢属性で構成されているのだろう。
木を伐採したりすると虹色の靄が出るに違いない。
全てが夢属性で構成されているのが、変質しやすい原因だろう。
……いや、そもそもこれらの物質に見えるモノは構成されていると言えるのかどうかすら甚だ疑問である。
やはり入った瞬間に思った通り、この世界は僕の知る常識とはまた違ったルールが根幹に存在する様だ。
それでもある程度通用しているのは、この迷宮がその様に調節されているからだと考えられる。
まぁ、流石に神域の事情なので、いくら僕と言えども詳しい所を調べる事は出来ない。
仕方ないので、これまで通り、用意されたクエストをささっとこなして行こう。
差し当たって、数度の弱体化復活を経て完全に消滅したブラッディ・ナイトメアのクエストをクリアしよう。
僕は、泡を吹いて気絶している子豚と子山羊達を祭壇に安置した。
こう言っては何だけど……生に——
《【運命クエスト】『血塗れの狼は牙を剥く』をクリアしました》
【運命クエスト】
『血塗れの狼は牙を剥く』
参加条件
・少女『ル・ベルム』に遭遇する
達成条件
・ボス『ブラッディ・ナイトメア』を倒す
失敗条件
・無し
達成報酬
参加者報酬
・スキルポイント5P
参加者貢献度ランダム報酬
貢献度100%
・武器『赤の宝珠』
・武器『テュルソス』
・防具『紅の少女』
エクストラ評価報酬
子豚三匹〔3/3〕
子山羊七匹〔7/7〕
全生存
・スキルポイント3P
・武器『釘鈀』
・道具『豊穣の角』
・道具『被害者の会』
生贄達は祭壇の上で虹色の光を放ち、周囲から虹色の靄を吸収、消滅した。
後に残ったのは……被害者の会なる名前の例の10匹の虹色像。
それから、熊手みたいな金属の武器らしい物と捻れている金色の角。
ざっと確認するに、赤の宝珠は赤の宝珠と言うよりもル・ベルムの宝珠と言うのが適切に思える宝珠。
紅の少女は、赤いフード付きケープで、火属性への親和性が高く、また狼型のオーラを纏う事が出来る様になる。
テュルソスは、先端に松笠の様な装飾の金属がついた貧相な見た目の杖で、望めば松笠から蜂蜜酒が溢れ出る。
また、不特定多数の他者を低レベルの狂化状態にさせる事が可能で、効果の程は……強く酔っ払ったくらいの様だ。
その実、攻撃時には松笠が開いて無数の刺が現れ、その刺が刺さると重度の狂化状態になるらしい。
熊手もどきの釘鈀は、見た目農具だが使われている金属は神珍鐡の合金で、見た目の割にかなり重く、基本4属性の強力な力を持つ為一振りで山を禿山に出来る。
コルヌ何某は捻れた金の角杯で、望めば秘薬に相当する乳酒や生命力溢れる水が湧いてくる。
被害者の会は……レベル650程度のエネルギーを秘めた子豚と子山羊の像で、子豚か子山羊の獣人を召喚出来る。
どう言う訳か、狼に強い特効があり、狼を限定して殺す大いなる力が宿っていた。
総評。やはりうまうま。
確認も済んだし、手早く次に進もうか。
差し当たって……。
「……さて、皆、お疲れ様」
傷だらけのウルラナを癒して労い、疲れた様子のミュリアを撫で、2人を本へ送還した。
「ベルベルもお疲れ様」
「……ん」
ゆったりと歩みよるベルベルを受け入れ、頭を撫でる。
尻尾を降りたくるベルベルを一頻り撫でると、彼女は名残惜しげに僕から離れた。
「……じゃあ、また後で」
そう言って、ベルベルは手を振ると、ふわりと宙に溶ける様に消滅した。
「……後で、ね」
……後で戦うって事か。




