第3話 騎士と少女と
第七位階上位
もう直ぐ夕飯だと言うのにもちもち空腹ゲージの回復に努めるクリア。
彼女は案外大食いである。
そんなクリアがギリギリ満足しないタイミング、もう少し欲しいタイミングで起き上がり、不意打ちでちびっ子達がやる様に頬と頬をくっ付けた。
ピトッとゼロ距離でひっ付いて、きっかり5秒数えてから離れる。
クリアの手が僕を触ろうと不自然に虚空で停止しているのを見届けた後、また後でねー。などと言いつつ手を振って櫓を離脱した。
幼い見た目を利用した完璧過ぎない感じのアプローチが完璧気味に決まった訳である。
やったね、クリアの好感度が上がった!
◇
櫓を後にしてしばらく。
僕をつけてくる者がいるのに気付いた。
まぁ、つけてくると言うか、どうやって合流しようか悩んでいる感じだが。これはいつもの事である。
きっちり着込んだ袴に、腰に佩いた刀。
まるで流れる滝の様にすらりとした長身。
人工の灯を照り返す長い髪は、いつもより高いハイポニーテールに結ばれ、その容貌は面によって隠されている。
姿勢からか所作からか、多くの者はそれを鋭い刃の如きと表現するだろう。
その様、はたと見れば若き侍のそれ。
見えないからこそ妄想は膨らむ物で、すれ違う女性は熱い眼差しで見つめ、男達は隠し切れない嫉妬と羨望の視線を向ける。
……まぁ、チサトなんだけどねー。
本来やや大きめクッションは、サラシで無理矢理を抑え込んでいるのだ。
取り敢えず彼女が合流しやすい様に、適当な所で……ちょうど良くベンチが空いたのでそこに腰掛ける。
ポシェットをガサゴソしながら待つ事数秒。
僕の前でチサトが止まった。
「あ、あら、ユキ、奇遇ね」
「ん、チサト、奇遇だね」
ぎこちなく手を振り、偶然を装う彼女に合わせて笑顔でお迎えする。
「仕事の調子はどう?」
「そうね……ユキのおかげで特にコレと言って問題はなかったわ」
チサトは問題無しと言いつつも、若干疲れ気味の様子。大方握手とか賑やかしの方が忙しかったのだろう。
とんとんと手でベンチを触り、座る様に促しながら会話する。
「峰トンたくさんしてきたのかな?」
「ええ、今日は子供連れが多かったみたいで……何でか握手を頼まれたりもして……」
チサトは面を取りながら、僕の隣に腰掛けた。
「チサトはカッコいいから、人気があるんだよ。お疲れ様」
そう労い、ベンチに置かれていたチサトの手に僕の手を重ねた。
チサトはピクリと肩を震わせ、ニヨリと口の端を歪めた。
「……う、うん……ユキもお疲れ様」
チサトはカッコいいと言われてもカワイイと言われても嬉しそうな顔をするのだ。
この格好をしているチサトは普段より少し声が低く、なんとなくソレを意識しているのが分かる。
護鈴のチサトと一緒に歩くと、チサトはいつも刀に手を掛け、僕の後ろを歩く。
——それはさながら騎士の如く。
いつ如何なる事が起きようと、僕を守らんとする強い意志が垣間見える。
チサトは昔からそうだった。
護鈴と鈴御霊と言う身分からして彼女が僕を守ろうとするのは当然の事だが、それ以上に彼女は騎士であり、そして彼女にとって僕は守るべきお姫様なのだ。
……そう言う所が原因かは判然としないが、チサトはたまにスキンシップ過多になる時がある。
抑圧された物を解放する様に甘えてくるのである。
勿論メンタルケアの一環としてしっかり甘やかしている。
その後は、チサトを労いながら久しぶりに他愛もない話をして、いつだったかの様にエスコートをして貰いながら広い守界を見て回った。
神楽までの少し長めな待ち時間。
チサトの欲求も幾らか満たす事が出来ただろう。
本格的に満足させるには、桜庭姉妹にした様に、正装では無い時に相手をする必要がある。
今年の僕は凄いぞ。何故なら……ファーストキス奪われたからね。
……あと……あ、アレも……あったし、ね。ま、まぁ良いかなーって感じ……?
……ともあれ! 食事系はどうにか回りきったし、明日の最終日には全店舗制覇出来るだろう!
鈴守の当主として、お祭りを満喫すると言うスウコーなシメーを全うするのだ。
◇
3日目の今日、舞を奉納するのはリナ。
正確で、淀みなく、鋭い。
内容が同じとは言えやはり性格が現れる物で、リナはアヤやリンカちゃんとはまた違った音を奏でている。
美しい舞踊の如き、短く感じるその舞が終われば2本の神酒に信仰を宿したとされる鈴で触れ、リナは厳かに退場する。
続いて鈴巫女補佐のチアキとシキナが神酒を回収し、護鈴のアマネやタク&ミサキ達や巫女達が退場した。
これにて本日の神事は終了。
僕も明日に備えて、今夜は栄養を摂取しなければならない。
明日は祭りの最終日。
僕が鈴御霊として神を降ろすとされる日。
つまり神聖な物以外摂取してはいけない日であり、それは即ち——
——桃漬けの日である。




