第15話 桃色の風、桜色の嵐
第七位階上位
「お、タクだ」
「ん? どれが……ほんとだ」
櫓の上から祭りの様子を見回していると、ちょうど直ぐ近くにタクとミサキがいた。
射的屋に向かっている様だが……上からだと何を目的としているのか分からない。まぁ多分タクの性格から考えて、ミサキが好きそうな物を見付けたのだろう。
「一緒にいるのは……ミサキさん……?」
「そうだね」
ここ数日は新しい人やちびっ子達に掛り切りで、自分からくっ付いて来ないタイプのタクやチサトなんかには構ってやれて無かったが、あの調子ならタクは大丈夫だろう。
ミサキも随分めかし込んでる様だし、薄っすらと化粧もしてるっぽい。
存外ずぼらなミサキが化粧なんて出来る訳ない、と言うか発想すら無いだろうから、誰か協力者がいたのだろう。
「あ、あの……タ、タクくんにも何か事情があるんだよっ」
「敢えて事情を挙げるなら、招待したのがタクだから案内してるんだろうね」
初日は何かと忙しいからそんな時間も無かっただろうし、2日目に案内するのは妥当と言える。
射的はどうやらミサキからやる様だ。
まぁ、割と大雑把な所のあるミサキに上手くやれるとは思えないし、結局はタクが取るのだろう。
野次馬根性では無いが、皆の保護者として成り行きを見守っていると、それは起きた。
「っ!? ……タ、タク君にも何か事情がっ、事情があるんだよっ!」
先程から何故か慌ててタクを弁護するセイト。
だが、今回のは割とグレーな行いだ。
「……敢えて事情を挙げるなら、ミサキが大雑把だからだろうね。見てられなかったんじゃ無いかな?」
肘をついて狙いを定めるミサキに、タクは覆い被さる様にして手助けし、照準を合わせている様だ。
僕はその辺どうでも良いが、女子達が見てたらきっと怒るぞ。
なんか僕はいつも同じ様な事されてる気がするが、そんな自分達を棚上げしてタクに怒るんだ。謎である。
……まぁ、ミサキは大雑把だから大丈夫だと思おう。何なら後でケアしておこう。
どうやら狙いは微妙に外れた様で……景品として大きめなお風呂のアヒルがミサキに渡されていた。
その後、タクは一度の練習もあってか、狙い通りらしい冠成小人熊のぬいぐるみを入手してミサキに渡した。
差し当たって僕は、何故かベンチに座り無言で頭を抱えているセイトの口に桃ラムネを突き刺し、半分程残っているそれを押し付け、労ってから櫓を後にした。
次の獲物を見付けたのである。
◇
僕は敢えて獲物に姿を晒し、人混みの中を歩く。
刹那、獲物は気配を殺し、僕と同じ様に人混みに紛れ込んだ。
コソコソと人影を歩む獲物に、僕は気付いていない振りをして歩みを進める。
間も無く守界の中央、御前門通りに出る。
獲物は狙い通り左右に散開し、人が疎らになる中央通りに近付くにつれ急速接近する。
果たして、狙い通り釣れた獲物達は、僕が中央通りに踏み込むのと時同じくして左右から飛び掛かって来た。
しかし残念、その一歩はブラフだ。
幻剣の基礎技術となる歩法を使い、2人が飛び付こうとした瞬間には、既に一歩下がっていたのである。
狙いを外された2人は、そうと理解した時点で最早手遅れ。
僕は両手を広げ、飛び付いて来た桜庭姉妹を両脇でキャッチした。
「「ふぉぅっ!?」」
そのまま何事も無い振りをして広めな中央通りを通り過ぎる。
「ば、馬鹿なっ、ありえんっ!」
「いつからっ、いつから気付いていたと言うのだっ!」
芝居がかった言葉遣いで喋る2人に合わせ、僕も師匠的な存在を演じる。
「囚われて尚撒き餌を餌とも思わぬとは、桜庭家の名折れよ」
「なん……だと……!?」
「我等は掌の上で踊らされていたと言うのか……!?」
「然り。精進せよ、桜庭の双星。我は道の果てにて待つ」
「「ははっ! 必ずや御身の下へ!!」」
…………黙りこくる事数秒。改めて僕は口を開く。
「……満足した?」
「「……強いて言うならもう少し強めでお願いしまーす」」
変態は解放だっ。
抱きつくな。匂いを嗅ぐな。甘噛みするなっ。
「「スリスリ、クンクン、ハムハム」」
「……公衆の面前でセクハラされたと皆に訴えてやる」
「……それだけはどうか御勘弁願えないでしょうか」
「話し合いによる平和的な解決を、どうか理性のある決断をお願い致します」
情けない声で急に懇願する2人。
「……仕方ないから許します」
「「ははっ! ありがたき幸せっ!!」」
まぁ、ガス抜きと言う点ではこれくらいが落とし所である。
「……ところで」
「……そのぉ」
「「……公衆の面前じゃ無かったらおーけ——ふもごぉっ!?」」
判決、有罪。スイカ割りの刑、執行。
くぐもった悲鳴が僕の体内でこだました。




