第39話 楽園
第七位階上位
無事ちびっ子軍団の襲撃を回避した僕は、黒霧を除いた21の精鋭に明日の朝までの休憩を言い渡し、その他の子達には夜までの狩りを命じた。
各員への労いを済ませ、軽く休憩を取った後……僕は迷宮探索最期の仕上げとして、楽園へ向かってみる事とした。
どう言う訳か調子も良いし、この機に向かうのが最良の選択だろう。
鍛錬島の屋敷から中庭へ出て、インベントリから楽園の鍵を取り出す。
宙でそれを捻ると、予想通り大きな扉が現れた。
「……さて、鬼が出るか、蛇が出るか」
両開きの門に手を掛けて、僕はそれを押し開いた。
◇
カッと光が瞬き、気付くと僕は広間に立っていた。
僕の背後には玉座と思わしき大きな椅子があり、そして僕と椅子はあの光る円盤の上にある。
目の前には数段ばかりの段差が存在し、その先には……4つの人影。
それは見覚えのある影だった。
一番前にいた黒髪の少女が跪坐く。
それに続いて、白髪の優男が、金髪の鬣幼女が、水色髪の女が跪坐く。
「……長らくお待ちしておりました。我等が主の御帰還を——」
其処で少女は言葉を区切ると、顔を上げた。
「——御命令ください、我等が主」
——広間に光が射した。
光は跪坐く4人を照らし、その様はまるで英雄譚の如く——
アダム・カドモン LV800
……レベル上がってるし。
その上種族も違う。
◇
どうやら敵では無いらしいアダム・カドモン達。
しかし味方かと言うと……いやまぁ味方だが、条件を満たさないと楽園から出る事は出来ないらしい。
その条件と言うのが、失われし楽園の復興。
それも、僕が直接手を下す事は出来ない仕様である。
方向性を決めたり、資源を送る事は出来ても、発展させるのはアダム・カドモン達らしい。
差し当たって、楽園の現状について教えて貰う事とした。
「現在の楽園に有る問題点を教えて欲しいな」
「……主、その前に我々に名前を付けて欲しい」
「ん? うん、分かった」
唐突な名付け要請だが、問題無い。適当に付けてやるとしよう。
先ず黒髪の子だが……。
「……可愛い名前を希望する」
「……じゃあリアムで、愛称はアムね」
「アム……及第点」
むふぅと満足気なアム。
それを放置して、次は優男っぽい女性。
彼女は、しっかり見るとちゃんと女性だった。骨格が。
「……何か要望とかはあるかな?」
そんな僕の問いに、彼女はニコリと、爽やかな笑みを浮かべた。
「我が主。貴方に呼ばれるのなら、僕はどんな名前でも構わない」
「……とか言っているが、私の名付けが良さそうだったからの発言。腹黒」
「いやいや……アムは手厳しいなぁ。なら出来れば、カッコいい名前でお願いしますね、我が主」
どうやら、彼等の仲は悪くなさそうである。
僅かなやりとりで彼女は爽やかな笑顔から少し変わり、ちょっと嬉しそうにはにかんでいる。
「……じゃあリュカで」
「良い名をありがとうございます。我が主」
嬉しそうなリュカの次は、うずうずワクワクしている鬣幼女。
「君はエイミーだ」
「エイミーっ、エイミー!」
ぴょこぴょこ跳ねまわるエイミーは、近場にいた水色髪の女に飛び付いた。
やや大きめなクッションに顔を埋め、腰に回された手には、並大抵の人物なら鯖折りになりそうな程の力が込められている。
エイミーもおかしいが余裕で耐えている女もおかしい。
「ふふ、良かったね。エイミーちゃん」
女はもさっとしているエイミーの髪を優しく撫で、エイミーは猫の様にごろごろ喉を鳴らしている。
……リオンの因子をより多く吸ったのかもしれない。
「君はアンジュね」
「はい、謹んで賜ります」
これで名付けは完了だ。改めてアムに向かい合う。
「それじゃあ楽園の問題点だけど……如何かな? アム」
「……我等が主。先ずは住む場所を作らなければならない」
「うん? 無いの?」
いや、そもそも自分で確認した方が良いかもしれない。
「ちょっと外出るね」
そう言った僕の前で、アムはばってんを作る。
「……我等が主と客人は、整備、発展、開拓した所以外は入れない。そう言う設定」
「フィールド制限かな? ……神気で壊せば通れる?」
「……無駄。それより開拓した方がローコストでローリスク」
まぁ、そうだろうね。
「わかった。じゃあ、何から始めた方が良い?」
「……先ずは城のお掃除。修繕。そしたら収容人数と行ける場所が増える」
「ならそれで」
「……誰に命じる? 因みに掃除が得意なのはアンジュ。修繕はリュカ」
「じゃあその2人で」
「……分かった……行って来て」
「「謹んで拝命致します、我等が主」」
アムの命令を受けて、方や爽やかに、方や慎ましやかに微笑んだ2人は、玉座の間から出て行った。
「後の2人は何をさせたら良い? 掃除かな?」
「エイミーっ、掃除っ、出来ない!」
「……エイミーは細かい事が苦手。狩りは得意だから狩りに行かせると良い」
「じゃあそれ——」
「——その前に倉庫を掃除しないとダメ……食料庫も。でないと狩りが無駄になる」
……自分で把握出来ないのが辛いな。
「分かった。アムは倉庫と食料庫の掃除をして……と言うか食料いるの?」
「……我々アダム・カドモンには不要、しかし後々増える筈のアダムスには必要。また、食料庫までの廊下を掃除、修繕し終わると、我が主が食料庫から食料を持ち出す事が出来る様になる」
「成る程ね……倉庫と食料庫の整備はエイミーが帰ってくるまでに出来るかな?」
「……不可能。食料庫の修繕には魔石が必要。魔石を保存するには倉庫の修繕が必要。倉庫を先に整備すると良い」
「アムは倉庫の整理。エイミーは狩りで」
「……分かった。……エイミー、行って来て」
「狩りっ、肉っ!」
「……肉じゃない、魔せ……き……まぁ、良いか」
バタンっと出て行ってしまったエイミーに、アムの声は届いただろうか?
取り敢えず良くないと思う。
1人残ったアムに、気になる事を聞いておく。
「そう言えばアム、命令権を他者に移す事は可能?」
「……代理と言う形でなら可能」
「そう——」
「——……でも私は嫌」
「……なら良いや」
別に負担って訳でも無いしね。
後幾つか知っておきたい事もあるし、今の内に聞いておこう。
「如何やったら人員が増える?」
「……我等が主と我々で子作りをする」
……あぁ。
「……精体を交わらせてと言う奴か」
「……そう。後は、城の迷宮に入って来た人から因子を回収して、自動的に増える。増やすには培養室の整備が必要。アダム・カドモンは基本的に進化でしか増えない」
「成る程ね……」
まぁ、レベル800がポンポン発生しても困ると言うか怖いが。
「アダム・カドモンとアダムスの違いは?」
「……アダムスは弱い。レベル600〜700くらい。働くのに僅かな食料が必要。また、勝手に子作りをして増える。ただし増えた子供は天人と言う種族で、弱々しい」
「この世界はどれくらいの広さなの?」
「……凄く広い。大陸くらい」
「君達4人は如何したら外に連れ出せる?」
「……内緒……と言う設定」
他にも幾らか細々とした質問をしていると、唐突にアムが話を変えた。
「……我が主。倉庫の整備をせずにエイミーを狩りに行かせると、大変な事になる」
「んん?」
「……そして今から整備しても間に合わない。手遅れ」
そこまで言った所で、玉座の間の大門がぶち破られた。
「エイミーっ、狩りっ、終わった!」
飛び込んで来たのはエイミー。
その背に担がれている、もとい引き摺られて来たのは、サイクロプスと思わしき巨人の死体。
「……門の修理、それから廊下の掃除と修繕が必要」
「エイミー。狩り禁止」
「に゛ゃっ!?」
楽園の前途が多難過ぎる。
第十二節:第二項、機神狩り・下 ——完
・楽園の守護者の攻略 完




