第35話 人形の玉座
第七位階上位
通算4回目の広間。
そこは、光溢れる真四角の大広間だった。
光源は、部屋中央の天井付近。
優しい光を放つ大きな円盤。
それに照らされるこの広間には、四方に其々の出口と通ずるであろう大門があり、中央には円盤へ迫る大きなピラミッドがあった。
そのピラミッドの頂点にあるのが——4つの玉座。
全ての玉座は其々の門へと向けられ、その玉座を最奥に据えた透明で巨大な結界が大広間を4つに分断していた。
玉座に腰掛けているのは……人形。
何の変哲も無いマネキン。
それは、僕等が部屋に入ると同時に動き出した。
人形は立ち上がる。
それと同時に人形の体は淡い光に包まれて、その姿を変じさせて行く。
いや、これは……進化してる、のかな?
僅か数瞬の内に、人形は進化を終えた。
そこにいたのは、1人の少女。
僕と同じくらいの長さの髪は、頭頂付近が死の力を感じる黒髪。そこから森の力を感じる緑に変わり、少しずつ色を薄れさせ、毛先はシルバーになっている。
身長も僕と同じくらいで、体型はやや膨らみに富む。
半目に開かれた瞳の色は、水色。
……成る程、ドロップ品が無い訳である。使徒は倒せていなかったのだから。
オリジン・ゴーレム LV750
その華奢な体には、先の3体の使徒の力に加え、挑戦者たる僕等の力まで吸収していると思わしき膨大なエネルギーが秘められていた。
「にゃー……無理にゃ」
「無理ね」
「〜〜♪」
「……Zzz」
「おい」
さささっと僕の後ろに移動した3人と、眠り始めたメロット。
いやまぁ確かに、機神と同格かそれ以上の力を感じるし、4人じゃ無理と考えるのも妥当な判断と言わざるを得ない。
と言うか、このボスがこれ程までに強い力を持つ様になった根本的な原因は、僕の因子を獲得したからだろうと推測される。
「……まぁ、結局僕も戦う事になるだろうし……ちょっと4人で戦ってみてよ。骨は拾うから」
「……死ぬ事前提にしないで欲しいのだけど」
「……仕方にゃいにゃー」
「って、猫子! ユキの言う事だからって何でも受け入れちゃダメよ!!」
「どのみちやるしかにゃいにゃー。他のとこはユキにゃしにゃ? まだ恵まれてる方にゃ」
「それは……そうだけど」
まぁ、僕がいるせいで強くなった疑惑があるんだけどね。黙っておこう。
ルカニャがレイーニャに説得されている一方、メロットは僕に念話をしてきていた。
『……御褒美、希望』
『勝てたらね』
『……ダメ、じゃあやらない』
『魂合する?』
『する。やる』
食い付きの良いメロットを念話で説得した。
尚、サンディアは2人の真似をして後ろに回っただけで、相対した瞬間から既に剣を抜いていた。
サンディアはいつも楽しそうだね。
さて……それじゃあ始めようか。
コツ、コツと一歩ずつ階段を降りて来る少女に向かって、僕等は足を踏み出した。
◇
サンディアが赤い霧となって無数の斬撃を放つ。
少女はその悉くを念力で、或いは指先で払い除けた。
迸る豪雷は水球によってほぼ逸らされ、数多の魔法群は死の大鎌に切り裂かれる。
対する敵の攻撃は、メロットが玉座に腰掛けたまま剣や杖、旗を操り防いでいた。
——攻防は拮抗している。
ただし、敵は手を抜いている。
少なくとも、攻撃に関しては防御に使う以上の力を出していない。
時折鋭い一撃が放たれる事もあるので油断ならないが、メロットの演算力を前にしてはどうと言う事も無い。
しかし、変化の時は唐突に訪れる。
同じ様なサンディアの剣戟、同じ様なルカナの魔法弾幕。レイーニャの豪雷。
それに対する少女の防御に、申し訳程度の反撃。
当たり前の様にメロットは、味方に飛来する水弾を防ぎ、次の瞬間——
——弾かれた様に後方へ吹っ飛んでいった。
隠密効果の付与された魔弾だ。
僕の方に飛んできた奴はデコピンで破壊したが、少々強い弾だった。
そんな弾が頭に直撃し、ゴロゴロ転がりながら飛ばされて行ったメロットは、体勢を立て直すや否や床を踏み砕いた。
瞬きの一瞬で敵に接近したメロットは、途中で拾った金色の剣を横薙ぎに振るう。いや、投げた。
回転しながら飛んで来る剣を屈んで回避した少女の頭に、メロットの豪脚が直撃する。いや、上手く衝撃を緩和出来た様だ。
少女は吹き飛ばされる勢いを利用して離脱しつつ、牽制の水弾を連射してメロットの動きを縛ろうとした。
しかし、メロットは普段は毛布代わりにしているマントを操作して水弾を防ぎ、多少の被弾を無視しながら少女を追い掛ける。
空中の少女に向けて、放たれたのは仙気を宿した幹竹割りの一閃。
あわやスプラッタかと思われた次の瞬間、少女の仙気を宿した蹴りがメロットの斬撃とぶつかり、剣は大きく逸らされた。
突然のメロットの暴走に、ルカナやレイーニャは妙な姿勢で硬直しており、サンディアはどうにか追い付こうと頑張っている。
では、何故メロットは暴走しているのかと言うと……頭に当たった弾丸に狂化の力が込められていたからだ。
それも、狂戦神化並みの強力なやつが。
牙を剥いて敵を睨み付けるメロット。中々レアな光景である。パシャリ。
吹き飛びながら牽制兼目眩しの少し強めな水弾を放ち、気配を殺してメロットの攻撃から逃れた少女は、地に足が着くと同時に構えた。
体は半身に、指を開いた両手は其々首と胴の前に。
直感的に理解する。
——アレは防御の構えだと。
指で瑣末な攻撃を防ぎ、肘や膝で重い攻撃を迎撃する。
そうやって時間を稼ぎ、練り上げた仙気による念動や死の力を宿す鎌を操作して致命打を当てるのが狙いだろう。
本来なら包囲して攻撃の隙を与えずに攻めるのが正解だろうが、おかしくなってしまったメロットは止まらない。
飛び込むメロット。
迎え撃つ少女。
彼女は何処まで出来るかな?




