第16話 いいんちょスタイルユキ
第七位階上位
朝のちょっとした運動を終え、いつもと比べるとやや豪華な朝食を摂り、午前のシフトの護鈴役を送り出した。
そう、今日から鈴鳴祭なのである。
護鈴役の仕事は、袴を着て面を被り、刃を潰した金属製の武器を持って境内を彷徨く事。
袴には男女の差異は無く、面は其々の護鈴によって異なり、そして護鈴の面を模した安物の面が会場のあちこちにある鈴守の屋台で売られたりしている。
何故に護鈴が面を付けるのかと言うと、何でも護鈴は其々が精強で、鈴守の者だけでなく護鈴もまた敵国から暗殺の対象にされるかららしい。
特に祭事では民と護鈴の距離が近いので、敵が入り込み易い……その為、面を販売して民を盾にする事で暗殺のリスクを低減する訳である。
現代では暗殺はほぼ起きないので、護鈴は分かりやすく袴と武器と面を付け、祭事の間は境内を歩き回っている。
さて、そんな護鈴役の詳しい仕事内容だが……基本的には境内を彷徨く。喧嘩が起きれば仲裁するか増援を呼んで対処する。後は、子供、取り分け幼い幼児や赤子等に、武器の峰に当たる部分で軽く叩く、または触れさせる。
最後の奴は所謂験担ぎと言う物で、武器で切らない即ち敵じゃない=味方となり、鈴守の縁者であるとして、幸運になったり体が強く育つとかの御利益がある……とか何とか。
まぁ要するに、現代の護鈴役は鈴鳴祭を盛り上げるのが仕事なのだ。
巫女も巫女で、売り子をやったり鈴音市のあちこちにある社を回ったりと忙しく、暇なのは今年の祭事に備えて凡ゆる準備対策を行って来た僕くらいの物だ。
差し当たって、軽く変装して祭りの様子を見に行こうか。
◇
長い髪を2つに分けた三つ編みにし、伊達眼鏡を掛けて、ロングのスカートを装備する。
別名『いいんちょスタイル』である。
これでいいんちょの群れに紛れ込む事が出来る。
……まぁ、冗談は置いておいて。
鈴鳴祭初日、それも朝だと言うのに、既に会場には沢山の人が詰め掛けていた。
鈴鳴祭は御鈴山で行われると言う事になっているが、実際には鈴宮町北から奥響市北東、響後市北西にかけて屋台が溢れ出している。
御鈴山の麓周辺が会場となっているのだ。
……社会の発展に比例して、交通機関が整備され、全国各地から人が来る様になったので、収容人数の都合上守界、縁界、桜界の三界だけでは人が溢れてしまう。
それ故、年を経る毎に会場の範囲が広がっている訳である。
一応本当の護鈴は境内のみだが、外にも賑やかしがあった方が良いと言う事で、祭中のみ守鈴役と言うバイトが外を徘徊する事になっている。
会場である御鈴山周辺には、主に御前通りを使って多くの人が押し寄せ、現時点で既に三十万人近い数になっている。
山の上から広大なお祭り会場を見下ろして適当に計算しただけだが、そう間違ってはいないだろう。
「ふぅ……今年も盛り上がりそうだなぁ」
陽光は燦々と降り注ぎ、緑風が木々の合間を縫って吹き抜けて行く。
僕は買ったラムネを飲み干して、ベンチから立ち上がった。
千円もする護鈴役の面を側頭部に掛け直し、階段の方へと足を向ける。
今度は町の方を見て回ろう。
一応町側にも手を回してあるが、基本的には町の運営なので、多少の不備はあるだろう。
幸い軍資金は潤沢にあるので、お昼までのんびり暇つぶし兼パトロールでもしてようか。
◇
今日は初日。
日中巫女達は鈴音市内の社を回っているし、各所で何かしらの問題も起こるだろう。
その様に予測され、初日の昼食は毎年お祭りご飯である。
各自が自由に昼食を取る事で鈴巫女や護鈴役の世話をする巫女達の負担を減らし、尚且つ鈴守の縁者が積極的に祭りを盛り上げる事で民の参加を促す。
……民が増えれば収入と支持が増し、肉壁が増えると言う魂胆だ。
一家庭に一個鈴を売りつけたり、期限のあるお守りを売ったりと、通販などで世界規模で稼いでいる。
そう、基本的に鈴守は腹黒なのである。
「ふぅ……体が疲れた」
町内を彷徨き、屋敷に帰って来た所で、そんな事を言いつつ縁側に腰掛ける。
何が疲れたって、チョコバナナだ。
サイコロ三個のピンゾロで十本とか……食えるかっ! ……いやまぁ、普通は出ないんだろうが。
最近僕は運が良いのだ。
チョコバナナはちょうど通りかかった鈴ヶ森学院の巫女候補達に配って事なきを得た。
次のあんず飴もね。
尚、変装は1秒でバレた模様。解せぬ。
……やはり僕の美貌は多少の変装では隠せぬのか。
まぁ、それは兎も角として、体が疲れたくらいならどうとでもなる。
さっさと昼食を済ませて迷宮の進捗を見に行こう。
◇
《【探索クエスト】『楽園の鍵:原海』をクリアしました》
《【探索クエスト】『楽園の鍵:冥宮』をクリアしました》
《【探索クエスト】『楽園の鍵:深淵』をクリアしました》
《【探索クエスト】『楽園の鍵:天穹』をクリアしました》
《【探索クエスト】『楽園の鍵:星隆』をクリアしました》
さてさて、端から見て行こうか。




