第5話 喰らう力
第七位階中位
「はふはふ……美味しいよぉ……もぐもぐ……おかわりぃ……」
「ねぇ、ちゃんと咀嚼して欲しいんだけど。咀嚼回数もカウントしてるからね? ちゃんと言った通りにやってくれないと……胃を細くするよ?」
「そ、それは嫌ですよぉ……もぐもぐ……」
本気で嫌そうな顔をしつつも、肉と米を掻き込むカナデ。
咀嚼等により体内での因子の吸収が如何なるのかを調べていると言うのに、彼女はとにかく食べ続ける。
ここ1時間ずっとだ。
もはや食べていると言うより飲んで……いや、吸い込んでいると言っても過言では無い。
大食いで早食いなのに、そのくせ所作は流麗で、食に関して確固たる信念を感じさせる。
赤味がかった茶髪を一つ結びに纏めているのは、おしゃれの為では無く食べる時に邪魔にならない様にしているから。
その碧眼には目の前の料理だけが映っていた。
「もぐもぐもぐもぐ、ごくん……はぁい、100回噛みましたよぉ」
「……まぁ、数回くらいは誤差だよね」
彼女はやや間延びした口調だが、思考はかなり回る方で、これが戦闘方面に向いていればリベリオンでもトップクラスの戦士になっていただろう。
1万人程もいる転生者達の中では、間違いなく当たりの部類に入る逸材である。
さて、そんなカナデを用いて多数の検証を行なった所、追加で多くの事が分かって来た。
先ず最初に行なったのは、素材の状態により因子の増減があるかどうかの確認。
被験体は、魂魄を操作してスキルを自在に操れる僕。
捕食系スキルのスキル結晶を買い与え万全な食事体勢を整えたカナデ。
捕食系スキルを持たずタク達が忙しいから暇してたアラン。
使った食材は……単体の大きさ、および迷宮の出現順の都合上文字通り山程ある、グレーターファイヤードレイクのお肉等である。
これらを使った実験の結果、食材は生のまま齧り付くのが最も強い因子を得られる食べ方であると判明した。
ただし……生のまま食べると、強い因子、即ち元気な因子が暴れ回り、捕食者側が弱い場合そのまま腹を下したり、スキルが望まぬ形で発現したり、被食者が捕食者より圧倒的に強い場合は逆侵食が起きて身体を乗っ取られる可能性もあるだろう。
少なくとも、元気な因子を御し切る為に無駄なエネルギーの消耗がある事は間違い無い。
最高効率は、少し熟成させて因子を弱らせ、生のまま喰らう事だ。
若干量因子の減少が起きるだろうが、捕食者が弱くともちゃんと力を得られるだろう。
また、素材を粉末状にすると外部魔力の影響を受けてか因子の減少が早まったのに対し、咀嚼による因子の減少は見られなかった。
これはおそらく、生物の体内に入れば種精霊等は生体に吸収され、種精霊達による因子の分解が起きないからだと推測される。
続いて、調理による因子の増減があるかの確認。
結論から言うと、食材は調理すると因子が弱まり、基本的には時間を掛ければ掛ける程因子が減少していく。
煮込んだりすると、因子が外に流れてしまうので、汁までしっかり飲み干さなければ行けなくなるのだ。
魔法を使った瞬間調理だと、因子の影響は通常より大分少なくなるが……細心の注意を払って行わないと、強力な魔力により因子が乱され食材が死んでしまう。
また、料理スキルがあると、多少の因子の延命が可能で、バフ効果等も上がる様だった。
次に、素材のレベルと部位による因子の変化。
先ず持って、元のレベルが高い者の素材程因子が強い。
そして、生前により使われていた部位の方が因子が強い。
ドレイクの場合は地上を走る為、発達した腿肉が美味い。
また有角獣の場合は基本的に角に魔力が潤沢で……角をボリボリ食べられる者にとっては角が1番美味い。
角は粉末状にして力の因子を除外し、生命力だけを残して薬等の材料にするのが普通だ。
さてさて、ここまで調べて分かった事をざっと纏めておこう。
・食材は基本生が良いが、リスクもある。
・生前より使っていた部位等が味的にも因子的にも美味い。
・調理は素早く。それが無理なら料理スキルを取るべし。
また、カナデはグレーターファイヤードレイクの角を15本ばかり摂取した事で、火耐性と火属性魔法、火の吐息等を獲得した。
もっと多く食べさせるか、或いはカナデのユニークスキルを覚醒させれば、更にグレーターファイヤードレイクの力を得られる様になるだろう。
差し当たって、午後は暇してるアランと一緒に狩りに行かせるとして、それまでに覚醒やら装備の調達をしておこう。
……アラン、暇だよね?
「……アラン、彼女、クローネ・ザラニアなんだけど」
「え? 何、ラザニア?」
「ラザニア食べたいと思ってたんだよぉ」
「おぉ、ユキ、チーズあるか?」
「あるけど」
「やったぁ〜」
「オーブンは……無いのかね?」
「はぁ……作るからちょっと待って」
まったくもう、仕方ないなぁ……食いしん坊と料理ジャンキーめ。




