第3話 午前はちょっとどうでも良い
第七位階上位
お祭り前日の今日。
世界各地から色んな身分の人が、御前通りを通ってこの鈴音市近傍に集まって来る。
忙しくなるのは朝の9時からだ。
謁見と言う名の偶像崇拝が始まるまでの間、のんびりと諸業務をこなす。
◇
巫女で参加している人達は、既に起きて忙しそうにしている。
護鈴で参加している人も、殆どは既に起きて、朝の運動準備を始めていた。
と言う訳で、僕もさっさとジャージに着替え、長い髪を一つに結んで外に出る。
最初に会ったのは、マヤ。
死にそうな顔で縁側に腰掛けている。低血圧なんだろう。
ジャージに着替えているので、運動自体はする様だ。
「おはよう。マヤ」
僕の挨拶に、マヤはのっそりと此方を振り仰いだ。
「…………ぉはユキ……」
……そんなに朝早い時間と言う訳でも無いんだけどね。
ちょいちょいと招かれるままに、マヤの隣に腰掛ける。
「…………眠ぃ……のん……」
もそもそと動き出したマヤは、僕の膝の上に跨って抱き付き、寝る体勢に入った。
……もしかして徹夜とかしたのだろうか?
「……マヤ、ちゃんと起きないと……ん?」
僕の肩に頭を預けて眠りそうになっていたマヤが、唐突に僕の体をまさぐり始めた。
最初は背中をスリスリと、暫く後にマヤは僕から離れ、お腹や首、頬なんかを摩り始める。
心なしか血色が良くなっている様に思う。
閉じかけていた目も開かれて、僕の色んな所を見回していた。
……これ、なんか吸われてない? 大丈夫なの?
「……マヤ?」
「……ん、なんか元気になって来た」
「そう」
「……流石ユキミン、恐るべき効能……!」
……やっぱりなんか吸われてた。
ともあれ、元気になったマヤと一緒に、やや騒がしい皆の方へ向かう。
マヤが死にそうだったのに対し、うちのちびっ子達は全体的にハイテンションだ。
アヤを筆頭に、リンカちゃんと桜庭姉妹の合計4人。
「おにぇちゃんおはよーっ!」
「ゆっきーおはおはよーっ!」
「いぇーい挟み撃ちだー!」
「ひゃっはー覚悟しろー!」
わらわらと集まって来たチビ軍団が僕とマヤの四方から襲い掛かり、抱き付かれる。
たった半畳の空間に6人ものちびっ子が集まった。人口密度が高い。
そうこうしている内に、リナとユリちゃんとシキナに包囲された。
悪ノリでやって来たマシロとアマネにも囲まれた。
上がり続ける人口密度が下がるのには、暫しの時間を要する事となった。
◇
コウキやセイトの一行と共に軽い運動を済ませ、その後は軽めの稽古を行った。
ちょっとした組手などの稽古後は、シャワーで汗を流し、空きっ腹を満たす為の高級な朝食を済ませる。
いよいよ謁見の時間と言う事で、僕は正装である青袴に着替えた。
目隠しをし、ゲート・ギアを小脇に抱え、鈴御前に入る。
鈴巫女のリナとアヤ、護鈴役のタク、チサト、アマネ、ミサキに、後はよろしく。と声を掛け、アナザーを起動した。
……うん、良い御身分だよねー。
何せ、実際には居なくても良いのだから。
国外の官僚も著名人も、必要なのは、鈴御前で鈴御霊に頭を垂れたと言う事実のみ。
その厚い垂れ幕の先に誰が居ようと何があろうと、彼等彼女等には関係の無い話。
偶像どころか虚像崇拝。
だから至極どうでも良い。
リナ達なら上手くやるだろう。
……午前中に来る人はそこまで重要じゃないと言うのもあるけどね。
そんな訳で、早速溜まったタスクを処理しようか。
◇
《《【探索クエスト】『草原に咲く花』を『匿名』がクリアしました》》
《【探索クエスト】『草原に咲く花』をクリアしました》
【探索クエスト】
『草原に咲く花』
参加条件
・ボス『ディープ・ヴァイオレット』『グラットン・プリムローズ』『ティザー・ヒペリクム』『イーズ・クローバー』何れかの討伐。
達成条件
・ボス『ディープ・ヴァイオレット』『グラットン・プリムローズ』『ティザー・ヒペリクム』『イーズ・クローバー』全ての討伐。
失敗条件
・無し
達成報酬
参加者報酬
・スキルポイント5P
参加者貢献度ランダム報酬
貢献度100%
・スキル結晶『調薬』
・スキル結晶『目利き』×3
・スキル結晶『気配察知』×5
エクストラ評価報酬
全討伐参加
ボス『ディープ・ヴァイオレット』の捕獲
ボス『グラットン・プリムローズ』の捕獲
ボス『ティザー・ヒペリクム』の捕獲
ボス『イーズ・クローバー』の捕獲
・スキルポイント9P
・スキル結晶『友誼』
・スキル結晶『植物使役』
全体報酬
・進化条件の一部緩和
・フィールド制限解除
作業開始から暫く、唐突にクエストがクリアされた。
どうやら、インヴェルノこと冬鬼がフィールド制限のボスを見つけたらしい。
報告を聞く限りだと……ボスは公都南草原の端に寄り集まっていた様だ。
……多分先のパフィ事変で、パフィ津波から逃れる為に、四方にいた筈のボス達が南下したのだろう。
冬鬼はそこから更に南の林、街道、森をぼちぼち探していた為、中々発見出来なかった訳である。
捕獲された4体のボスは、全員レベル20と王都のボスよりやや強め。
それぞれ、スミレ、サクラソウ、オトギリソウ、シロツメクサの花の魔物だ。
能力はそれぞれで異なるが、共通して擬態や隠密の力を持ち、根っこがわさわさ動いて移動出来る。
花達は折角冬鬼がテイムしたので、冬鬼直属の部下にする事とした。
差し当たって、冬鬼をマーカーにリェニを連れて転移し、『妖精誕生』で花達を花妖に進化。
プチプランターもプレゼントして花状態でも移動出来る様にしておいた。
更におまけで冬鬼用の魔典も作ってあげた。
魔典の材料は、質の高い天殻樹の体と、魔結晶よりも格上の魔晶核に黒霧を付与した物。
この魔典は姉妹全員に配布しよう。
それじゃあ僕は作業に戻る。




