掌話 紅騎士、参る 五
第七位階下位
泣きじゃくるレティの声。
癇癪を起こしたかの様に、空舞う金鶏へと爆炎を放ち続けるレティの化身。
どうやら、セラを正気に戻す為に鞘を弾いたアレが、セラに収まったままのレティの方の気を引いてしまったらしい。
……どうしよ?
……こう言う時こそ、ユキを見習うべきだよな。
泣き噦る聞かん坊の対象方法は、と…………。
『……おい、泣き虫レティ。良く聞け』
『うぇぇー! お、おれ、さまっ……うぇ、泣き虫じゃ、ないもっ。レヴァンティンさま、だもんっ! うぇ』
『ーーうるせぇっ!!』
『ひぅっ』
『弱虫がっ、黙ってろっ……!!』
『……う、うぇ…………ぐすっ……』
と……まぁ、先ずは一度突き放す。
悪口言われると反応するんだなぁ。と思いつつ、レティの火勢が一気に落ちていくのを見下ろした。
……このままならセラの封印、要らないかもな。
びびって縮こまっているレティに続け様に言葉を放つ。
『いいか、レティ。黙って聞け』
『……』
『お前は泣き虫で弱虫だ』
『……ぐすっ…………』
『だから……協力しろとは言わない』
『……?』
完全に消沈して今までの生意気さが嘘みたいに此方の話を聞くレティに、俺が出せる精一杯の想いを込めて、更なる言葉を続ける。
『ただ見ていろ』
『……』
『ーー俺がお前の真価を見せてやる』
『……っ』
『お前の炎が、熱意がっ、あんな鶏なんかに負けやしねぇ事を、お前に見せてやるっ』
ありったけの想いを込めよう。
これはユキがくれた機会だ。
レティが、どんなに劣勢になったとしても、決して折れない心を持つ為の。
序でに、俺やセラ、そしてレティがちゃんと仲間になる為の。
『……良いか、レティ。黙って見てろ。黙って俺に、使われろ。お前の炎が勝つのを、俺がお前に見せてやる』
『……』
返答は無い。
ただ、暴れ狂っていた火の力は静かに剣身へと収まった。
その身はまるで、主人を待つ剣の様で……不思議と、レティが手に馴染んだ。
受け入れてくれたとは思わない。ただ、少しだけ、傍観する事にしたのだろう。
ほんの少しだけ、身を任せてみようと思ってくれたのだろう。
僅かばかりに、信じてみようと思ってくれたのだろう。
ーー応えよう。
騎士として。
ーー導こう。
先達として。
ーー共に歩もう。
相棒として。
俺はレティを、鞘から抜き放った。
◇
『セラ、悪いな。勝手をした』
鞘を見下ろしながら、謝罪する。
セラの役割はレティを封じる事。少なくとも、レティがちゃんと言う事を聞く様になるまでは、必要な措置としてレティをセラに収めておくべきだったろう。
もしこのままレティが暴走すれば、止めるのはやや困難だ。
『……構いません。信じると決めましたから』
『……そうだな』
ああ……そうだ。後方にはユキがいる。万が一があっても、ユキになら全てを任せられる。
『後ろにはユキがいる。全力で戦おう。力を貸してくれ、セラ!』
『………………ソーデスネー。勿論貸しますよ。私の全てをアルフに預けます』
レティの封印という役割から解放されたセラ。セラの封印という枷から解放されたレティ。
勝手な事をしたからか微妙に不機嫌なセラと、黙って見ているレティという、信頼も殆ど無い様な状態だが……十分だ。
改めて、空を舞う金鶏を見上げる。
『……行くぞ!』
俺に応えるセラの声と、レティの無言の肯定。
微かな信頼を胸に、俺は地面を踏み砕き、空へと飛び上がった。
◇
飛来する金炎。
空を蹴り、巨大な炎を回避する。
直撃した所で、そう大したダメージにはならない。斬っても良いだろう。
だが……。
『……セラ、あの炎を喰えるか?』
『……お、おそらくは……可能かと……でも最初は小さめなので試してーー』
『ーーそんな余裕はない』
ヴィゾープニルに金炎しか攻撃手段が無いとは思えない。
単純な物理攻撃は兎も角、何らかの炎による極大攻撃を備えていても不思議では無い。
だとすれば、今放たれている金炎くらいは、回避も斬る事もせずに無効化出来なければ話にならない。
ヴィゾープニルはレティの最低限スペックよりは強いからな。
『レティを封じられるんだ。あれくらい余裕だよ』
『……そ、そうでしょうか?』
『ほら、来たぞっ』
『え、ちょっーー』
飛来した金炎を余裕を持って回避し、セラで叩きつける。
刹那ーー
『おぉ』
『……ふわっ!?』
ーー金炎が消滅した。
これがヒヒイロカネの火炎支配能力か……。
『……セラ、何回喰える?』
『……こ、これくらいなら……100、いえ、50回は確実に行けます』
『150回だな?』
『50回です!』
『ふふ』
『……もうっ』
冗談はさておき……思っていた以上にセラは有能だな。
『そしたら、炎は任せたぞ、セラ』
『はい!』
飛来する炎をセラに喰わせ、空を蹴って一直線に金鶏へと迫る。
先ずは初撃だ。
セラが喰い、補充した魔力を全て。レティの魔力を2割。俺の魔力を3割。
それら3つを一気に炎の奔流へと変える膨大な火炎流。
並大抵の敵なら一撃で消し飛ぶそれを、至近距離から解き放つ。
『喰らえっ!』
ーードオォォォンッッ!!
神木中に響き渡る様な轟音。
しかしーー
『っ!?』
『そんな……』
ーー炎の中から現れたヴィゾープニルは、ほぼ無傷だった。
魔力も精々1割にも満たない量しか削れていない。
経験の浅いセラは、無傷のヴィゾープニルを見下ろし驚愕の声を漏らして……レティは自分の身に纏わされた仙気に吃驚仰天しているっぽい?
……そう、あくまでも膨大な魔力の奔流は、目眩し。
本命はーー
『ーーこっちだっ!!』
下を見下ろしていたヴェズルフェルニルが、俺の接近に気付いたか、バッと此方を見上げ、次の瞬間ーー
『Gyーー』
ーー消滅した。
それは俺が成せる限りの全力の一撃。
レティの膨大な魔力3割を、俺の練気2割で練磨した、紅の一閃。
アトランティスを斬ったそれよりも、更に高質な魔力で精々された一太刀は、一切の抵抗も許さず、ヴェズルフェルニルを蒸発させた。
余波でヴィゾープニルの目が沸騰し、ヴェズルフェルニルが留まっていた鼻先や嘴がドロリと溶け、骨が露出する。
『GyaEeeeenn‼︎⁉︎』
一泊遅れて、金鶏の悲鳴が神木を揺らした。
ドロップしたヴェズルフェルニルの羽がユキの元へと転送され、そうと認識している内にヴィゾープニルが墜落していく。
……流石に、全力で集中して一気に力を解き放つと……疲れると言うか、瞬間的に頭の中が真っ白になって動けねぇわな。
ユキなんかはポンポン連続で放ってるが……アレはユキがおかしいのであって、俺が貧弱とか言う訳では無いだろう。
ゆっくりと地面に降り立ちつつ、休憩しながらそんな事を考えていると、唐突に声が聞こえた。
『…………す、すげぇっ!』
『ーーはぅっ!?』
『お?』
叫んだのは、黙りこくっていたレティ。
仙気は二度目の筈なのに絶句していたセラはその声で正気に戻り、そしてレティの叫び声は続く。
『すげぇっ、すっげぇっ! カッコいいっ! カッコいいカッコいい、カッコいいよぉ……!!』
『お、おぉ』
大興奮なレティが叫び続けている間に、ヴィゾープニルが立ち上がる。とりあえずレティは後だっ。
鼻梁を再生させたヴィゾープニルは、今の一瞬で3割近い魔力を消費している様だ。
後6〜7割削れば勝てる。
ヴェズルフェルニルも死んだからな、後は俺とヴィゾープニルの一騎討ち。
厄介な敵がいない以上、負ける気はねぇぞ。




