第26話 武勇録は書き足される
第七位階中位
フィロ・M・フィリクロ。
仮に名に宿る意思を『夢想精霊』と呼ぶとして、モードレットのアニマを封じる為に、彼女には姓名を付けた。
会話が不自由な彼女からは何も聞く事は出来なかったが、本に追記された内容によると、彼女は聖人教会が信者に産ませた子供の1人らしい。
好物はレーション、屑野菜の塩スープ。嫌いな物は生のジャガイモ、道草。
道草って雑草……つまり道草を食う《物理》と言う事か。
取り敢えず満足な食事もした事が無いと言う事である。
差し当たって生パフィニョンを食べさせた所、好物にパフィニョンが加わった。
パフィニョンには並の生物には毒となる竜属性が宿っているが、レベル88なら問題あるまい。
封印を解除されたフィロ・M・フィリクロは、暫し撫でた後パフィ子の群れに放り込み、今はパフィ子軍団に恐れをなしたのかバイザーを下げた為、口元くらいしか見えない。
そんな彼女等を放置して、僕は召喚検証を進めた。
◇
全40回のガチャで、僕は僕の幸運を信じ、残り39回をランダム選考にした。
……まぁ、種族や初期スキルの優劣など所詮は低次の些細な差でしか無い。
極限状態ならいざ知らず、今は僕のお膝元なのだから。
そんな訳で引いたランダムガチャからは……虹色が一度だけ出た。
種族は、海獣人の鯨亜人。
そのまんま二足歩行で手の生えた鯨型人間な彼は、会話が不自由なフィロとは違い、単に寡黙な紳士であった。
名を、オリンガ・バランガ・リーベラリオ。
レベルは112とかなり高めで、海に覆われた小世界の出身。
その世界は、地上でしか取れない嗜好品を巡って小競り合いが起きたり、海中を回遊する海魔の襲撃を受けたり、全てが海で繋がっているが故に起きる多数の思想による戦争があったりと、日常的に戦いが勃発していたらしい。
オリンガは海中のとあるそこそこに大きな王国の将軍であったが、大海魔を従えた異郷の蛮族に国を滅ぼされたらしい。
その後、オリンガは対蛮族連合軍の各国の名将達と共に戦い、蛮族の大群の中へと飛び込んで無数の敵と数体の海魔を道連れにし、大海魔へ痛撃を与えて戦死した様だ。
それが決定打となり、蛮族は異郷へ追い払われたとの事。
正に英雄的活躍である。
現時点での好感度は37で、特に追記の情報は出ていない。
虹の次は、金が3個。
虹が英雄なのに対し、金は模造英雄と言う、謂わば物語に出て来るキャラクター等だった。
フェアリーのプリノンノは、吹雪く雪山を越えたり、洞窟に住む恐ろしい蜘蛛と戦ったりしながら、妖精の楽園と呼ばれる花畑を目指す物語。
全編6章で今の所2章までしか無い。
兵科が騎士で、騎獣としてペローと言う名の狼を従えている。
4頭の蜥蜴が引く戦車に乗った赤髪の蜥蜴人の様な大男は、ドラゴノイドの英雄だ。
ある程度文明的な生活を営むハイリザードマンの国で語られる伝説で、戦車を引く蜥蜴が、彼のドラゴノイド、グァグァーゴの血を与えられてリザードマンに進化したとされる……つまりはリザードマン達の中では英雄であると同時に神でもある人物だ。
4頭の蜥蜴は、スワンプリザードと言う正にリザードマン一歩手前の種族であり、戦車は水陸両用の沼地仕様。
グァグァーゴは沼地特化の英雄なのだ。
次いで、獣人の大分類とホブゴブリンが合わさったらしい、オークの英雄。ブガンダ。
彼の物語は、クラベラ大森域と言う森で生まれ、ちょっとしたオークの群れを率いて、最後は黒いホブゴブリンに討たれると言う、そんなに起伏のあるストーリーでは無かった。
多分だが、実在したブガンダの魂を模倣したのがこの英雄なのだろう。
彼には、赤の残滓と言う良く分からないスキルがある。
尚、彼の好感度は僕を見た瞬間に50まで上がった。膨れ上がった股間を唐突に現れた黒霧が蹴り潰し、ブガンダは回収されて行った。
見なかった事にした。
次、銀の英雄は、6体。
萌芽英雄と言うらしい彼等は……つまり英雄として花開く事の無かった人物達等だ。
ヴァンピールのエイは、吸血鬼の父と人間の母を持ち、住んでいた村をレッサーヴァンパイアが起こした鬼呪災害によって滅ぼされた。
その後エイは元凶たるレッサーヴァンパイアを倒したが、黒幕のノーブル・ヴァンパイアによって殺害されてしまう。
名もなきとあるゴーストは、異世界から僅かな記憶を持ってその世界に発生した。
生まれた狭い洞窟の中で、本能のままに虫や苔から生命力を吸い取り、長い時を掛けて成長した彼は次に洞窟の外に広がる森を喰らい始めた。
それからまた長い時が経ち、辺境の小村を滅ぼした彼は無数のゴースト達を使役する事になったが、ある日起きた地震が原因で付近の森の地脈が噴出し、呆気なく消えて無くなったらしい。
他にも、深い峡谷の底で蟹型魔獣に育てられた獅子人の子供は、川上からやって来た大型の蛇型魔物を親と一緒に倒したが、その数日後、川上から流れて来ていた瘴気に気付かず親子共々病死し、死体は川を流れて動物の餌になった。
セントールの騎士、オーダムは、村の守護の任に着く地元で有名な戦士だったが、村を襲ったオーガの群れと戦い、村人全員を逃す事こそ出来たものの、最後、彼女はオーガの群れを率いるオーガキングにボコボコにされたあげく生きたまま食い殺されたらしい。
生木ゴーレムとエルフが混じったトレント種、その英雄は、古い森で生まれ、樹齢300年程を生きたトレントの長老だった。
森と共にあり、森を育む彼のトレントは、竜が起こす災害、竜災によって、森と共に消え去った。
牛型フォモールの少女、ダランマーナは、生まれつきフォモール族に稀に発現する魔眼の持主だった。
彼女は未覚醒の魔眼を使い、日々村の子供達と共に狩りをしていたが……ダランマーナが魔眼を持つ事がフォモールの王家に伝わり、村諸共不審な魔物の襲撃で滅ぼされた。
……とまぁ、色々いるが、特に英雄譚的活躍こそ無いものの、総じて高いポテンシャルを秘めた英雄達だった。
次は、14体の鉄色英雄。正式名、残滓英雄。




