第25話 英雄と聖人
第七位階中位
英雄の武勇録は、他と違って召喚限界人数も限界レベルも存在しない。
その代わり、魂合も霊合も出来ず、訓練場にも休憩場にも入れない。
スキルの取得は原則自力で、死亡時は私兵一覧の加護で僕の支配領域の任意の場所で復活する。
召喚時の注意事項は、彼等の召喚には英雄の器を消費すると言う事と、崩壊した場合は普通の兵士同様に霧散する事。
普通の兵士と比べてコストが高く付くので、その分リスクも高く、リターンは大きい。
召喚時は最大で4種族まで選択可能だが、最初の1項目だけは人妖も竜人も蟲人も構わず、2種合成種以外の細分種族を選択可能と言う事なので、実験も兼ねて1種族だけで確定としておく。
1種だけ選んでランダム選考にしたら良い者が出るかもしれないが、最初の1回くらいは良いだろう。
問題は何を召喚するか、だが……。
「……無難に人間でいこう」
「ゆぃ〜?」
「にんにんー」
パフィ子達は僕になんか構ってないで、新しい生物の解析でもしていて欲しい。
ケンタウロス型なんかは戦闘時に色々と便利だと……ん? そう言えばケンタウロスと言う種族名を持つ魔物には前にあったが……セントールはケンタウロスの下位互換か何かなのかな?
まぁ、良いか。
人間を選択し、兵科は取り敢えず剣使い。性別はどうでも良い。
さぁ、いざ召喚。
「ふむむ」
確定を選択したら、唐突に空中に現れたのは、英雄の器と称される球体状のクリスタルと、1枚のカードらしきシルエット。
英雄の器とカードは連動している様で、2つは仄かな光を放ちながら、その色を白、鉄、銀、金と変えていき、最後には虹色になって、目も眩む様な輝きとやや強い風を放つ。
本来なら目眩しである筈のそれはしかし、僕の目を眩ませるには至らず、ひかる球体が人型に変じているのがはっきりと見えた。
後、宙を舞っていたパフィ子達が風に流されていった。残っているのは僕の髪と服にしがみ付いている2人だけである。
光が収まった時、そこに立っていた者は——
M2.F.D3 LV88 状態:封印
——黒い鎧を纏った少女。
鈍い灰色の髪は、生まれてから1度も切られた事が無いのか、無秩序に伸び放題。
黒い鎧は一見すると普通に鎧だが、良く見ると体の各所に拘束具らしき物が付いており、首輪に至っては……どうやら針と薬が仕込まれているらしい。
良く調べないと何とも言えないが、薬は多分、鎮静剤と筋弛緩剤。
特に、筋弛緩剤の方は余裕で致死量分投下可能だ。
名前と言い安全装置と言い、怪しい臭いがプンプンする。
取り敢えず対象は目に光が無く、状態に封印とあるので、危険性は皆無だろう。
さて……これ、英ゆ——
「——おっと」
出現していたカードが唐突に光を放ち、本へと変わって僕の目前に迫る。
難無くキャッチしたその本は、目の前の少女と何処か似た装丁の、程々に厚い本。
開いて見ると、1ページ目は……少女のステータスが書いてあった。
M2.F.D3 女 10 LV88 英雄 0
付与スキル
『恵体』『汎用耐性』『直感』『暗算』
『剣術』『腕力向上』『持久走』『治癒力向上』
スキル
『剣術』『魔剣術』
『闇属性魔法』『狂戦士化』
『暗視』『毒耐性』
『睡眠耐性』『薬物耐性』
『苦痛耐性』『精神耐性』
『モードレッドの御霊代』
武装
『クラレント』
『M・D』
各種項目に触れると、説明が出た。
それによると、性別の横にある数字は年齢、英雄と言う一文字の横にある数字は好感度を表しているらしい。
更に次のページを進めると、そこにあったのは彼女の設定。または真実。
正式名称:モードレッドセカンド・フィメイル・ダークサード
聖人教会が生み出した人工英雄。
モードレットファーストの失敗を踏まえて作られた第2世代型モードレットの試験個体。
心臓に埋め込まれたステージ3の魔石により、闇属性の魔法が使える様になっている。
魔石の影響か精神が不安定な為、日に数度のメディカルチェックと精神安定剤の投与が行われている。
西暦2127年、他のDシリーズが全て失敗に終わった事を受け、ステージ5の単独討伐任務を命じられる。
同日午後、ステージ5とM2.F.D3の死亡が確認され、M2.D型計画の処分が完了した。
その後、M2.F.D3等のデータを参考にした、M3.F型計画が始動する事となる。
「……聖人教会……名前……成る程」
情報が少ないので何とも言えないが、取り敢えず彼女は本物の英雄だろう。
本のページはほぼ白紙だが……何かが書き足されたりするのだろうか?
それから、聖人教会なる組織とその目的だが……おそらく聖人教会とやらにはコトノみたいな名前を付ける能力を持つ者がいる。またはその様な力を使える道具か場があるのだろう。
精霊帝達が信仰のある名前を得て強くなった様に、聖人の名を得て人を強化するのが目的だと考えられる。
差し当たって、M2の好感度を上げに掛かってみる。
やる事は簡単。
先ず、裸に剥く。
肉体に直接取り付けられた各種拘束具を切除し、傷跡を全て綺麗にする。
心臓部に埋め込まれた、魔物から剥いだままで未処理の魔石を安定化させる。
暴走の要因の一つである『聖名』を隠し、別の名前を与える。
髪の色からとって、フィロとでもしておこう。
次いで、黒の鎧とインナーを装着させる。
抱き締めて撫でる。
以上。
聖名の隠蔽は、多少の効果はあるだろうが、根本的な解決にはならない。
聖名に抗えるだけの意思を彼女自身が持たない限り、暴走とやらはいずれ必ず起きるだろう。
ともあれ、これで多少は好感度も上がった筈。果てさて、どのくら……。
「……ふむ」
本に記された好感度とやらの上限は幾つなのだろうか? 僕には92と書かれている様に見えるのだが。もしかして1,000とか……?
考察しつつ彼女を撫でていると、小さな彼女の手が僕の背中に回り、抱き締められる。
嗚咽が聞こえた。
少女は泣いていた。
……憎しみを湛えた闇の魔石、凶暴性を宿した聖名、およそ人としての扱いではない拘束と薬物投与。
好感度がここまで上がるのも、まぁ、あるのだろう。




